隠されしセレトの秘石 第八話
「セレトの秘石??それは一体何なのだね?」
「なーーーんだ、大佐でも知らないのか。」
「残念だね。」
イーストシティに着き、真っ先に訪れたのは東方司令部のロイ・マスタング大佐の元だった。
が訪れた事でロイは凄い喜んでいたが、の後ろからニヤニヤと笑みを浮かべたエドワードとアルフォンスが現れ、ハァと大きな溜息をついていた。
そして、今に至る。
「数年前にティッド・という者が研究していた秘石なんだけど。」
「ティッド・・・・あの行方不明のティッド・氏か!?」
「そう。そのティッド・。」
「それは君の父親ではないのかね?」
「そうだけど、あたしはそうは思いたくない。」
の出した名前に訊き覚えがあるのか、ロイは大きな声を出した。
そして、それと同時に疑問が浮かび、それをに問いかけた。
しかし、は既に、あんな酷い事をしてくるティッドを父親だなどと思いたくないと思っていた。
「まるで、鋼ののようだね。」
「ちょっと違うけど、似てるかもね。」
視線を外したまま呟くを見てロイもエドワードもアルフォンスもしょうがないなーという溜息をついた。
「それで、そのセレトの秘石がどうしたのだね?」
「いや、知らないなら別にもう用はないわ。」
「そうとは限らないぞ。その秘石について説明してくれれば・・・・」
「巻き込みたくないの。」
「「「え?」」」
ロイの言葉を遮っては、小さく呟いた。
「既にエドとアルを巻き込んでるから・・・・これ以上、関係ない人を巻き込みたくないの。」
「・・・・そんなに君は私の事をっ・・・・」
「別に大佐の事を心配してるわけじゃない。」
の静かに響く声を聞いて、ロイは嬉しそうな顔をしたが、すぐにによって遮られた。
「大佐・・・ごめん。」
そう言うと、は静かに部屋を出ようとした。
「賢者の石同等の力を持つセレトの秘石。」
「!?」
行き成り発したロイの言葉に驚き、はバッと振り返りロイを見つめた。
「セレトの秘石については、これくらいしか判明されていない。」
「あんた・・・・・あたしを騙したわねっ!!!」
書類を見て呟くロイを見て、はロイに駆け寄った。
そしてロイの胸倉を掴み、顔を近づけ怒鳴った。
の後ろでは、リザがガチャと銃を構える姿があった。
知り合いだとしても、大佐に危害を加えようとすればリザは容赦なくを打つだろう。
それを分かっていたはゆっくりと掴んだロイの胸倉を離し、エドワード達の場所に戻った。
「言っただろう。これくらいしか分かっていないと。これくらいのこと、ならば知っていると思ったのでね。」
「・・・・・・じゃあ、ティッド・の居場所・・・何か掴めている?」
「私がそれを教える理由がない。」
「〜〜〜〜〜っ!!」
の問いかけにシレッとした顔をして答えるロイ。
その表情を見ては無償に殴りたくなった。
「等価交換だ。私の質問にも答えてもらおう。」
「・・・・・・分かったわよ。だから早く教えて!!!」
こんな荒れているを見るのは初めてだったエドワードとアルフォンス。
二人はあっけに取られとロイのやり取りを見つめていた。
「ティッド・が行方不明になって数ヶ月してから突如現れた建物がサトリート砂漠にあってね。」
「それが何か!!??」
「その建物は何処にも入り口が見当たらなく、今だ軍もそこだけは探りを入れられずにいる。」
「そこが怪しいってこと?」
のその問いかけにロイは静かに頷いた。
「そこに向かってみても、損はないと思うが?」
「・・・・・分かったわ。ありがとう。」
「では、今度は私から問いかけよう。」
ロイの言葉を聞き、は静かに頷いた。
何を聞かれるのかとドキドキとしながらロイを見つめた。
「今、たちはどういう事件に巻き込まれているのだね?」
「「「!?」」」
いきなりの言葉にだけでなくエドワードとアルフォンスも反応した。
「な・・・何を言っているの?ただ・・・・ただ、あたしは、あたしを捨てて行方をくらました父親を探したいだけで・・・」
「そんなことはないだろう。何より、ここに入ってきて第一声がセレトの秘石について教えろ。という事は、その秘石について関わっているということだろう?」
ロイの問いかけに間違えはなく、はしぶしぶ頷いた。
