「戻りたい!」
「戻りたくない…」

どちらも存在する、私の本当の気持ち───…

「好き!」
「好きになっちゃいけない…」

これも、本当の気持ち──…
他の誰よりもエドが好き…だけど好きになっちゃいけないんだ…

「苦しい…」
「悔しい…」

そう思うようになったのは、エドとアルの故郷リゼンブールに行ったときから。

「何で?」
「どうして?」

理由なんて分からない───
ただ分かるのは、私とウィンリィとでは好きになる為の過程が違い過ぎるという事───…














時ヲ切リ裂ク雷ノ……… 第5話
















「…エド?」
人型になり、身体をグググっと上に伸ばしながらは問いかけた。
目を覚ますと、まるで荒らしの様に慌しく動き回っているエドワードの姿が目に留まった。
「ああ、、おはよう。」
「あ、うん…おはよ。」
声に気付き、動きを止めて視線を向け挨拶を交わすと再度忙しなく動き始めた。
その様子には首を傾げると。
「…どうしたの?何かあったの?」
ツンツン、とエドワードとは打って変わって冷静に行動しているアルフォンスに問いかけてみた。
「ああ。さっきマルコーさんの研究書の写しが終わったって連絡が入ったんだよ。」
「あ、そうなの?」
「ああ!だから、これから貰いに行くんだ。」
アルフォンスの言葉に首を傾げてようやく理解すると、エドワードの言葉が続いて聞こえてきた。
ようやく仕度が終了したのか、ガタッと音を立ててトランクを床に置くと───
「とりあえず、部屋はまだ取っ払わないけど…はどーする?」
「…え?」
「一緒に行くか、ここで待ってるか…って事だよ。」
エドワードの言葉に、一瞬意味が分からず首を傾げるとアルフォンスが付け加えるように分かりやすく答えてくれた。
その言葉を聞き、ようやく理解すると“ああ。”と声を漏らし少し考え込む。


「…桜?」

待っても待っても、帰ってくる事のない人─────

「…どこ?なんで…返事をくれないの?」

分かってる、返事がないことなんて────
だって…私が殺してしまったから────………


「…、どうするんだ?」
「………行く。」
エドワードの急かす言葉に、ポツリと短く返事を返した。
いつもと様子が違って見えたが、ハッキリと違うとは分からずに何も言えずに居た。
「だって、約束したでしょ?コピーを受け取りに行く時、私も行くって。」
「ああ…そうだったな。」
の苦笑交じりの言葉に、エドワードはこの間のやり取りを思い出した。
確か、そんな事を言っていた…と。
「…賢者の石の情報…ちゃんと手に入るといいね。」
「ああっ!そのためにコレまで頑張ってきたんだからな!」
の言葉にエドワードは満面の笑みを浮かべた。
その顔を見れば、の胸はキュンッとなって…
─…ああ、やっぱり好きだなぁ…
再度、確認してしまう思い。
いつから、そんな感情を抱いていたのかは全然分からなかった。
ただ、ハッキリ気付いたのはリゼンブールに行ってから…
「…、何やってんだよ?」
「…へ?」
いきなり首を左右に思いっきりブンブン振り始めたに、唖然とした表情を浮かべてエドワードが問いかけた。
「“へ?”じゃないって。」
「首、左右に思いっきり振ってるから…何かあったのかなって思ったんだよ。」
素っ頓狂な声に、エドワードが突っ込みを入れるとアルフォンスがエドワードの言葉を分かりやすく言い直した。
言い直されるなら、最初からアルフォンスが言うかエドワードが分かりやすく言えばいいものを…
「…な、何でもない何でもないっ!!」
慌ててパタパタと前に伸ばした手首より先を激しく振りながら呟いた。
“そうか?”とエドワードは首を傾げるが、何処となく違和感を覚えた。
「…犬の姿になるとさ、エドとアルと喋れないし…手伝いとかも出来ないしさ…」
「「ん??」」
いきなり何を言い始めるのかと、エドワードとアルフォンスは首を傾げ顔を見合わせた。
はと言えば、ずっとニコニコ笑みを浮かべたままで──ヒョイッと取り出したのは少し大きめの袋だった。
「…もしかして、それ。」
「うん。昨日、エドに着せた服の他にも買った服だよ。」
ニッコリ微笑み、取り出したのは黒い長袖の服に黒いズボンとバンダナだった。
「一着でも買って置けばイザって時、この服着て人型で入られるじゃない?」
ニコニコと微笑んだままエドワードとアルフォンスを見つめ──
「…服着るなら問題ないんじゃない?ねぇ、兄さん?」
アルフォンスは服の種類やらを見つめ、のフサフサな毛が隠れる事を認識するとエドワードに同意を求めた。
「ああ…いいけど…尻尾はどーすんだ?」
エドワードはとりあえずは同意するも、1番気に掛かっていた尻尾を問いかけた。
「あ。それならねぇ…ほら、ここに穴開けたんだ。」
そう言い指差すのはズボンの右側の腰の辺り。
尻尾が通るほどの小さめの穴が開いていて、そこから尻尾を出すという事だろう。
しかし、何故お尻の所──本来尻尾が生えている辺りじゃないのかが疑問に思えた。
「…何で脇の方に穴が?」
「だって、お尻の辺りだといかにも“尻尾です”って言ってるみたいでしょ?横から出せば“ファッションです”って言えるじゃん。」
フフン、と胸を張りながら説明するとアルフォンスもエドワードも“なるほど”と納得した。
「んじゃ。ちょっくら着替えてくるよ?」
「ああ。急げよな。」
「りょーかい!」
服をギュッと抱きしめながら呟くと、エドワードが急かすように呟いた。
するとビシッと敬礼をすると笑いながら、タタタと小走りで洗面所へ駆け出した。


