D.G−B『修道騎士とエクソシスト』









 隣街への街道を歩いている時だった。ティムキャンピーがアレンの頭の上に移動したのを確認すると、リナリーがに話しかけた。
「コロニーに置いてきた、大切な人はいないの?」
「いるよ。イディ兄さんとか、友達とか。・・・アレンってね、イディ兄さんに似てるの。」
リナリーは小さく息をつく。
「だからか。が淋しそうにしてるの、見たことないから。無理してるんじゃないかって思ってたの。でも、お兄さんに似てるアレン君がいるから、淋しくないって事。・・・かな?」
は首を横に振る。
「違うよ。確かに、少しは淋しい。でもね、アレンやリナリーがいるから、大丈夫なの。それに私、アレンの事・・。好きだから。兄さんに似てるからとかじゃなくて。アレンの色々な所に惹かれて。アレンだからじゃない。彼だから、好きになったの。」
感情のまま喋ったの言葉に、リナリーは衝撃を受けた。
「・・・え・・・・・・。」
は一旦口をつぐみ、アレンを振り返る。
「アレーン。こっち来て、一緒におしゃべりしよー。」
「あ、はい。女の子の話は終わったんですか?」
「あはははは、そんなんじゃないよー。」
はパシパシとアレンの肩をたたいた。
「痛っ。痛たっ。痛いって、。」
そうしていると、二人はとても楽しそうだ。リナリーには、がまだアレンに思いを伝えていないように見え、何故か安堵した。
(あれ?何で私、安心してるの?)
リナリーは心の中でつぶやく。とアレンは談笑していて、それには気付かない。・・・が、ふと止んだ。リナリーは不審に思って二人を見た。
「リナリー。そろそろみたいよ。」
が小声でつぶやく。アレンの左目はすでにアクマを捉えていた。
「数は少ないようですが、大物が一体・・。」
は腰に手を伸ばし、銃に手をかける。リナリーもアレンもぐっと身構えた。
「大物は私がゴスペルで撃ちます。この外は任せます。」
が早口で言った。いつの間にか、が主導権を握っていた。一応、のイノセンスの効果は教えてもらっていたので、アレンとリナリーはうなずく。一撃必殺なら、アレンやリナリーのイノセンスより、のイノセンスの方が有効だからだ。
『イノセンス、発動っ!』
三人の声がハモった。まず、リナリーが地を蹴って飛び出し、大物への道を開く。が道へ踏み込む。そのを襲ってくるアクマの相手はアレンだ。は振り返らず、大物へと向かう。振り返らないのは、アレンを信用しているからだ。ゴスペルの射程範囲まであと少し。リナリーが更に道を開く。パッと目の前が開ける。
!」
「うんっ!」
リナリーの声には銃を構え、大物と対峙する。そしてすぐ狙いを定める。背後の小物はアレンとリナリーを信じて任せる。早くもと二人の信頼は固くなっていた。は言葉をつむぐ。
「迷える子羊に安寧を 狼の牙にひとときの休息を そしてアクマに死の鉄槌を」
は引き金をしぼった。
「福音弾(ゴスペル)!!」
DOGOOOOOON!
の放った弾は、アクマの急所をいともたやすく貫いた。そして――・・・。爆発音が響いた。
「AMEN」
の口調と声は、普段とはうって変わって、氷のような冷たさと、命あるモノを哀れみ、包み込む暖かさが含まれていた。マグダラは、魂の救済と称し、大きな犠牲をはらって来た。コロニーにおいて、修道会のエクソシストに必要なものだった。氷と炎。その二面性がなければ、人々を護る事はできないというのが、マグダラの教えだった。ミリティアでも、トップクラスのは元々そういう心の持ち主だった。
「すごい・・・。」
「これが、(元)ミリティアの力・・?」
リナリーとアレンが残りのアクマを破壊し、にかけより、恐怖した。いつもは海の青を思わせるような、深いブルーの優しげな瞳が、まるで猛禽類のような鋭いものに変わっていたからだ。それでも、その奥には優しい光がまだ宿っていた。その頃は―――。
「メ、・・・。」
リナリーが恐る恐る声をかけると、は銃をしまいつつ、視線を向けた。
「あ、そっちも終わり?」
リナリーの方を向いたは、いつも通りの彼女に戻っていた。アレンとリナリーはホッと胸をなでおろした。たぶん戦闘時だけなのだろうと。それが彼女の激しさなのだろうと。
「とにかく、隣町に急いだ方が良さそうですね。」
アレンの言葉にリナリーとは同時にうなずく。そして、また三人は歩き出した。
「コロニーでも、あんなふうに戦ってたんですか?」
「うん・・。まーね。でも、マグダラはだいたい、二、三人でチームを組んで行動するから。やたら大物だったりすると、必ずといっていいほど協力者がいる。結界ひとつにしても、それだけの時間がいるしね。」
アレンの問いに、はすらすらと答える。先ほどの鋭さは微塵もない。
「ところで、ホントに大丈夫?寝不足。」
が隣を歩くアレンを覗き込む。
「はい。何とか。」
はずずいっと顔を近づけた。アレンは急な接近にドキンとした。
「何とかじゃダメだよぅ。いい?絶対、無茶はしないこと!」
「は、はい!」
アレンはドキドキしつつ、慌ててうなずく。は満足そうにうなずく。
「よし。」
アレンはいつの間にか、を意識しまくっていた。女の子に好きだと言われた事のない、純情少年の中に、新たな感情が芽生えていた。もアレンと接していると、ドキドキはするが、は好きな人とでも平気で話せる女の子だった。マグダラには、同じ年頃の男子がいない。恋なんぞ、出来る所ではなかった。それでも、今はこの惑星のエクソシストだ。戦いつつ、恋することもアリだろう。

