「姉さんを殺したお前が……オレに何の用だ!?」
「……。」
声を上げるのは、助ける事の出来なかったのご主人の弟である瑛次だった。
悲鳴に近い声をあげ、を見やる。
しかし、はただ無言で瑛次を見つめていた。
その瞳は復讐の焔で満ちていた。
「姉さんを殺しただけじゃまだ足りないのか!?今度はオレを殺すつもりか!?」
ナイフを持つ瑛次の手が震える。
声も震えていて───
そんな瑛次を、は睨み付けた。
「憎い……ご主人を殺したアンタが……憎い!!」
「オレが殺したんじゃない!お前が……お前が姉さんを…桜を殺したんだ!!」
の悲痛なる叫びを全否定する瑛次。
首を激しく左右に振り、違う違うと連呼する。
しかし、実際には瑛次の持っていたナイフがご主人である桜に止めを刺したのだ。
はなす術もなく、死に逝く桜を見つめる事しか出来なかった。
「私じゃない!アンタのそのナイフがっ……そのナイフがご主人をっ!」
威嚇するように喉を鳴らし、歯を食いしばる。
今のには“復讐”という二文字しか脳裏にはなかった。
「違う!オレは…オレはただお前から開放してやろうとしただけだ!全てはお前が悪い!!」
しかし、瑛次は瑛次での事実を認めようとはしなかった。
「なら……悪者でも構わない。私は……私は……アンタに復讐する!」
「っ!?」
のその発言に、瑛次は驚きの表情を浮かべた。
その発言から連想出来る出来事はただ一つしかなかったから。
「私が怖いなら…そのナイフで刺せばいい。でも……私だってやられるだけじゃないっ。」
そう言葉を紡ぐと、静かに一歩ずつ前へと歩み始めた。
復讐への一歩一歩を、確実に。
そのの足取りに恐れをなし、瑛次はナイフをグッと掴み固定すると。
ダッ!!と駆け出した。
に向かって。
「うああああぁぁぁあああああああぁぁぁ!!!」
雄たけびを上げながら、ドスッ!!との胸にナイフが刺さる。
「くっ…。」
その勢いに、そして痛みにうめき声を上げる。
「なっ……何故立っていられる!?」
ナイフをの胸に刺したまま、から離れ。
立ち続けているに驚きの声を上げる瑛次。
「私は…ただの犬じゃない…私は…ただの人じゃない。」
そう言うと鋭い視線でキッと瑛次を見やった。
「今度は…私の…番。」
そういうと、はズボッとナイフを抜き。
カランカラン、と地面へと投げつけると。
グッと拳を握り締め、手を緩めた瞬間、鋭い爪を確認し───
瑛次をチラッと見ると。
次の瞬間、素早い動きで一瞬で瑛次には近寄った。
そして、瑛次をの鋭い爪が襲った────。














時ヲ切リ裂ク雷ノ……… 第3話
















「……。」
ブワッと涙を流すアームストロングの出現に、エドワードは呆れたような表情を浮かべた。
も何も言えず、ただ見ているだけで。
「聞いたぞエドワード・エルリック!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
勢い良く抱きつきながら叫ぶアームストロングにエドワードは驚きの…そして悲鳴を上げた。
「母親を生き返らせようとした、その無垢な愛!さらに、己の命を捨てる覚悟で弟の魂を練成した凄まじい愛!」
瞳からぼろぼろと涙を流しながら語るアームストロング。
そんなアームストロングを見て、はただ唖然とするだけだった。
「我輩感動!!」
「寄るな。」
抱き付こうと、両手を左右に広げエドワードに近寄るアームストロング。
そんなアームストロングの顔を左足で蹴り、近寄るのを止めた。
「ちょっエドっ!いくらなんでも足蹴りはっ!」
地位的には同じ位だとしても、年齢ではアームストロングの方が上。
はエドワードへ近寄りながら、そう声を掛ける。
「これも愛情表現の一種なのだよ〜〜。」
そういい、今度はに抱きつこうとするアームストロング。
「ひきゃぁぁぁ!セ・ク・ハ・ラぁ〜〜!」
そう声をあげ、アームストロングの抱擁からは逃げた。
その様子を見て、エドワードはハァッとため息をつき──
ふとロイへと視線を向けた。
その顔は、今にも怒りだしそうなくらい怒っていた。
「口が軽いんじゃねーか?大佐。」
「いや…あんな暑苦しいのに詰め寄られたら鋼のの過去を話さざるをえなくてね。」
ピクピクと米神を揺らしながら問いかけるエドワードに、ロイはダラダラと冷や汗を流しながら呟いた。
