「ご主人!!!」
一匹の白黒の毛並みの犬が声を上げた。
パァァァァッと光を放った瞬間、白黒のロングヘアの姿へと変身した。
「…………。早…く、逃げ……なさ……っ」
そう言いながら、かすむ視線で家の出口を指差した。
「ご主人!!ヤだっ!!ヤだよ!!!!私絶対逃げない!ご主人置いて逃げたりしないもん!!」
そう叫ぶと、刃物を手に持ちを見つめる男と対峙した。
グルルルル、と犬独特の喉の鳴らし方をし、男をにらみつけた。
「この…化け物!!お前が居るからっ……桜はっ……お前が洗脳したんだ!!」
桜と呼ばれたの飼い主はハァハァと荒い息をしながら、胸から流れる血を両手で押さえていた。
「……瑛……次……え……いじ。ちが……わ。」
桜は掠れる声、そして生き絶え絶えな口調で呟いた。
それは違う、と。
しかし男──瑛次と呼ばれた男は首を左右に振った。
「姉さんはっ…に…その化け物に操られてるだけだ!!オレが……オレが…開放してやる。」
そう言いながら刃物をに向け歩き出した。
「やめ……て……、に……手……さない……でっ…」
桜は懸命に声を上げるが、瑛次には届かない。
瞳からは涙があふれ出てきていた。
「その化け物を…殺せば……姉さんはっ……!!!」
を殺し……ても、何もならない……わっ!!」
最後の力と言わんばかりの声量で、桜は叫んだ。
その瞳からはブワッと涙があふれ出ていて。
「姉さんがそんなこと言うはずがない!!」
そういうと、瑛次はに向かってナイフを持ったまま駆け出した。
グサッ!!!!!
鈍い振動がを襲った。
一瞬フラッと揺れただが、すぐに踏ん張り立ち止まった。
「………ど…こ?」
そのとき、桜の声が聞こえた。
「ご主人!!」
ハッとした顔をして、胸にナイフを差したままは桜に駆け寄った。
走れば痛みが胸を襲い。
ナイフを抜かずに居るため、傷は癒える事はなく。
「ああ…見え、ない………貴方の手で………私を……楽……してっ……」
「桜!!」
呟く桜の言葉に驚愕の表情を浮かべる瑛次。
はただ無言のまま、桜から視線を外すしかなかった。
そして……コトッと、桜の手は地面へとゆっくりと落下した。
桜の身体は温かく、寝ているかのようだった。
しかし、息をしていなく、それは桜の死を感じさせた。
「……ご…主人。……………。」
そう呟くと、の瞳から涙があふれ出てきた。
桜をギュッと抱きしめ─────
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そう叫び、は力を爆発させた。
光が家を包み込み、の胸から流れる血が桜に降りかかり、徐々に桜の身体に付いている傷が癒えていった。
しかし、失った命の灯火までは癒える事はなく───。
このときは始めて知った。
情を寄せている相手の傷口に自分の血を付ければ、傷が回復すると。
そして、死ぬ前に……それをすれば瀕死の状態の相手を復活させることが出来ると。












時ヲ切リ裂ク雷ノ……… 第2話














「いやぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
っ!?」
!!」
夢の中で叫んだ
しかし、現実でもは夢にうなされ叫んでいた。
エドワードとアルフォンスは急いで起き上がり、床で寝ているに駆け寄った。
「…エ、ド…?アル……?」
そう呟きながらも、は犬の姿のまま震えていた。
「どうかしたのか?」
「…なんでもないわ。……今、何時?」
はエドワードの問いかけに首を左右に振るい。
顔を───視線を上げて問いかけた。
「そんなに…時間は経ってないぜ?えーっと……」
「午前四時三七分だよ?」
呟き答え、時計に視線を向け答えようとした瞬間。
アルフォンスの声がエドワードの声をさえぎり、時間を継げた。
「……ありがと。おやすみ。」
それ以上何も言わず、まるで逃げるようには瞳を閉じた。
それ以上エドワードもアルフォンスも聞いちゃいけないと思い、何も問いかけず───
「…オレも寝るな。」
「うん。」
そう呟き、エドワードはベッドに滑り込み布団をかぶった。
アルフォンスはソファーに座り、眠れぬ身体のまま夜があけるのを待っていた。
瑛次の言うとおり………私たちワイルドハーフは……化け物なのかもしれない。
そう内心呟きながら、昔の夢から視線を外した。













がばっ!!!
「はっ…はっ……はっはっ………」
勢いよく起き上がり、荒い息をするエドワード。
アルフォンスは丁度部屋を出ているようで、エドワードとしかいなかった。
「…エド?」
エドワードの様子が変わったことが、分かったは起き上がり問いかけた。
人の姿になり、抱きしめて落ち着かせてあげたい。
そう思っているだったが、話してはあるものの、いきなり変身したらやはり驚くだろう。
それに、今のは情を寄せ合う相手が居なくて、人の姿に変身することができないのだ。
「……痛え……。」
ギシッ左足の機械鎧をギシッと音を立てて、エドワードは左ひざを抱え込んだ。
「………。」
はただ、何も言わずに見つめることしか出来なかった。









「〜〜〜〜〜〜……。」
司令部の一室の扉の前。
エドワードとアルフォンスは佇み、扉を睨みつけ口をへの字に曲げていた。
もただ二人の隣に座り込み、下から見上げる視線で扉を見つめ。
ここに来る前に言っていた、頼りになる“ロイ・マスタング大佐”という人と“リザ・ホークアイ中尉”という人。
それから“ジャン・ハボック少尉”に“ヴァトー・ファルマン准尉”に“ケイン・フュリー曹長”に“ハイマンス・ブレダ少尉”に“マース・ヒューズ中佐”に“アレックス・ルイ・アームストロング少佐”という人をは思い出していた。
そんなの内心を知るはずのないエドワードとアルフォンス。
エドワードは少し悩んだうち、くるっと踵を返して去ろうとした。
その時────
「エドワード君!」
ビクッ!!
金髪を後ろで束ねている軍服を着た女性に声を掛けられ、エドワードは肩を揺らした。
「あ…ホークアイ中尉。」
そう呟き、顔のみ扉の方へ向けた。
は首をかしげ──アルフォンスが小さな声で“この人がリザ・ホークアイ中尉だよ”と言ってくれたおかげで、は誰だか理解することが出来た。
「どうしたの、こんな朝早くから。」
扉を開け、腕にコートを垂らしながらリザはエドワードに問いかけた。
その問いにエドワードは少しためらいながら問いかけた。
「あ…あのさ。タッカーと………ニーナはどうなるの?」
その問いかけにエドワードは唇をかみ締めたまま。
アルフォンスもただ無言のままリザを見つめていた。
「……。」
は静かにリザを見つめた。
そのリザの心の匂いは困惑したような…そんな匂いがした。
リザはキッと、まじめな表情を浮かべ───
「タッカー氏は資格剥奪の上、中央で裁判にかけられる予定だったけど。」
そこまで言うと、リザはスッとエドワードとアルフォンスを見つめた。
「二人とも死んだわ。」
その卑劣な言葉が二人に突き刺さった。
頭の中が真っ白になり、アルフォンスはただ何も言えず。
エドワードは目を見開き、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「正式に言えば“殺された”のよ。黙っていても、いつかあなた達も知る事になるだろうから教えておくわね。」
リザはそうハッキリと呟いた。
それは十五歳と十四歳の二人には酷な内容だった。
もギリッと奥歯をかみ締めた。
「そんな…なんで…誰に!!!」
エドワードはそう叫びながら去ろうとするリザの後を追いかけた。
リザの持つコートを掴もうと手を伸ばすが、それは叶わず。
「分からないわ。私もこれから現場へ行くところなのよ、エドワード君。」
「オレも連れてってよ!」
「駄目よ。」
「どうして!」
エドワードの問いにリザは冷静に答えた。
誰が殺したのか知らない、だからこれから調べに行くのだ、と。
しかし、それでエドワードが下がるはずもなく。
コートを翻し、歩き出しているリザの後姿に声を掛けた。
しかし、そんなリザから帰ってくるのはNOのサインばかり。
必死に叫び、何故駄目なんだとリザに問いかけるエドワード。
その必死さを分かり、リザは立ち止まり振り返った。
「……。」
数秒の間を置き、リザはこう答えた。
「見ない方がいい。」
その言葉にアルフォンスもエドワードも、そしてもただ絶句するしかなかった。