 隣町に着いたのは、昼少し前。街は静まり返っている。人の気配がほとんど感じられない。普通に家々は立ち並んでいるが、空き家が多い。
「アクマに襲われた形跡もないのに。なのに、この人の気配の少なさは何なのかしら?」
リナリーが辺りを見回す。とアレンもキョロキョロしている。
「集団夜逃げとかー?あり得る事?」
「薄暗い森に囲まれてるのに?」
「あ、そうなんだー。」
リナリーの言葉から、この街は森に囲まれていることがわかった。森の中に街道はあるが、この街への道中、アクマが現れたことからも、この街を囲んでいる森にアクマが巣食っているのは間違いない。
「確かに、アクマに会うかもしれない危険を冒してまで、森に入るのは自殺行為ですね。街が無事な状態なら、街の方が安全でしょうし。」
アレンも言う。
「誰かに事情を聞くしかないね。誰か――・・・。」
が来るりんと辺りを見る。と、その時だ。ふいに日がかげり、空の彼方に何か黒いものが見え始めていた。アレンとがそれに気付く前に、そばの家の戸が少し開いて、銀髪の少女が三人を手招きした。
「入って!早く。」
三人が言われるままにその家に入ると、少女はすぐにぴっちりと戸を閉めた。
「少しの間、静かにしてて。アクマが通り過ぎるまで。」
「アクマ・・。もしかして、向こうの空にいた黒いの?」
一人気付いていたリナリーが聞くと、少女はうなずいた。しばしして、まがまがしいものが、目地の上空を通り過ぎるのがわかった。四人は息を潜め、去っていくのを待った。そして、静けさを取り戻す。
「もう、大丈夫。」
リナリー達はホッととした。いくら、エクソシストといえど、あの数は辛い。見ていたわけではないが、押しつぶされそうなほどの気が通ったのだ。大群だという事がわかる。
「ありがとう、助けてくれて。私はリナリー。」
でーすっ。」
「僕はアレンといいます。」
三人は頭を下げた。今度は少女の番だ。
「私は、ヴィシュナ。父は黒の教団のファインダーでした。エクソシストの皆さんのことはよく、父から聞かされていました。」
ヴィシュナは、年のころなら、アレンたちと同じくらいだ。それでも、背も流した長い銀髪のせいか、服装のせいか、大人びて見えた。
「私はここで、司祭兼薬師として生計を立てていました。」
ヴィシュナは、裾の長い聖職者によく似たデザインの服に身を包んでいる。その職業にもうなずける。そして、左耳にだけ、珊瑚のイヤリングをしていた。
「あ、どうぞ。そちらへ。」
ヴィシュナは人数分のお茶と、器に持った菓子を出し、テーブルに置くと、三人に席を勧めた。
「あ。すごくいい香り。」
ヴィシュナが入れたお茶に、リナリーはすぐに声を出した。
「わ。ホントだ。」
も言う。ヴィシュナは静かに応えた。
「あ、それは、ネトルの茶です。本当は寝る前が一番いいのですが・・・。最近は薬草も森に取りに行けず、家の中で栽培しているハーブが取れるくらいで、今はネトルが取れている時期なんです。」
「森に入れないのは、アクマがいるからなの?」
「はい。」
の確かめるような言葉に、ヴィシュナはうなずいた。