きっと、ロイは詰め寄られたときの事を思い出しているのだろう。
「と言う訳でだな、その義肢屋の所まで我輩が護衛を引き受けようではないか!」
「…はぁ!?」
「ちょっ…!?」
アームストロングのいきなりの言い出しに驚きの声を上げるのは、エドワードとだった。
「なに寝ぼけた事言ってんだよ!護衛なんていらねぇ!!」
「エドワード君。」
額に汗を掻きながらも、何とかアームストロング言い出しを断ろうとした。
が、リザの言葉でエドワードは視線をリザに向けた。
「いつ傷の男が襲ってくるか分からないのよ?その中を、その身体で移動しようと言うの?」
リザはそう言いながら、エドワードとアルフォンス、そしてを見つめた。
右腕の機械鎧がない今、エドワードが戦闘をするのは相当危ない目になるだろう。
きちんと戦闘出来るのはのみ。
だからこそ、リザは護衛をつける様にと言うのだ。
「奴に対抗できるだけの護衛をつけるのは当然でしょう?」
「それに、その身体じゃアルを運んでやることも、を守ってやることも出来ないだろ?」
リザの言葉の後に、ハボックがタバコをふかしながら呟いた。
それはエドワード自身も分かっていることだった。
「…だ、だったら…少佐じゃなくても!」
コートがずれ落ちないよう、左手で右肩のあたりを押さえつつ。
う…、と一歩後ろに引き下がりながら呟いた。
視線は当たり前のように、他の人に頼むような縋る瞳を回りに向ける。
「俺ぁ仕事が山積みだからなぁ…すぐに中央に帰らにゃならん。」
そう呟くのはヒューズ。
腕を組み、天井へと視線を向けながら言った。
「私が東方司令部を離れる訳にはいかないだろう。」
そう呟くロイは、瞳を閉じ呆れるような口調で。
「大佐のお守りが大変なのよ。すぐサボるから。」
そう言いながら、視線をエドワードに向け喋るリザ。
徐々にその視線は、エドワードからロイに向かっていたのは言わずとも分かること。
「あんなやばいのから守りきれる自信ないし。」
「以下同文!」
今度はハボック。
両手を肩の辺りまで持ち上げて、手のひらをエドワードに向ける。
そのハボックの言葉に同意するのはフュリー、ブレダ、ファルマンの三人だった。
「決まりだな!」
「勝手に決めんなよ!」
ばんっと音が立つほどの勢いでエドワードの頭に手を乗せるアームストロング。
その言葉に即座に反応し、講義の声を上げるエドワード。
「子供は大人の言う事を聞くものだぞ!」
「子供扱いするな!」
エドワードの方がアームストロングより身長が低いため、見上げていた。
アームストロングはスッと顔をエドワードと同じ視線にした。
そんなアームストロングの顔を怒りながら返事を返した。
「このっ……アルもも何か言ってやれ!!」
「兄さん!!ボク、この姿になって初めて子ども扱いされたよ!!」
エドワードの言葉と間逆に、アルフォンスはキラキラと瞳を輝かせ喜んで声を上げる。
そして、エドワードは最後の頼みの綱と言わんばかりにに視線を向けた。
「…私、人間じゃないし。」
のその言葉にエドワードはガビーンとショックを受けた。
「まだ駄々をこねると言うのなら命令違反という事で、軍法会議にかけるが?」
「うおお!!き、汚え!!」
「うむ。そうと決まれば早速荷造りだ。」
机に肘を掛け、両手の甲に顎を乗せながらロイは呟く。
その言葉に反応し、ロイを睨み付け叫ぶエドワード。
そんんあエドワードを余所に、アームストロングは顎に手を当て、キラキラと星を飛ばしながら言う。
はフッと犬の姿に戻り、アルフォンスと言えば……────
「荷物扱いの方が旅費より安いからな!」
腰に手を当て、箱に収納されたアルフォンスを見つめながらアームストロングはにこやかに言った。
この身体になってから初めて荷物扱いされた……。
なんてアルフォンスは内心呟いていたのは、アルフォンス自身としか知らないこと。
「エドワード・エルリックも早く仕度をしろ。ハンカチは持ったか?」
「子供扱いするなってばーーーーーーー!!」
そんな風にエドワードとアームストロングはやり取りを交わしながら─────















まったく……踏んだりけったりね……エドも可愛そう。
なんてエドワードの足元に座り込みながら片目を開け見上げ、内心呟く
すでに達は、汽車の中に居た。
コンコン。
「!」
