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あたしは。 
恋に恋する花の乙女♪
チャキチャキの現代っ子v
…まぁ、恋に恋してどうする、とか、花の乙女ってどんなだ、とか、チャキチャキって何だ、等のツッコミは無視の方向で。
定番だからやってみたけど…自分で言ってて、かなり恥ずかしい。
今時いないわよ、こんな自己紹介する主人公なんて。
ねぇ?
ま、それはそれとして。
以上で自己紹介終わり!
…誰よそこで、お手軽な自己紹介とか言ってるのは。
ほっといてよ。
自覚してるんだから。
それはともかく、今あたしは何処にいるかと言うと・・・何故か森の中だったりする。
見渡す限り、ビル街も、舗装された道路も、電柱電線も、高圧線鉄塔もない。
おまけに長く伸びた道はどう見ても村道で、そこを徒歩の人や馬車なんていう旧世代の遺物が横行している。
何かと時代遅れなこの風景を初めに目の当たりにした時は、さすがに驚いたけど、今は慣れたわ。
人間の適応能力ってステキv
なんて思うくらい、すぐ慣れたのも確かだったりするのは…まぁ、ご愛嬌って事で。
っと、肝心の本題を言うのを忘れてた。
今現在いる場所は、魔法と剣とが存在する世界…
そう、あたしが読むのも見るのも大好きなスレイヤーズの世界に、何故か落っこちてきちゃいました☆
何が「そう」なのかはツッコミ禁止。
更に語尾の☆マークは混乱の証拠。
ってまだ混乱してたのかあたしっ。
…って所から、この話は始まりますので、後はナレーターさんよろしくっ☆
(まだ混乱してるし)
「いじょう、じょうきょうせつめいおわり〜…」
此処は森の中。
と言っても然程深く入らぬ、まだ街道が見える場所。
街道より数本木々を隔てたこの場所で、森林浴なのか寝転ぶ少女と、その横に座って本を読む青年の姿が在った。
ゴロゴロとうつ伏せに寝転んでいた少女、は、何故か棒読み口調で唸るように呟いた。
その呟きを聞いた、彼女の隣に座る青年は、ん? と言う表情で首を傾げる。
「どうしました? さん」
「あー、ううん、なんでもないよ〜…ちょっとこの青い空に故郷を思い出してみただけ」
「はぁ…確かに、空は何処でも青いんでしょうけれど…すっかり忘れてましたが、さんは異世界の方でしたね」
のほほんとした声で、さらりと忘れていた発言をする青年に、は「うん〜」と返事なのか唸り声なのか、判らぬ声を返した。
姿形は、この世界ならば何処にでもいそうな神官風のこの青年、名はゼロス。
が此方へ落ちてきて一番初めに出会った人物で、以来共に行動し、ちょっとしたボディガードをしてくれている。
何故そこまでしてくれるかという理由は定かではないが。
ただ、此処へやってきたばかりのに名を言い当てられ、あまつさえ正体まで知られているという事に、興味がわいたと言うのが、その理由の一理であるようだ、とは認識していた。
因みに彼の正体というのは、この世界での魔に属する者、即ち魔族。
人間とは相容れぬ存在となっている。
「まぁ、願ったり叶ったりだけどね…あたしゼロスファンだし」
「僕もさんが好きですよ♪」
「……あ、ありがと…」
臆面もなく言うゼロスに、気恥ずかしさを覚えて顔を伏せる
彼女が落ちてきて、行動を共にした1ヶ月後の昨日、ゼロスはが好きだと告白した。
その時は、突然の告白に戸惑っただが、現実世界では大ファンだった彼にそう言われて、悪い気どころか心の底から嬉しかったのは事実だ。
しかし、現実では面と向かって言われることは、そう多い事ではない。
その勇気を持つ男子が少ないのも然る事ながら、高嶺の花扱いだったにとってもそれは言えることだ。
結果として、恥ずかしさが先に立ち、あまりはっきりと返事は返していなかった。