その姿を見てロイは満足気に笑みを浮かべた。
「で、いったいどういった事件に巻き込まれているのだね?」
「それには答えられない。」
「上司からの命令だぞ!!」
「・・・・それでも、巻き込みたくないから。」
「私なら大丈夫だ。話せ。」
は頑として話そうとしなかったが、ロイの方が一枚上手だった。
「分かった・・・・話すわ。でも、巻き込まれても知らないからね。」
はそう言うとロイを見つめた。
の言葉に答えるように、ロイは静かに頷き、イスに座るようにとすすめた。
「あたしは・・・今、父さんからの刺客に命を狙われている。」
「実の父親からかっ!?」
「そう。そして・・・・あたしの体の中に眠っている・・・セレトの秘石を完全復活させようとしているの。」
「!?」
の行き成りの告白でロイは驚き目を丸くさせた。
「あたしが成長すれば、秘石も成長し、完全復活に近づいていく・・・・だから父さんはあたしに刺客を送りつけてくる。」
はそう呟くと、迷った。
あれを言っていいものかと・・・・
そして意を決して口を開いた。
「父さんは・・・あたしがそれで殺されずに秘石が完全復活すればよし。あたしがそれで殺されれば、邪魔者は排除でき新たな実験に移るのみ。と考えているみたい。」
「────っ・・・・」
「以上よ。」
「の体内に・・・・秘石が?」
以上というの言葉を無視し、問いかけるロイ。
そのロイの問いかけには静かに頷いた。
そして自らの首の真下、そして胸の中央辺りを指差した。
「秘石が力を発しているときは、ここにセレトの秘石と同じ紋様が浮かび上がるの。」
の説明を聞き、ロイは眉間を押さえ、机を睨みつけていた。
「・・・・」
「?」
「殺されるのではないぞ。」
「勿論・・・・あたしは元々死ぬ気なんてさらさらないからね。」
「それなら安心だな。」
そう呟くとロイはフッと笑みを浮かべた。
そして、それを見ても笑みを浮かべた。
「もう良いでしょ?」
「あぁ・・・」
「・・・・いい情報ありがとう。」
そう言うと、は静かに大佐の部屋の扉を閉めた。
「・・・・」
「大丈夫・・・・場所だって分かったんだし・・・これ以上戦闘も激しくなるだろうけど・・・・あたしは大丈夫。」
そう呟くとはエドワード達を見つめた。
「オレ達だって大丈夫!絶対離れないって約束しただろ?」
「そうだよ。ボクだってがなんと言おうと、ついていくつもりだよ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っうん、ありがとう!!!」
エドワードとアルフォンスの言葉を聞き、万遍の笑みを浮かべると、は力強く頷いた。
「サトリート砂漠って言うと・・・こっち方向よね?」
はエドワードに確認を取るようにそっちの方向を指差した。
「あぁ。確かそっちの方だな。確かサトリート砂漠に行く間に、幾つか町とか村があったはず・・・」
「うん。その町とか村に立ち寄ったときに、サトリート砂漠に突如現れた建物について知ってるかどうかき居ても見よう。」
エドワードの言葉の後にアルフォンスが頷きながら、意見を出した。
その言葉を聞き、とエドワードは顔を見合わせ頷きあった。
それを見てアルフォンスは微笑んだ。
「そういえば、ボク前から気になってたんだけど・・・」
「いきなりどうしたんだ、アル?」
「?」
いきなり言い始めたアルフォンスに首を傾げながら視線を向けるエドワードと。
その二人の素振りを見て苦笑を浮かべながらアルフォンスは言葉を続けた。
「って好きな人居ないの?」
「ぶっ!!!」
「ちょっ・・・汚いよーー!!」
「何聞いてるんだよ、アルフォンス!!!」
アルフォンスの率直な問いかけに噴出す。
そして、横を歩くエドワードの態度も慌しくなった。
アルフォンスの問いかけに興味はあるようだが、頬を多少赤らめながらぎこちない喋り方をするエドワード。
「いいいいいいきなり何なのよ、アル!!!」
「そそそそそそうだぞっ!!」
「なんでエドワードがそんなに慌てて、頬赤くしてるのよ!!」
「ししししし知らねーよ!!!」
ドモりながら叫ぶに、賛成の意思を表し喋るエドワード。
