「あら、ちゃん」


「こんにちは、ホークアイ中尉」


東方司令部に訪れていたを見かけたリザは、書類を抱きかかえたまま笑顔を浮かべ声を掛けた。
その声には振り返り、同じく笑顔で挨拶を交わす。


「あの、マスタング大佐はいらっしゃいますか?」


「大佐?大佐なら……司令室にいるんじゃないかしら」


ロイがいつも居る場所が司令室だった。
そこで部下であるリザやハボック達に指示を出し、そしてそこで執務をこなす。


「いらっしゃい、ちゃん 案内するわ」


「ありがとうございます お手数かけます」


歩き出すリザの後を追うようには歩き出した。
シャキッと背筋を伸ばし歩くリザの後姿を見つめ、カッコイイなと思う。


「あ」


「どうかした?」


急に声を上げたにリザは首をかしげた。











魔法の言葉











「トイレ借りてもいいですか?」


「ええ、構わないわよ」


「少し、着替えたいので司令室近くの方がありがたいのですが……」


の言葉にリザは疑問に思うも、コクンと頷いた。


「こっちよ」


そう短く呟くと、を背にリザは案内を始めた。


「けど、ちゃんが司令部に来るなんて久しぶりね」


「はい 家が……忙しいもので」


リザの言葉には笑みを浮かべた。
その言葉にリザは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、後ろを歩くに視線を向けた。


「まだ……あの家にいるのね」


「……はい 私には行く場所もないですから……あの家に居るしかありません」


の浮かべる笑顔も、リザ同様に悲しげなものだった。
の家は、お世辞にもいい家とはいえなかった。
体罰は当たり前。
実の娘であるを、召使いのようにこき使う。
ロイやリザに出会う前のは、心身ともに衰弱していた。


「だけど、私はホークアイ中尉やマスタング大佐には感謝しています」


「……私達は何もしていないわ」


「いいえ お二方に出会えた事で……私は少なくとも救われました」


表面上は変わっていなくても、心は強くあれた。
東方司令部に行けば、の味方をしてくれる仲間がいるから。


「……そう」


そう相槌を打つと、丁度司令室近くのトイレに到着した。
リザはそこを指し示し「いってらっしゃい」と言った。
その言葉にお礼を口にすると、はトイレの中へと姿を消す。











「おまたせしました」


「……、ちゃん?」


「はい?」


出てきたの姿に、リザは驚きの表情を浮かべていた。
来たときの私服とは異なり、今のは肌を大幅に露出した茶色のファー使いの服と、同じく茶色のファーを使ったミニスカートを履いていた。
足元も茶色のファーを使ったレッグウォーマー風のもので足を隠し靴を履き、スカートの裾からは銀色の尻尾、頭には銀色の耳を生やしていた。
その姿は、狼のようでもあった。


「その姿は?」


「ああ……今日ってハロウィンじゃないですか だから、マスタング大佐を驚かせようと思って……」


ニコリと無垢な笑顔を浮かべたに、リザは何ともいえない表情を浮かべた。


「大佐、驚くだけに留まってくれればいいけど……」


どこか心配げなリザに、はその真意を読めず首をかしげた。
そんなにリザは微笑を浮かべると「まあ、いいわ」と呟き、司令室の方へとを案内し始めた。


「マスタング大佐、居ればいいんですけど」


「居るとは思うわ まぁ、仕事をサボっている可能性は否めないけど」


そういうリザの苦笑の表情に、も「そうですね」と同意し笑う。
そうして到着したリザ達の仕事場。
たくさんの机に、たくさんの軍人、そして机の上にはたくさんの書類が散乱していた。
そこの先に、ロイの居る司令室がある。


「ホークアイです 大佐、少々よろしいでしょうか?」


コンコンとノックをし、ホークアイはドアの向こうに居るであろうロイに声を掛けた。
すると、中から「入れ」と二つ返事が返ってきた。


「失礼します ちゃんは、少しここで待っていてね」


「はい」


そういい残すと、リザは司令室の中へと入っていった。
入っていいという声がかかるまで、は中へと入ることは出来ない。
それがもどかしくて、早く入りたくて、気持ちばかりが焦る。


「入っていいわよ」


「はーい!失礼しまーす!」


リザの声には嬉しそうに声を上げ、扉を開いた。
背中にたくさんの視線を浴びながら、は司令室の扉をくぐり──閉める。


「……?」


「はい、そうですよ」


驚きの視線を向けるロイに、はニッコリと微笑み頷いた。
けれど、目の前にいるの姿にいまだ驚くことをやめることが出来ない。


「そんなに喫驚するほどですか?」


「あ、ああ……いや……すまなかったな あまりにも刺激的な姿だったからね」


すぐさまいつものロイの表情に戻った。
はその様子に満足そうに微笑むと、ロイへと近づいていった。


「それでは、大佐 私はこれで失礼します」


ここから先は二人の時間とでも言うように、リザは司令室を後にした。
司令室から出たリザの目に留まったのは、の刺激的な格好に魅入られた男軍人の姿で、その事実に苦笑していた。


「マスタング大佐、トリックオアトリートです」


「ああ……そういえば、今日はハロウィンだったか……」


ふむ、と考えるように頷く。
はロイからどんな贈り物をもらえるのか、楽しみにしていた。
もちろん、もらえなかった場合のことも考えると、余計に楽しくなるのだけれど。


……これが、私から君への贈り物だ」


受け取ったのは、リボンのくくり付けられた鍵。
それを手に、は首をかしげた。


「……鍵、ですよね?」


「ああ、鍵だ 私の家の、な」


「っ!!」


ロイの紡がれた言葉には目を見開いた。
そしてその鍵を大事そうに握り締める。


「あの家を出て一緒に住もう、


「……はいっ!」


これを勝るプレゼントは、きっとないだろう。
ロイの言葉に、は嬉しそうに声を上げロイに抱きついた。









トリックオアトリート。
それは、まるで愛を確かめ合う魔法の言葉のようでもあった。










.............end




ちょっとワケ有り主人公とロイの夢って感じで……恋人同士がハロウィンやったら愛を確かめ合う言葉にもなりそうだなと思ったので。
というか、この話を書いててそう思ったからそういうタイトルにしたというかなんというか……あはは;

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