「お願い、あなたも生きて!!!」


その願いは、届いたか分からない。
最終決戦で、王宮が燃え上がって……


「ナーサティヤ!!!」


崩れ落ちた天井。
視界から消えるナーサティヤ。
の悲鳴だけが、木霊した。








Prunus mume








独立してしまったかのように、ナーサティヤは一人だった。
家臣も全て逃がして、ナーサティヤだけがその場に残っていた。



倒されることを知っていた?
こうなることが……分かってた?



だからこそ、一人になったのかとは首をかしげた。
全てが終わった今、中つ国もそして敵国であった常世も平和を手にいれた。

ただ一つ、失って。


「また、ここへ来ていたのか?」


「アシュヴィン……」


誰とも婚儀を挙げず、は一人で中つ国の政治に奮闘していた。
だから、時折橿原宮の王宮裏にある畝傍山へと足を運んでいた。


「ナーサティヤは……」


「そのことは……もう……」


流れる川を見つめながら、は俯いた。
あの時、なんとしてでも助け出していればと悔しくて悔しくて唇を噛む。


「失って、初めて気付くなんて……」


「お前……」


何とも思っていないはずだった。
ただの敵。
アシュヴィンの兄。
それだけのはずだった。

なのに、どこかの心を惹くものがあって。


「どうして……こうなってしまったの……?」


両手で顔を覆い、声を押し殺して嗚咽した。
涙がとめどなく溢れ、アシュヴィンはどうすればいいのかと困った。
涙に弱い。
どうする事も出来なくて、泣いているを見ることしか出来なくて。


「何をしている」


だから、いきなり聞こえた声に二人は肩を揺らした。
慌てて振り返ると。


「──!!」


赤い、髪。
揺れる、ウェーブの掛かった美しい。


「ナーサティヤ!!!」


嬉しくて、は駆け出していた。
抱きつくに、ナーサティヤは驚きの表情をかすかに浮かばせ、見下ろした。


「どういうつもりだ?」


「良かった……良かった、生きていたのね」


まるで、運命の悪戯のようだった。
今日は、アシュヴィンの話ではナーサティヤの誕生日だった。
そんな日に、あんなにも会いたかったナーサティヤが戻ってきて。


「なぜ、敵であるお前が私の生還を喜ぶのだ?」


怪訝そうな視線。
それでもは気にしなかった。


「サティ、少しは分かってやってくれ」


そういうと、アシュヴィンは軽く手を振りながら踵を返した。
アシュヴィンの言葉に感謝しながら、立ち去る様子に感謝しながら、はぎゅーっと抱きしめた。

会いたかった人。
聞きたかった声。
感じたかった温もり。

もう二度と。
もう二度と、無理だと思っていたから。


「私、ずっと後悔してた……あの時、無理矢理にでもあなたを助けていればって」


「なぜだ 私はお前の敵だ」


「……好きだから 失って、初めて好きだったって気付いたの」


ぽろぽろと、瞳から零れ落ちる涙。
頬を濡らし。
肩を揺らし。
頬を染める。


「変わった者だ 敵である私を好くなど……」


「自負してます」


真っ赤な顔をしながら、は苦笑した。
変わってると、自分でも思っていた。
それでもは好きになってしまった。
止められなかった。


「ナーサティヤが、私を何とも思っていないとしても……いつか、振り向かせるから」


その言葉に、ナーサティヤは不敵に笑った。
"やってみろ"と言いたいのか、"無理だ"と"無駄だ"と言いたいのか。
それは分からなかったけれど。

けれど、挑戦的な笑みのようにも見えた。


「だから、今だけは……今日この日、あなたが生れ落ちてくれたことに感謝させて?
 生れ落ちた日に……戻ってきてくれたことに、感謝させて?」


運命のようだった。
独立して、一人居なくなったナーサティヤが誕生日に生還してくるなんて。
だから、だからこそ、この日に感謝せずには居られなかった。


「ありがとう……生まれてきてくれて ありがとう、戻ってきてくれて
 おめでとう……お誕生日」


穏やかな気持ち。
晴れた気持ち。

ずっとずっと、乱れて、沈んでいた心が、浮上した。



私はずっと……あなたを見つめているから
それだけは……生涯変わらない約束








..................end



サティっぽくない気がするが……(ハ)
一応、二月一日がサティの誕生日だったので生誕祝いに……ね。
もっと精進せねば……ああああ、書き上げたのにサティになってるか不安過ぎる;






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