汽車の窓を叩く音、そしてその手に気づき視線はそちらへ向かう。
そこに立っていたのは。
「ヒューズ中佐!」
「よ。司令部の奴ら、やっぱり忙しくて来れないってよ。変わりに俺が見送りだ。」
そう言いながら、腰に手を当て前かがみになる。
「そうそう。ロイから伝言を預かってきた。」
「「大佐から?」」
「ロイ大佐から?」
エドワード、アルフォンス、の三人は声をそろえて呟き眉をひそめた。
「“事後処理が面倒だから、私の管轄内で死ぬことは許さん”以上。」
「“了解。絶対てめーよりも先に死にませんクソ大佐”って伝えといて。」
ヒューズの口から紡がれた言葉に、は苦笑した。
そして、その言葉に返事を返すエドワードの言葉にも。
「“私もちゃんとエド達を守るから大丈夫”って伝えておいて頂戴。」
なんては苦笑をしながら、ヒューズに伝言を頼んだ。
「あっはっは!憎まれっ子、世にはばかるってな。」
なんてヒューズは苦笑しながら視線をとエドワードとを交差させる。
「おめーも、ロイの野郎も、長生きすんぜ!」
大きく笑いながら、そういうエドワードもロイと似てるな…という口調で言った。
ぼっ……
ピリリリリリリリリリ。
そう汽笛が鳴り響くと、ヒューズは右手を額に当てた。
「じゃ、道中気をつけてな。中央に寄る事があったら声かけろや。」
汽車の窓から見えるエドワード、、アームストロングにそう声を掛けた。
そして、汽車はゆっくりと発車し、ホームに佇むヒューズの姿は徐々に小さく見えなくなっていった。
「我輩、機械鎧の整備師とやらを見るのは初めてだ。」
「正確には外科医で義肢装具士で機械鎧調整師かな。昔からの馴染みで安くしてくれるし、いい仕事するよ。」
過ぎ行く背景を見ながら、アームストロングの言葉にエドワードは短く答えた。
昇り始めた日がエドワード達の乗る汽車を照らした。
「その整備師の居るリゼンブールとは、どんな所だ?」
「すっげー田舎。なんもないよ。」
「そーなの?」
アームストロングの些細な疑問。
その疑問にエドワードが答え、エドワードの故郷を知らないは気に掛かり問いかけた。
「ああ。東部の内乱の所為で……何もなくなっちゃったんだけどね。」
「…東部の内乱って……戦争とか?」
エドワードは頬杖をつき、外を見つめながらそう口ずさむ。
にとって内乱なんてものは知るはずもなく。
「うん。軍がもっとしっかりしてりゃ…にぎやかな町になってただろうなぁ〜」
「……耳が痛いな。」
エドワードの棘のある発言に、アームストロングはズーンと暗い顔をしながら呟いた。
「そりゃいい。もっと言ってやろうか。」
フンッと、不機嫌そうな、そんな表情を呟きながら言った。
そのやり取りにはハラハラドキドキで。
しかし、すぐにエドワードの表情は明るく変わる。
「…本当、静かなところでさ…何も無いけど、その分都会にはないものが沢山ある。」
ガタンガタンと汽車が揺れ、その揺れにエドワード達も揺さぶられながら空を見る。
「それが…オレ達兄弟の故郷リゼンブール。」
たとえ、内乱で滅茶苦茶になってしまったとしても、エドワードはそんなに気にはしていないようだった。
滅茶苦茶にされた所為で失ったものもあれば、滅茶苦茶にされた所為で得たものもあるから。
「……ところで、アルはちゃんとこの汽車に乗せてくれたんだろうな?」
「ふっふーぬかりは無いぞ。」
エドワードの睨みを利かした問いかけに、アームストロングは自信満々に答えた。
「それなら安心だね。」
その自信を普通に信じ、は言葉を漏らす。
しかし、疑問が湧かないのだろうか。
ちゃんと乗ったのなら、アルフォンスは一体どこに居るのか……と。
「1人じゃ寂しかろうと思ってな…家畜車両に乗せておいたぞ。」
「てめぇ!!オレの弟をなんだと思ってんだ!!」
「それは、いくらなんでも酷いよ!!」
アームストロングの好意にエドワードもも文句を言い放つ。
「何が不満なのだ!?広くて安くて賑やかで至れり尽くせりではないか!」
「ふざけんなー!!」
「こんな時に冗談はよして!」
エドワードとの発言にムッとした表情を浮かべ言い返す。
しかし、エドワードとの発言こそもっともだったのだ。
ついでに言うと、周りの迷惑なのだが。
その時、同じ汽車にある人物が乗っていると、このときエドワードももアームストロングも気づいていなかった。
