「…エド……何処に行くつもり?」
目的もなく歩き出すエドワードを追いかけるアルフォンスと
犬の視線からエドワードを見上げ、問いかける
その問いにエドワードは答える気力はなかった。
ただ、無言のまま────到着したのは大通りにある時計台の下。
「……。ごめんね…少し、兄さんの好きなようにさせてあげて。」
エドワードの気持ちを分かっているのか、アルフォンスは静かににそう言った。
これを乗り越えなければ先へ進めないのはエドワードもアルフォンスも分かっていたことだった。
「……分かったわ。」
そう返事を返し、はエドワードとアルフォンスの隣に伏せた。
「兄さん。」
しばしの沈黙のうち、それをきり破ったのはアルフォンス。
「ん?ああ……なんだかもういっぱいいっぱいでさ。何から考えていいかわかんねーや。」
時計台に腰掛けながら地面を見つめながら呟くエドワード。
そんなエドワードの言葉をアルフォンスは静かに聴いていた。
も無言のまま。
「昨日の夜からオレ達の信じる錬金術って何だろう……ってずっと考えてた。」
「…“錬金術とは物質の内に存在する法則と流れを知り分解し再構築する事”」
エドワードの言葉に返事を返すように、アルフォンスがある本の一部を復唱するように呟いた。
それは、錬金術を学ぶのなら基本になる言葉だった。
錬金術師はこのことを“等価交換の原則”と呼ぶ。
「“この世界も法則に従って流れ循環している。人が死ぬのもその流れのうち。”“流れを受け入れろ”………師匠に…くどいくらい言われたっけな。」
グッと拳を握り、ポツリポツリとつぶやきだした。
それはかつて師匠の許で修行した時に教わったことだった。
「分かってるつもりだった。でも分かってなかったから……あの時……母さんをっ……そして今もどうにもならない事を、どうにか出来ないかと考えている。」
伏せていた瞳を開け、前を見据え。
膝の上に乗せていた腕を持ち上げ、膝を軽く持ち上げ。
ギュッと両腕を抱きしめるようにした。
も微かに視線を上げ、エドワードとアルフォンスを見つめた。
「オレは馬鹿だ……あのときから少しも成長しちゃいない。」
滴る雨も避けず、上を見上げた。
涙を流すような空を見つめ───
「外に出れば雨と一緒にさ……心の中のモヤモヤしたモノも少しは流れると思ったけど……顔に当たる一粒すらも今は…鬱陶しいや。」
眉間にシワを寄せ、何かを考えるような表情。
スッとアルフォンスが腕を上げ、手のひらを見つめた。
「でも…。」
小さくそう呟き、切り出した。
「肉体がないボクには雨が肌を打つ感覚も無い。それはやっぱり寂しいし…辛い。」
震える声で呟き、手のひらを見つめると、ギュッと握り締め。
「兄さん。ボクはやっぱり元の身体に……人間に戻りたい。たとえ、それが世の流れに逆らうどうにもならない事だとしても。」
今度はハッキリした口調で。
アルフォンスは握り締めた拳を膝の上に戻すと、視線を微かに斜め下にずらした。
「……全てに関して──諦めてしまったら、そこで全てはお仕舞いだよ。」
は二人が離し終わったのを確認すると、静かな口調で呟いた。
希望を捨ててしまえば楽かもしれない。
でも、それじゃ何の解決にもならない。
はそう言いたかった。
「それがたとえ無理な願いでも……願えばきっと叶う。私は…──そう信じたい。」
沈黙したままの二人を見つめ優しい口調で呟いた。
呟くを見つめていたエドワードとアルフォンス。
二人は一瞬が人間の姿に見えた気がした。
ニッコリと微笑む、人間の姿に。
「……。」
「…──………。」
しかし、二人はの言葉に何も答えなかった。
否、答えられなかった。
そうは分かっていても、身体を取り戻そうとすることは、錬金術最大の禁忌を犯すことになるかもしれないから。
「あ!いたいた。」
そう声を上げ、近寄ってきたのは黒い軍服を着た憲兵だった。
「エドワードさん!」
バシャバシャと雨のなか傘も差さずに憲兵は駆け出した。
黄色い服を着た男の横を通り過ぎざま、憲兵は“エドワード・エルリックさん!”と声を上げた。
「何?オレに用事?」
「至急本部に戻るように、との事です。」
エドワードの問いかけに、憲兵は用件を明確に伝えた。
少し前かがみになり、エドワードの瞳を見つめながら。
「実は連続殺人犯がこの……」
そう呟く憲兵の後ろに大きな男が立っていた。
額に十字の傷、そしてサングラス。
「エドワード・エルリック…………“鋼の錬金術師”!!」
ギロッとエドワードを睨みつけながら、男はそう声を上げた。
瞬間、エドワードとアルフォンス…そしての背中に悪寒が走った。
「額に傷の…!」
そう叫び、憲兵は急いで腰に装備していた拳銃を抜き放った。
「よせ!!」
「駄目!逃げて!!」
エドワードとの声が重なり合った。
外では声を発しないよう気をつけていただが。
このときばかりはそんな事を気にしている暇はなかった。
エドワードもアルフォンスもも気付いていただろう。
周辺に一般市民なども居ることを。
その瞬間、十字の傷の男が憲兵の顔に手を伸ばした。
ごばっ!!!!
バチバチと赤い光が放たれた瞬間、憲兵の頭から真っ赤な血が噴出した。
ズシャッと音を立てて憲兵は地面に倒れた。
すでに憲兵は事切れていた。
「……。」
「「「…───っ。」」」
静かにエドワードを睨みつける額に十字の傷の男。
その表情を見て、第六感がヤバイと伝えてくる。
それをエドワードもアルフォンスもも感じ取っていた。
しかし、そのヤバさ故に身動きが取れずに居る三人。
ドクンドクンと脈を打つのがよく分かった。
時間だけがゆっくりと流れていくような────
カキン……………………ゴーーーーーンッ!!!
時計台の時刻が九時を指したその瞬間、大きな鐘の音が鳴った。
それのおかげで我に帰ったエドワード。
「……っアル!!!逃げろ!!!!」
そう叫びながらエドワードは一目散に駆け出していた。
アルフォンスもすぐに反応し、駆け出し。
も二人の後を追うように駆け出した。
「…逃がさん!」
耳のいいにはそう呟く十字傷の男の言葉が聞こえた。
「ちくしょー何だってんだ!!人に恨み買うような事は………」
そこまで呟くと、ポツリと呟くように“いっぱいしてるけど…”と言葉を紡ぎ。
「命ねらわれるスジあいはねーぞ!!」
そう叫び、後ろを気にしながら駆け出していた。
もうすぐそこまで近寄ってきている、とは気付いていた。
だが、今はしゃべることは出来ない。
犬の姿のが話し出せば、周りに居る一般市民が驚くのは当たり前のことで。
下手をしたら化け物呼ばわり。
最悪合成獣、と思われるだろう。
「兄さんこっち!」
アルフォンスはキッと走る足にブレーキをかけ、家と家の間の路地へと駆け込んだ。
ヒョイヒョイっとエドワードとを手招きした。
「?」
眉を潜めエドワードはアルフォンスの言うとおり路地の中へと駆け込んだ。
駄目だ、と直感で分かっただが。
言う前にエドワードもアルフォンスも路地に入ってしまったため。
はギリッと奥歯をかみ締め───二人を追うように路地の中へと駆け込んだ。
「こんな路地に入ってどーするつもりなんだよ!?」
「いいからっ!ボクに任せて!」
エドワードは走りながら後ろに居るアルフォンスに声を掛ける。
しかし、アルフォンスはしゃがみ込み地面に練成陣を描いていた。
ガカッ!!
チョークで勢いよく練成陣を描き、青い練成反応を発しながらドンッと巨大な壁を練成した。
その壁は路地の入り口を高くまで埋め尽くしていた。
「これで追ってこれないだろ。」
「おお!」
パンパンっと手をはたき、壁を見上げ呟くアルフォンス。
その案に納得するように歓声を上げるエドワード。
「駄目!走って!!」
は奥へと向かおうと駆け出し、途中で立ち止まり。
後ろに佇む二人に声を掛けた。
もう、話さずにはいられない状態だった。
「何でだよ。これがあれば大丈………っ!?」
の言葉に苦笑しながら答え“大丈夫”と言おうとした瞬間。
目の前の壁の一部がズッと崩れかけた。
ゴンッ!!!!
それと同時に大きな音を立て、壁に大きな穴が開いた。
それは人一人が入れるような大きな穴。
その穴の先には十字傷の男が佇んでいた。
「でっ……でぇぇぇぇええぇぇぇ!?」
「うわぁぁぁぁああぁぁっ!?」
エドワードとアルフォンスは驚きの声を上げ、駆け出した。
しかし十字傷の男は無言のまま壁に手をあて───