それにもう一つ。
何故自分が好きなのか、と言う問いに対して、彼お得意の返事が返って来た事も、引っかかっているようだ。
もう一度試しに訊こうと、は体を起こして草の上にちょこんと座り、彼を見上げる。
「ねぇ、ゼロス…  あたしの何処が好きなの?」
「それはもちろん、全部ですよ、さん」
上目遣いで小首を傾げる姿は、ゼロスでなくとも他の男が見れば思わず赤面するだろう。
彼もまた、冷静を装って答えているものの、その姿にやや見惚れ気味だったりする。
「じゃあ、何故あたしを好きになったの?」
「それは秘密です♪」
「……またそれ? いい加減教えてくれたっていいじゃない」
「はぁ…お教えしてもいいんですが…  じゃあ、さんは僕のこと好きですか?」
「へ? な、何言い出すのよ…  ……それは…だから…その…」
さんが言ってくれたら、僕もお教えしますよ」
モゴモゴと口篭ってしまうに、肩を竦ませ残念そうな顔で言うと、ゼロスは手にした本へ視線を落とす。
本当は言いたい言葉は、スラッと彼のように出てきてはくれず、溜息となっての口から零れた。
戻る術を持たない彼女は、唯一縋れる存在のゼロスを心の拠り所としている。
そう言った意味でも、そして別の意味でも、彼の事を好いている自分に気付いている。
しかしその反面、もしそれを言ってしまって、その後、現実世界に戻れる事になったら…、という考えが、の口を閉ざす原因となっているのも確かだ。
現実へ戻る事、それはイコール彼と離れる事。
ゼロスの答えはわからないが、は、相思相愛となった後の別れなど考えたくもないのだ。
ならばいっそ、何も言わない方が…と思い、彼女はそれ以上何も言わなかった。
再び寝転ぼうと肘をついた時、は視界の端にゼロスの手招きを捕らえる。
何かと思い顔を上げて彼を見遣ると、ゼロスは己の膝をポンポンと叩いて手招きしていた。
「え…まさか膝枕…?」
「ご明察♪  お嫌なら、無理にとは言いませんが?」
「…あ…う…」
そこで「んじゃお願いv」と言える女の子は、何人いるだろうか?
そんな言葉が頭をぐるぐる回るのを覚える
しかし、ゼロスは変わらず手招きしていて。
そして最大の理由としては、それはある意味乙女の夢なワケで。
目を横線にして「う〜」と悩むに、ゼロスは一つ溜息をついた後、本を傍らに置く。
そして、彼女へ人差し指の先を向けると、その指をクイッと指を上へ向けた。
「わきゃ?! ちょ…なによコレ? ゼロスがやってるの?!」
「はい。 嫌ではないのでしょう? なら、悩むよりも来ていただこうと思いまして」
「答えを勝手に推測するなっ!って言うか、嫌じゃないってどういう根拠なのよ!」
ふよふよと体を浮かせられたが、空中でじたばたと抗議する。
しかし、その抗議を意に介せずに爽やかな笑顔のまま、指先だけで操作し、彼女を自分の膝を枕に寝せるゼロス。
その途端、じたばたしていたの動きが止まったのは、言うまでもないが。
「根拠は二つ。一つは…さんは嫌なら嫌とはっきり言いますよね?もう一つは、顔に書いてありますよ♪嫌じゃないって」
「確かに、嫌だったらはっきり言うけど…」
「でしょう?なら、そう言わないという事は、お嫌じゃないんですよね」
「う゛…」
「陽差しは僕が遮ります。もし嫌なら、すぐ退けて良いですから」
言葉に詰まったに、そう言うとゼロスは陽除け代わりに本を彼女の顔の上へと持ち上げる。
その姿勢は、中途半端な位置に本を持つというお世辞にも楽とはいえぬもので、普通の人間ならば腕が疲れるだろう。
魔族にそんな筋肉疲労があるかは判らないが、無理な姿勢で陽を遮ってもらい申し訳なく思うものの、本音を言えば嬉しいは、そのまま膝に頭を預け、うつらうつらと浅い眠りに入ろうとした。