大分日が昇り始めた頃、ボッと音を立て煙が立ち始める汽車。
エドワードは大きなアクビをしながら、外を見ていた。
で、暇そうにうつろな目をして床に伏せっていた。
アームストロングは、本を手に取り読書をしていたが汽車の外を人が通った瞬間勢いよく立ち上がった。
そのいきなりの出来事に対応出来ずに居るエドワードとは当然の如く、驚きの声を上げた。
「ドクター・マルコー!!」
汽車の窓から身を乗り出し、外を歩く中年のおじさんに声をかける。
もちろん、エドワードとは眉をしかめ顔をあわせるしか出来ずに居た。
「ドクター・マルコーではありませんか!?中央のアレックス・ルイ・アームストロングであります!」
名前を叫ばれた時から、胸騒ぎがしているようなそんな表情を浮かべていたドクター・マルコーと呼ばれた中年おじさん。
“中央”と“アレックス・ルイ・アームストロング”という言葉を聞いた瞬間、驚愕の表情に変わった。
ダッとすぐに踵を返し、駆け出したのだ。
「あ…」
もちろん、汽車に乗っているアームストロングには不足の事態で追いかけることなどできずに居た。
「…知り合いか何か?」
「うむ…」
のそんな問いかけに、アームストロングは曖昧な声で答えた。
しかし、その回答から知り合いであるのは一目瞭然で。
だからと言って、ただの知り合いとは思えない出来事だった。
「中央の錬金術研究機関に居たかなりやり手の錬金術師だ。」
そう言いながら、ツーっと視線をエドワードに移した。
それに気づき、外を見ていたエドワードとはアームストロングに視線を移した。
「錬金術を医療に応用する研究に関わっていたのだが……あの内乱の後に行方不明になっていた。」
その言葉を聞いた瞬間、エドワードは何かピンと来るようなものを感じた。
それは、も同じことで………。
「エド。」
「ああ。降りよう!」
アームストロングからエドワードに視線を移し、は2音口から発した。
コクリと頷き、エドワードはトランクを手に持ち汽車から降りるために出口へと向かった。
「む?降りるのはリゼンブールという村ではなかったのか?」
「そういう研究をしてた人なら、生体練成について何か知ってるかもしれないだろ!」
「アルを降ろさなきゃ、エド!」
いきなりの動きに一瞬驚きの表情を浮かべるアームストロング。
しかし、エドワードは止まることなく説明しスタスタと汽車を降りドクター・マルコーが走り去っていった方へ駆け出そうとしていた。
それを制止したのがの言葉だった。
「ああ、そうだった。」
クルリと向かう向きを変え、家畜車両に向かう一行。
箱に収まっているアルフォンスを汽車から降ろすと。
「……アル、羊くさい…」
「好きで臭くなったんじゃないやい!!」
は犬であるため、人より鼻が利く。
そのうえ、ワイルドハーフゆえに鼻は普通の犬以上に聞くため、しかめっ面をしながら呟いた。
もちろん、アルフォンスとてそんな風に言われるのは嫌なわけで。














「あのっ。さっきここを通った………ええっと…」
町に入り、問いかけようとするが、名前が出てこない。
先ほど耳にしたドクター・マルコーで聞くという方法があるのだが、ここでは偽名を使っている可能性だってあるわけだ。
すると、アームストロングがスラスラと手早い手つきでイラストを手帳の一部に書き始めた。
「こういうご老人が通りませんでしたかな?」
「………少佐、絵…上手なんだね…」
見せたアームストロングの似顔絵を見つめながら、町の人は眉に皺を寄せる。
その間にエドワードが似顔絵を見て関心の声を漏らす。
「わがアームストロング家に代々伝わる、似顔絵術である!」
「……なんというか……アームストロング少佐って…凄すぎ。」
ごもっともで。
「ああ、マウロ先生!」
「知ってる知ってる。」
の声が発された直後、すぐに誰だか判明したのか町の人の声が上がった。
「マウロ?」
「この町は見ての通り皆ビンボーでさ…医者に掛かる金も無いけど…それでも先生はいいって言ってくれるんだ。」
町の人が発した名前に眉を潜める。
ドクター・マルコーと、やはり名乗っていなかったのか……と。
そして町の人はアームストロングの疑問の声に反応せずにマウロの自慢を始める。
人それぞれに“いい人だよ”と言ってくる。
