絶対に私は君を手に入れてみせる。






                        絶対に俺はお前を渡しはしない。








           君は
                どちらの手を取る?
          お前は










愛の争奪戦










「エドー♪」


「お? どうした?」


「────ううん ただ来てみただけ」


えへ、と効果音でも着くんじゃないかという勢いで笑顔を浮かべる
キラキラと輝くような金髪が、その笑顔を引き立てているようにも見えた。


「鋼の 人の目の前で見せ付けてくれるものだな」


「ああ エロ大佐はこうやって来てくれる人も居ないんだっけな?」


と楽しげに話すエドワードに東方司令部のロイ・マスタング大佐が声を掛けてきた。
そんな憎たらしい言葉に、エドワードも憎たらしげに言葉を返していた。
そんな二人を見てはハラハラしていたのは当然の事。







ああ、もう 二人ともどうして仲良くしてくれないのかなぁ…







そう思ってしまうのは、が多分。
エドワードとロイの心を────…気持ちを知らないからだろう。


「ねぇ、エド ロイ大佐 お願いだからケンカしないで?」


うるんだ瞳で見つめて、そう言えばいつもはそこで納まる二人だった。
は今回も────…そう迷わずに思っていた。




             しかし。
        それは、の思い違いだった。




「イイ機会だ、鋼の ここで決着を着けようではないか」


「ああ それには俺も賛成だね」


「決着!?決着って!?!?」


の言葉も耳には届かず、ロイとエドワードは間合いを取り互いに後ろに飛び退いた。
はただただ、心配な視線を二人に送り見守るしかなかった。

だって、下手をすれば巻き込まれ怪我をするかもしれないから。







────…どうしよう いつもの二人じゃないみたいだよぉ…







「行くぜ、大佐!」


「さて この私に叶うかな」


エドワードはそう呟くと同時に。

         パァァァン────…!

大きな音を立てて両手を胸の前で合わせた。
まるで神に拝むかのように。
ロイはそれとは逆に、右手の人差し指と親指を擦り合わせた。

ゴワァァ─────… アアアアア───…!!

炎の勢いは凄く、エドワードに襲い掛かった。
エドワードは合わせた両手を勢い良く地面に押し付けると。

ゴゴゴゴゴゴゴ──… ゴゴゴ…

地面は変形をし、徐々に徐々に壁のように厚い土が盛り上がりエドワードを炎から助けた。
それから再度エドワードは両手を合わせ、作り出した厚い壁から大きな手を練成した。


「行っけえええ!!!」


「まだまだだな、鋼の」


意思に応じて大きな手はロイに向かって勢い良く伸びるのだが。
ロイは軽々とそれを避けると。

パチン────… ヂヂ─…

指を擦り合わせ、エドワードの隙を突いて炎を再度練成した。
舌打ちをするとその炎を避けるように片手を地面に着いて、そこを軸に避けた。


「やるな、鋼の」


「大佐こそ」


「だが、渡しはしないぞ」


「俺だって!」


こういう事だけは息の合う二人。
態勢を低くして、攻撃の準備をしながらにらみ合った。

パァァン──…

そう大きく音を立ててエドワードは両手を打ち合わせた。
その両手を勢い良く地面へと落とすと、バチバチと青白い練成反応が生じた。
エドワードの手に持たれているのは、お馴染みの槍だった。