しかし、そのエドワードまでもドモっていて、は眉間にシワを寄せながら問いかける。
そのの仕草と表情を見て、もっと顔を赤くしてドモりながら答えるエドワード。
そんな二人の様子を見ていてアルフォンスは苦笑していた。
んだよっ!!!」
「「何笑ってる
のよっ!!!」
エドワードとの声がきれいに重なり合った。
そして、エドワードとは顔を合わせ、その瞬間ボンッと顔を真っ赤に染めて視線を逸らした。
この時アルフォンスは気付いた。
エドワードもも気付いていない二人の感情に。
そしてなんで気付かないかな〜という疑問を苦笑しながら思い浮かべた。
「アルこそどうなのよ。」
コホンと咳払いを一つして、はアルフォンスに問いかけた。
その話題にエドワードも食いついてきて「そうだぞ、アルこそどうなんだ!?」と叫んでいた。
それでも二人の顔の赤さはまだ取れていなかった。
「この姿で人を好きになっても・・・ねぇ・・・・」
「「あ。」」
アルフォンスの答えを聞き、罰の悪そうな表情を同時にしたとエドワード。
「でも、ボクだって彼女欲しいよ。」
「そりゃ誰でも思うことだと思うよー。エドだって思ってるだろうしさ。」
「オッオレはどうでもいい!!彼女欲しいなんて思ってない!!」
アルフォンスの言葉に苦笑しながら答える。
そしてエドワードも、と言った瞬間エドワードは否定の声を上げた。
その言葉を聞いた瞬間、は自分では気付いていないだろうが、一瞬寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。
それにアルフォンスとエドワードは気付いた。
「なんでがそんな顔すんだよ?」
「え?え?」
「もしかして気付いてなかった?」
「兄さん。そんなこと聞いちゃダメだよ。」
「アル・・・・あんた優しい!!」
「あーーー!!何抱きついてんだよ!!」
「あ、ヤいた?」
クスクスと笑いながらはエドワードの反応を面白がっていた。
エドワードのいきなり発された『なんでがそんな顔すんだよ?』という言葉に、はそんな顔ってどんな顔だろうと疑問を浮かべながらエドワードを見つめていた。
そして、を気遣って駆けたアルフォンスの言葉に喜んだは鎧姿のアルフォンスに思いっきり抱きついた。
「ヤかねーよ!!バーロ。」
「あ、ひっどーい。」
苦笑しながらそんな会話をし、三人は次の町、クオーフィールに急いでいた。
日は半分落ちかけており、このまま日が沈めば野宿となる。
すると刺客に襲われる可能性が高くなってしまう。
それだけは避けたいとエドワードもアルフォンスも考えていた。
勿論、宿に止まっているからといって安心できるというわけではないが。
「それより、少し急いだ方が良いんじゃない?」
「あぁ、そうだな。もうすぐ日が沈む。」
「うん。急ごうか。」
の提案を聞き、ハッとしてエドワードとアルフォンスは空を見上げた。
今二人が歩いているのは森の中。
木々の葉の間から見える空を見てエドワードもアルフォンスもも足を急がせる。
「やっぱり、砂漠の建物に近づくほど、刺客の来る回数も多くなるのかな?」
「さあ・・・・どうだろうな。雑魚が大勢来るかもしれないし・・・回数が増えるかもしれないし・・・」
「それは行ってみない事には分からないね。」
「そうだよね・・・・・」
二人の意見を聞き、肩を落とし地面に視線を移した。
そんなの様子を見て、エドワードはの背中をポンッと叩いた。
「心配すんな。オレ達が居る事忘れるな!オレ達の強さ、知ってるだろ?」
「・・・・そだね。でも、あたしだって強いんだからね。」
「分かってるよ、それくらい。」
苦笑しながらも足は急ぐ達。
このまま何事もなくクオーフィールにつけば良いのだが・・・とエドワードは内心考えていた。
それはもアルフォンスも同じだった。
しかし、その思いも打ち砕かれる事となった───・・・・
「はーっはっはっは!!!」
「「「!?!?!?」」」
いきなりの高笑いらしき声に驚き、三人は声のした方に視線を移した。
しかし、視線を移した方を見つめても姿はなかった。
「ど・・・どこに?」
「てか、今の・・・・何なんだ?」
「・・・変人かな?」
「ちょっと待て待て待て!!」