それだけ町の人に信頼されている証拠だという事だ。
「絶対助からないって思った患者でもさ見捨てないで看てくれるんだ。」
マウロを町の誇りと言わんばかりに褒めちぎる。
それから、町の数人の人に話を聞いて回ったエドワード達。
その中で、気に掛かった話があった。
「…光、って言ってたね?」
「ああ……」
のその言葉に、エドワードは何か分かったように頷いた。
もちろんアームストロングも分かっていて……。
「…おそらく錬金術だ。」
そう言いながら、ある一角を見つめた。
その先にある家が、マウロと呼ばれるドクター・マルコーの住まう家。
「そうか。偽名を使ってこんな田舎に隠れ住んでいたのか。」
「でも、なんで逃げたの?」
アームストロングの言葉に、がそう問いかけた。
それはエドワードも不思議も思っていた事のようで。
「ドクターが行方不明になった時、極秘重要資料も共に消えたそうだ。ドクターが持ち逃げしたともっぱらの噂だった……」
そう言いながら、2人と1匹は石段を登り始めた。
「我々を機関の回し者と思ったのかもしれんな。」
「ここ…だな。」
アームストロングの自己完結のような、そんな言葉を呟いた次の瞬間、目の前に一見のコンクリートの家が現れた。
その家のドアの前に佇み、コンコンとノックをしたエドワード。
「こんにち……」
ギィ……、と音を立ててドアを空けた瞬間、目の前に現れたモノに驚きの表情を浮かべたエドワード。
「わ…、うお!!!」
目の前に現れたのは、1丁の拳銃だった。
エドワードは当たり前のように驚き、急いで避けた。
その瞬間、さっきまでエドワードが立っていた場所をドクター・マルコーの持っていた拳銃の銃弾が通過した。
「何しに来た!!」
ガタガタと震えながら、拳銃を構えエドワード達へと向ける。
その緊迫した言葉を聞き、エドワードとはただ黙るしかなかった。
「落ち着いてください、ドクター。」
「私を連れ戻しに来たと言うのか!?」
アームストロングがドクター・マルコーを落ち着かせようと試みる。
しかし、興奮した人を宥めさせるのはそう簡単な事ではない。
ドクター・マルコーは、アームストロングの言葉を聞いているのか聞いていないのか、声を上げるだけしかしなかった。
ただ、ペラペラと語り始めるだけ。
「もう、あそこには戻りたくないんだ!お願いだ!勘弁してくれ……!」
振るえて狙いの定まらない拳銃をアームストロングへ向ける。
「違います。話を聞いてくださ……」
「じゃぁ口封じに殺しに来たか!?」
「まずは、その拳銃を降ろし……」
「だまされんぞ!!」
2人の会話は全くかみ合っておらず、アームストロングの出だしの言葉を聞いただけでドクター・マルコーはなにやら言葉を想像し。
そして、声を張り上げ見当はずれの返事を返すだけだった。
そんな2人のやり取りをとエドワードは首を左右に動かしながら見つめるだけ。
「………。」
「エ、エド…どーするの?」
「し。黙って。解決すっから。」
「?」
ドクター・マルコーの最後の言葉を聞いた瞬間、今までのアームストロングの表情が変化した。
それにいち早く気づいたのはではなくエドワードだった。
心の匂いをかげるなら、簡単に解決できるのだが。
今は犬の姿。変な誤解をさせないよう、黙っていたのだ。
痺れを切らし、エドワードに問いかけるだが、そのエドワードから紡がれた言葉に首をかしげた。
「落ち着いてくださいと言っておるのです。」
そうドスの聞いた声で言いながら、箱に詰められたアルフォンスをドクター・マルコーに投げつけた。
「ああ、アル!」
「おい、アル!」
その行動に驚きを隠せないとエドワード。














「私は耐えられなかった……」
そう語るは、落ち着きを取り戻したドクター・マルコーだった。
場所は家の前から打って変わって、家の中。
マルコーの向かいの席にエドワードが座り、エドワードの右手にアームストロングが座り、アームストロングの右手にドクター・マルコーが座り、ドクター・マルコーの右手に箱に入ったアルフォンスが置かれた。
エドワードの足元にが伏せをした状態で座っていた。
「上からの命令とは言え…あんな物の研究に手を染め…そして、ソレが東部内乱の大量殺戮の道具に使われたのだ…」
テーブルの上に手を置きながら、深刻な話を呟き始めた。
「本当に…酷い戦いだった…。無関係な人が死にすぎた…」