「どうして好きになると……ああなっちゃうのかなぁ…?」

情を寄せ、WILDHALF種犬の中に潜むワーウルフが目覚めてしまうから───

「それくらい、知っていたけど…」

信じられない、信じたくない。
そう思うのが心情と言うものなんだろう。

「だから…これから誰も好きになっちゃいけないんだ…」

そう思っていたのに───…


「着替え終わったよ〜♪」
そう言い、満面の笑みで出てきたのは服を見につけた
「うん。いい感じじゃない?ね、兄さん?」
の格好を見つめ、アルフォンスはコクコク頷きながらの頭から指先までを嘗め回すように見つめ意見を求めるようにエドワードに声をかけた。
すると、エドワードは視線を外しながら口元を片手で覆いこんだ。
「…エド?」
「……んじゃねぇか?」
「え?」
「…いいと…思う。」
ぶっきら棒に呟くエドワードには嬉しそうに笑みを浮かべた。
「…青春だねぇ〜」
クスクス笑いながら、アルフォンスはとエドワードを見つめて呟いた。
その言葉に当の本人達はバックにクエスチョンマークを浮かべ首を傾げ、顔を見合わせると──
ボンッ!!!と音が出そうな勢いで顔を真っ赤にさせ視線を勢い良く外した。
「兄さんってば、が可愛いからってそんな態度に示しちゃって〜」
「バッ!!馬鹿言うなよ!!何でオレが!!」
アルフォンスのクスクスと笑う声とからかう言葉に、エドワードは声を張り上げ否定した。
「…兄さん。本気で言ってる?本気で言ってるなら…ボク、兄さんのこと馬鹿としか考えられないんだけど?」
「…っ。」
アルフォンスの言葉に口元を手で覆い、顔を真っ赤に染めチラッとを見つめる。
エドワードの視線が来たのを確認すると、も待っていましたと言わんばかりに顔を真っ赤に染め上げた。
そんな2人の反応を見つめ、アルフォンスはため息を吐きながら“鈍感さん同士だねぇ〜”なんて呟き肩を竦めた。
「そっ…ソレより、行かなくていいの!?」
「あっ!!そうだな!アル、行くぞ!!」
まるで慌てて話題を逸らすように、アルフォンスを見つめて声を張り上げた。
「はいはい。そうだね。」
クスクス笑いながら、似たようなことを考えていたのであろうとエドワードを見つめ呟いた。