はキョロキョロと周りを見渡しながら木の上に立つ一人の男に気がついた。
が、その男の格好に驚き、見て見ぬふりをして、声の主を探すフリをしていた。
エドワードはエドワードで、いきなりの高笑いらしき声に驚き、汗を額から垂らしながら小さく呟いた。
そしてアルフォンスの痛撃の一言。
その言葉に黙っていられなかった男はヒョイッと木の上から飛び降り三人の前に姿を現した。
「「「・・・・・先進もう。」」」
いきなり振り返った先に飛び降りてきた男の姿を見て、三人はとっさの判断でそう同時に呟いた。
勿論男と視線を合わせないように、斜めに目線を逸らしたままで。
「この私を無視するなーーーーーー!!!」
「いったい何なのよ!!!!!」
無視して先に進もうとしていた三人の後姿に声をかける男。
その男の姿は、上半身裸でビキニのパンツという姿をしていた。
そんな姿をした男がいきなり現れれば、三人のような行動を取るのは分かるだろう。
そして、その男の胸のど真ん中にセレトの秘石と同じ紋様のイレズミが描かれていた。
「ふっふっふ。この私に声をかけたなっ!!」
「駆けさせようと指示したのは、あんただろう!!」
そう言いはパンッと両手を合わせ、地面に両手をついた。
そこに出現させたのは、人の頭ほどの大きさの石だった。
そしてはまたパンッと両手を合わせ、その両手を口元に持ってきた。
フゥッと息を吐くとその頭ほどの大きさの石が浮き、行き成り上半身裸の男に向かって物凄い勢いで突き進んでいった。
ゴチィィィーーーーーーーン・・・・・
そしてその石は男の急所に激突した。
「・・・・アホな刺客だな・・・今回は。」
その様子をジッと見ていたエドワードはポツリとつぶやいた。
「うん・・・ボクもそう思うよ。物凄く。」
エドワードの意見に賛成だったアルフォンスも同じく、どうしようもなく佇みながら呟いた。
「いっいっいっ・・・・痛いではないかぁぁーーーーーーーー!!!」
男はいきなり急所を押さえながら起き上がり、に向かって叫んだ。
「それに、私は『あんた』ではない!!!ローリンクロームという素敵なスッバラシい名前があるのだ!!」
「・・・・ローリンクリーム???どっかの食べ物?」
長ったらしい名前を名乗られ、は首を傾げながら呟いた。
「ちっがぁぁーーーーーーう!!!ローリンクロームだ!!ロ・−・リ・ン・ク・ロ・−・ム!!!」
「んな長ったらしい名前覚えてられないわよっ!!」
エドワードとアルフォンスは二人の会話についていけず、ただとローリンクロームとのやり取りを見ているしかなかった。
「人の名前くらい覚えたまえ!それくらい出来なくて錬金術師だなどと名乗るでない!」
「自分から名乗った覚えはない!!」
「ああ言えばこう言う!!」
「それはあんたでしょう!!」
「あんたではない!!ローリンクロームだ!!」
「だぁぁぁぁ!!もう、めんどくさい!!あたしたちは先を急いでいるの!!先に進ませてよ!!」
は上半身裸のローリンクロームから視線をパッと離しはっきりとした口調で言い放った。
このまま離し続けてもラチが空かないと判断したのだろう。
「ローリンクロームさんだっけ?オレ達も早く先に進みたいんだよね。」
「だったら、この私ローリンクロームを倒してみよ!!そして秘石を完全復活させるのだ!!」
「いつ完全復活するか分からないっつーの!!」
エドワードの言葉に反応しローリンクロームは、はっはっはと笑いながら答えた。
その言葉には即座に突っ込んだ。
「あぁぁあああ!!もう、あたしキャラ壊れてるぅ!!あんたの所為よ!!」
「あんたではない!!」
「ローリンクローム!!自己紹介は分かったから!!」
「なら名前で呼びたまえ!!」
「だぁぁぁぁぁ!!あんたいちいちウザいのよ!!!」
はいちいち突っかかってくるローリンクロームに嫌気が差し、ウザいと一言言い放った。
その言葉を聞いたローリンクロームは、ショックを受けたように、片手を口元に持ってきて、ヘロヘロヘロと地面にペタリと座り込んだ。
・・・・一体なんなんだよ・・・・こいつ。
エドワードはローリンクロームの事をジッと見つめながら内心呟く。
ずどぉぉぉーーーーーんっ!!!
