隠されしセレトの秘石 第二話















「ここから悲鳴が聞こえたのだね?」
声は何処からか聞こえてきた。
・・・・ダレ?
しかし、今のに声に出してそれを聞く気力など既に残っていなかった。
「はっ!そうです中佐!」
「誰か倒れてっ!?なんという・・・・早く東方司令部へ運べ!」
そういわれ、中佐と一緒に来ていた者が人を呼び始めたようだ。
はゆっくりと誰かに抱きかかえられたことに気付いた。
フワッと体が浮く感覚に襲われ、おしりと背中に感じていた冷たい感触がなくなったからだ。
「人体錬成を行ったのか・・・今日会った少年も・・・そうだったな。」
そう呟きながら中佐はを背負った。
「な・・・んであたしを助け・・・・る?禁忌を犯した・・・あたしを・・・・」
は力を振り絞って中佐に問いかけた。
しかし、目は閉じたままだったため、には中佐の表情、姿は見えなかった。
「死にたいというのかね?君は。」
中佐の言葉では息を呑んだ。
あたしは・・・死にたがっていたの───・・・!?本当に・・・死にたかったの・・・?あたしは───・・・
「・・・くない・・・」
「ん?」
「・・・たくない・・・にたくない・・・・死にたくないよぅ!!」
声を震わせて、は中佐に訴えた。
瞳からボロボロと涙を流して。
「なら・・・生きろ。何も希望が無くても生きるんだ。懸命に生きれば、生きる目的が後に見つかるだろう。」
中佐の言葉がの心に重く響いた。
ポスッと中佐の背中に顔を埋め、声を殺して泣き始めた。
そうだ・・・死ななくても・・・いいんじゃん・・・あたし。母さんも・・・父さんも・・・それを望んじゃいない・・・例え人体錬成であれを持っていかれたとしても・・・あたしは生きている・・・
「君が禁忌を犯したことは私の中に閉まっておこう。誰にも話はしないさ。」
「私にくらいは教えてくださってもいいのではありませんか?」
「ホークアイ少尉か。そうだな・・・」
「あ・・・がと。」
小さく二人にしか聞こえないくらいの声で礼を言う
中佐と少尉は苦笑しながらを背負って東方司令部へと足を向けた。
・・・会いたいよ・・・エド・・・アル・・・ウィンリィ・・・
内心そう呟くと、はゆっくりと眠りに落ちていった。
「寝たようですね・・・マスタング中佐。」
「そのようだね。」
は中佐に背負われゆっくりと軍へと向かった。
のもっとも嫌いな軍へと・・・





















は軍のことどう思う?」
いきなり投げかけられた質問に、はきょとんとした顔をした。
しばし、はエドワード達と見詰め合った後「へ?」っと問い返した。
「だぁ〜からぁ!軍のことどう思うか・・・だっ!」
「エド達は?」
エドワードから投げかけられた質問をそのままそっくりエドワードに返す
「俺は軍なんて嫌いだ!人を兵器みたいに扱いやがるっ!」
「僕も同意見。」
「私も嫌いよ・・・人を殺すから・・・私のお母さんもお父さんも・・・それで・・・」
ウィンリィの言葉を聞き、たちは黙ってしまった。
「でも、俺はやらなきゃなんねー事をやるために軍とかの資格が必要なら、俺はなんと言われようとその資格を取るぜ!」
エドワードは力いっぱい拳を握り締めて叫んだ。
は?」
そんなエドワードを放っておいてウィンリィが問いかけた。
「あ・・・たし?あたしは・・・嫌い。父さんを殺したから・・・・」
「「「あ・・・」」」
勿論殺したかもしれないということだが、にとっては殺したも同然だった。
大好きだった父親を軍に奪われたのだから。
セレトの秘石の実験をしていたために軍に狙われたの父親。
危ない実験だと思った軍はすぐにティッドに実験中止命令を出した。
しかし、ティッドは実験を一行にやめる気配をしめさなかった。
それどころか、噂が流れてきたのだ。
『セレトの秘石が出来上がる』と。
まだ未完成だが秘石が出来上がるという噂がながれてきたのだ。
それで軍は強制的にティッドを軍本部へ連れて行こうとした。
セレトの秘石の実験にはが同行していた。
しかし、幼いには何をしているのか分かるはずもなく、軍は実験内容を知ることは出来なかった。
勿論、エドワード達もセレトの秘石の実験をしていることは知っていた。
だが、中に入って実験に立ち会った事はなかった。
だから、エドワード達も内容を知るはずも無かった。
危険だと思われるセレトの秘石を早く見つけなければ大変な目にあう・・・そう小さく呟いたことをもエドワード達も覚えていた。
しかし、はあの日・・・ティッドが軍に連れて行かれた日の実験の出来事を覚えていなかった。
エドワード達は紅い光が部屋中を包んでいた。ということと、の悲鳴がずっと脳裏に引っかかっていた。
「それに・・・エドの言うように、人を兵器としか考えていない。だから───」
そこまで言うとずっと下を見ていた顔をは上げた。
「あたしはそんな軍の狗に成り下がった国家錬金術師も嫌い!」
「ははは・・・そうだな。」
の言葉にエドワードは笑い声を上げた。
「っと・・・ちょっとごめん!行くところあるんだ!」
そう言うと、体の向きを変え走り始めた。
「またなー!」
「「ばいばーい!」」
エドワード達の声がきれいに重なり合った。
そんな3人の声を背中に浴びながらは目的地に向かって駆けていた。
「最近多いよな・・・あっちに出かけるの。」
「うん。」
「どうしたのかな?」
エドワードの言葉に二人は頷いた。
そして、3人は気付いていた。
が時折見せる寂しそうな表情に────
「追ってみる・・・か?」
エドワードは小さく呟くと、二人の答えを聞かずに駆け出した。
「どうせ行かないって言っても行くんでしょー!?てか、もう駆け出してるしっ!」
半ば笑いながら言うウィンリィに笑いながら頷き返すエドワード。

