 その日はヴィシュナが奥の部屋を自由に使っていいと、宿を提供してくれた。
「助かったねー。宿も空き家だし。無断で泊まるのは、気がひけるもんね。」
「そうね。作戦を立てて、体勢を立て直したかったし。」
がボフッとソファに座る。その部屋は客間だった。セミダブルとシングルのベットがひとつづつ。二人がけのソファと一人がけのソファが二つづつ。長テーブルがひとつといった、一晩過ごすには十分だった。リナリーはとテーブルを挟んで反対側の一人がけソファに腰を下ろした。そして、地図を出した。
「アレン君。そこ座って。」
リナリーは何気なく、の横を示した。アレンは少しを意識しつつ、ストンと座った。
「これ見て。この周辺の地図だけど。」
リナリーがの正面に座っているので、アレンは地図を見るために、に身を寄せなければならない。でも、今は任務中。そんな事、気にしていられない。それは二人もわかっているのだ。
「この森の中が本当のアクマ退治の場所ってことですよね。」
地図で見ると、大きな森がドーナツ状に街を囲んでいる。
「ここは昔、宿場街だったそうよ。森の中の丁度いい休憩場だったみたい。」
「ホントだ。」
三人は明日から、しばしこの街を拠点に行動することにした。ヴィシュナは、今は亡き父の教えに従い、何日でもいてくれていいと言ってくれた。あまり武力を持たないファインダーが森に入るのは、自殺行為だ。ファインダーがあてにならない時、こういう協力者はとてもありがたい。
「じゃあ私、買い物に行って来るわ。店はやってるみたいだし。」
リナリーが立ち上がる。
「僕は街の中を見回ります。」
アレンが立ち上がると、リナリーが視線を送ってきた。
「大丈夫?」
「え?」
「迷子にならないようにね。」
リナリーは真剣だった。は可笑しくなってつい、クスクスと笑ってしまった。この時が、アレンの方向音痴が、にバレた時だった。
「私、留守番してるね。銃の手入れもしたいし。」
「ええ。お願い。少し遅くなるかもしれないけど、なるべく早く戻るわ。」
そう言って、リナリーが部屋から出て行く。そこで、アレンとの目が合う。
「じゃあ、僕も・・。」
「うん。行ってらっしゃい。」
アレンはティムキャンピーを頭に乗せたまま出て行った。は銃の手入れをしつつ、コロニーの人々に思いを馳せた。
「兄さん。みんな。今頃、どうしてるだろう。」
はつぶやく。と、の目から涙かあふれた。
「あ、あれ?やだな、私。止まんない・・・。」
そこへ、ひょっこりアレンが戻ってきた。
。ティムとはぐれちゃって・・・。もしかして、戻って・・。どうしました!?」
ポロポロ涙をこぼすにアレンがかけよる。の横に座って覗き込む。
「アレン・・・。兄さん達に会いたい。本当は淋しいの。・・・・・・淋しいよぉーっ。」
はアレンにすがりついて泣きだした。
・・・。」
アレンは、そんながとても小さく、弱く見えた。アレンはそっと優しくを抱いた。
「僕達が・・・。僕がそばにいます。ずっとそばにいますから。僕がの淋しさを取り除きます。落ち着いて。安心して。」
は次第に落ち着いてきた。アレンの腕の中は心地よく、暖かかった。いつしか、二人は身を寄せ合い、手をつないで眠ってしまった。
。遅くなって・・。」
途中であったティムキャンピーを連れ、戻ってきたリナリーは、二人を見て驚いた。しかし、の頬に残っている涙のあとを見て、納得した。
「二人とも。無理ばかりして・・・・・・。」
リナリーはつぶやくと、そっと二人に毛布をかけてやった。そして、夕食の支度をしているヴィシュナを手伝うべく、ティムキャンピーをつれて、再び部屋を出て行った。