≪にゃー・・・≫
そんな時、微かに聞こえたのは…小さな動物の鳴き声。
動物はやや共通しているらしいこの世界で、しかし初めて聞いたものだった。
「…猫…?」
その鳴き声を耳に捕らえて、は少し顔を上げると、辺りを見渡す。
の声と、鳴き声に気付いたゼロスもまた本から顔を上げると、それが聞こえた方向、街道とは反対側の茂みへと視線を向けた。
そして、二人の視線が注がれた茂みから飛び出してきたのは…
傷だらけの子猫と、一頭のレッサーデーモンだった。
「うわっ! 無意味に忍び足デーモン!」
「体の大きさからして、意味無いですねー」
傍観者のようなセリフを吐きつつも、起き上がったは胸の前に手を組んで呪文詠唱に取り掛かる。
一方のゼロスは、自分が手出しする必要なしと判断し、子猫を保護しに回っていた。
そして、の呪文が完成し…
「火炎球(ファイアー・ボール)!!」
結びの言葉と共に、ゴワァッと人の身半丈ほどの火球が、子猫を追ってきていたレッサーデーモンへと叩きつけられる。
断末魔すら上げるのを許されず、燃え尽きたその後には黒い焦げ後しか残っていなかった。
がこの世界でないのに魔法を使えるのには理由を話さねばなるまい。
此方へ来て、ゼロスに助けられてすぐ、は彼に魔法を教えてくれとせがんだ。
本質的なものや能力的なものが左右する魔法を、そう易々教えられないと言いかけたゼロスだったが、の潜在能力に目をつけ、簡単に唱えられる炎の矢(フレア・アロー)を教えてみると…
とある天才魔道士とほぼ同等、否、それ以上の威力を発揮した。
ならば、と魔道基礎や基本をアッサリ無視し、火炎球(ファイアー・ボール)やその他諸々の精霊魔法を教えてみたところ、面白いように習得していったのだった。
話を戻し、レッサーデーモンを文字通り消滅させたは、ゼロスの方を振り返って「何点?」と問うように首を傾げる。
教わったゼロスに魔法の威力の採点をしてもらっていたは、それが癖になっているようだ。
「お見事です、さん。 そうですねぇ…98点、といったところでしょうか」
「え〜、威力は満点だったと思うんだけどなぁ…」
「詠唱の時、一度突っ掛ったでしょう?」
「う゛…ゼロス、聞き逃してなかったのね…」
「一応先生ですからね。 それはそうと、ほら、子猫の傷を治しておきましたよ」
ゼロスがヒョイッと持ち上げた子猫は、その体に負っていた傷が消え、真白で綺麗な毛並みを輝かせていた。
それを見て、目をうるうるさせたが彼に駆け寄ると、そっとその子猫を受け取ってその頭に頬擦りする。
「きゃ〜〜っvvかわいい〜〜っvvふわふわ〜〜vv」
≪にゃーん≫
頬擦りされて、嬉しそうにゴロゴロ喉を鳴らす子猫に、は益々気に入ったようで、腕に抱くとその喉や体を撫でてやる。
その光景を、微笑ましそうに眺めたゼロスは、地面に出来た焦げ後を錫杖の一振りで消した。
そして、ふと空を見上げて、日の傾きを確かめる。
「…さん、そろそろ日が傾いてきましたし…町に戻りませんか?その子の飼い主も、見つけるのでしょう?」
「ん? あ、うん、そだね…フフッ、さっすがゼロス♪あたしの言おうとしてた事、良く判ってんじゃん」
「もちろん、好きな貴女の事なら、当然ですよ」
「…う〜…身構えてない時にサラッと言わないでよ〜…」
ニッコリと微笑んだゼロスの言う言葉に、ポンッと顔を赤くしてジト目で睨む
そのままポフッと子猫の背中に顔を埋めた後、か細く「顔が暑い…」と呟く。
≪んにゃん?≫
確かに、暑いの?と問われたような鳴き声にが思わず顔を上げると、子猫は腕からスルリと抜け出し、トンッと地面に降り立つ。
そして、一度を振り返って≪にゃーん≫と、まるでついて来いと言っている様に鳴き、茂みの中へ飛び込んで行ってしまった。
