もう、私の味はあなたには届かない

だけど、それでも私はあなたに食べてもらいたい











Even as for the heart











「ねぇ、本当にお腹空かないの?」


そう聞くたびに、空かないよと返ってくる言葉。


「食欲湧かないの?」


そう聞くたびに、湧かないよと返ってくる言葉。


「食べたいって思わないの?」


そう聞くたびに、そりゃ食べたいよ…と悲しそうな顔をする貴方。









「─────…アル」


ふと、思い出した昔の思い出。
自然と無意識にはアルフォンスの名前を口にしていた。

思い出すたびに、何であんな事を聞いていたんだろうと自分を責め立てる。


「また昔を思い出してるの?


その言葉で、の意識は現実世界へと戻された。
そんなの視線に映るのは、公園の景色と目の前に佇む鎧の姿。


「………アル 本物?」


「本物って……大丈夫?ボク達、ここで会うって約束してたでしょ?」


キョトンとした表情を浮かべ、アルフォンスを見つめていた
「ここで会う約束」という言葉で、ようやく頭も回転し始めた。

そう、確かにここで会う約束をしていたはずだった。


「あはは…はは…ごめん ボケっとしてたみたい」


「ボケっとしてるのはいつもの事でしょ?」


「あ、アル 何気に今酷い事言った──!」


楽しげな笑い声が冷たい風吹く公園に響いた。
あまりの寒さに、はブルルッと身震いをしてしまう。

それは、体内の温度を上げる行為。


大丈夫?」


「うん、大丈夫」


心配するアルフォンスに、はニッコリと微笑んだ。
コクリと頷きながら呟く声は、かすかに震えていた。


「ボクが人の身だったら、を温めて上げられたのにね……」


「ん?別に今だって十分アルには温めてもらってると思うけど?」


アルフォンスの気にする発言に、は苦笑した。
軽く首を横に傾けて、アルフォンスを見上げる。


「………?」


しかし、アルフォンスはの言葉を理解出来なかった。
冷たい温度のない鎧が、どうやってを温めるのだろうかと首をひねる。



全く…アルは分かってないなぁ……



その様子を見て、つい苦笑してしまう。
そして、はアルフォンスに近づき。

コツン

額をアルフォンスの胸元、鎧に着けた。
ヒンヤリと広がる冷たさ。
けれどそれ以上に温かさが広がる場所があった。


「私は、大好きなアルの優しさに…心をいつも温めてもらってるんだよ?
 気付いてなかったの?」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」


の言葉に、アルフォンスは驚いた様子を見せた。
人の姿をしていれば、きっと頬を染めていたであろう反応。


「だから、何も食べられないアルに……今日は私からプレゼント」


「…………?」


「少しでも、胸がいっぱいになってくれればいいなって思って」


そう言い差し出したのは、青緑色した包装紙に包まれた箱だった。


「これ……は、何?」


「んー?何だろうね?
 さて、ここで問題です!」


「へ!?」


問い掛けるアルフォンスの言葉に、答えを濁す
そして、いきなりの問題という言葉に、アルフォンスは素っ頓狂な声を上げた。


「今日は一体何の日でしょうか!」


「………バレンタイン、でしょ?」


「…少し位悩んでくれてもいいじゃない」


即答するアルフォンスに、ちょっとむくれっ面の


「だって、問題だって言うから答えたのに……
 って、バレンタインって事は……これって………」


「アルの想像している通りのものが入ってるよ
 まぁ……今のアルは食べられないから、元の身体に戻ったらまたあげる」


ニッコリと微笑みを浮かべるを見つめ、アルフォンスは歓喜あまる。
勢いよく、その大きな身体でを抱き締めた。

ガツガツと、ゴツイ鎧のあちらこちらがにぶつかるがお構いなし。


「い、いだい……アル…いだいよ……」


あまりの痛さに、あまりの苦しさに、声がおかしくなってしまった。
その声に言葉に、アルフォンスは慌ててを解放した。


「ご、ごめん!つい……嬉しくて」


「いいよ、喜んでくれたなら まぁ…もう、こんな痛い思いは嫌だけど」


鎧のあちこちがぶつかった箇所を、手で擦りながらは苦笑した。

ギュ…


「へっ?」


今度はがやんわりとアルフォンスを抱き締める番だった。
否、抱き付く様にしか見えない行為。

それでも、は抱き締めたと感じ、アルフォンスもまた抱き締められたと感じていた。


「ハッピーバレンタインデー、アル!来年も楽しみにしててね!」








............................end




バレンタインデーのフリー夢小説です。
食べることのできないアルはずっと満腹感を得られずにいるだろうなぁ〜と思って、出来上がった作品です。
お腹は無理でも、心は胸はいっぱいになって欲しいなぁ〜と。(笑)

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