「いやぁ、すみません。かなりの量だったので…写すのに5日も掛かってしまいました。」
そう言いながら、纏めた紙をドサッと机の上に載せた。
数十枚、数百枚という纏められた紙の束が幾つもあった。
「ティム・マルコー氏の研究書の複写です。」
そう言い指を揃えて指し示す方にエドワードとアルフォンスは視線を向けた。
2人と共に佇むは、この間来た時は一緒に居なかったためその場に居合わせた本の虫であるシェスカもロス少尉もブロッシュ軍曹も疑問の視線を向けていた。
「ほ…本当にやったんだ…」
「世の中にはすげー人が…居るもんだなぁ…アル、。」
アルフォンスとエドワードは関心した視線をシェスカに向けた。
もコクコク力強く頷きながら、同意すると。
「それより…そちらの方は?」
「中央に来た時に一緒に居た犬は居ないようですが…」
ブロッシュとロスが交互に問いかけた。
「あー……アームストロング少佐からは何も聞いていないの?」
「…もしかして…」
の言葉にロスは呟き、ブロッシュと顔を見合わせた。
その様子から、何か心当たりがあるのかもしれない。
「……この間の犬と、こちらの…さんは同一人物…って事ですよね?」
ロスの代わりにブロッシュが呟き、確認するように語尾を上げた。
「そう言うこと。話が分かるって事は…アームストロング少佐から?」
エドワードはそう問いかけると、ロスがコクリと静かに頷き肯定した。
「はい。先日、アームストロング少佐から連絡が入りました。マスタング大佐からの伝言で他言無用だと…」
「…そっか。なら…隠す必要はなしだね。」
ブロッシュの話を聞き、ホッと胸を撫で下ろした。
あのコピーの量からすれば、すぐに解読し終わるわけがないのだから。
「…あの…一体何の話を…?」
「あ。シェスカ殿は気にしなくて構いませんよ。」
シェスカの言葉にニッコリ微笑み、ロスは呟き返した。
軍とは関係のないシェスカにとって、今はどうでもいい話だから。
「…でも、こんなに量があったんじゃ、これ持って逃亡は無理だったんだね〜マルコーさん。」
「…これ、本当にマルコーさんの?」
アルフォンスは複写された研究書を見つめてポツリと呟くと、エドワードは再確認するようにシェスカに問いかけた。
すると、シェスカは満面の笑みを浮かべて力強く頷きながら“はい!間違えなく!”と答え複写の研究書を数枚手に取った。
「ティム・マルコー著の料理研究書、“今日の献立1000種”です!」
「「「「「…は?」」」」」
シェスカの言葉に、その場に居合わせた全員が笑みを浮かべたまま固まった。
も、探していた研究所が“料理?”と内心思いながら固まり見つめた。
「砂糖大さじ1に水少々を加え………」
そう言いつつ、他の複写の研究書をパラパラと捲りながら中身を確認した。
「…本当に今日の献立1000種だわ…」
「君!これのどこが重要書類なんだね!!」
中身を確認してから呟くロスのブロッシュ。
エドワード達が求めていた書類にしては、変だろうと思ったからの言葉だろう。
「重…!?そんな!私は読んだまま覚えたまま写しただけですよ!?」
ちょっと待ってください!と言いたげな口調でシェスカは言葉を発した。
確かに、言われたとおりマルコー著の書類の内容を写しただけなのだから、そこまで言われる筋合いはないだろう。
「という事は、同性同名の人が書いた全く別の物!?」
アチャーッと頭に手を当てながらため息を吐くと。
「お2方、これは無駄足だったのでは?」
「…これ本当にマルコーさんの書いたもの1字1句間違いないんだな?」
ブロッシュの言葉を無視したまま、エドワードは書類を握り締めてシェスカに問いかけた。
「はい!間違いありません!」
「あんたすげーよ…ありがとな。」
エドワードの問いかけに必死に頷き答えたシェスカ。
確かに、シェスカはエドワードに言われたとおりマルコー著の書類を1字1句間違いなく書き写しただけなのだから。
ニッと笑みを浮かべるエドワードは、机の上に置かれていた書類に手を伸ばすと。
「よし!アル、。これ持って中央図書館に戻ろう!」
「うん。あそこなら辞書が揃ってるしね。」
エドワードの言葉に頷きながら、アルフォンスも机の上の書類に手を伸ばした。
も“そうだね。”と言いながら書類を抱きかかえた。
「───っと。お礼お礼。」
ハッと思い出したエドワードは書類を脇に挟み込み、コートの中…懐を探り始めた。
一体何をしているんだろう?とはエドワードの様子を見ながら、残りの書類を持った。
「ロス少尉!これオレの登録コードと署名と身分証明の銀時計!」
そう言いながら、メモ帳にサラサラと登録コードと署名を書き記し始めた。
書き記した切り取った紙と、いつも見につけている銀時計を手に取るとロスにポンと手渡した。
「大総統府の国家錬金術師機関に行って、オレの年間研究費からそこに書いてある金額引き出して、シェスカに渡してあげて。」
そう言いながら、シェスカの家のドアをぎぃぃぃっと空けつつロスに指示をした。
「はぁ…」
「シェスカ本当にありがとな。じゃっ!」
エドワードの言葉に少し戸惑いつつも返事を返すロス。
シェスカは唖然としたまま、そのやり取りを見つめていると突然掛かったエドワードの言葉。
バタンと扉が閉まると、紙に書かれた値段を確認しようとロスとシェスカは紙に視線を落とした。
「ふぅん。研究費用から………」
そこまで呟くと、あまりにも高額な金額に目が点になった。
「キャーーーーーー!!!なんですかこの金額!!!」
「こんな金ボンと出すなんて…なんなのあの子!!!」
当たり前のような反応をするシェスカとロスだった。
家の外を歩くエドワードは、予想していたのか何の反応もせずに歩き出すが、エドワード達と共に中央図書館へ向かうブロッシュは家の中から聞こえた声にビクリと反応を示した。
「…エド。一体いくらお礼に渡したの?」
あの反応に、同じく驚きの反応を示すの問いかけにエドワードは苦笑し“が気にする金額じゃねーよ”と返した。
しかし、納得いかないのか少し頬を膨らませていた。