「え? ちょ、待ってよ子猫〜っ!って、ぅにょわぁぁぁ?!」
その後を追って勢い良く茂みに飛び込んでいく
そして、悲鳴と同時にバッシャーンと派手な水音が聞こえたのは、すぐ後の事だった。
さん?」
≪にゃぁー≫
悲鳴と水音に驚いたゼロスが、珍しくも慌ててその茂みの奥へと瞬間移動すると、川に突っ込んでずぶ濡れになったの姿と、川岸で得意気に尻尾を振る子猫の姿が目に入った。
「大丈夫ですかー?」
「……大丈夫じゃなーい…」
≪んにゃ〜ん≫
水かさは、子供の膝までもない浅い小川。
おーいと呼びかけるような口調で問うゼロスに、そこに尻餅をついた状態で、さらさらと流れる川の水をバシャバシャと叩きながら恨めし気な声を返す
どうしたものかと後頭を掻いているゼロスの後ろで、まるで「涼しくなったー?」と言っているような子猫の声が聞こえる。
ずぶ濡れになって最悪な気分なものの、その妙な組み合わせに、は思わず笑みを零した。
「…ぷっ…な、何か二人面白い…」
「笑う元気があるのでしたら、大丈夫ですね」
「まーね、気分は最悪だけど」
「今、お助けしますよ」<
そう言って、フワリと浮いたゼロスが、へと手を差し伸べる。
差し出された手を取りかけていた時、はなにやら考え付いたようで、ニヤリと口の端を吊り上げ、目を光らせたかと思うと…
「道連れだぁ!うりゃぁ!!!」
「え? ぅわ、ッと……!」
咄嗟に身構えていなかったか、手を全力で引かれるとは思っていなかったのか。
これまた珍しくバランスを崩したゼロスは、引っ張られるままに川の中へ飛び込み、再び派手な水音を辺りに響かせた。
さぁ〜〜〜ん…」
「あっははははっ! 猿も木から落ちるってヤツね〜ゼロス♪んな恨みがましい声出さないでよ。あたしだって落ちてるんだから」
「全く…意外と子供っぽいんですねぇ、さんは」
「誰がガキっぽいですって?そういうヤツには、食らえ!水鉄砲!」
「わっ、そういうところが子供っぽいんですよ!」
「ふーんだ!悔しかったらやり返してみなさい!」
「……そう言うんでしたら、失礼して」
そう言った途端、ゼロスは手に持っていた錫杖を振ると、辺りの水を一気に集めてにかける。
まるでそこに一時滝が流れたように水柱が立ち、一瞬で水が戻ったそこには、更にずぶ濡れになったの姿があった。
「……ゼ〜ロ〜スぅ〜」
「…あはは…つい…」
「つい…じゃないわよ!よくも反則技を〜っ!ならばこっちも!浄結水(アクア・クリエイト)!」
逃げる間もなくか、またはワザと逃げなかったのか、ゼロスは上から落ちてきた約水差し一杯分の水をザバーッと頭から受けたのだった。
程なくして。
すっかり日が沈んでしまい、しかし暖かいからと、野宿することにしたらしい二人と一匹。
明日、町へ行って子猫の飼い主を探そうと言う事になった。
散々水遊びをしてから上がったは、ゼロスのマントを借りて焚火の前で髪を乾かしている。
ゼロスは、の服を水分だけ抽出すると言う、魔族ならではの乾燥方法で乾かしていて。
子猫は、彼女の膝でまるくなって眠っていた。
「何でゼロスは濡れてないのよ〜…」
「僕は魔族ですからね。 言ってしまえば全てフリです」
「ふーん、じゃあ、あたしを好きってのもフリってコトね」
「それは違います」
即座に否定したゼロスの声は、いつものように軽い口調ではなく、重みがあるように聞こえた。
その事に顔を上げてゼロスを見遣る
しかし、服を乾かし終わっていたゼロスは、ただ星空を眺めていた。
「…どう違うっていえるのよ?」
「僕が、そう思っているからですよ」
「あやふやね。そんなんじゃ、本当に好きなのかも怪しいわ」
「手厳しいですね。ですが…」
「何?」
「……何でもありません。さぁ、さん、服、乾きましたよ」