ビキッ!!
それと同時に壁に亀裂が走り、エドワードとアルフォンスたちが逃げようとした先をガレキで塞いだ。
「冗談……だろ?」
そのガレキを目にし、青ざめるように呟いた。
後ろに近づくその影に…ギリッと歯を食いしばり。
「あんた何者だ。なんでオレたちを狙う?」
そう問いかけた。
相手の強さは気配で感づいていたエドワード。
そのエドワードの額からは冷や汗が流れ出ていた。
「貴様ら“創る者”が居るのであれば──“壊す者”も居ると言う事だ。」
ザッザッと足音を立てながら徐々にエドワードに近づき答える。
「「「……。」」」
無言のまま十字傷の男を見つめると、エドワードはパンッと両手を合わせた。
壁に伝って伸びているパイプに手を翳すと、それをタガーに練成した。
アルフォンスはスッと腰を低くし、手を前にだし戦闘態勢に。
はグルルルル、と喉を鳴らしながら、周りの様子を見つめていた。
それはマーキングするため。
「いい度胸だ…」
ニヤリと十字傷の男が笑みを浮かべた瞬間“いくぞ!!”と声を上げ、エドワードとアルフォンスが駆け出した。
もその後を追うように駆け出した。
援護をしよう、というつもりらしい。
「せいっ!!」
そう声を上げ、エドワードは持っていたタガーを振り上げた。
アルフォンスはエドワードの左側から十字傷の男に拳を喰らわせようとした。
も後ろから十字傷の男の足元──地面に蹴りを喰らわせた。
「だが遅い!!」
十字傷の男がそういった瞬間、アルフォンスの鎧がバキッ!!と音を立て。
腹の部分が破壊された。
その鎧の破壊された部分からは空洞が見えた。
鎧の中には誰も入っていないのだ。
「……!!」
「アル!!」
「アル!?」
ガクッとそのままアルフォンスは地面に倒れた。
エドワードとの声が重なり合い。
「野郎ォオオオォォォオオォォォォオオ!!!!」
そう叫び、エドワードはタガーを構え駆け出した。
「駄目!!エド、戻って!!」
しかし、頭に血が上っているエドワードにはの言葉は聞こえなかった。
「っ!……オォォオオオォォォオオォォオオォォォォ!!!」
チッと舌打ちし、は吠えた。
その瞬間、抉られた地面がイキナリ盛り上がり。
鋭い刃のように地面から盛り出し、十字傷の男を襲った。
「ちっ!」
舌打ちし、十字傷の男は横に避けた。
しかし、エドワードは立ち止まらず、そのまま男に突進して行った。
バシッ!!
振り上げようとしたエドワードの右腕を掴み“遅いと言っているだろう!”と声を張り上げた。
カッ………バチンッ!!!
しかし、憲兵を倒したときのようにエドワードの腕はなんともなかった。
それはエドワードの右腕が機械鎧だからだろう。
「!?………?」
一瞬驚きの表情を浮かべ、疑問の表情を浮かべた。
次の瞬間、エドワードは勢いよく立ち上がり、来ていたコートを脱ぎ捨てた。
その下からはいつも来ている長袖の黒服は着ていないためか、袖なしの黒服の右側からは鈍い光を放つ機械鎧があらわになった。
「…機械鎧。なるほど…“人体破壊”では壊せぬはずだな。」
そう呟き、右手をスッと上に持ちあげた。
「そこの犬は人語を話すようだが…合成獣とは違うようだし…」
そう呟き、に視線を向けるが、すぐに地面に倒れたまま。
否、起き上がれずに地面でもがくアルフォンスへと視線を向けた。
「あっちはあっちで、鎧を剥がしてから中身を破壊してやろうと思ったが……肝心の中身がない。変わった奴らよ……」
そう呟くと、徐々に視線はエドワードへと向けられた。
パンッと両手を合わせる姿が目に入った。
「おかげで余計な時間をくってしまったではないか。」
「てめえの予定につきあってやる程お人好しじゃないんだよ!」
そう呟くと、右腕の機械鎧に手を翳し、機械鎧の一部を甲剣へと練成した。
も体制を少し低くし、いつでも十字傷の男に飛びかかれるような体制になった。
「駄目だ…兄さん、。逃げたほうが……」
「馬鹿野郎!お前置いて逃げられっか!」
「そうだよ!アルを置いて逃げるなんて…私には出来ない!」
そう叫んだ。
近寄ってくる十字傷の男の姿が目に入り。
「っらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫び、甲剣を翳し、十字傷の男に切りかかろうとした。
何か考えどころがあるのか、十字傷の男は余裕だった。
「まずはこの…鬱陶しい右腕を破壊させてもらうぞ。」
そういった瞬間、赤い光が放たれ。
ピシっと音を立ててエドワードの機械鎧が破壊された。
「っ!!!!」
エドワードは驚きの表情を浮かべたまま、反動で後ろへのけぞり。
その場に膝を着いた。
「に……兄さん!!」
「エド!!」
地面を見つめるエドワードにアルフォンスとの声が届く。
ゴロゴロ…………ガッ!!
雷が落ち、大雨が降り。
十字傷の男はエドワードを見下ろしながら呟いた。
「神に祈る間をやろう。」
「あいにくだけど…祈りたい神様がいないんでね。」
そう呟くと、エドワードも十字傷の男も黙り込んだ。
そしてその沈黙を破ったのは、エドワードだった。
「…あんたが狙ってるのはオレだけか?弟……アルも…仲間の…も殺す気か?」
「邪魔する者があれば排除するが今、用があるのは鋼の錬金術師………貴様だけだ。」
エドワードの問いかけに、十字傷の男が静かに答えた。
は今でも飛び掛ろうとするが。
十字傷の男の目の前にはエドワードが居て。
うかつに動くことが出来なかった。
「そうか…じゃあ、約束しろ。弟と仲間には手を出さないと。」
「兄……」
「エド…っ」
「約束は守ろう。」
エドワードの言葉に驚き、アルフォンスとは声を上げようとしたが、十字傷の男の言葉にさえぎられた。
「何言ってるんだよ!」
「馬鹿なこと言わないで、エド!!逃げてよ!」
「立って逃げるんだよ!」
そんなエドワードの言葉がおかしいのはもアルフォンスも分かっていた。
アルフォンスがまず叫んだ。
それを聞き、もあとから叫び───。
逃げろ、と二人で叫んだ。
「やめろ……やめてくれ……」
そう声を上げるアルフォンス。
しかし、十字傷の男の手は止まらず、エドワードの頭部を掴もうとする。
「やめろぉぉぉおおおぉぉ!!」
「やめてぇぇぇええぇぇぇぇ!!」
アルフォンスとの叫びが重なり合った。
その瞬間────
カッ!!!
まぶしい光が放たれた。
その光が収まった瞬間、光の中心に立っていたのは。
犬の姿だったではなく、人の姿をしていただった。
「……変身…出来た。」
そう呟くの姿は犬の時と同じ毛並みで胸まで覆われた姿だった。
腰辺りからはフサフサな尻尾が生えていた。
は自分が変身できたことを確認すると、キッと十字傷の男をにらみつけた。
このとき、は分かっていた。
がエドワードとアルフォンスへの情が芽生えていたことに。
ダッと駆け出しは十字傷の男へと拳を繰り広げた。
「くっ!!」
その攻撃を十字傷の男は抑えた。
「よくも……アルを……そして…エドを殺そうとしたわね!!」
そう居ながら、は睨み続けた。
「やはり……変わった体質な奴…。」
そう呟くと十字傷の男はゴキッと指を鳴らした。
「絶対にアンタを許さない!」
そう言うと、ダッと駆け出す
それに反応するように十字傷の男もに向かって駆け出した。
「駄目だよ、!!」
「やめろぉ!!」
そんな二人を目にし、エドワードもアルフォンスもが変身したことへの驚きを忘れ叫んだ。
それは二人がを大切に思っているが故。
トンッ!!
が、十字傷の男の手がを捕らえる瞬間が地面を蹴り、上空へと跳んだ。
「!?」
「甘いわねっ!!」
一瞬驚き、しかしすぐにが上空へと向かったことを確認した十字傷の男。
「甘いのは貴様だ。」
の言葉に冷静に答え、スッと構える十字傷の男。
その男の向いている方向へと着地しようとした。
つまり、十字傷の男をとエドワードで挟む状態。
「それはどうかな!?」
の言葉を聞き、十字傷の男はに向かってエドワードに背を向け駆け出した。
それはエドワードの攻撃など目ではないというのだろうか。
!!」
!?」
しかし駆け出してくる十字傷の男を見ながらも、何の行動も取ろうとしないを見てエドワードとアルフォンスは疑問に思った。
そして十字傷の男がの許へ到着する直前に、二人は声をそろえて叫んだ。
“危ない”と。
しかし────
「何!?」
「…だから言ったでしょ?甘いのはアンタだって。」