「これでリーチ差があるぜ、大佐」


ニヤリと笑みを浮かべながら、カチャッと音を立てて槍を構えた。
ロイは右手をエドワードへと向け擦り合わせる為に、人差し指と親指に力を込め────





「二人ともスト─────ップ!!!」





の大きな叫び声に、エドワードもロイもその行動を止めた。
視線はに集中し。


「お願いだから、争わないでよ!」


「しかし…」


「オレ達はの為に───…」


「私の為に?私が二人が争う事を望んだって?
 そんな冗談言わないでよ 私は二人には仲良くして欲しいのに」


の言葉に反論を試みるロイとエドワード。
しかし、その言葉はの眉間にシワを寄せてしまうものだった。
ムッとした表情を浮かべたままは二人に言葉を向けた。



           それは勘違いだと。



「ロイとエドは…一体何の決着をつけたいの?」


「それ──…は…だな…」


の問い掛けにエドワードはもごもごと、言葉を濁した。
その様子にロイは溜息を吐くと、ポリポリと頬を掻き。


に私か鋼のか選んでほしいのだよ」


「────…え?」


選んで欲しい、という言葉にただそんな短い声しか漏らせなかった。


「な…に、いきなり 話、かなり飛躍してるよ?」


「飛躍などしていないよ、 先ほどの事は全て、これに繋がっているのだからね」


ロイの言葉には唖然とするしかなかった。
選べと、つまりは────好き、に繋がるわけで。


「何…?二人とも私の事…好き────…だったの?」


「「…」」


そう思ったは、直球で問いかけていた。
だって、今までの様子を見ていてそんな風に思われていたなんて思わなかったから。
いつも言い争ったりしていたのは、ただ単に仲がイイわけじゃないと思っていたから。
本当に意外で、遠まわしに聞くなどの考えまで及ばなかった。
その問い掛けに、ロイとエドワードは瞳を瞬かせを見つめていた。


「───…ねぇ、聞こえてる?」


「あ、ああ…聞こえてはいるけど…」


「ここまで伝わっていなかったとはな…」


ロイもエドワードも唖然としていた。
少しくらい、気持ちが伝わっていると思っていたから。


「私はが好きだよ」


「オレだって!大佐には負けない位、が好きだ!」


そんな熱い告白を、は頬を紅潮させて聞いていた。





私は…私は一体…エドとロイ大佐 どっちが…好き、なのかな…?





疑問は疑問ばかりを生む。
どちらも好きという気持ちが強くて、けれど心の奥底で誰かが囁いている。
"あなたは___が好きなんでしょう?"と。
けれど、肝心な名前がの耳には届いてくれなかった。

そう、それは自分で見つけて考えなくてはならないという事だったから。


「私は─────…」


そこまで呟くとは言葉に詰まってしまった。
何と言えばいい?という疑問の繰り返しばかりが脳裏を行ったり来たり。
心が決まっていても、頭が理解出来ていない。

そんな現状で、なんと言葉を綴ればいいのだろうか。
ふるふると力を込めた手が震えた。
ツーンと目頭が熱くなって。


!わっ悪かったって!急かして悪かったって!まだ…まだいいから!」


「答えが出た時で構わないのだよ、 エドワードの言うとおり急かしてすまなかったね」


目頭が熱くなったのは当然のことだろう。
すでにはボロボロと涙を流していたのだから。
その涙を拭うように、指での瞳のあたりに触れるロイ。
そして、エドワードはの前に佇み軽く前かがみになって顔を覗き込んでいた。





そんな事ない…私が待たせ過ぎてるだけ
ちゃんと気付けなかった…ちゃんと答えられなかった…


ちゃんと─────…



              理解、出来てなかった…





そんな事はないと言わんばかりに、は首を左右に振った。
二人は悪くないんだ、と悪いのはの方だと。


「どちらか選んで…どちらかが離れちゃうかもしれないのが…怖かったの…
 ずっとずっと…怖かったの…ずっと三人で一緒に居たいと思ってたから」


そう言葉を続けた。
それが本心、けれど心に潜む物は隠れたままの。

でも、もう分かってしまった。
三人で居たいと願っても、ずっと傍に居て離れて欲しくないと願ったのはたった一人。
そう。

         あの人だけ。


「────…私、は…ロイ大佐が好き 大人で見透かされてるみたいで、だけどどこか楽しく話せて…
 一緒に居るのが…凄く凄く…楽しいの 何があっても…離れたくない、そばに居たい、傍に…居て欲しい」


胸の前で両手を組み合わせて、震える声で呟いた。
エドワードにはとても悪いと思った。
好きと宣言してくれてる目の前で、他の人への告白は"ごめんなさい"と本人に伝えるよりも酷だと思った。
けれど、伝えずには居られなかった。

伝えないと、離れていかれそうで。
誰かに、取られてしまいそうで。


「駄目…ですか?」


静かに、そうロイへは問い返した。
揺れる瞳はロイの瞳を釘付けた。


「駄目ではない 駄目なはずがないだろう、


「なーんだ…やっぱり、大佐だったのかよ」


ロイは優しい声色でへと返事を返した。
やわらかく笑みを浮かべるその表情は、今までに見たことのない笑みだった。
そんな二人を見て、エドワードはため息交じりに呟いた。