そう言いながら、ドクター・マルコーは視線を下に下げた。
たちも何も言えず、ただ無言で居た。
「私のした事は、この命をもってしても償いきれない。」
その言葉を耳にし、はグルルと喉を鳴らした。
なら、何故そんな殺戮を…戦いをしたのか…それを問いたかった。
しかし、そんなことを今問う事は到底出来なかった。
そんな雰囲気ではなかった。
「それでも、出来る限りの事をと…ここで医者をしているのだ。」
唇を噛み締めながら、そう呟いた。
ドクター・マルコーはきちんと理解していた。
自分がどれだけおろかなことをしたのか、という事を。
「いったい貴方は…何を研究し何を盗み出し逃げたのですか?」
アームストロングの言葉に言葉が詰まるドクター・マルコー。
よりいっそう唇を噛み締め、額に手を当て下を見やる。
そしてゆっくりと口を割った。
「賢者の石を…作っていた。」
「「「「!」」」」
ドクター・マルコーの言葉に、3人と1匹は驚きの表情を浮かべる。
「私が持ち出したのは、その研究資料と石。」
「石を持っているのか!?」
「ああ。」
ドクター・マルコーの事実に声を荒げるエドワード。
「ここに…ある。」
そう言い取り出したのは小さなビンに入る真っ赤な液体。
3人と1匹の目が点となった。
「“石”って…これ、液体じゃ………ええ!?」
呟くエドワードの目の前でドクター・マルコーはゆっくりとビンを傾けた。
そのビンの中から零れ落ちる液体に驚きの声を上げるエドワード。
しかし、次の瞬間机の上に零れ落ちた液体は球体…石へと変化した。
「“哲学者の石”“天上の石”“大エリクシル”“赤きティンクトゥラ”“第五実体”」
ドクター・マルコーは液体から石へと変化したそれに驚くエドワード達を見ながら呟いた。
「賢者の石にいくつもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ。」
その言葉を聞き、エドワードとアルフォンス、そしては顔を見合わせた。
「だが、これはあくまでも試験的に作られた物。いつ限界が来て使用不可能になるか分からない不完全品に過ぎない。」
そう呟き、間を空けると。
「それでも、あの内乱の時、密かに使用され絶大な威力を発揮したよ。」
ドクター・マルコーの言葉を聞き、エドワードは思い出していた。
以前不完全品である賢者の石を持っていたコーネロの事を。
「不完全品とはいえ、人の手で作り出せるって事は……この先の研究次第では完全品も夢じゃないって事だよな。」
口元にうっすらと笑みを浮かべて呟いた。
やっと見つけた賢者の石への手がかり、それを逃すまいとするエドワードの姿があった。
「マルコーさん!その持ち出した資料を見せてくれないか!?」
「ええ!?」
「私からもっ…お願い!!」
バンッと机を叩き、勢いよく声を上げるエドワード。
その言葉にドクター・マルコーは驚きの声を上げるだけだった。
しかし、も床に座り込んだままドクター・マルコーを見つめて頼んだ。
その2人の様子を見て、特にを見て眉を潜めた。
「そんな物…どうしようと言うのかね。アームストロング少佐点この子達はいったい…」
2人の様子を見て、そうアームストロングに問いかけた。
自分では答えは出ないと思ったからであろう。
「国家錬金術師ですよ。それに…彼女はワイルドハーフという犬種だそうです。」
「…犬種?…変わった犬まで生み出したものだ………それに、こんな子供まで…」
アームストロングの言葉に即座に反応し、を見やる。
そして、その後エドワードを見て“国家錬金術師”という言葉に反応した。
額に手を当て、唇を噛み締めて。
「潤沢な研究費をはじめとする数々の特権につられて資格を取ったのだろうが…なんと愚かな事を!!」
「愚か?エドの事、アルの事何も知らないくせに!!!」
ドクター・マルコーの言葉にはそう声を上げた。
何も知らないのに、そんな事を言うな!そんな口調だった。
「あの内乱の後、人間兵器としての己のあり方に耐え切れず、資格を返上した術師が何人居た事か!!それなのに…君は…──……」
「バカなマネだとは分かってる!それでも……目的を果たすまでは針のムシロだろうが座り続けなきゃならないんだ……!」
ドクター・マルコーの言葉にグッと拳を握り締めた。
右肩をグッと掴み、力強く言い切った。
