「敦盛さ────んっ!?」


どこにも姿の見えない敦盛。
は必死に名前を呼びながら、あたりをキョロキョロと見渡した。











For favorite Atsumori











事は数時間前に遡った。
は着物の袂を翻し、ある人物を探していた。


「将臣く────ん?」


屋敷に居るであろう将臣の姿を必死に探す。
長い髪がゆらゆらと揺れていた。


「お?どうした、?」


「ちょっと聞きたい事があって!」


ひょっこりと姿を現した将臣に、の歩みはピタリと止まった。
視線を向け、身体を向け、ハッキリとした口調で言った。


「聞きたい事?」


「うん 敦盛さんの事なんだけど……」


「敦盛か なんだ?」


将臣の問い掛けに、は少しだけ口ごもった。
ええと、と言葉を選ぶように視線が四方に泳ぐ。


「どうしたんだよ、


「……ほら、今日って敦盛さんの誕生日でしょう?何を上げたら喜ぶかなーって」


の言葉に、将臣は唖然とした。
絵で描けば、きっと目が点になっていた事だろう。


「────……そんな事か」


「そんな事って……将臣くん!」


「そー怒るなって」


くすくすと笑う将臣に、は顔を真っ赤にした。
まるで馬鹿にされているような気分になるのだろう。


「そっか は敦盛が……な
 敦盛は────……そうだな、何を貰っても喜ぶんじゃねぇか?」


軽く首を傾げ、将臣は答えた。
それはも思うところだったのか「うーん 確かにそうなんだけどねー」と答えていた。


「俺の答えで満足しないなら、他の奴にも聞いてみたらどうだ?」


「うん そうしてみる!」


将臣の言葉には頷いた。
くるりと踵を返すと、次のターゲットの元へと駆け出した。

ぴた

しかし、の足が止まり将臣の方へと振り返った。


「将臣くん、ありがとね!」


「いいって」


その返事を聞き、ようやくは歩みを進めた。











「……九郎さん、どこに居るかな やっぱり中庭?」


どたどたどた

は靴を履き、庭を探した。


「あ、九郎さん!」


「ん?」


その声に、九郎は明るい茶の髪を揺らし振り返った。


か どうした?」


キンッ

愛用の剣を鞘にしまい、九郎はまっすぐを見つめた。
その瞳には、言葉と同じ疑問の色が混じっていた。


「……敦盛さんの事なんですけど……」


「敦盛か まさか……何かあったのか!?」


の言葉に九郎が慌てたように声を上げた。
元は平氏という敵だった敦盛。
けれど、平氏を裏切り共に闘ってきた仲間でもあり、心配するのは当然だった。


「あ、いえ 何かあったというわけじゃなくて……その……」


もごもご

やはりは口ごもってしまった。


「?」


「今日、敦盛さんの誕生日で……何を上げたら喜ぶかなって」


「たんじょ……うび?」


の言葉の中に聞きなれない単語。
それもそのはず。
この時代に誕生日という行事などなかったのだから。


「ええと、敦盛さんが生まれた日が今日で……だから何かをあげたいなって思って
 九郎さんは、何を上げたら敦盛さんは喜ぶと思いますか?」


真剣な眼差しで、は九郎を見つめた。
しかし、その九郎の瞳には困惑の色。


「あー……そうだな……」


仲間になった、とは言え敦盛のことを詳しくは知らない九郎にの質問に答えられるはずもなかった。
何しろ、九郎は真面目人間なのだから。


「どうした 九郎、神子」


「「先生!」」


突如現れたリズヴァーンに、九郎とは声を上げた。


「じつはかれこれ、こういう事で……」


九郎は事の発端を完結にリズヴァーンに伝えた。
その言葉にリズヴァーンはこくこくと頷きながら、思案顔をしていた。


「そういう事ならば、本人に聞くのが一番だと思うが?」


「そうしたいのは山々なんですが……うぅー」


リズヴァーンの当り前の言葉に、は困った。
本人に聞ければ一番苦労はしないのだ。


「ならば、敦盛と同郷であるヒノエか弁慶にでも聞いてみてはどうだ?」


「あ、そっか!そうしてみます!」


ぽんっ

なるほど、と言わんばかりには両手を打ち合わせた。
パァァァァっとその表情が明るくなるのを見ると、九郎もリズヴァーンも嬉しげに微笑んだ。


「ありがとうございます、九郎さん!先生!」


「いや 気にするな!」


「うむ」


そんな二人の返事を背に、はヒノエと弁慶の元へと急ぐように駆け出した。











「ヒノエくんと弁慶さんはどこに……」


「オレを探してくれていたのかい?」


「ヒノエくん!」


きょろきょろとしていると、背後からかかった声。
は振り返りながら、すぐに分かった声の主の名前を口にした。


「おやおや 僕も一緒ですよ、さん」


「弁慶さん!」


振り返るに、ふふふと笑いながら呟く弁慶にはまたも声を上げた。
望んでいた二人が、同時に現れた事にちょっとだけ嬉しくなった。


「それで、どうしたんだい?神子姫様?」


「もうっ、ヒノエくんったら……あのね、実は二人に聞きたい事があって」


ヒノエの問い掛けに、微笑を浮かべた
けれどすぐに本題に入るべく、話題を切り出した。


「僕らに聞きたい事ですか?何でしょうか?」


にっこりと優しい微笑みを携えて、弁慶はそう問い掛けてきた。


「実は敦盛さんの事で────」


「敦盛?」


「敦盛くんですか?」


の言葉に、いかにも『不機嫌です』という顔をする二人。
呟かれたの言葉は、中途半端なままぴたりと止まる。



何?
もしかして……話題にしちゃいけないの?



二人にとってタブーなのだろうか、と考えてしまう
けれど、ただ単にの口から他の男の名前が出るのが気に食わないだけだったのだけれど。


「それで、敦盛くんがどうかしましたか?」


「あ、っと……その────……」



怖いよ、弁慶さんっ
黒いよ、黒いっ!!