隙入る隙なんて、最初からなかったと改めて実感していた。


「ごめんね…エド、ごめんね…やっぱり…やっぱり私は─────」


「それ以上言うなよ?オレをこれ以上惨めにさせんなよ」


の言葉を遮ってエドワードは肩を竦めた。
振られたわけで、しかも目の前に居る相手への告白で。
それ以上惨めにさせるのはどうかやめて欲しいと、心からエドワードは思った。
は、その言葉でハッとして"ごめんなさい"と言葉を紡いでいた。

小さく、小さく。


「謝るなよ は別に悪い事してたわけじゃないんだし…
 それより、大佐と幸せにな?」


そこまで呟くと、浮かべていた笑顔は一変して真顔になった。

ビシィッ!!!

人差し指でロイを指差し、エドワードは大きく口を開いた。


「おい、大佐!絶対を泣かせるんじゃねーぞ!悲しい思いさせるんじゃねーぞ!いいなっ!?」


「…ふ 当然の事だろう」


「…エド ロイ大佐…」


ロイは胸を張り、当然だと言いきった。
端っから泣かせたり悲しい思いをさせるつもりはロイにはなかった。

勿論、仕事上寂しい思いをさせたり辛い思いをさせるかもしれないけれど。
それはも十分承知の上だった。


「じゃあな 邪魔者は退散するとするよ」


苦笑を浮かべ、そう呟くとエドワードは背を向け歩き出した。
徐々に徐々に遠くなるその背は、どこか寂しさを醸し出していた。


「…、気にする必要はない 鋼のは、こんな事でめげる奴ではないだろう」


「…うん そう、だよね…」


「今は────…私だけを見ていてくれないか?
 君が私を選んでくれた事を実感したい…余韻に、浸りたいのだよ」


好きなのはロイなのに、なぜかエドワードばかりを気にするにジェラシー。
グイッと腕を引き寄せ、大きな腕でを抱きしめた。
大きな存在がを大きく優しく抱きしめていた。

力を込めてしまえば、は壊れてしまいそうで。
ロイは優しく、割れ物に触るように抱きしめた。


「ロイ大佐の馬鹿っ 私はロイ大佐だけだよ?好きなのはロイ大佐だけだよ…
 エドは大切だけど、そういうのじゃないもの」


「───────


の言葉にロイは瞳を見開いた。
真っすぐに向かう瞳は、言葉さえも真っすぐ届かせた。

ドクン         ドクン

そう脈打つ鼓動はに聞こえそうで、けれど伝えない。

ぎゅっ…────

抱きしめるロイの背に、は手を伸ばし。
ゆっくりと、けれど確実に強くロイの服を掴んだ。

シワが付いてしまいそうなほど…強く、強く。


「大好き、ロイ大佐







             ううん、大好きだよ…ロイ」 


小さく、ロイにしか聞こえないほどの声量で呟いた。
掠れる震える声で、必死に思いを伝えた。

それに答えるように、ロイは先ほどよりも強くを抱きしめた。 
優しい香り、優しいぬくもり、優しい─────…
抱きしめられながらは微笑み、幸せそうに。








離さないでね…ロイ
私は離れないから…絶対に 何があろうとも────

だから…
だから、ロイも何があっても私を……離さないで







ふいに視線を上げると、ロイの唇がの額へと落ちた。
軽く触れる程度の、子供染みたキス。


「────…大好き」


はもう一度、そう言葉にすると。
不意を突くように、ロイの頬へ─────
唇に一番近い、けれど唇には決して触れない距離の頬に口付けた。
柔らかい感触がロイの肌に襲い掛かり、けれどそれはすぐに消え去ってしまった。








..................The end.








という事で、鋼の錬金術師のリクを頂いたので早速書き上げてみました。
一か月以上掛ってしまって申し訳ない心持で───っ!(汗
長く、けど読み手を引きつけられるように頑張ってみました!(ぉ

エドとロイの争奪戦だったので…最初はあんな感じに。
で、最後にロイに絞らせて頂きました!
エドファンの方で、エドエンドを望んでいた方…ごめんなさい!
そして、リクをして下さった來馬新さんありがとうございました!
楽しんでいただけたでしょうか?というか、望んだ形になったかが心配です…;

そして、最後まで読んで下さったさん、ありがとうございました─────!!!!!






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