驚く十字傷の男にギリッと奥歯をかみ締めながら力を振り絞り十字傷の男の腕を押さえる
その十字傷の男の腕を押さえているのは、の腕ではなかった。
そう、十字傷の男の腕を押さえていたのは────
「髪!?」
「どっ…どーゆう事!?」
の白と黒が混じっている長い髪が腕に絡みついていた。
十字傷の男の腕が動かないよう力強く引き寄せていた。
「私の髪は…情を寄せる相手に向かって伸びるのよ。後は…私の意志次第でこんな風に使えるの。」
そうはっきりした口調で呟く
それは十字傷の男を挟んでとエドワードとアルフォンスが立っているから出来ることだった。
はこの数日間二人と過ごしているうちに、情を寄せていたようだ。
いや、寄せ合っていたようだ。
「……ならばっ!!」
叫んだ瞬間、の髪を掴み、自らの方へと勢いよく引っ張る十字傷の男。
がグラリと前へバランスを崩した瞬間。
十字傷の男は地面を蹴り、へ向かって駆け出した。
「しまっ……」
!!」
「逃げろ!」
グラリとバランスを崩しながら呟く
アルフォンスはただ、の名前を叫ぶしか出来なくて。
に向かって駆け出す十字傷の男を追って、エドワードは地面を蹴った。
左腕しかない今、エドワードは戦うことなんてままならないのだが。
「無駄だ!」
体制を整えようとするに気付き、息を吐くように言い放つ。
そのとき────
ドンッ!!!
雨の振る中、銃声が響き渡った。
「……。」
「…っ!」
「…?」
「………っ。」
その銃声に反応し、無言でそちらへ視線を向ける十字傷の男。
その音に救われ、ハッとした表情を浮かべながら視線を後ろへ向けるエドワード。
アルフォンスは後ろに振り返れずただ眉にシワを寄せ。
は、自分が人の姿に変身している事を思い出し。
服も着ていないため、犬の肌があらわになっている。
「そこまでだ。」
はっきりした口調で呟くのはロイ。
軍服に身を包み、肩には“大佐”の紋章。
「危ないところだったな、鋼の。」
「大佐!こいつは…」
カツカツと足音を鳴らしながら前へ出てくるロイ。
エドワードとアルフォンスが話していた頼りになる人物の名前にもこの名前は記されていた。
「その男は一連の国家錬金術師殺しの容疑者……だったが、この状況から見て確実になったな。」
大通りに座り込みながらロイへ視線を向けるエドワードの言葉を耳にし。
ロイは車を背に十字傷の男とエドワード、そして路地の中で倒れるアルフォンスを見つめながら呟いた。
エドワードの近くに居るの存在にも気付いていたが、その存在を問い詰める余裕は今はなかった。
「タッカー低の殺害事件も貴様の犯行だな?」
「「「!」」」
ロイの信憑性のある、そして低い声にピクリと反応したエドワードとアルフォンスと
エドワードは即座に十字傷の男をキッとにらみつけた。
「…錬金術師とは元来あるべき姿の物を異形の物へと変性する者………」
そう言いながら、力なく降ろしていた右手をグッと開き。
「それすなわち、万物の創造主である神への冒とく…」
視線を少し下へと傾け、拳を握り締めてあごの辺りまで持ち上げた。
「我は神の代行者として、裁きをくだす者なり!」
「それが分からない。世の中に錬金術師は数多いるが……国家資格を持つ者ばかり狙うと言うのはどういう事だ?」
ロイは神妙な表情を浮かべ、十字傷の男を睨みつけ問いかけた。
それは確かに謎な事実だ。
「……どうあっても邪魔をすると言うのであれば、貴様も排除するのみだ。」
「…………おもしろい!」
十字傷の男の言葉に眉間にシワを寄せ、普段でも鋭い瞳を更に細めた。
持っていた拳銃を後ろに控えていたリザに放り投げ。
リザは上手くその拳銃を受け取った。
「マスタング大佐!」
「おまえ達は手を出すな。」
そう言いながら、渡された拳銃をロイに渡そうと駆け寄るリザに右手に赤い線で練成陣の描かれた発火布を着けながら言い放った。
「マスタング…国家錬金術師の?」
「いかにも!“焔の錬金術師”ロイ・マスタングだ!」
右手を持ち上げ、顔の近くで右手を十字傷の男に見せた。
「神の道に背きし者が裁きを受けに自ら出向いてくるとはっ……今日はなんとよき日よ!」
グッと両腕に力を込め、声を振り絞るように張り上げる十字傷の男。
ロイも勢いよく腕を前に出しながら、指をこすり合わせようとした。
「この私を焔の錬金術師と知ってなお戦いを挑むか!愚か者め!!」
十字傷の男はロイの言葉を聞いているのか聞いていないのか。
無言のまま手を前に出しロイへと駆け出した。
「大……」
ハッとした顔をし、ロイの方へと視線を向けるはリザ。
スッとしゃがみ込み、ロイへと足払いをかける。
上手くリザの足払いがロイの足を払い。
ロイはバランスを崩し、後ろへと倒れた。
「おうっ!?」
スレスレでロイの顔の真上を十字傷の男の手が通り過ぎた。
それと同時にリザは自分の拳銃とロイに預けられた拳銃を使い、十字傷の男へと銃弾を連発した。
ガガガガガンガン!!!
しかし、上手く全ての銃弾を十字傷の男は避けた。
「いっ…いきなり何をするんだ、君はっ!!」
「雨の日は無能なんですから、大佐は下がっててください!」
地面に座り込んだまま、リザの背を見つめ叫ぶロイ。
しかし、そんなロイにリザの冷たい一言が突き刺さる。
無能という字がガンッとロイの頭上に降り注ぐような感じに傍から見ていると見えた。
「あ、そうか。こう湿ってちゃ火花出せないよな。」
そう呟き、空から降ってくる雨を見つめて呟くのは金髪にタバコがトレードマークなハボックだった。
「わざわざ出向いてきた上、焔が出せぬとは好都合なことこの上ない。」
そう呟き、地面へと着地する十字傷の男。
ギリッと歯をかみ締めながら───
「国家錬金術師!そして…我が使命を邪魔するもの。この場の全員…滅ぼす!」
「やってみるがよい!」
十字傷の男の背後に立ち、拳を振り上げ登場したのは。
筋肉ムキムキな男……アレックス・ルイ・アームストロングの姿があった。
拳を振り下ろし───
がっ!!!
十字傷の男の背後の建物に拳がめり込んだ。
「む……新手か!」
避けながらも、そう判断しアームストロングから視線は離さずに居た。
「ふぅーむ。我輩の一撃をかわすとは…………やりおるな…やりおるな。」
そう言いながら、ボゴンッと拳を壁から抜き。
エドワードやハボックなどなど、その場に居る者から呆れた表情を送られていることに気付いているのかいないのか。
「国家に仇なす不届き者よ!この場の全員滅ぼす……と言ったが。」
そう呟くアームストロングの背後の破壊されつつある建物がベキッと傾き始めた。
リザは銃を構え、十字傷の男を睨みつけ。
そんなリザの背後にはまだ“無能”という言葉にショックを受けているロイの姿があった。
「笑止千万!ならばます、この我輩を倒してみせよ!!」
ゴガガガガ、と建物が崩れ始め。
「この“豪腕の錬金術師”…アレックス・ルイ・アームストロングをな!!」
グッと拳を握り締め、両手に着けている棘付きの手甲。
そこに彫られた練成陣を十字傷の男に見せるように掲げた。
「…今日はまったく次から次へと……」
そう言いながら、国家錬金術師が立ち並ぶ場所を見つめた。
「こちらから出向く手間が省けるというものだ。これも神の加護か!」
そう言いながら眉間に鋭くシワを寄せた。
「っ!?」
「…?」
一瞬匂った心の匂いには眉間にシワを寄せた。
それにいち早く気付いたのは近くに居たエドワード。
この匂い……復讐………。
「ふっふ……やはり引かぬか。ならばその勇気に敬意を表して見せてやろう!」
地面に落ちた建物だったモノを手にとり、上へと投げ上げた。
その破片は建物としては小さく、でも塊としては大きく。
「わがアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬金法を!!」
ゴッ……パッ!!
振って来た塊を右の拳で殴り。
その瞬間、塊は青い光──練成反応に包まれ変形した。
槍の先端部分のように再練成されたそれは、真っ直ぐ十字傷の男へと突き進んだ。
「だっ…駄目!!!」
には十字傷の男の気持ち──“復讐”が分かった。
だからこそ、止めるためにアームストロングの攻撃の前へと突き進んだ。
「「「「「「「なっ!?」」」」」」」
その思いもしないの行動に驚きの声を上げるエドワード、アルフォンス、ハボック、リザ、ロイ、アームストロング、十字傷の男。