弁慶の問い掛けに、少しだけ慌てる
言葉の続きを口にしていいのかと、考えてしまう。


 いいよ、言って」


まるで心中察したかのように、ヒノエがそう促した。
その表情は、苦笑に満ち溢れていた。


「あのね……今日、敦盛さんの誕生日────……敦盛さんが生まれた日で
 だから、何かあげたいなと思って……」


「だけど、何を上げればいいのかわからない……といった所でしょうか?」


の言葉に、何を言いたいのか理解した弁慶。
口にせずともヒノエも分かっていたようで。


「はい」


弁慶の問い掛けには頷いた。


「敦盛の事だから、何をやっても喜ぶと思うぜ?」


「……将臣くんと同じ事言うんだね、ヒノエくん」


まったく同じ言葉に、は苦笑を浮かべた。


「鳴り物……といっても、そう簡単に手には入りませんし
 何か手作りのものでもよいのではないでしょうか?」


「手作り……か」


弁慶の案に頷きながら考える
まだ聞いていないのは、譲と景時でどちらも手作りの何かを作るには助っ人になる人物だった。


「ありがとう、ヒノエくん 弁慶さん!考えてみます!」


「神子姫様の頼みだからね」


「ゆっくりと答えを出してくださいね」


手を振り駆け出すに、二人はそんな風に微笑んだ。
そして、の知らない所で嫉妬の炎が燃え上がろうとしていた。











「先輩?どうかしたんですか?」


きょろきょろと誰かを探しているようなに、譲は声を掛けてきた。


「あ、譲くん!あのね、敦盛くんの誕生日だから何かプレゼントしようかと思って
 料理なんてどうかと思って、譲くんを探してたの!」


探してもらえたのは嬉しかった譲。
もちろん、頼ってもらえたのも嬉しかったのだが、何よりそれが敦盛のためだと分かると少しだけ嫉妬心が疼いた。


「料理ですか?でも……先輩、一人で作れるんですか?」


「う……」


譲の指摘にはうめき声を漏らした。
確かに料理は得意じゃなく、いつも譲が食事当番をしていた。


「料理を作って振舞おうと思うんでしたら、一人で作らなくちゃ意味がないですが?」


「……他の方法を探します」


の言葉に譲は苦笑を浮かべた。
それが一番賢明な判断だったから。


「景時さんに相談してみたらどうですか?」


「うん、そうしてみる ありがとね、譲くん」


その言葉に譲は首を左右に振った。



本当は親切心じゃないんだ
ただ……先輩がほかの男のためにがんばる事の手助けをしたくなかっただけなんだ



本心は口にせず、ただ心の中で謝罪するように呟いていた。











「景時さん……景時さんはっと……」


「ふんふんふふふーん ふふんふーん♪」


楽しげな鼻歌が聞こえてきた。
はそれが景時だとすぐにわかり、歌のする方へと歩みを向けた。


「……景時さん?」


「あれ?ちゃん?どうしたんだい?」


かけられた声に、景時は鼻歌をとめた。
最後の洗濯物を干し終えると、の方へと近づいてくる。


「ちょっと景時さんに頼みごとがあって」