何故か表情を悲しげに曇らせ、しかし何も言わないゼロスに、も敢えて何も訊かず。
服を受け取ると、代わりに眠っていた子猫を抱いてもらって、茂みへ持って行って着替える。
言いかけたことが何なのかはすごく気になったようだが、自分が心を隠している以上、何も訊く事は出来なかったようだ。
着替えを済ませてゼロスのマントを持ったが出てくると、彼はいつもの笑顔に戻っていて。
そんな彼に、複雑な心境を悟られまいと無愛想気味でマントを突き返した。
その態度に、気付かぬ彼でないことは判っているだろうに。
さん?なんだかご機嫌斜めですねぇ」
「そんなんじゃないわよ。…マント、ありがと」
顔を逸らしたまま礼を言うに、ゼロスは一つ溜息をつくと、受け取ったマントに子猫を包み、その場から立ち上がる。
未だゼロスの顔を見られない彼女は、その行動には気付いていないのか、近寄ってきている彼にも気を向けずに、立ったまま何かを考え込んでいて。
ポン、と肩を叩かれ、初めてすぐ傍にゼロスがいることに気付く。
さん」
「何、ゼロ…きゃ!」
肩を叩かれ顔を上げた時には、既に視界は暗転し空を見ていた。
振り向く前にゼロスが自分の体を抱き上げたからなのだが、には一瞬過ぎて何が起こったか判らず、呆然と彼を見つめる。
放心状態な彼女にそれを幸いと取って、ゼロスはそのままを姫抱きに抱きかかえる。
「な、何…するのよ…」
「負の感情を盛大に振りまいておいて、何するもないでしょう?どうしたんですか、貴女らしくない」
「あ…あたしらしいって、何よ…人の気も…知らないで…」
「えぇ、判りませんよ。魔族と言えど、人の心を読む事など出来ませんからね。ですから、言ってくださらないと、僕はわからないんですよ?」
「何よ…なんでも知ってますって顔してるクセに…」
フイッと顔をゼロスの胸に埋めるに、彼は小さく溜息をつくとそのまま空へと浮かびあがる。<
そして、その森の中で最も大きな松の木の天辺に降り立った。
「この世界と平行した何処かの世界が、貴女のあるべき場所なんですよね」
「何よ、突然…」
「いえ…ただ何となく、そう思ったんですよ。…いつか、帰ってしまうんですよね…」
「……そう、ね…、帰る方法が判れば、ね。学校もあるし…友達や家族も、いるし…」
「帰る場所、ホームがあるのは良いことですよ」
「誰のセリフよ…それ…」
現実世界のどこかで聞いたセリフに、クスッと笑みを零したは、顔を上げてはじめて自分の…というか、ゼロスと自分がいる場所を認識し、絶句する。
夜風はそれ程強くはなく、静まり返った空には月と星が輝いていて。
青白い月明かりが仄かに照らし出す森は、深緑よりなお暗い色に包まれていて。
こんなファンタジーな世界でなお、幻想的と言える景色が広がっていたのだ。
「う…わぁ……綺麗…こんな景色、日本じゃ見れないわねー」
「ニホン?確か…さんの住んでいた場所、でしたね?」
「うん。結構良いところよ?まぁ、ここんとこ不景気だけど、何より、平和だしね。けど、魔法とか、魔物とかは本の中にしかいない、こことは正反対な…退屈な場所」
「…帰りたい、ですか?」
「……来たばっかりの時は、そう、思った……けど……」
「けど?」
「…今は…わかんない」
再び顔を伏せて、俯く
彼女の様子に、ゼロスは一瞬悲しげな表情をした後、空を見上げる。
そして、の体を抱く腕に少し力を込めながら、まるで決心したように小さく息を吸い、話し始めた。
「…貴女の気持ちが複雑な時に、こういうことを言うのは卑怯かもしれませんが…僕、さんに一つ隠してきた事がありますよね?」
「え…隠してって…あたしを好きな理由の事?」
「そうです。貴女を好きな理由は、貴女が僕を恐れないからなんですよ」
「え…?恐れないって…だって、確かリナもあんまし恐れてないんじゃ…」