!?何をしてる!?」
!!離れて!!」
「…?」
「………。」
そんなに声を上げるエドワードとアルフォンス。
の名前を叫ぶ二人の声に反応したのはロイだった。
タッカーの家へ向かう際に紹介された犬の名前もだったからだ。
そして十字傷の男は無言のままの背中を見つめていた。
「退くのだ!」
アームストロングの声にもは反応せず。
静かに十字傷の男へと視線を向けた。
「……何故…貴方の心はそんなに…悲しがっているの?」
「!?」
その言葉に驚きの表情を浮かべるのは十字傷の男。
しかし、そのことに気付いただが気にせず言葉を続けた。
「何故……復讐なんてしようと……貴方の心を駆り立てるのは何なの!?」
「貴様には関係ないことだ!ましてや今は敵!」
の必死な言葉は十字傷の男に届かなかったのか。
十字傷の男からは冷たい言葉しか返ってこなかった。
「敵だとしてもっ……気になるんだから仕方ないでしょ!?」
アームストロングが仕掛けた攻撃をは、握り締めた拳で殴り落とした。
「ならば勝手に気にしていろ。我には関係のないことだ!」
「そう…関係ない!でも……復讐なんて……何にもならない!」
「何故そう言い切れる!貴様に我の思いが分かるものかっ!」
十字傷の男はギリッと奥歯をかみ締めながら、冷たい言葉をに投げかけた。
投げかけられた言葉を耳にし、は一瞬寂しげな表情を浮かべた。
それは、今はなきご主人のことを……
そして、ご主人の弟のことを思い出していたのだ。
「分かる……復讐したいというアンタの気持ちは痛いほどよく分かる!だからっ……」
「だから、止めるというのか?」
はギュッと胸元で拳を作り、辛い気持ちを押し殺すように呟きだした。
今にも泣き出してしまいそうな表情で呟くの言葉は説得力があった。
しかし、十字傷の男からしたらそれはどうでもいいことだった。
「そう。だから止めるのよ。私のような…過ちは二度と見たくないから。」
その口調ははっきりしていて。
しかし、十字傷の男はフンッと鼻で笑うのみだった。
少しは十字傷の男に気持ちは伝わったかもしれない。
しかし、それだけでは十字傷の男の決意を揺らがせることは出来なかったのだ。
「戯れ言は終わりか?ならば……死ね!」
「っ!!」
十字傷に近寄っていたに避ける余地はなかった。
十字傷の男は“死ね”と呟くのと同時に右手をの方へと差し出した。
その手に体を掴まれれば、分解され殺される。
その場にいる誰もがそう思った。
だからこそ、アームストロングもロイも……エドワードも他の者達もピクッと身体を即座に反応させていた。
しかし、その反応は無意味なものに変わっていた。
「ウォオオオォォォッォォオオォォッォォォオオオオッォォォォオオオォォ!!」
の雄たけびがその場に響き渡った。
その声に反応するように、先ほどまでの十字傷の男との戦闘の時にマーキングしていた地面が壁のようにと十字傷の男の間に作られた。
「何だと!?」
そのことにはさすがの十字傷の男も驚いたのか、声を上げた。
しかし、壁なのは変わらず。
構成成分が分かるため、その壁はすぐに破壊された。
しかし、その一瞬の隙があれば、は遠くへ間合いを取ることが出来たのだった。
「隙あり!」
アームストロングがそう叫ぶのと同時に、右腕を地面へと振り下ろした。
練成陣の描かれた手甲により、地面から棘のようなモノが練成された。
十字傷の男は小さく舌打ちすると、手を棘のようなモノに触れさせ分解し破壊した。
「しょっ少佐!あんまり市街を破壊せんで下さいよ!」
ハボックはそう叫びながらも、十字傷に向けた銃口ははずさず。
エドワードは、そんなハボックの傍に立ち尽くし、唖然としていた。
はアームストロングの近く、でもそれより後ろに下がっていて。
「何を言うか!破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!破壊と創造は表裏一体!」
みしっと音を立てて、拳を上に振り上げた。
「壊して創る!これすなわち、大宇宙の法則なり!!」
グンッと胸を張りながら、はっきりした口調で言い切った。
そんなアームストロングを見つめながら、ハボックは“何故脱ぐ”と突っ込んでいた。
着ていた軍服の上着をいつの間にか脱ぎ捨てていたのだ。
そして、リザもハボックの隣で“というか…なんて無茶な錬金術…”と呆れ気味に呟いた。
「なに…同じ錬金術師ならば無茶とは思わんはずさ。」
そう言いながら十字傷の男を見つめ、こう呟いた。
「そうであろう?傷の男………スカーよ。」
その言葉に十字傷の男───傷の男と呼ばれたスカーがピクリと反応した。
静かに視線をアームストロングに向け、かすかに唇を噛んでいた。
「錬金術師……奴も錬金術師だと言いたいのか!?アームストロング少佐!」
「やっぱりな…錬金術の練成過程は大きく分けて“理解”“分解”“再構築”の三つだ。」
ロイの驚きの言葉を耳にしながらも、エドワードはそれを予想していたという口調で呟き出した。
静かに、そして鋭い視線でスカーを見つめながら。
「“理解”“分解”“再構築”??」
その言葉を聴きなれないが問いかけた。
「ああ。物質の構成成分を“理解”する。これが最初に言った“理解”に当たるんだ。」
その言葉を聴き、は視線を地面へと向けた。
そのとき思い出したのが、この平凡な地面から棘のようなモノが作り出されたことだった。
「つまり…さっき棘みたいなモノが作り出されたのは、この地面の構成成分を“理解”したから?」
「その通りだ。」
の問いかけに、静かに頷くエドワード。
そして、ロイが肯定するように小さく呟いた。
「で、その理解した構成成分を“分解”する。これが次の“分解”だ。そして…その分解した成分を“再構築”することで、全く別のモノが作り出される。」
「“分解”して、その成分で“再構築”したから地面から棘のようなモノが作り出された、と。」
エドワードの説明を理解したはそう呟き、地面を指差す。
エドワードは何も言わずに肯定するようにコクリと頷いた。
「つまり…奴は二番目の“分解”の過程で練成を止めているのか。」
「自分も錬金術師って……そしたら奴の言っていた神の道に自ら背いているじゃないですか!」
話が終わったところを見計らって、ロイが呟き始めた。
すると、先ほどスカーが言っていた事を思い出したハボックが神妙な表情で呟いた。
「ああ。しかも、決まって狙うのは国家資格を持つ者なのは……いったい………」
視線をスカーから外さず、ハボックの言葉に静かに答えるロイ。
そんな会話を繰り広げる中、アームストロングとスカーは戦闘を繰り広げていた。
はそんな会話を聞きながら、国家資格という言葉に一瞬眉を潜めた。
しかし、国家資格という事は、国家が認める何か───ということだろう、と解釈した。
「追い詰めたり!!」
そんな中、アームストロングの声が響き渡った。
その声に反応したのは、そこに居るもの全てだった。
特にリザが即座に反応していたことに、は気付いていた。
スカーの右手がアームストロングのわき腹を捉えた──と思った瞬間。
アームストロングはぎゅおっと音を立て、大振りの攻撃をストップさせ、間合いを取った。
その行動にスカーは一瞬驚き、即座に行動に移すのを忘れていた。
「!!」
しかし、そんなスカーの視線にリザが銃を構える姿を捕らえた。
ドンッ…ドンドンドンドン!!!
連発した銃弾がスカーを襲う。
スカーの米神のあたりを銃弾が擦ったのか、かけていたサングラスが地面へ落下した。
「やったか!?」
「速いですね。」
ロイはスカーを睨みつけながら、そう声を張り上げ。
銃弾を撃ち放った張本人であるリザは、その銃弾が致命的な傷をスカーに負わせていないことに気付いていた。
「一発…かすっただけです。」
そう呟くリザの言葉に驚き、視線を向きなおすロイ。
ザシッと足で踏ん張り、倒れるのを逃れたスカー。
サングラスはすでに地面に落下していて、スカーの瞳───赤い瞳があらわにされた。
「褐色の肌に赤目のっ…!!」
「………イシュヴァールの民か………!」
驚きを隠せないのは、アームストロングだけではなくロイも同じだった。
言葉には出さなかったが、エドワードもアルフォンスも、そして軍部の者達の表情も一瞬こわばった。
しかし、この世界の住人ではないには何が何だか分からなかった。