「“錬金術師よ大衆のためにあれ”……って言葉があるように、錬金術師は術がもたらす成果を一般の人々に分け隔てなく与える事をモットーにしている。」
そう言いながら、中央図書館に到着したエドワードとアルフォンスは本棚に並ぶ本を手当たり次第引き出して見ては、必要そうな本は取り出し必要じゃなさそうな本は戻して───と繰り返していた。
「国家錬金術師はそのモットーに反してるから“軍の狗”って呼ばれてんだけどさ。」
ポツリと付け加えるように国家錬金術師のことを述べた。
そう言いつつも、本棚をあさる手は止まらず動き続けていた。
「けど、その一方で一般人にそのノウハウが与えられてしまう事を防がなければならないんだ。」
「ああ。なるほど…」
エドワードの言葉に、ブロッシュは納得した言葉を述べた。
「無造作に技術をばらまいて悪用されては困りますね。」
うんうん、と頷きながらブロッシュは言葉を続け目の前に居るエドワードに視線を向けた。
「そういう事。で、どうやってそれを防ぐかってーと……」
そう言いつつ、1番手近にあった書類を手に取るとそれを持って軽く笑みを浮かべると。
「錬金研究書の暗号化だ。」
そう言うと、持っていた書類をポサッと机の上に投げるとアルフォンスが運んでくる辞書などを受け取り空いている机に乗せた。
「一般人にはただの料理研究書に見えても…その中身は書いた本人しか判らない様々な寓意や比喩表現で書き連ねられた高度な錬金術書って訳さ!」
ガタッと椅子を引き、腰掛けると書類を止めていた留め具を外しトントンと端を揃えた。
「書いた本人しか判らないって…そんなのどうやって解読するの?」
ブロッシュも問いかけたかった内容だったのだろう。
の言葉にコクコク頷きながら、同意しつつエドワードの言葉を待った。
「んー?まぁ、知識とひらめきと…あとはひたすら根気の作業だな。」
「うわぁ…気が遠くなりそうですよ。」
「…うん、ホントにね…絶対諦めちゃうよ…」
エドワードの答えに、遠い目をしてブロッシュとが返事を返した。
エドワードほど賢者の石の製造方法の書かれた研究書を求めていないブロッシュとからすれば正直な感想だったのだろう。
しかし、求めている者からすればトコトン解読できるまで頑張ってしまうのだろう。
「でも、料理研究書に似せてる分まだ解読しやすいと思いますよ。」
「…え?どうして?」
「錬金術ってのは台所から発生したものだって言う人も居るくらいだからね。」
アルフォンスの意外な言葉に身を乗り出しては問いかけた。
すると、アルフォンスはクスクス笑いながら答えてくれた。
その言葉を聞きとブロッシュは“ふーん…?”と返事をした。
「兄さんの研究手帳なんて、旅行記風に書いてあるからボクが読んでもサッパリだよ。」
肩を竦めながら、アルフォンスはエドワードの研究手帳の中身を暴露した。
といっても、そう簡単に解読できたら暗号化している意味がなくなってしまうのだろうが。
「さて!さくさく解読して真実とやらを拝ませてもらおうか!!」
力強く意気込み、複写の書類をペラッと捲った。












