思ってもいなかった












「何故、黙っていた!?」


ロイの大きな叫び声、怒声に黒い長髪の少女がビクリと肩を揺らした。
潤んだ瞳で、ロイを見つめるがロイは怒りが収まっていなかった。

少女の名は、
何故か鋼の錬金術師という本の中へと入ってしまった、ハガレンファンの少女だった。


「ごめ…んなさい」


びくびく、と肩を震わせながら怒声を上げるロイに謝る
今にもボロボロと涙が零れてきそうな程に、涙を瞳に溜めていた。


「大佐 いくらなんでも大人げないですよ」


「くそっ」


リザのそのフォローにより、ロイは行き場の失いつつある少しの怒りをもてあまし。
ドカッ、と椅子に腰掛けた。


「何故、ヒューズが死ぬことを黙っていた…
 知っていたのなら、防げたかもしれないと言うのに」


その言葉には息をのんだ。
ロイに死んでほしくなくて、黙っていた真実。
一人で、何とか出来ると思い言わなかった真実。

けれど、結局はヒューズを助ける事は出来なかった。
否、それ以上の痛手を負ったのだ。


「それに…私に話していてくれれば、が怪我をする事だって」


呟きながら、ロイは静かにの右肩を見つめた。
大きめの服を着ているとしても、出血を抑えるために施したものは分厚く。
包帯を巻いている右肩から胸に掛けて、左側よりもふっくらと膨らんでいた。

怪我をしている証拠が、見てわかるように。



何故、私に相談してくれなかった…?
私はそれほどまでに…頼りないというのかっ



ロイは唇をかみしめた。
頼られない事が、頼ってもらえない事がとても苦しかった。


「ごめんなさい…ごめん、なさい…
 私…私…何とか出来ると思った…」


ぎゅっ、と軽く握りしめていた両手に力が籠った。
手に入った力は上へ上へと伝わり、痛む右肩にも力が籠る。

息を飲みながらも痛みに耐え、口を開いた。


「知ってるから…いきさつを
 嫌いな話だったから…ちゃんと覚えてた
 だから、きっと大丈夫だと思ったの 私が話をすれば、きっと信じてくれる…
 きっと私は……ヒューズさんを助けられるって」


下を向いた瞬間、ずっと溜まっていた瞳から涙がこぼれおちた。
悲しみの泉が溢れ出すかのように、止まる事なくボロボロと。



それは私の思いすごしだった
結局は笑って切り捨てられた 誰も、信じてはくれない
ヒューズさんの周りを守るように護衛を、と言っても誰も信じてくれなかった

だから、私は私一人でヒューズさんを助けようと ロイさんまでも巻き込みたくなかったから



自惚れた考えが、悲劇を招いた。
自惚れた考えが、更なる痛みを生んだ。


「けど…無理だった
 いざとなると…足が竦んで…目の前、で…血が…血、が…音が…響………て…」


は自身の両手で自分の身体を抱きしめた。
カタカタと震える身体を必死に止めようと。


「『逃げて』って声が出ると思った瞬間……ヒューズさん、撃たれてて…もう、遅くて…
 『どうして助けてくれなかったんだ』って…目が…目が…
 逃げたいのに逃げられなかった…死にたくないのに、勝手に…死に向かっ…て…」


ボロボロと、涙は止まらない。
溢れる涙で視界も定まらず、身体を抱きしめる両手で今度は自身の顔を覆った。



どうして私、助けられなかったの?
どうして『逃げて』って言わなかったの?
私しか…居なかった あそこで助けられるのは私しか…
私がしっかりしなくちゃ……いけなかったのに…出来なかった
目の前で…私の所為、で…死んでいって…
助けたいって…助けようって…助ける、って思った……のに…

思ったの………に……
私は………私、は……私っ私っ……



ゆっくりと、顔を覆う両手の力が抜けた。
ゆっくりと涙を流す顔が現れ、両手は力なく項垂れた。
焦点の定まらない、生きているのに死んでいる状態の瞳。


「…?」


ちゃん?」


その様子に、異変を感じたロイとリザはの名前を呼んだ。
しかし、その声にはぴくりとも反応を示すことはなかった。

カツン、カツン

近づく足音の向う先は、リザの方。
何事かと、ロイもリザも構えた。
けれど、相手は
何が出来ると言うのか、と安堵する部分も正直あった。

だから生まれた、隙。


「あ!ちゃんっ!?」


一瞬の隙をついて、はリザの銃を奪っていた。
軍人でもない一般人のには、重い…重みのある銃。


「私は…格好付けてただけだったんだね
 助けるってかっこつけて…結局助けられなかったのは、自分が死にたくなかったから 生きたかったから
 だから、目の前にある助けられる命も見捨てた 私は…醜い、人間の皮をかぶった……化け物、だっ!!」


叫び終わるのと同時に、は銃口を自身の米神に押し付けた。
ぎゅっ、と目をつむり死に痛みに苦しみに耐えるように意気込み、引き金を触る人差し指に力を込めた。


!駄目だっ」


ちゃん!!」


バアアアアアアアンッ…!!!!