そんなショックを受けているローリンクロームをエドワードの錬成した大砲が直撃した。
「・・・・なんとも空しい終わり方・・・・」
大砲が撃たれた先を見て、はひゅぅ〜〜と風に吹かれながら小さく呟いた。
「残念だったね。私は自分の姿を気体に変える事が出来るのでね。」
ですって!?」
「「「何
だって!?」」
ローリンクロームの一言を訊き、三人は同時に声を上げた。
「ただの雑魚じゃなかったのね・・・・・」
「みたいだな・・・・・」
「あまり甘く見ないほうがいいかもしれないね・・・・」
「お前ら・・・私を何だと思っていたのだ・・・・」
三人の言葉を聞き、ローリンクロームはピクピクとこめかみを動かしながら小さく呟き、問いかけた。
その問いかけに三人は顔を見合わせ、笑顔で
「「「雑魚・変体」」」
「ガガガガーーーーン!?!?!?」
笑顔で言われた事にショックを受けたローリンクローム。
「確か、ローリンクロームさん、気体に姿を変えることが出来るのよね?」
「そうとも!!私は無敵だ!!」
の問いかけに胸を張りながら答えるローリンクローム。
その言葉を聞き、はいい事を思いついたのだ。
にやりと口元に笑みを浮かべ、エドワードとアルフォンスを近くに呼び寄せた。
しかし、その行動に目も向けず、ローリンクロームは自らの美しさについて語りつくしていた。
その間にエドワードとアルフォンスは大きな大砲を錬成していた。
そしてもパンッと両手をついた。
その瞬間を待っていたかのようにエドワードとアルフォンスは大砲を発射した。
「「いっけぇーーー!!」」
「ふっ・・・この私にそれは効かぬ。」
エドワードとアルフォンスの声を聞き、瞬時に自らの身体を気体へと変えるローリンクローム。
しかし、その瞬間をは待っていたのだ。
既に両手を突いた両手を口の前に持ってきて、フゥッと息を吹いた。
その瞬間、のかなり前、そしてローリンクロームの少し前辺りから物凄い強風が吹いた。
「んなっ!!!」
この出来事を考えていなかったらしく、気体となっていたローリンクロームはの錬成した風にさらわれ、どこか遠くに飛ばされていった。
「・・・・なんだったんだろ・・・・あの人。」
「さぁ・・・・とにかく馬鹿だったというのは確かだな。」
「うん・・・・物凄く馬鹿だった。」
はそう呟くといきなりの胸の痛みに耐えられず、ガクンと膝を折った。
「「っ!?」」
いきなり床に膝をついたに驚き、エドワードとアルフォンスはの肩に手を置いた。
「む・・・・胸が・・・・痛い・・・・」
そう言うと、いつも感情が高ぶると現れる首の真下、胸の中央辺りを押さえはうずくまっていた。
その手と手の間、指と指の間から紅い光が漏れていた。
「身体が・・・・・あつ・・・・・い・・・・」
そう言うと、力なく地面に倒れこんだ。
エドワードは急いでの倒れる寸前で身体を支えた。
すると、の首の真下、胸の中央辺りにセレトの秘石の紋様が浮かび上がっている事に気がついた。
そして、その秘石の紋様から紅い光が渦を巻いて漏れていた。
「秘石が完全復活に・・・近づいているって事か?」
エドワードはその紋様を見つめながら、そう小さく呟いた。
すると、紋様から漏れていた光は徐々に消えうせ、そのまま紋様もスゥゥッと消えていった。
しかし、の意識が戻る様子はなく、このまま次の町クオーフィールに向かう事は適わず、野宿をすることとなった。
を寝かせ、エドワードは寝ずにの様子を見ていた。
「兄さん・・・寝たほうがいいよ。明日、が目覚めたら発つんだよ。」
「あぁ・・・・だけど・・・」
「ボクが起きてるから大丈夫。」
「・・・・分かった。悪いな、アル。」
そう言うと、エドワードはの横に寝っ転がりに背を向けて瞳を閉じた。
早く目を覚ませ
そして我に力を与えよ
我の名は ティッド
主の父である ティッド
セレトの秘石を完全復活させ 我に力を与えよ
我に 我に 我に 我に
力を 力を 力を 力を
与えよ 与えよ 与えよ 与えよ────・・・・
そして 我は 願いが適う
ことの発端は・・・・・
セレトの秘石を 研究し始めた事にあった
我に 力を 与えよ
我に 我に 力を 力を あた・・・アタエ・・・あたえ・・・与えよ・・・・
目を 覚ませ
そして 我に 我に────・・・・・
「っ!!!!!!」