「はぁはぁ・・・・」
肩で荒い息をしながら、はある山奥のベンチへと来ていた。
「最近エドたちと一緒に居ると息苦しい・・・どうして?」
ベンチへとすわり、足もベンチに乗せ、膝を抱える格好をする
それに・・・なんか三人との間に壁が・・・・あるみたい。
内心そう呟くと、今以上の力で膝を抱えた。
「なんか・・・寂しい。あたし・・・本当に3人の・・・友達なのか・・・な?」
そう呟くと、自然に涙が溢れ出していた。
「あたし一人の・・・勘違い・・・・なのかな?」
ずびずびと鼻をすする
「あ・・・あれ?涙・・・止まらない・・・」
ボロボロと流れ出てくる涙は、の頬を伝って、自らの服を濡らした。
水玉模様のように涙は服に染み込み、じわりと周りに浸透していく。
ーー!!」
エドワードのの名を呼ぶ声がの耳に届いた。
しかし、はダレとも会いたくなくて、誰とも話したくなくて顔を埋めたままだった。
そんな様子を見ていたエドワードは、アルフォンスとウィンリィに今居るところに残るように言うとの方へ駆け出した。
?どーした?」
エドワードはの様子が変だと思い心配そうに声を掛けた。
しかし、は全く顔を上げようとも、話そうともしなかった。
「おいっ!」
エドワードの声にあわせての体がピクッと動いた。
それに続いて、はゆっくりと顔を上げた。
涙を流したままの顔を・・・
「っ!?・・・、どうしたんだ!?」
エドワードはの涙に驚き問いかけた。
「ど・・・して、あたしにかまうの?どうして追いかけてきたの?」
たどたどしい口調で問いかける
エドワードの問いには答える様子を見せなかった。
エドワードは大きく息を吐き、の顔をジッと見つめた。
「だって俺たち友達だろ?いや、親友。」
「友・・・達・・・・親友?本当に?」
「あぁ。」
「心からそう思ってるの?心からそう言ってるの?」
本当の友達だと、本当の親友だと言うエドワードに、は真剣な表情で問いかけた。
このことはにとって、とても大切な答えだった。
「心からそう思ってなきゃ、を追ってこねーよ。」
苦笑しながらエドワードはの頭の上に手を置いた。
その手がやけに優しく感じて、やけに温かく感じて、はぶわっと涙を零しだした。
そして、ポツリポツリと話し始めた。
「あたし・・・ずっと不安だったの。」
エドワード達の思いを確認すると、はゆっくりと話し始めた。
「不安?」
「うん・・・エド達は本当にあたしの事を友達だって思ってくれてるのかな?って・・・」
「ばっかでー・・・んなの思ってるに決まってるじゃねーか。」
「だってっ!・・・・だって・・・・そう思っちゃったんだもん。不安だったんだもん。そんな事無いって思っても、心の隅ではその思いは消えなくて・・・」
エドワードは不安な気持ちを吐き捨てるの言葉を一言一言受け止めていた。
全てはの思いだから。
「それで・・・心が押しつぶされそうになって・・・・いつもここで泣いてた。いつかエドたちが気付いてくれると思って。その反面、気付いてほしくない自分も居たけど・・・それでも、こんなあたしを気にかけてくれるなら・・・きっと友達だって思ってくれてるって・・・そう思い込んで・・・」
「そっか・・・ちゃんと言葉にしてやればよかったかもな・・・」
の言葉を聞いて、ちょっと罰の悪そうな顔をしてポリポリと頬をかいた。
「エドたちを信じなかったあたしもあたしだね。」
苦笑しながらも小さく呟いた。
「それと・・・・ね。」
「まだあったのかよ。」
まだあると言おうとしたの言葉を遮って、笑いながらエドワードは言った。
「うん・・・」
「何?」
「三人との間に・・・壁が、壁があるような気がしてるの・・・」
目を細め、下を向く
「勘違いだろ。ほら。俺達の間に壁なんて無いじゃねーか。」
笑いながらの手を取り、自らの手を重ねるエドワード。
「・・・そだね。」
フッと顔に笑みを浮かべて呟く
「誰がなんと言おうと、俺たち四人はいつまでも友達!いつまでも親友だ!」
の背中をパシッと軽く叩きながらエドワードは力強く言った。
そんなエドワードの顔をジッと見つめながらは微笑み返した。
「兄さん!!!」
「エド!!」
アルフォンスとウィンリィは村の大人数名と一緒に血相を変えて駆け寄ってきた。
「アル。ウィンリィ。」