「頼みごと?何だい何だい?」


嬉しそうに微笑みながら、景時は縁側に腰かけた。
その隣にも座ると。


「景時さんって……匂い袋とか作るの得意ですよね?」


「ああ うん、そうだね」


「実は、今日……敦盛さんが生まれた日で、お祝いに何かを贈りたいなと思って
 それで……良かったら、匂い袋の作り方教えてもらえませんか?」


の必死なお願い。
誰かのために何かをするという姿勢のに、景時は嬉しそうに微笑んでいた。
同じ平氏で、今は源氏に与する者同士。


「いいよ どんな匂いがいいんだい?」


「ええと────」










そんなこんなで、景時にレクチャーを受け完成した匂い袋。
とてもいい匂いで、その袋を手に持ち今度は敦盛を探す
その表情はとても嬉しそうだった。


「神子 何かいい案は見つかったのだな」


「先生!はい、景時さんに教えてもらって……それで、今敦盛さんを探しているんですが────……」


「敦盛か……」


姿を現したリズヴァーンに、嬉々として答える
あたりを見渡し、敦盛の姿を求めながらその事を伝えると何か思い当たる節があるようなリズヴァーン。


「先生、敦盛さんがいる場所知ってるんですかっ!?」


「……敦盛、いるのだろう 下りてきなさい」


「え?」


の声に対し、リズヴァーンは落ち着いた口調で空を見上げた。
その言葉の意味が分からず首をかしげてしまった。

どんっ!!!


「ええっ!?」


突如空から降ってきた紫色の髪の少年。
そのことに驚き、は声を上げた。


「やはり屋根上に居たか」


「はい 景色がとても良かったもので……申し訳ない、神子
 あなたが私を探していたことは知っていたのだが、時機が図れなくて……」


申し訳なさそうな敦盛に、は微笑み左右に首を振った。
そんな二人に「では、私はもう行く」とリズヴァーンは告げ姿を消した。


「それで、私に何ようだろうか?」


「あの……敦盛さん、今日が誕生日だって言ってたじゃないですか……」


「誕生日?ああ……この間言っていた、私が生まれた日のことか」


「はい」


敦盛の問い掛けに、は答えた。
その言葉に、敦盛はコクンと頷き「そうだが」と口にする。


「いろいろと考えた結果……敦盛さんに、これをあげようかと思って」


「……匂い袋?」


差し出された袋を手に取った敦盛。
鼻腔を掠めるよい匂いに、敦盛の表情が和らいだ。


「何がいいかわからなくて……それで、匂い袋に 嫌いでした?」


「いや よい香りだ……」


すぅっと鼻をすすり匂いを嗅ぐ。
微笑ましくも、嬉しそうに微笑み、心から喜んでいるのがよく分かった。


「ありがとう、神子 大事にする」










..............end




五月二十八日は敦盛の誕生日っつーことで、誕生日フリー夢です!
今回は八葉に誕生日プレゼントの事について聞きまわる感じで……

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