「いいえ、リナさんは僕と話をしていても、常に警戒を怠りません。それはゼルガディスさんやガウリイさん、アメリアさんにも言えることですが…でも、貴女だけは、僕を恐れないどころか慕ってくれています」
「え…それを言うならマルチナ…は魔族って判ってから逃げたっけ…」

「本当にこの世界を熟知してらっしゃいますね、さんは。はい、マルチナさんもそうでした。ですから、貴女が初めてなんですよ、僕を魔族と知った上で、恐れずに接してくれる…魔族としては、この感情は身を滅ぼしかねないんですけどね」
零した苦笑は、風に溶け、消える。
その苦笑にふと顔を上げれば、思いのほか別人のような顔のゼロスがいて。
思わず魅入ったその顔は、青い月光を浴び、愁いにも似た表情が浮かんでいた。
「ゼ…ロス…」
「ですから、僕はあなたが好きです。たとえ…貴女が元の世界、貴女の在るべき世界へ帰りたがっても、離したくないほどに、ね」
「え…?」
「それが怖くて、僕は貴女に話さなかったんですよ。いつか、元の世界へ戻ろうとする貴女を、見ることが怖くて」
ぱちくりと瞬きし、思わず言葉を失う
己と同じ考えを、恐怖を、ゼロスもまた抱いていたとは思っていなかったのか、彼の顔を見たまま硬直している。
それを、別の意味で捕らえたのか、ゼロスは再び苦笑してしまった。
「すみません。 たった一人で見ず知らずの世界へ迷い込んだ貴女に、更に混乱させるような事を言ってしまって。話さなかった理由のもう一つは、さんを混乱させると…」
「…してない…」
「え…?」
「混乱なんか、してない…ある意味混乱かも知んないけど…違う…」
…さん?」
その言葉を途切り、否定の言葉と共に抱きついてきたに、ゼロスはキョトンとした顔で、しかし確りと彼女を抱きしめ返す。
離れたくない、その想いは同じで。
でも、互いに隠して空回りしていただけで。
は、そのことが判ったと同時に、急に隠してきた自分がばからしく思え、抱きついたままクスクスと肩を揺らして笑った。
何故か笑い始めた彼女に、ゼロスは益々判らないと言った顔で首を傾げていたが。
「ゼロス、あのね…いつか帰る時が来るから、言いたくなかったの。あたしは、貴方が好き。出会ったときから…ううん、出会う前から。現実世界にいたときからずーっと貴方に片想いしてたんだよ?」
「そう…なんですか?」
「うん。でも…あたしも怖かったんだぁ…離れ離れに、なるのが…」
ギュッと、ゼロスの首へ腕を回して抱きつくと、その胸に頬を摺り寄せる
そして「同じだったね」と、か細い声で呟いた。
「未来のいつかを怖がるより、笑って迎えられるように…一緒に、たくさん思い出つくろ?ね…ゼロス」
「そうですね、さん」
満面の笑みを浮かべて提案するに、ゼロスもまた微笑を湛え、相槌を打つ。
そして、彼がそっと屈んで落とした頬へのキスに、彼女は擽ったそうに笑った――――――。

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何か、甘いんだかシリアスなんだか、判らない小説に出来上がってしまった気が…
しかも尻切れトンボ…(遠い目)
お前らラブラブなのか、シビアなのかどっちよ?
と訊きたくなる二人ですねー(更に遠い目/待て)
結局、子猫は出しても出さなくても良い存在になった事は言うまでもな…(ゲフゴフ/吐血)
子猫はぬくぬくとゼロスのマントで包まって寝てますよ(爽笑/何)
こんな脈絡ナッシンッ(´ー`)ノ(何)な夢小説ですが、どうぞお受け取りください…m(_ _)m
作者様→霞胡さん。






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