 ほぼ同時に目を覚ましたアレンとは、大接近していたお互いの顔を見て、目覚めてすぐに顔を真っ赤に染めた。
『・・あっ・・・。』
二人は声をハモらせて、パッと離れる。二人の心臓はドッキンドッキン大きく脈打っていた。
「ご、ごめん・・・。」
アレンはなんとなく謝る。
「何で、謝るの?アレンは悪くないでしょ。私の方こそ、アレンに甘えてばかりで、ごめん。」
素直に謝りの言葉を言える二人は、将来大物になるかもしれない。十代後半までに親の管理下からはずされた子供は、まっすぐ育つというのはあながちウソじゃないらしい。二人を見てるとよくわかる。
「リナリー。戻ってきたみたいね。」
は立ち上がって、いつの間にか床に落ちていた毛布を拾い上げる。
「え?」
「この毛布、たぶんリナリーがかけてくれたんだと思う。」
はすでにいつもどおりに戻っている。
「リナリーにお礼を言わなくちゃ。・・・アレンも、ありがとね。私、そういうアレンのあったかさ。すごく気に入ってるよ。」
は微笑を浮かべてアレンに言うと、毛布をベットに戻し、部屋を出て行った。
「・・・何だろう?といると、ドキドキする。」
アレンはつぶやく。アレンは鈍かった。ドキドキの正体に本人はまだ気付いていなかった。

 は部屋を出ると、すぐにリナリーとヴィシュナの所へ行った。
「リナリー。ヴィシュナさん。」
。目が覚めたの?」
「うん。リナリー、ありがとね。毛布かけてくれて。」
リナリーは心配そうに言う。
「大丈夫?無理しないで。泣きたいときは泣いていいんだよ。」
は驚きに目を見開いた。そしてすぐに苦笑する。
「・・あー、バレた?泣いた事。そうなんだよねー。泣き疲れて寝ちゃったの。」
「アレン君も寝てたわ。」
「あ、うん。励ましてくれてたんだけど、疲れてたんじゃない?」
至って普通の調子で言うに、リナリーは心が晴れたような気がした。さっきまで二人の関係のことでもやもやしていたのだ。リナリー自身、アレンに恋心を抱いていたわけじゃない。ただ、二人の様子がよそよそしく見えたのだ。告白したとたん、無口になってしまったり、今までの関係が壊れてしまうケースは多い。任務に支障は出ないかと、リナリーは心配していたのだ。
「アレンさんは?」
ヴィシュナが料理の手を止めて、振り返った。
「目は覚めてるから、じき来ると思います。」
が応えると、待っていたようにティムキャンピーは一時待機のつもりか、の頭の上に移動した。
「私もお手伝いしますね。」
言って、はヴィシュナに歩み寄った。