真っ暗な闇の中、の心に語りかける聞き覚えのある声が聞こえた。
その内容はセレトの秘石の復活に関してだった。
父親ティッドがこの力を欲している。
父親ティッドがこの力を求めている。
復活を求めている。
そんな夢を見て、汗びっしょりになっては目を覚ました。
目を覚ますと、辺りは真っ暗で、少し右の方に視線を移すと使われていたと思われる焚き火の跡があった。
そして痛む身体を無理に起こし自らの左側を見るとエドワードが吐息を立てて寝ているのが分かった。
アルフォンスは元々寝られる身体ではないのだが、静かに座り込み、達の方を見て見守るように座っていた。
はそんな二人の姿を見て、ゆっくりと立ち上がった。
「あたた・・・・」
両手で腕を押さえながら近くを流れる川のほうに近寄っていく。
それに気付いていたアルフォンスだが、さほど遠くではないので気にする様子はなかった。
ただ、気配だけは辿っていた。
「っと・・・あそこに岩陰あるし・・・二人とも寝てるし・・・」
そう呟くと、ウエストポーチから一枚の袋を取り出した。
それには、圧縮されたタオルが入れられていた。
シュルシュルシュルと月明かりにあてられては服を脱ぎ始めた。
身体や髪がもう汚れ、限界に来ていたようだ。
は服を脱ぐとタオルを持って、川の中へと入っていった。
ジャブジャブジャブ・・・・・
「ひゃはーーー・・・・つべたー・・・・」
そう言いながらも水の中に潜る。
岩陰の方は普通のところより深いところがあり、潜り泳ぐ事が出来た。
はその深いところに潜り込み、水の中の世界を満喫していた。
ざばぁぁぁーーーーー・・・・
「ぷはぁーーー・・・・きっもちいい〜〜」
うーんと背を伸ばしながら水の中を歩く。
持ってきたタオルで身体を拭き、洗い、頭を洗い拭き、そしてまた潜る。
それの繰り返しをしていた。
そんなことをしていたため、アルフォンスとエドワードはが行き成り消えたと勘違いした。
「ーー!?」
「何処に行ったっ!?まさかさらわれたっ!?」
「そんなはずはっ・・・・」
いきなり二人の声が聞こえてきた。
「あ・・・・心配してる、そろそろ行かなきゃヤバイかな。」
そう呟くと、服を着ようと岸に向かって歩いていった。
徐々に川の深さが浅くなってくる川。
するとの身体もあらわになってくる。
「あ、発見!!・・・・・っ!!!?」
そう言い、エドワードが岩陰から顔をひょっこり出した。
しかし、の姿を見て、顔を真っ赤にさせ急いでその場を離れた。
何とかはタオルで身体を隠していたため良かったものの、それでもエドワードには刺激が強すぎた。
「なっなっなっ・・・・何覗くぅぅぅーーーーーーーーー!!!」
はギュッとタオルを掴み、その場にしゃがみこみながらそう叫んだ。
「ちっちっち、違う!!ふっ不慮の事故だ!!オレは見てない!!見てないからな!!」
「何よ、ジッと一瞬あたしの身体に釘付けになってたくせに!!」
「なってねーよ!!!」
とエドワードのやりとりを聞いていたアルフォンスは後ろからエドワードの後頭部を殴った。
「ってーなっ!!っにすんだよ、アル!!」
「一応はに謝らなきゃダメだよ!女の子はデリケートなんだから。」
「・・・・・わりかったな・・・・」
「え?」
はエドワードの小さく呟いた言葉を聞き、問い返した。
エドワードはポリポリと頬を描くと、一瞬アルフォンスの顔を見つめ、もう一度小さくポツリと呟いた。
「悪かったな・・・・その・・・・見ちゃって。」
「やっぱり見たんじゃん。」
笑いながらエドワードの言葉を聞き、言葉を返す。
そしてエドワード達には見えない笑みを浮かべて、
「でも、いいよ。許してあげる。」
「ん・・・」
服を着終わったはパンパンとタオルを叩き、風を錬成しタオルを乾かし圧縮してウエストポーチにしまいこんだ。
「いきなり消えてごめんね。ちょっと水とかお湯とかにつかりたくてさ・・・・」
苦笑しながら誤る。
そんなを見つめながらエドワードもアルフォンスもニッコリ微笑み「いいよ」と言ってくれた。
「ちょっと眠れないし・・・まだ夜も明けそうにないから、少しここで涼んでくわ。」
そう言うと、二人に笑顔を送った。
「分かった。じゃ、先にあっちで寝てるぞ。」
「ボクは起きてるから、何かあったらすぐに呼んでね。」