書類の内容と、持ってきた本とを見比べながら解読していくのだが────
なかなか捗らないらしく、1週間が経過した。
「…エド、アル…大丈夫?」
そう言いながら、は先ほど入れたばかりの暖かいコーヒーをエドワードの前に置いた。
眠気を覚ます…とまでは行かないが、飲まないよりはマシだろう。
「…駄目。なんなんだ、このクソ難解な暗号は……」
グデーーーっと机に突っ伏したままエドワードは呟いた。
解読するぞ!と意気込んでいたエドワードだが、時間が過ぎるにつれ日にちが過ぎるにつれ徐々にグデーッとし始めたのだ。
「兄さんこれ…マルコーさんに直接訊いた方がいいんじゃない…?」
実際鎧に魂を写した姿であるアルフォンスは体力的には疲れることはないのだが、あまりにも難しい暗号に精神的に疲れ切っていた。
とりあえず、解読は進んでいるようだが判らないところが多いらしい。
解読している方の紙にペンが進んだ───かと思えば、すぐにピタッと留まってしまい悩んでしまう…の繰り返しだった。
「〜〜〜〜っ!いや!これは“これしきのものが解けない者に賢者の石の真実を知る資格なし”というマルコーさんの挑戦とみた!」
グググ、と紙にペンを押し付けながら歯を食いしばり眠い目蓋を見開きながら呟いた。
「なんとしても自力で解くぞ!」
そう言いつつもやっぱり判らないというのが本音だろう。
「あの〜…」
「あ。シェスカ!」
聞こえてきた声にがハッと気付いた。
「シェスカ…」
「お2人ともここにいらっしゃると聞いたもので…」
ペコッと頭を下げながら現れたシェスカは、ブロッシュに案内されてここまで来たようだ。
「エドワードさんのおかげで母を立派な病院に移す事が出来ました!本当になんてお礼を言ってよいのか…」
ペコペコ頭を下げ続けるシェスカの言葉に、は“へぇ〜”とエドワードに視線を向けた。
そんなシェスカにエドワードは苦笑しながら“いいって、いいって”と机にうな垂れたまま手を振った。
「ああっ…それにしても、あんなに沢山頂いてよかったのかしら。」
ふと思い出した金額に口元を手で覆いながらポツリと呟くと。
パタッと降ろしていた手を再度肘から上に持ち上げ軽く振った。
「気にしないでいいよ。この資料の価値を考えたらさ、あれでも安いくらいだし…」
エドワードの言葉に、アルフォンスもコクコク頷きながら同意した。
「へぇ…どんだけの金額渡したのよ…ホントに。」
シェスカの言葉とエドワードの言葉には唖然としたまま呟いた。
「まぁ…国家錬金術師だからこそ渡せる金額である事には変わりないな。」
「そうだねぇ…普通の社会人が渡せる金額じゃぁないよねぇ〜」
エドワードとアルフォンスの、いけしゃあしゃあとした口調にはポカーンと口を開けてしまった。
そんなに凄い金額を貰っていたのか───…と内心呟くのは、当然の反応なのかもしれない。
「…あの料理研究書には、そんな意味があったんですか…」
エドワード達のやり取りを聞きながら、そんなに凄い研究書だったのか──と再確認しポツリと呟いた。
「で…解読の方は進んでますか?」
視線を下げ、研究書の複写と解読した内容をメモっている紙を見つめて問いかけた。
すると、一瞬にしてその場の空気をドンヨリしたものへと換えてしまったエドワードとアルフォンス。
「…あー…あはははは…」
ドンヨリした空気の中、1部始終を見ていたは空笑いを浮かべるしかなかった。
「そ、そういう君は?仕事見つかったの?」
「……。」
アルフォンスの問いかけに、今度はシェスカがドンヨリした空気をかもし出した。
つまり、仕事が全く見つからない──という事だろう。
「じゃぁ私そろそろ、本当にありがとうございました。」
ペコリと頭を下げつつ、再度シェスカはエドワードにお礼を述べた。
「ああ。金の事はもういいって。」
「そうそう。エドがそー言ってるんだし…気にする事じゃないんだよ、きっと。」
エドワードの言葉にコクコク頷きながら苦笑を浮かべつつも呟いた。
すると、シェスカは少し俯きながら寂しげな笑みを浮かべた。
「いえ、お金の事もそうですけど…本にのめり込む事しか出来ない駄目人間な私が…人の役に立てたのが嬉しかったんです…凄く。だから…ありがとう。」
本当に嬉しかったらしく、お礼を呟くシェスカの口調からその感情がに流れ込んできた。
WILDHALFであるは鼻が利く為、人の感情の匂いが良くわかるのだ。
「駄目人間じゃないよ。」
ニッコリ微笑み、はシェスカを見つめた。
呟くの言葉を、アルフォンスが繋げるように呟いた。
「そうだよ。何かに一生懸命になれるって事はさ…それ自体が才能だと思うし。それに凄い記憶力があるんだし、自身持っていいよ。」
そういう人物が傍に居るから言える言葉なのかもしれない。
その言葉にシェスカは嬉しそうに微笑み“ありがとう!”と言葉を発した。
「よ!」
シェスカの言葉が言い終わるのを待っていたかのように、ヒョッコリ現れたのはヒューズだった。
ヒューズの後ろでは、ロスとブロッシュが敬礼をし視線を向けていた。