ただ分かるのは、スカーがエドたち国家錬金術師に復讐という感情を持っているという事だけ。
「…やはり、この人数を相手では分が悪い。」
そう言うと、グッと拳を握り締めた。
何をするというのか、という瞳ではスカーを見つめ。
ロイは右手をスッと顔の辺りまで上げると───
「おっと!この包囲から逃げられるとでも思っているのかね?」
そう呟くロイの言葉に耳も目もくれず、スカーは右腕を思い切り上に持ち上げた。
その右手を勢い良く地面へ叩き付けると、激しい音を立て地面に大きな穴が開いた。
その出来事に近くに寄っていた軍の者達は悲鳴を上げ、後ろへ下がった。
否、下がらざるを得なかった。
「あ…野郎!地下水道に!」
ハボックは拳銃を構えたまま、穴の開いたその場へ近寄り下を見つめた。
そこには地下水道が通っていて、ハボックは即座にそう判断した。
「追うんじゃないぞ。」
「追いませんよ、あんな危ない奴なんて。」
ロイはそんなハボックの方へ───穴の方へと近寄り呟いた。
そんな言葉に苦笑するような、ため息のような口調で返すハボック。
「すまないな。包囲するだけの時間をかせいでもらったというのに。」
「いえ。時間かせぎどころか……こちらが殺されぬようにするのが精一杯で……」
ロイは息を整えながらも、穴の中に視線を注いでいたアームストロングに声を掛けた。
それは、謝罪の言葉。
しかし、アームストロングはそんなことはどうでもよく。
時間稼ぎなどしている暇などなかった、と遠まわしに呟いていた。
しかし、それでも時間を稼いでもらっていたことには変わりはなかった。
「お?終わったのか?」
そう呟き、ヒョコッと物陰から姿を現したのは、一人の男性だった。
「ヒューズ中佐。今まで何処に。」
「物陰に隠れてた!」
アームストロングは、現れた男性をヒューズ中佐と呼んだ。
彼の名前はマース・ヒューズ中佐で、ロイの親友である存在。
そしてアームストロングの上司に当たる。
「ヒューズ中佐?」
アームストロングが呟いた名前に聞き覚えがあるのか、は名前を復唱した。
「あ、そうだ。には名前だけは話しておいたよな?」
「うん。」
「あの人がマース・ヒューズ中佐。頼りになる人だぜ?」
エドワードの言葉にコクリと頷き。
その後紡がれた言葉を耳にすると、視線をヒューズに移した。
「お前なぁ…援護とかしろよ!」
「うるせぇ!俺みたいな一般人をおまえらデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!」
胸を張り、隠れていたことを述べたヒューズに呆れ気味に言葉を返した。
すると、ヒューズは口をへの字に曲げて答えた。
ヒューズのデタラメ人間の万国ビックリショーという言葉に衝撃を受け、頭部に怒りマークを浮かばせながら“デタ……”と呟いていた。
「アルフォンス!!!」
そんな中、との会話をしていたエドワードがアルフォンスが破壊されたことを思い出し、声を張り上げ、駆け寄った。
しかし、アルフォンスは何の反応もせずに地面を睨みつけていた。
「アル!大丈夫か、おい!!」
何も言わずに地面を見つめるアルフォンスが心配になり、必死に声を掛けるエドワード。
はただ、そんな二人を傍から見ているしか出来なかった。
「…この……バカ兄!」
そう言うのと同時に、アルフォンスはまだ鎧に引っ付いている右手でエドワードの頬を殴った。
イキナリの出来事にエドワードはキョトンとした顔をし、も唖然としていた。
「なんでボクが逃げろって言ったときに逃げなかったんだよ!」
「だから、アルを置いて逃げるわけには……」
「だって、も居たんだよ!?」
「私だって、アルを置いて逃げるなんて……」
アルフォンスの言葉にエドワードもも同じ意見をぶつけた。
その言葉に、アルフォンスはプルプルと腕を震わせ───
ばちこーーーーん!!!!
「それがバカだって言うんだーーーーーーーーー!!!」
勢い良くエドワードを殴り、叫んだ。
それは心からの叫びで。
「なんで!?」
「オレだけ逃げたら、お前が殺されてたかもしれないだろ!?」
「殺されなかったかもしれないだろ!?」
バカだ、という発言にはどうして、と大きく問いかけ。
エドワードが力強く意見した。
しかし、アルフォンスはそれとは違う意見を述べ。
「生き延びる可能性があるのに、あえて死ぬほうを選ぶなんてバカのすることだ!!」
「ちょっ…アル、言いすぎだよ!」
だって……何で兄さんを連れて逃げなかったのさ!」
「だから、アルを置いては……」
「兄さんがバカみたいに突っ走るのはも分かってるだろ!?なら……なら、それを止めて逃げなきゃっ」
「だから、アルを置いては逃げられっ」
「兄貴にむかって、あんまりバカバカ言うなーーーーーーーー!!!」
アルフォンスは、死ぬ方を選んだエドワードが信じられず、そのことに怒っていたのだった。
怒りをエドワードにぶつけ、悲痛な声を上げた。
はそんなアルフォンスの言葉が言いすぎだ、と思いとめに入るが。
逆にアルフォンスに質問攻めにされた。
しかし、とてアルフォンスを置いて逃げることなんて考えられず。
そんな言い合いをしている中、エドワードの怒りの叫びが響いた。
ガシッ!!!
すると、アルフォンスは右手でエドワードの胸倉を掴んだ。
「何度でも言ってやるさ!」
その行動にエドワードは驚き、目を見開く。
「生きて生きて生き延びて、もっと錬金術を研究すれば………ボク達が元に戻る方法も……」
そこまで呟くと、一瞬視線をに向け───思い出すのはニーナの顔。
「ニーナみたいな不幸な子を救う方法も見つかるかもしれないじゃないか!」
すでに、アルフォンスの叫びは悲鳴のような悲痛なる叫びになっていた。
ニーナの悲劇を目の当たりにしていたエドワードもも同じようにつらそうな表情を浮かべ。
「それなのに、その可能性を投げ捨てて逃げるほうを選ぶなんて……そんなマネ、絶対に許さない!」
アルフォンスがそう叫んだのと同時に、エドワードの胸倉を掴んでいた右腕もベキャ、と音を立てもげた。
「ああっ!アルの右手がもげちゃったー!!」
そのことに即座に反応したのは、だった。
一瞬きょとんとした表情を浮かべていたエドワードだが。
“はは……”と空笑いを浮かべると。
「オレ達……ボロボロだな。カッコ悪いったらありゃしねぇな……」
地面に座り込んだまま、地面を見つめたエドワード。
アルフォンスは壁にもたれながらも、エドワードとを見つめた。
「でも生きてるよ。」
「うん。」
「ああ……生きてる。」
アルフォンスの明るい言葉には短く頷き。
エドワードもコクリと頷きながら、まるで生きていることを確認するような口調で述べた。
そんなエドワードに、リザは着ていた軍服の上着をかけた。
それはコートも脱ぎ捨て、袖なしの薄い服装で雨に打たれていたから。
「あの空の鎧が鋼の錬金術師の弟ですと?魂の練成など聞いたことがありませんぞ!」
アームストロングはエドワードとアルフォンスを見つめたまま呟いた。
それは、今の今までアルフォンスの事を鎧を来ている少年と思っていたから。
鎧の中にはきちんと肉体があると思い込んでいたから。
「おそらく…鋼のは命を投げ捨てる覚悟でアルフォンスの練成に挑んだのだろうな。だから…あの兄弟の絆は強い。」
ロイは二人を遠巻きに見つめながら呟いた。
それは、エドワードとアルフォンスの絆の強さを知っているから言える事だった。
兄であるエドワードは、弟であるアルフォンスを愛し。
弟であるアルフォンスは、兄であるエドワードを愛している、と。
「……どうやら彼らの方は一段落と言ったところ……か。彼女は置いて。」
ロイはため息をつくように呟き、エドワードとアルフォンスを見つめ。
その言葉に付け足すように力強い口調で呟き──エドワードとアルフォンスの傍に居るを見つめていた。
ロイはタッカーの家に行くときにエドワードに紹介された犬のの存在を思い出した。
同じ名前なのはただの偶然か、それとも………
「彼女が何者なのかは…後々聞くとして。こっちはまだ一段落とはいかねぇだろ。」
頭を描きながら、アームストロングとロイの元へと近づくヒューズ。
「やっかいな奴に狙われたもんだな。」
「イシュヴァールの民……か。」
ヒューズの言葉に、スカーの褐色の肌と赤目を思い出すロイ。
そして、あの悲劇を忘れんと言わんばかりの思い口調でその文字を述べた。