聞こえたのは銃声。
けれど、赤い血は滴り落ちては来なかった。
代わりに、パラパラと天井から掛けた破片が落ちてくる。


「ど…うし、て…」


を抱きしめるのは、さっきまで椅子に座っていたロイ。
銃を持つ手を上に上げたのは、銃を奪われたリザ。

の手から、ガシャンと銃がこぼれ落ちた。
それをリザは広い、自身のフォルダーに納め。
ロイはいまだから離れようとはしなかった。



どうして…助けるの?
助けるべきじゃない人間なのに…化け物…なのに…
醜い…醜い化け物、なのに…どうし、て……どうして…どうしてっ



抱き締めるロイの腕をは掴んだ。
そして、勢いよく振り払うと涙で濡れた瞳で睨みつけた。


「どうして死なせてくれないの!?
 私は生きててもどうしようもない人間なのにっ!生きてちゃいけない人間なのに!
 私は…私は人殺しなんだよ!?殺人犯なんだよ!?
 死なせてよ!死なせて!…死なせ、てよ…死なせてよぉ…」


膝に力が入らなくなった
泣きじゃくりながらも呟き、ペタンと床に座り込んでしまった。
わんわん、とひたすら涙ばかりが流れていく。

一度溢れた思いは、涙は止まる事はなく溢れ流いずる。


「死なせたくない 私は、を失いたくない」


「嘘 大切な親友を殺した私を許しはしないくせに!」


「馬鹿を言うな!親友よりも、私には大切なものがある!」


その言葉には顔を上げた。
涙で視界はゆがみ、前がきちんと見えない。
けれど、何となくぼやけたロイの輪郭が見える。

結構間近に。


「んっ!?んむむむむ……まっ…んんっ!」


瞬間的に唇に押し当てられた柔らかい感触。
顔に熱が籠る感じがし、はロイに『待って』と言おうとした。
けれど、口を開いた瞬間滑り込んできたのは舌だった。

生暖かい、けれど生きていると実感できるもの。


「んっ…ん、あ……んっん、…っは」


離れた口から伸びる液。
ロイとを繋ぐ糸。

とろん、ととろけた瞳をロイに向けポケーっとする


「確かに、ヒューズは私の大切な友だった
 だが、私にだってそれ以上に大切と思うものはある」


「…大総統になる、目的?」


その言葉にロイは笑い、にデコピンをした。
その年でする事か、と突っ込みを入れようかと思っただったが結局突っ込みは入れず。


だよ」


「…………へ?」


まるで夢だと思う、そんな言葉。
願望が幻に言わせているのかと、思いたい言葉。

けれど、これは現実。夢ではないのは分っていた事。
だからこそ素っ頓狂な声を、は上げてしまったのだ。


「だから、言ったのだ 何故黙っていた、と
 知っていれば、私がを助けられた もしかすれば、今回の様な事にもの知るような事にもならなかったかもしれない」


その言葉に、は顔を真っ赤にさせた。
信じられないと言わんばかりに、両手で口元を覆う。

けれど、紡がれた言葉は真実。
ロイの本当の想いだった。



嘘じゃない?
夢じゃない?
これは…現実?
幻なんかじゃ…ない、よね?



確かめるように、ロイの顔へと手を伸ばした。
触る感触は肌の感触。
人の体温、人の触り心地。


「私も…私も、ロイさんが好き 好き…大好き」


そう言うのと同時に、はロイに抱きついた。
ぎゅ、と抱きしめるように。

幻じゃないと、夢じゃないと確信するように。
そのぬくもりを確かめるように………

















................end






また濃厚キスシーンがっ…(笑)
ということで、二十万HIT謝礼フリー夢小説です!

しかし…もしも、ヒューズの死を知りロイが好きだとしたら…こんな行動取るかなーという妄想から出来ました、コレ。(苦笑)
とりあえず、知ってるって事で現代トリップを題材に書いたのですが…なんだか連載も書けそうな予感。(笑)
多分書かないとは思いますけどね?
やっぱり人の死は、悲しいものだと書いてて思いました。
あのシーンは何度読んでも、何度思い出しても悲しくて辛く思います。(T T)

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