「ヒューズ中佐!」
「ビックリしたぁ〜…」
現れた顔を見て、エドワードが声を上げてが胸を押さえつつ息を吐き出すのと一緒に呟いた。
その様子を見て、ヒューズは少し苦笑を浮かべた。
「少佐に聞いたぞ。なんだよお前ら〜中央に来たら声掛けろって言ったのによー!」
そう言いつつスタスタと椅子の方へとヒューズは足を勧めた。
「いやぁ急ぎの用があってさ!」
「まぁ、俺も忙しくて持ち場を離れられなかったんだけどよ。」
あははは、と笑いながら仲良く会話を交わすエドワード達。
そんな4人を遠巻きに見つめるロスとブロッシュは驚きの表情を浮かべていた。
中佐とタメ口で会話をしているのが、それほどまでに驚きの事だったのだろう。
「私は私で、軍の所まで行ったら大変な事になりそうだしね。」
「あー確かにな!の存在を知ってるのは極1部の者だけだもんなー」
の苦笑交じりの言葉に、ヒューズも苦笑しながら頷き同意した。
もしも異世界から来た事が軍の者にバレたのならば、実験代にされてしまいそう。
「最近、事件やら何やら多くてな…」
唐突に真面目な口調になったヒューズに気付き、先ほどまで笑っていた一同は瞬時に真面目な顔つきになりヒューズの言葉を待った。
「俺の居る軍法会議所もてんてこ舞いだ。タッカーの合成獣事件もまだ片付いてないし…」
ゴキゴキと凝った肩などを鳴らしながら、ポツリとヒューズは呟いた。
それほどまでに事件が多いという事だろう。
「…っと、すまねぇ。嫌な事思い出させちまったな。」
ハッと思い出し、口を紡ぎ罰の悪そうな表情、口調でヒューズは呟いた。
思い出すのは、あの悲惨な現場と悲惨な末路だけだった。
「仕事が忙しい中わざわざ会いに来て下さったんですか?」
アルフォンスは“あ…”と視線をヒューズに向けて問いかけた。
忙しいのに時間を割いて来てくれたんじゃ…なんて内心思うが、予想は的中しなかった。
「いや。息抜きついでだよ、気にすんな。すぐに持ち場に戻るしな。」
「なんだか…忙しそう…」
ヒューズの言葉を聞き、はそうポツリと呟いた。
「まったく…ただでさえ忙しいところによぉ、第1分館も丸焼けになっちまって、やってらんねーよ…マジで。」
の言葉が聞こえていなかったらしく、ヒューズは大きくため息を吐き呟いた。
「「第1分館?」」
ヒューズの言葉の中に含まれていた聞き覚えのある単語にエドワードとが反応を示した。
コクリと頷くとヒューズは腕を組んだ。
「ああ。軍法会議所に近いってんで、あそこの書庫にゃあ過去の事件の記録やら名簿やらが保管されてたからよ。」
あーあ、と疲れ切った口調で呟くと“業務に差し支えて大変だよ…”と現在の大変さを口にした。
あの燃え様では、書類などは残っていないだろうから色々と大変なんだろう。
「へぇーーーーーーーー…」
そう声を漏らしつつ、徐々にヒューズからシェスカへと視線を移していくエドワードとアルフォンス。
「そっか、シェスカの記憶力!!!」
やっと気付いたらしく、が声を張り上げシェスカを指差した。
その言葉にシェスカは当然の如く驚きの声を上げるのであった。
「た、確かに軍の刑事記録も読んで覚えてますけど…」
え?え?え?とエドワードとヒューズを交互に見ながら呟き困っている様子。
「どうだろ中佐。この人、働き口探してんだけど。」
「え?この嬢ちゃん、そんなに凄い特技持ってんのか!?そりゃ助かる!!」
ニヤリと笑みを浮かべるエドワードに、素で驚くヒューズ。
そこからはトントン拍子で話が進んでいった。
“今すぐ手続き”“軍法会議所の給料はいい”などと笑いながら述べグワシッとシェスカの首根っこを掴んだ。
「ええ!?そんな、あの…本当に!?」
いきなりの話についていけていないシェスカは、いまだに驚きながらエドワードとアルフォンスを見つめていた。
「んな、軍の人がこんなことで嘘は付かないでしょ。」
クスクス笑いながら、連れて行かれつつあるシェスカを見送った。
「あっ…あの!ありがとう!!自信持って私、頑張ってみます!」
本当にありがとう!と言いながら、ヒューズに引きずられて連れて行かれるシェスカをエドワード達は笑いながら見送った。
「“何かに一生懸命になれるって事は、それ自体が才能”か。言うねぇ弟よ。」
ペンを加えたまま、不敵な笑みを浮かべつつ隣に座っているアルフォンスに視線を向けて呟いた。
「どっかの誰かさんを見てるとね。心の底から思うよ。」
「確かにねぇ〜…凄い一生懸命になるもんねぇ〜」
アルフォンスに同意するように、もクスクス笑いながら呟いた。
すると、エドワードは少し照れた表情を浮かべ起き上がると左手にペンを持ち直した。
「へへっ。そんじゃそのどっかの誰かさんは、引き続き一生懸命やるとしますよ。」
そう言い、先ほど以上の勢いでエドワードとアルフォンスは懸命に解読をし始めた。
アルフォンスの言うとおり、エドワードは何かに一生懸命になるが、アルフォンス事態も何かに一生懸命になれていると思った。
はただ、応援する事しか出来なかった。
