人間兵器という事に怯えていたら、何も出来ないから。













それから、今までのエドワード達のことを話した。
全ての始まりから──今までの事を。
「そうか…禁忌を…犯したのか。」
ドクター・マルコーがそう呟いた。
全ての出来事を理解した上での発言だ。
「驚いたよ。特定の人物の魂の練成に成功するとは…君ならば完全な賢者の石を作り出す事が出来るかもしれん。」
ドクター・マルコーは、そう言いながら、天井を見つめた。
何かを考えるように。
でも、何も考えていないような、考えているような…そんな感覚。
「じゃぁ………!!」
「資料を見せる事は出来ん!」
「そんな…!!」
「あんまりだよ!」
やった…!という表情で声を上げるエドワードだったが、即座にドクター・マルコーの否定の言葉に消し去られた。
その返事にエドワードとが声を上げるのは当たり前だろう。
あそこまで話したのだから。
作り出す事が出来るかもしれないと言ったのだから。
期待するのは当たり前だろう、普通のことだろう。
「話は終わりだ、帰ってくれ。元の身体に戻るだなどと…」
「それだけじゃない!」
「「?」」
ドクター・マルコーの言葉を遮り、エドワードが声を上げた。
それに眉を潜めるドクター・マルコーと
を……元の世界へ戻してやる目的もだ。」
「!」
エドワードの言葉を聞き、は目を見開いた。
エドワード達、自分の目的だけじゃなく自分の事も考えて居てくれたなんて嬉しい。そんな風に。
「それでも…それしきの事の為に石を欲してはいかん。」
「それしきの事だと!?」
「ドクターそれではあんまりな!」
ドクター・マルコーの言葉に勢いよく食いつくように声を上げた。
そして、アームストロングも声を上げた。
「あれは見ないほうがいいのだ…あれは悪魔の……研究だ……」
そう言いながら席を立ち、エドワード達に背を向けた。
「知ってしまえば地獄を見ることになる。」
「地獄なら既に見た!」
ギリッと音が立ちそうなくらい奥歯を噛み締め、エドワードはドクター・マルコーの言葉に返事を返す。
禁忌を犯したことで、既に地獄は見ている。
あれ以上の地獄などあるはずがない。
そう言わんばかりの口調だった。
その言葉に、その口調にドクター・マルコーは一瞬驚きの表情を浮かべた。
あんな子供が───そんな感じだった。
「……駄目だ。」
エドワードの言葉を聞きながらも、首を縦には振らなかった。
決して“分かった”とは言わなかった。
振り向きながらエドワードを見ていた視線さえも、エドワードから逸らしハッキリと言い放った。
帰ってくれ、と。
エドワード達も、もう何もいう事は出来ず、しぶしぶドクター・マルコーの家を出る事となった。
立ち上がり、ドアへと足を向ける。
その際、は立ち止まった。
立ち止まり、ドクター・マルコーを見つめ、エドワードの思いを想像した。
すると、胸がギュッと締め付けられ───パァァァァと明るい光を放ち、それが消えた瞬間そこに立っていたのは人型のだった。
「……!」
それに驚いたのはドクター・マルコーだった。
エドワードもアルフォンスもアームストロングも、既にの人型の姿は見ていたから。
「…エド、アル、アームストロング少佐。先に…外に出て待ってて…?」
その言葉に3人は無言のまま頷くだけだった。
「……?」
その様子を見て、ドクター・マルコーは首を傾げるだけだった。
パタンと音を立てて、ドアが閉まったことを確認すると口を開いた。
「人型の姿を見るのは…初めて…かな。」
「そうなるな。」
「私は…他の世界からやってきたと言うのだけど…何故…エドに賢者の石の製造方法を教えてくれないの?」
は一度間を取ると、そう問いかけた。
それは話を聞いててずっと思っていた事。
「あれは……あまりにも残酷すぎる。」
「…残酷、すぎる?」
問われた内容に、静かに答えたドクター・マルコー。
しかし、残酷という事が理解できず首を傾げて鸚鵡返しをするしか出来なかった。
「もう…帰ってくれ。これ以上話すことはない。」
「でもっ!!!」
「頼む!!!」
帰れという言葉に、まだ引こうとしない
そんなに力強い声で3音を発するドクター・マルコーに、はたじろいだ。
ペコッと頭を下げると、勢いよくドアを開け外へと飛び出した。
何故っ…どうしてエドを助けてくれないのっ…!?