そう言うと、エドワードとアルフォンスはくるっとに背を向けて寝袋のあるところへ向かっていった。
「・・・・・はぁ。なんだったんだろう・・・あの夢。それに・・・・秘石の力。強くなったみたいだし。」
そう言うと、は自らの胸の部分を右腕で抑えた。
の身体の奥底から、何かの力を感じるのだ。
それがの首の真下、胸の中央から感じるのだ。
「父さん・・・・父さんはあたしにどうして欲しいの?」
空を眺めながらは静かに空に問いかけた。
しかし、それを答えるものは居ない。
ただ空のきれいな星だけが、悲しく一人空を見上げるを照らし続けていた。
「分からない・・・・父さんが何を考えているのか・・・・あんなに優しかった父さんが・・・・今はあたしの命を狙ってるなんて・・・あたしの中の秘石を狙ってるなんて・・・」
は昔の事を断片的に思い出しながら呟いた。
いきなり後ろから抱きついたり、肩車してリゼンブールを歩き回ったり。
一緒に遊んだり、錬金術を見せてもらったり・・・凄く優しかったの父親ティッド。
しかし、行方不明になり、の体内に眠るセレトの秘石を狙い始めてから、その優しさはプツリと消えてしまった。
だからこそ、は不安になったのだ。
ティッドが変わってしまったのではないのだろうかと・・・
チャポン・・・・・
水面にの涙が落ちた。
そして、水面が揺れ水面に移ったの顔を歪ませた。
は悲しかった。
自分の父親が生きていて嬉しいという気持ちはあるものの、同時に自分の命を狙う危ない存在でもあるのだから。
そして、今が対面して戦わなきゃいけないのが父親のティッドなのだ。
そのことを考えるとは胸が押しつぶされそうだった。
「エド・・・アル・・・やっぱり・・・・やっぱり・・・・あたし、あたし・・・・・」
そう呟くと、急いでエドワードとアルフォンスの居るところに向かい、荷物を纏め始めた。
・・・・ごめん。あたし、やっぱりエドとアルとは一緒に居られない。あたしの所為で二人が危ない目に会うことないんだから・・・ごめんね、今まで。
そう心の中で呟くと、はエドワードとアルフォンスを見下ろした。
・・・・でも、どうしてこんなに悲しいの?二人のためになら・・・これくらい平気なのに・・・どうして離れたくないって思うの・・・?
そんなことを考えながら荷物を持ち、エドワードとアルフォンスに背を向け、足音を殺して歩き始めた。
「こんな夜中に荷物まとめて何処に行くつもり?」
「!!」
いきなり後ろからかかった声に驚きはビクッとその場に硬直した。
その声の主はアルフォンスだった。
鎧の身体のため、睡眠をとることの出来ない体のアルフォンスは、ずっと地面に座り起きていたのだ。
「・・・・」
は一瞬戸惑った雰囲気をかもし出したが、意を決したように拳を握り締め足を前に進めた。
ガチャガチャガチャ
そのとき、アルフォンスの動く音が後ろから聞こえた。
「なんで何も言わないんだよ!?もう、離れないって約束しただろ!?なのに・・・・一人で何処に行くつもりなんだよ!?」
アルフォンスは精一杯の後姿に叫び続けた。
はアルフォンスの声を聞くたびにビクビクと肩を震わせた。
「・・・あたしと一緒に居ない方がいいって判断したから。いや、もっと早くに判断していればよかった・・・」
そう言うと、は一人歩き始めた。
「・・・・・・さよなら。」
「まてよ。」
「!?エド、寝てたんじゃっ!?」
別れの挨拶をアルフォンスに言い、歩き出そうとしたとき、寝ていると思っていたエドワードの声がかかった。
寝ていたと思っていたエドワードが起きていた事に驚き、は声を上げる。
そして、バッと振り返ってしまった。
そのの顔は涙でビショビショに濡れていた。
その涙は、父親のティッドの事を思っての悲しみの涙と、エドワードとアルフォンスの安否の事を思っての涙だった。
「なっ・・・何泣いて───・・・・」
「泣いてちゃいけないの!?」
泣いているに驚いたエドワードは、何が起きたんだと思い声を上げた。
しかし、はわざとエドワードとアルフォンスに嫌われようと、きつい言葉をかけようと一瞬にして考え付いた。
「いけないなんて言ってないだろ!?」
「言っているようなものよ!そう言うのがウザいのよ、エドは!アルもっ!!放っておいてって言ってるのに構ってきて・・・あたしとしてはいい迷惑なの!!分かった?」