ゴーン…ゴーーーン…ゴーーーーン…
5時の時刻の鐘が鳴り始めた。
「…っと。」
音に気付き、ブロッシュがハッと顔を上げた。
「今日で丸々10日…収穫無しのようね…」
スッと視線を扉の方に向けてロスが呟いた。
ロスとブロッシュはエドワード達が調べている部屋の外での護衛となっている為、閉館の時間になると知らせに行くようだ。
「お2人共。閉館のお時間ですよ。」
そう言いつつ扉を開けると───中から叫び声が聞こえた。
「………ふっ…ざけんな!!!!」
その声と同時にガタンと何かが倒れる音が聞こえた。
慌ててロスとブロッシュが部屋の中へ入るとエドワードの座っていた椅子が倒れていた。
その近くには本が無造作に置かれ、書類が舞っていた。
「なっ…何事ですか!?」
慌てて駆け寄るブロッシュは“兄弟喧嘩ですか?まずは落ち着いて…”と呟きつつ近寄ると。
「違いますよ。」
アルフォンスがスッパリと違うと呟いた。
もアルフォンスも、叫んだ張本人であるエドワードも唇を噛み締めて佇んでいた。
「…では、暗号が解けなくてイラついてでも…?」
「解けたんですよ。暗号…解いてしまったんです。」
ロスの問いかけに、重い口調でアルフォンスが呟いた。
解けたという事は、エドワード達が望んだ結果のはず。
なのに、この重苦しい空気は一体なんなのだろうとロスは眉を潜めた。
「ほ、本当ですかっ!?良かったじゃないですか!」
何も感じていないのかブロッシュが明るい口調で呟いた。
エドワード達がずっと解く解く言っていたのだから、良かったことなのだと判断したのだろう。
「イイ事あるか畜生!!!」
眉間にシワを寄せ、勢い任せに床に腰を下ろした。
右手を額に宛がい俯くエドワードは大きくため息を吐いた。
「“悪魔の研究”とはよく言ったもんだ。恨むぜマルコーさんよ……」
「こんな…結果が…出てくるなんて…」
エドワードの言葉に、も淡々とした口調のまま呟くしかなかった。
「…一体何が?」
ブロッシュは、ただならぬ事だと判断し腫れ物に触るようにエドワードに問いかけた。
すると、少し視線を上に上げまるで何かを睨みつけるような視線をしていた。
「賢者の石の材料は………」
ギリッと音がしそうなくらい、奥歯をエドワードは噛み締めた。
その言葉の出だしに“ああ、言ってしまうんだ…”とは理解するとスッと視線を斜め下に逸らしてしまった。
奥歯を噛み締め、拳を力強く握り締め、ただエドワードが紡ぐ言葉が耐えて待たなければならない。
「………生きた人間だ!!!!」