 夕食のときのアレンはいつも通りだった。と二人きりだと意識してしまうが、リナリーやティムキャンピー、ヴィシュナが一緒だと落ち着いていつもどおりでいられる。リナリー達が一緒にいることは、アレンにとって、嬉しいことであった。
「とりあえず、色々といりそうなものは手に入れてきたから、後で分けるわね。明日早く森に入るから、今日中に準備はしておきましょう。」
「はい。」
「らじゃーっ!」
リナリーの言葉に、アレンとはうなずいた。
「みなさんの滞在中のお世話は私がさせていただきます。」
ヴィシュナは包容力のある少女だった。
「そういえば、上空を通り過ぎたアクマの群れは何?いつもなの?」
がヴィシュナに聞く。
「いえ。三日おきにです。通り過ぎない日は、街の人も、外に出てますから、普通に過ごせるんです。」
「フムゥ。そのことも調べないとね。」
は左頬をぷうっと膨らせ、左の人差し指でぷにぷにとつついた。はあまり意味のない動作をすることがあった。それを見ていると、戦闘時の目はウソのようだ。
「少ししたら、コムイさんに連絡したいところですが・・。悠長にしてられないようですし。」
「そうよねー。」
アレンの言葉にリナリーがうなずくと、が聞いてきた。
「コムイさんと連絡取れないの?ほら、通信機とか。」
「それが・・・。本部においてきちゃったの。遠くの任務に当たるエクソシストが使ってると思うし。」
「うぬぅ。じゃあ、仕方ないか。」
いまいちピンと来ないが、は一応うなずく。外はすでに夜の闇に包まれている。ヴィシュナにおやすみなさいをして、三人は寝室に入ると、簡単な応急処置の道具を少しづつわけ、なるべく三人固まっていようと決めて、早々とベットに入った。

 「♪聖なるかな 聖なるかな♪」
小さな歌声にリナリーは目を覚ました。ティムキャンピーが窓辺で外を向いて、月明かりに照らされていた。
「・・・ティム?」
ティムキャンピーは振り向きもせず、外を眺めているようだ。リナリーが外に目を向けると、その窓から見えるテラスで、が歌を謳っていた。ソプラノの澄んだ歌声は闇へと溶け込んでいく。リナリーはしばし聞きほれた。あまり聞いたことはないが、おそらく賛美歌か、聖歌だろう。
「リナリー。どうしました?」
声にリナリーが振り向くと、アレンが目をこすりつつ、身を起こすところだった。
「歌を聴いていたの。が謳っているのよ。」
アレンはもうひとつの窓から外を見た。アレンの耳にも歌声が届く。
「・・・素敵な、歌声ですね。シスターとして、毎日謳ってたんでしょうか?」
「私にはわからないけど、聞いてみれば?」
「いえ、いいです。もし、歌が思い出なら、それはきれいなままで。」
そして、アレンはもう一度歌声に耳を澄まし、しばし聞いた後、ベットに戻った。リナリーもベットに戻る。二人が眠りに落ちた頃、はやっと部屋に戻ってきた。
「兄さん。キーア。みんな。おやすみなさい。」
のその呟きを聞いていたのは、アレンだけだった。うとうとしつつも、再び目を覚ましていたのだ。ティムはベット脇の棚の上に置かれた小さな籠の中にいた。本来お菓子を置くような浅い籠に、ヴィシュナは小さなクッションをいくつも入れて、ティムキャンピー用のベットを作ってくれたのだ。

 「おはようございます。」
「あ、おっはよー。」
翌日の早朝、アレンが裏手に回ると、が朝の風に吹かれていた。赤毛が軽く風になびいている。
「気持ちいい風ね。コロニーではこんな風、なかった・・・。」
は目を細めた。心に浮かぶ感動をそのまま表に出すは、アレンにとって、少し羨ましく、憧れであった。今までアレンは、特に感動ということはなかった――と、思う。確かに、食事は幸せを感じるし、嬉しい言葉や優しさをかけられれば、笑顔になれる。頼れる仲間がいて、淋しさもない。それでも大げさとも取れるほどの感情を表に出すことがあっただらうか。それほどの事があっただろうか。それを考えると、はアレンよりずっと素直で全力であった。アレンがそんな事をぐるぐる頭の中で考えていると、が視線を向けてきた。
「アレン?どしたのー?アレンく〜ん?」
ボンヤリしているアレンをはのぞきこむ。
「あ、いえっ。別に・・・。なんでもないです。」
「そお?なら、いいけど。一人で抱えてないで、言ってよね。言える範囲でいいからさー。」
アレンはぷっと吹き出した。
「な、何?」
「語尾に『さー』ってつけましたよね。ラビを思い出してしまいました。」
「えー?ラビさん。どしてー?」
そこから他愛ない会話をしつつ、二人は家の中に戻った。

                           D.G−Cに続く






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