「そんなこと言うなんてらしくないよ!!!」
「あたしの何を知っていると言うの?人間、変わらないモノなんてないのよ。人の性格だって変わるの。数年も会ってなきゃ変わるわよ。もう、あたしに関わらないで!!」
は酷い言い方を考え、エドワードとアルフォンスに言い放った。
「・・・そう言って、オレ達に嫌われようとしてるだろ?」
エドワードの図星をついた言葉はの肩を震わせるのには十分だった。
「どうせ、これ以上一緒に居たらオレ達の命の危険があると思って、その前にここで分かれておこうって事だろ?普通に分かれたんじゃ、オレ達は引かないもんなー。」
「そっか・・・・嫌うように仕向ければ簡単にボク達から離れられるもんね。」
「・・・・・・ちぇっ・・・・エドにもアルにもお見通しか・・・・」
エドワードとアルフォンスの説明を聞き、苦笑しながら呟く。
ペタンとその場に座り込み地面と見詰め合った。
「「!?」」
「だって・・・嫌なんだもん。エドとアルが死ぬかもって思うと・・・二人が傷つくところ・・・あたし見たくないもん!」
「オレだってが傷つくところ見たくない。でも、だからこそ守りたいと思うんだ。一緒に居たいと思うんだ。」
「ボクだってそうだよ。の事が大切だから、だから一緒にいるんだ。」
「・・・・・二人とも。本当に良いの?二人に何の利益もないかもしれないんだよ?」
「あぁ、構わないさ。」
その言葉を聞き、は思った。
あぁ、なんて優しい仲間を持ったんだろう。
なんて優しい友達を持ったんだろう。
なんて・・・・優しくて温かい家族を持ったんだろう、と・・・・
「〜〜〜〜二人とも・・・・本当にありがとうっ!!」
地面に座り込んだまま、砂を握り締めは泣きながらエドワードとアルフォンスにお礼を言った。
「最後まで、オレ達は離れない!俺は絶対にと一緒に行動する!」
「あーーー!!ボクの言いたかった台詞だったのにぃ!!」
「へへんっ!!早い者勝ちなんだよっ!」
「ぷっ・・・・あはっあははっははははは・・・」
二人のやり取りを見ていたは行き成り噴出し笑い始めた。
「二人って・・・本当に面白いよねー・・・前から思ってたよ。エドは何故か打たれ強いしさ・・・」
「兄さんの打たれ強さはウィンリィのスパナのおかげかな?」
「・・・・・・・かもしれねーな。」
の言葉に笑いながら答えてくれるエドワードとアルフォンス。
そして、に近寄るとストンと腰を下ろし、輪を描いて座り始めた。
「でも・・・どうしてそこまでして、あたしと一緒に居てくれるの?」
「小さい時から、ずっと一緒だった・・・・だから、一緒に居るのは当たり前なんだよ、。」
の問いかけに静かに、そして優しい声で答えるアルフォンス。
「・・・・オレもアルの意見に賛成。」
「自分の言葉で言って、エド。」
「〜〜〜っ。オレはっ!!!・・・・オレは・・・が大切だ。アルが大切だ。小さいときから一緒に居たし・・・だから一緒に居るのも当たり前だと思ってる。だから・・・だから一緒に居るのは・・・当たり前・・・なんだ・・・よ・・・」
テレながらエドワードはに声をかけた。
ポリポリと頬をかいて、静かに静かに響く声でエドワードはに言った。
その言葉を聞いて、の心臓がドクンと脈をうった。
「本当に・・・ありがとう、エド。アル。」
「どういたしまして。」
「・・・・・あぁ。」
のお礼の言葉にテレながらアルフォンスとエドワードは笑った。
あたし・・・・・・エドが好きだ・・・・・・
はやっと自らの心の奥に潜むモヤモヤに気がついた。
そして、自覚した。
がエドワードの事が好きだということに。
好きで好きでたまらなくて、危ない目にあわせたくないという事に。
「ふわぁぁ〜〜〜」
「そろそろ眠る?」
「・・・うん、そうだね。」
の大きなあくびを見て、アルフォンスは優しく声をかけた。
ニッコリと微笑み、は賛成した。
エドワードも意見は同じだったらしく、小さく頷いた。
は自らの気持ちに気がついたが、今までと同じように接しよう、そう心に決めた。
大好きだよ、エド。
今のにとって、心の中でそう呟くだけで十分だった。
To be continued...
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