To be continued..........................






時ヲ切リ裂ク雷ノ………第5話を読んでいただき、ありがとうございます!
とりあえず…こんなところまで進みました!
重苦しい雰囲気が文中に出せていればいいなぁ〜と重いつつ出せていない気がしますw
スレイヤーズのドリー夢小説の連載が終わった為、鋼の錬金術師のドリー夢小説の連載に集中できるーとちょっと喜んでたりw
逆に、鋼の錬金術師のドリー夢小説の連載が先に終わっても、同じこと思ったんだろうなぁ〜とw
…この連載が続いてる間は、桜蘭高校ホスト部のドリー夢連載はきっとUPしないんだろうなぁ〜なんてw
UPしたんですけどね?凄く…!!!!(ゎ

てか…ってば気付いちゃいましたねー…エドへの気持ち!
でも、好きになっちゃ駄目だ!!と頑張って気持ちを抑えちゃってますね〜(お前が抑えさせてんだってねw
情が強くなるほど、WILDHALFの中に居るワーウルフが目覚めやすくなっちゃうんですよねぇ…
WILDHALFを読んだ事ある人なら知ってるかもしれないですが…
てか、本文中にもこんなこと書いてますしね…今更書くことじゃないか…(苦笑

という事で…第6話を楽しみに待っててくださいねぇ〜vv
頑張りますから私っ!!!(ぉ





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