まだまだ荒れそうだな……──────













イシュヴァールの民はイシュヴァラを絶対唯一の神とする東部の一部族だった

宗教的価値観の違いから国側とはしばしば衝突を繰り返していたが

13年前、軍将校が誤ってイシュヴァールの子供を射殺してしまった事件を機に大規模な内乱へと爆発した

暴動は暴動をよび、いつしか内乱の火は東部全域へと広がった

7年にも及ぶ攻防の末、軍上層部から下された作戦は───────

国家錬金術師も投入してのイシュヴァール殲滅戦

戦場での実用性をためす意味合いもあったのだろう

多くの術師が人間兵器として繰り出された













「私もその一人だ。」
ロイは黒い立派な椅子に座り、大きな机の上に肘を乗せながら呟いた。
「だからイシュヴァールの生き残りであるあの男の復讐には正当性がある。」
ロイのその言葉を聴き、は感情的に叫んだ。
「でも、それは間違ってる!!」
その言葉に、ロイは勿論のこと、ヒューズやアームストロングやリザなどなど…
その場に居るものたちが反応し、を見つめた。
「復讐は……悲劇しか…そして…新たな復讐しか…生み出さないっ……」
唇をかみ締め、何かを思い出すような口調で呟く
そんなの言葉に答えられるものは誰一人としていなかった。
それは、復讐をしようとするものを作り出してしまっているのが戦争をしてきた自分達だから。
「くだらねぇ……関係ない人間も巻き込む復讐に正当性もくそもあるかよ。」
そういうとエドワードは瞑っていた瞳を開け、鋭い視線を真っ直ぐ前に向けた。
「醜い復讐心を“神の代行人”ってオブラートに包んで崇高ぶってるだけだ。」
「だが、錬金術を忌み嫌う者がその錬金術をもって復讐しようってんだ。なりふり構わん人間ってのは一番厄介で怖ぇぞ。」
椅子に腰掛けたまま、どこかを見つめながら呟くヒューズ。
ヒューズの呟く言葉は確かに事実であった。
「なりふり構っていられないのは我々も同じことだ。我々もまた…死ぬ訳にはいかないからな。」
ため息混じりに呟き、瞳を細めると。
ロイは視線を横へと流した。
「次に会った時は問答無用で……潰す。」
その言葉にその場に居る軍部の者達は力強く頷き、ロイを見つめた。
しかし、そんな戦争じみたことを好まぬエドワードとアルフォンスは、何もいう事も出来ず地面を見つめていた。
国家錬金術師になるときに、人間兵器となり戦争へ駆り出される覚悟を決めたのだが。
それでも、やはり戦争は好めるものではなかった。
「さて……話は変わるが。」
そう言ったのはヒューズだった。
「一体アンタは……何者なんだ?」
腰の辺りから尻尾が生えているを見つめ、ヒューズは問いかけた。
その言葉に、エドワードとアルフォンス以外のものはビクッと反応し、を警戒するような視線を向けた。
正体不明な人物、そして人間とも思えぬ姿に警戒するな、というほうが無理があるだろう。
「何者って……あ。」
言われた言葉に一瞬困惑し、思い出した。
今自分がどんな姿でいるか、という事を。
「人間ではあるまい?」
どうしよう、どうしようと困惑しているをよそに問いかけるロイ。
「たっ大佐。こいつは危ない奴じゃない!いい奴だし、味方だ!!」
ロイの問いかけにビクリと肩を揺らしたに気付いたエドワードが横から助け舟を出した。
「それを決めるのは鋼のではない。」
「だけどっ……」
「エドワード君、私達軍人としては……自らの目でそれを確かめなければならないこともあるのよ。」
「でもっ…」
ロイの冷たい言葉に、エドワードは必死に声を掛ける。
が、その言葉はリザの言葉によってさえぎられた。
ロイの言っている事もリザの言っていることも分かるし、間違っていないことも分かっている。
だからこそ、どうすることも出来ずに佇むしかない。
「……エド。この二人の言うとおりだよ……」
静かな口調で、それでも何とか納得させようとするエドワードに声を掛けた。
その言葉を耳にしエドワードは驚きの表情を浮かべるが。
本人がそう言うのだから、エドワード自身どうすることも出来なくなる。
「ロイ大佐の言うとおり…私は人間じゃない。」
ロイの先ほどの問いかけに、ははっきりした口調で答えた。
それは、ロイたち人間にとっては脅威とも思える存在に思われても仕方はないのだが。
「なら……一体何者だ?事と次第によれば…我々軍部は君を放っては置けまい。」
その言葉に、はグッと息を呑んだ。
遠まわしに言っているが、簡単に言ってしまえば敵に回る───という事だった。
「私は…ワイルドハーフという種類の犬よ。」
「ワイルドハーフ??」
の言葉に聞き覚えがないのか、ロイは首を傾げながら鸚鵡返しをした。
その言葉にはただ無言で頷き。
「ワイルドハーフという種犬は…今の私のような…人の姿に変身することが出来るの。」
「……人の…姿、に?という事は…犬の姿にもなれるという事かね?」
の言葉を聞き、即座に理解したロイ。
やはり若い年齢で大佐という地位まで上り詰めただけあるだろう。
ロイの言葉にコクリと頷き、“実際に犬になってみようか?”と問いかけた。
「…。」
ロイは何も言わず、ただ無言のままコクリと頷くだけだった。
すると、の体が光り輝き、次の瞬間光が消えた場所に立っていたのは、人の姿をしてではなく。
フサフサの毛並みの犬だった。
「これが……犬の姿の私。見覚えがあるよね?」
「「っ!!!」」
がイキナリ目の前で人の姿から犬の姿に戻ったことにも驚いた軍部の者達だが。
特に驚いていたのは、ロイとリザだった。
それは……
「エドワード君達と……タッカー氏の今後を聞きに来たときに一緒に居た……」
「タッカー氏の家に案内するときに……紹介された……」
リザとロイは同時にそう呟いた。
勿論、ハボックも一度は目にしているのだが…意識は薄れていたようだ。
「そう。私はすでにロイ大佐とリザ中尉と……ハボック少尉とは面識がある。」
「しかし……君のような…」
で結構だよ。」
の言葉に困惑しながらも言葉を続けるロイ。
しかし、ロイの言葉をさえぎり自分のことはでいい、と伝えた。
「分かった。しかしな、のような者がこの世に居るとは………」
「そういえば……話を聞いたときは何も思わなかったけど……」
ロイの言葉にエドワードは初めて疑問を感じた。
それはロイも同じだったのだろう。
「オレ達の世界に……のような種類の犬って……」
「居なかったはずだ。」
エドワードの言葉を紡ぐように、ロイが答えた。
その言葉を耳にし、その場に居た全員の視線がへと注がれた。
「っ…」
……お前は……一体…何処の住人なんだ?」
それは、この世界に存在するものだと認めていない言葉となり、口から出された。
「私、は………───」
そう呟くと、は意を決して息を呑み。
「───…私は、この世界の住人じゃ、ない。私は………異世界からやってきたの。」
その言葉を聴き、その場にいる全員が目を丸くした。
そしてはエドワードとアルフォンスに話したことと同じ事をまず、その場にいる全員に話しなおした。