そう内心呟いた。
ぐるぐると、その言葉が脳裏を駆け巡る。
「…!」
「…エ、ド。」
「…どうした?」
飛び出たところで、エドワードの声がかかった。
ハァハァと荒い息をしながら名前を呟き、問われた言葉には静かに首を左右に振った。
なんでもない、という意味の振り。
そのまま、無言が続き───駅へと到着した。
「本当にいいのか?」
「え?」
問うたのはアームストロングだった。
静かに視線をアームストロングに向け首を傾げるエドワード。
は既に犬の姿へと変身していた。
「資料は見られなかったが、石ならば力ずくで取り上げる事も出来ただろう…」
「あ〜〜〜そりゃマジで欲しかったよ!咽喉から手が出るほど!」
アームストロングの問いかけに、ベンチに腰掛け足を投げ出したまま呟いた。
その様子を見て、は微笑した。
「でも、マルコーさんの家に行く途中で会った人たちの事を思い出したらさ……」
そう呟くと、エドワードは静かに視線を空へと向けた。
「この町の人たちの支えを奪ってまで元の身体に戻っても後味悪いだけだなーーって。」
「エドらしいね。」
エドワードの言葉を聞き、率直な感想を述べた
確かに、その選択はエドワードらしかった。
「ま、な。また別の方法探すしな、アル。」
「うん。」
コクリと頷き、そしてベンチの横に居る箱に入ったアルフォンスに言葉を投げた。
その言葉にコクリと頷くアルフォンス。
「そう言う少佐も良かったのか?マルコーさんの事を中央に報告しなくって。」
ベンチに背中を預けながら、横に座るアームストロングに問いかけた。
そんなエドワードの問いかけに、アームストロングはシレッとした態度でこう答えた。
「今日、我輩が会ったのはマウロという町のだたの医者だ。」
「あーあ。また振り出しか〜」
「道は長いね……ホントに。」
アームストロングの言葉を聞き、エドワードはニッと笑みを浮かべ呟いた。
その言葉に反応するように、も苦笑しながら空を見上げた。
「賢者の石さえ見つかれば…も元の世界に戻れるかもしれないのにね。」
「大丈夫よ、アル。きっと…他にも方法は見つかるから。」
アルフォンスがため息交じりに呟いた。
その言葉に反応するように、は苦笑しながら力強く呟く。
「それに…賢者の石はエドとアルが元に戻る為に………でしょ?」
「…………。」
ウインクしながら、そう問いかける口調で言う。
その言葉に、一瞬キョトンとしながらも、嬉しそうにエドワードは短くの名前を呟いた。
「だって…私は賢者の石とか全く関係なく、この世界へ来たんだよ?…きっと…きっと他に方法が絶対あるよ。」
「……そうだな。そう信じなきゃやってらんねーしな。」
のその前向きな言葉に、何かを吹っ切るような表情で空を見上げるエドワード。
「君!」
「マルコーさん……」
いきなり現れたドクター・マルコーに驚きの表情を浮かべた。
「……私の研究資料が隠してある場所だ。真実を知っても後悔しないと言うなら…これを見なさい。」
そう言いながら、息を切らしエドワードに手渡すのは白い封筒。
エドワードは静かにドクター・マルコーからその封筒を受け取った。
「そして君ならば……真実の奥の更なる真実に───いや、これは余計だな。」
途中まで呟きながら、エドワードを真剣なまなざしで見つめ。
首を左右に振りながら、言葉を止めた。
エドワード達に背を向け、駅の出口へと足を進めるドクター・マルコー。
背を向けたまま手を振り。
「君達が元の身体に……そして元の世界に戻れる日が来るのを祈っているよ。」
そう居ながら去っていくドクター・マルコーに視線を向けると。
アームストロングは歓喜のあまり涙を流し敬礼をした。
エドワードはペコリと頭を下げ、も犬なりに背筋を伸ばし頭を軽く下げた。










「“国立中央図書館第1分館”“ティム・マルコー”………」
紙に書かれた内容を読み上げるエドワード。
「なるほど…“木を隠すには森”か……あそこの蔵書量は半端じゃないからな。」
エドワードの頭上からメモを見ながら呟くアームストロング。
目を瞬かせながら、エドワードは紙を見つめ、アルフォンスとに視線を向けた。
「ここに石の手がかりがあるっ……!」
「兄さん、道は続いてるよ!」
「────ああ!」
グッと紙を持つ左手に力を入れながら呟くエドワードに、アルフォンスは嬉しそうにつぶやき返した。
何か確認を得るように、アルフォンスの言葉に力強くエドワードは頷き返した。








この時、エドワードもアルフォンスももアームストロングも気付いては居なかった。

エドワード達と同じく、国立中央図書館第1分館に眠るソレを狙う輩が動き出していた事に。












To be continued.............................












やっとこ終わりました、時ヲ切リ裂ク雷ノ………第3話が!!!
いかがだったでしょうか?
今回は、少し区切りが悪いな〜と思い、繋げてしまった部分があったので…結構な長さに仕上がりました。
書くのにかなりの時間を要してしまいました。
そこは、今回の私の反省点です。
長々と待たせてしまい、出来がこんなんで……ホントにスミマセン!!!!
もっと素晴らしい出来だったら、きっと待たせてしまった理由になったのに……(待
冗談ですっ…石、石投げないで下さいっ……っっ(汗汗
今回は『VSスカー』の部分に少し力を込めちゃいましたw
後は最後のドクター・マルコーとの会話のシーンですね。
あの2つは私の大好きな……そして印象深く、力の込めたシーンです。
楽しんでいただけたら幸いです。

そして………次回の第4話は────……スレイヤーズのドリー夢がUPされた後になりますので…
また暫く時間が空いてしまうと思います。
申し訳ありません。
……いやはや、同時進行で小説は書くものじゃありませんね…慣れるまでは。






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