「どうしたの?」
エドワードとはきょとんとした顔をして駆け寄ってくるアルフォンスとウィンリィの顔を見つめた。
「リ・・・・・・いそい・・・で。」
ウィンリィは荒い息をしながら言った。
ちらっと村の大人の顔を見ると
ちゃん!君のお母さんがっ!!」
「お母さんが!?」
そう叫ぶとは一目散に家に向かって駆け出した。
しかし子供の足。
お母さんの死に際には間に合わなかった。
家のドアを思いっきり開け放ち、中へ飛び込む。
「お母・・・さん?」
ベッドの上で眠るように横たわるの母、ルフィ
はベッドの近くまで行くと、ガクッと膝をおって床に座り込んだ。
朝まで元気だったのになんで?とただそう思う事しか出来なかった。
の思考はショート寸前だった。
「お母さん・・・寝てるだけだよね?ねぇ・・・起きてよ!!もう一度笑ってよ!今日の夕飯・・・楽しみにしてたんだよ?ねぇ、お母さん!!どうしてっ!?どうして目を開けてくれないの!?なんで何も言ってくれないの!?」
の叫びは母には聞こえずに終わった。
ただ、横たわる母を見つめては泣く事しか出来なかった。
「あたしを・・・・あたしを一人置いていかないでよぉ!!守るって・・・守るって言ったじゃない!!」
の悲痛の叫びは部屋中を駆け巡るだけだった。
「こんな・・・・・の・・・・・こんなのってないよぉぉ〜〜〜!!!」
そう叫ぶと、はスッと立ち上がり家の外へと駆け出していった。
「「「!?」」」
エドワード達は駆け出したを急いで追いかけた。
家を出て少し言ったところで誰かと話をしているをエドワード達は見つけた。
「ここを・・・離れるって・・・事?」
かろうじて二人の会話を聞くことの出来たエドワード達。
「そうだよ、。」
「ふざけないでよ!!どうしてここをっ・・・」
は下を向いたままギュッと手を握っていた。
「分かってくれ、。」
「いつもそう・・・・勝手になんでも決めて・・・・」
そう呟くと、は握りしてめいた手を緩めた。
「・・・それしか選択、ないの?」
の言葉に男は静かに頷いた。
「分かった・・・おじいちゃんと一緒にイーストシティに行く。」
「ちょっと待てよ!」
エドワードはの言葉に驚き、声を上げた。
男はに何かを言ったようだが、エドワードはそんな事にも気付いていなかった。
男はエドワード達に背を向け、歩き始めた。
「エド・・・聞いちゃった?」
の静かな声が響いた。
エドワード達は静かに頷くしかなかった。
・・・リゼンブールを出て行くのって・・・本当なの?」
アルフォンスはちらっとを見ながら問いかけた。
「うん・・・お母さんの埋葬が終わったら・・・イーストシティに。」
「いやだよ・・・。行っちゃヤダよ・・・・」
の言葉を静かに聞いていたウィンリィが涙を流しながら行った。
「ウィンリィは・・・いつも泣き虫なんだから。少しは強くなりなよ。それで・・・エドたちをサポートしてあげてよ。」
無くウィンリィの言葉を胸に突き刺しながら、表面上では苦笑しながら答えるウィンリィ。
そして、一瞬表情が揺らいだ瞬間、瞳から大粒の涙が流れ出してきた。
「ごめん・・・・ごめんね・・・・ごめん、皆・・・・」
には、ただ三人に謝る事しか出来なかった。
そしては母の埋葬が終わった後、誰にも何も言わずにリゼンブールを出て行った。
・・・いつかまた会える日まで・・・
心の中でそう呟いて────

















いつかまたで会える日まで・・・・

きっと あたしたちはまた出会える

再開できる

そう断言できるわ あたしは

だって あたしたちは友達・・・親友だもの

だから いつかまた会える日までのお別れ

だから 辛くない

だから 泣かない

辛い涙は 本当の別れの時まで取っておくの

だってこれは 本当の別れじゃないから

この辛さは 再開までの別れの辛さ

だから あたしは泣かない

だから あたしは辛くない

またいつか会える日まで・・・・

永久に続く あたしたちの友情

永久に続く あたしたちは親友

きっと 会える きっと 会える

そう信じていれば────






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