「………という事。」
全てを話し終え、そう紡ぎ止めた。
「なるほど、な。……この世界に存在する動物……とは思えんな。」
「そうなると……やはり、の言っていた異世界の住人という話が…筋が通りますね。」
「しかし……」
ロイが短く言葉を紡ぎ、認めるような言葉を紡ぐ。
リザも同じ事を思っていたのか、そう呟くが、やはり信じられないという思いが強いらしく。
「異世界なんてすぐに信じられるわけがないわ……」
ロイが言おうとしていた言葉をが呟いた。
「逆に…すぐに信じるほうが……どうかと思うね。」
「…ははっ。異世界から来たと言っていた本人がそんな事を言ってどうするのだね。」
の言葉に苦笑を浮かべながら呟くのはロイ。
「良いだろう。」
「…は?」
イキナリの繋がらない言葉に、素っ頓狂な声を上げたのは他ならぬだった。
の言っている事を信じようじゃないか。」
「そうね。エドワード君が言っているように…危険人物じゃないみたいだし。」
「大佐がそー言うんじゃ信じるしかないッスね。」
「「「同じく!」」」
「ま…信じるしかないようだなー」
「そのようですな。」
ロイの言葉に賛成するような意見を述べていく軍部の者達。
その順応さに驚きを隠せない
そして、信じてくれたという喜びを胸にかみ締めるエドワードとアルフォンス。
「だが。」
そんな喜びの中、静かな口調で割って入ったのは、やはりロイ。
「全てを信じたわけではない。今後の君の行動などを見て……じっくり検討させてもらうとするよ。」
「そうしてもらったほうが…私も気が楽だよ。」
ロイの発言を聞き、苦笑をもらしながら安堵の息を吐き。
そんなの発言を耳にし、ロイもただクスクス笑うだけだった。
「さて。エルリック兄弟とはこれからどうする?」
「うん……」
ヒューズは腰に手を当て、椅子から立ち上がると。
棚か何かに腰掛けるエドワードと、地面に置かれているアルフォンス、そしてそのすぐ傍に立ち尽くしているに問いかけた。
その問いに、は視線をヒューズに向け、言葉を途切った。
「アルの鎧を直してやりたいんだけどさ……」
「エドがその腕じゃぁ…錬金術ってのも使えないもんね。」
エドワードは左手で頬を軽く掻きながら、ため息交じりに呟き。
コクコク頷きながら、エドワードの発言に同意権な
「我輩が直してやろうぞ?」
「遠慮します。」
ムキムキッと筋肉をアピールしつつ、アルフォンスに意見を述べるアームストロング。
しかし、その好意にアルフォンスはスッパリキッパリと遠慮するという皆を伝えた。
「アルの鎧と魂の定着方法を知ってるのはオレだけだから……まずはオレの腕を直さないと…」
「そーだね。」
アルを見ながら、ロイ達軍部の人たちを見つめ呟く。
そのエドワードの言葉を肯定するように、アルフォンスは横から相槌を打った。
「そうよねぇ…錬金術の使えないエドワード君なんて…」
リザは右手を口元、否あごの辺りに持ってくると。
エドワードを見つめながら、静かな口調で呟いた。
そのリザの言葉に賛同するように。
「ただの口の悪いガキっすね。」
「くそ生意気な豆だ!」
「無能だな 無 能 !」
ハボック、ヒューズ、ロイの順番にエドワードへの悪口大会みたいな形になり。
リザは背後でただ“うんうん”と頷くだけだった。
「ごめん、兄さん!フォロー出来ないよ!」
「私も何も言えないやっ」
そして唯一の頼み綱だったアルフォンスもも、エドワードに追い討ちをかけるようにそう呟いた。
「いっいじめだーーーーーー!!」
ガーン、とショックを受けた表情を浮かべながらそう叫び。
大きくため息をつくと、右肩を左手で抑えながら。
「しょーがねぇ…うちの整備師のところに行って来っか。」
そう呟くエドワードの言葉は、“出かけるから準備をさせろ”とロイに言っている感じだった。














To be continued......................









はふー……
時ヲ切リ裂ク雷ノ……… 第2話終了!!!
少し原作から離れたり、引き戻ったりしながら順調に進んでおりますっ♪
さて……次回はどんな展開になるのでしょうかっ(笑
やー……楽しみですなぁ〜vv
今度のヒロインは…一体最終話ではどーなってしまうのだろうかw
バッドエンドか、ハッピーエンドか……
悩みどころですね。
つ ま り まだ最終話は見立てられてないという事ですっ。
まぁ……振り回されまくって終わり、って感じでしょうけどね(笑
スレイヤーズのドリー夢もやってることなので……崩れないよう頑張ります。
同時にスレイヤーズと鋼の錬金術師のドリー夢が更新できれば、それが一番ですけどねぇ〜
多分、片方ずつ片方ずつの更新になるかと(何
という事で、次回のあとがきでお会いしましょう〜〜vv






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