いつもあなたは、あそこに入り浸り……









Taking kindly to people only by you









「イノリくん!」


「わりぃ!またあとでな!」


呼びとめては、いつもそう返してくるイノリ。
は、その度に溜め息を吐き。
けれど嫌な顔一つせず「分かった」と、背を向けて帰って行く。


「……イノリくん!今日はお願いだから、少しだけ時間空けて!」


「わりぃ!無理だ!もうちょいなんだ、ごめん、!」


やはりいつもと変わらない言葉に、は凹んだ表情を見せた。


?」


「う、ううん なんでもない……」


悲しそうにゆるく首を左右に振った。
今日はとっても大切な日。

スケートボードをやるここには、数人の女の子がいる。
もしも、彼女たちに先を越されてしまったらと思うと、は気が気でなかった。

たとえ、イノリがを選んでいたとしても。


「それじゃ……帰るね」


少しだけ寂しそうな悲しそうな表情を浮かべ、は踵を返した。
そして、イノリの言葉が来る前には駆け出していた。


「………?」


「おい、イノリ───?」


立ち去るの後姿を見つめていると、掛かった友達の声。
人懐っこいイノリは、現代ですぐに友達を作った。


「おー?何だ?」


「これ、お前の彼女の落し物じゃねぇの?」


そうして手渡されたのは、真っ赤な包装紙に包まれた箱だった。
しかし、それが何なのか現代に来たばかりのイノリは分らず首を傾げていた。


「お前…これ見ても、何なのか分からないのか?」


「え?これって何か意味があるのか?」


あまりの鈍感さに、イノリの友達たちは顔を見合わせた。


「バレンタインデーって知ってるだろ?」


「何だそれ」


意外な返事に、周りはざわつく。
バレンタインデーに関わりのない場所でずっと暮らしていたイノリは、初めて聞く単語に眉を顰めた。


「イノリくん、それくらい知ってないと彼女さんが可愛そうだよぉ?」


そう言ってきたのは、いつもイノリのスケボーの練習を見ている女の子の一人だった。


「バレンタインデーって言うのはね、女の子が男の子に気持ちを伝えて物を渡す日なの」


「つまり、お前の彼女はこれをお前に渡したかったって事だろ?」


その二人の言葉を聞き、イノリはハッとした。
いつもと違う反応は、にとって今日が特別だったから。

いつもだって、きっと今日と同じように傷ついていたはずだったのに。


「ほら、イノリくん!彼女さん追っかけて!」


「わっ、わりぃ!この埋め合わせは今度する!」


「いいっていいって!ほら、急げよ!」


「ああ!」


イノリはその箱を片手に慌てて駆け出した。
愛用のスケートボードを置きっぱなしなのにも気付かずに、慌てての後を追う。











どこに行ったんだ、の奴っ



なかなか見つからないに、イノリはイライラし始めた。
それは丁度、公園に差しかかったときだった。


「……というわけなの」


聞こえた声は聞き慣れた、愛しい声。
視線を向ければ、そこにはの姿があった。


──────…」


そう声を漏らすも、それはすぐに消えいる程小さいものだった。
それは、の隣に誰かが座っていたからだった。

見慣れたオレンジ色の頭に、イノリは誰だかすぐにピンときた。


「……… オレに内緒で何やってんだ?」


掛けられた声に、ようやく気付いたのか視線をあげた
の隣には、以前八葉として一緒に戦ってきた天真の姿があった。

それはまるで、逢引のように見えた。


「イッ、イノリくん 違うの!これは……」


「何が違うって言うんだよ!こうやって、オレが必死に頑張ってる間、オレを裏切ってたのかよ!」


弁解しようとするの言葉を聞こうとしないイノリ。
その様子に、はどうする事もなく瞳を潤ませるだけだった。


「おい、イノリ 少しは落ち着けって」


「天真は黙ってろ!人の女取ろうとしやがって!」


そのイノリの言葉に、天真はカチンと来た。
いくらなんでも、そこまで言われる筋合いはない、と。


「取られるような事してたのは誰だよ、イノリ
 ほっぽっといて、人の事責められる立ち場か?」


「んだと!?」


天真の言葉にイノリはより、怒りの炎を燃え上げた。
その二人の様子にはボロボロと涙を流しはじめた。


「も、もうやめて 私が悪かったから……謝る、から…喧嘩は止めてよぉ……」


ひっくひっく、としゃくり上げながら言葉を紡ぐ。
その言葉で、二人の熱は下がり冷静になった。


「俺はただ、の相談に乗ってただけだよ
 こいつは俺と同じ高校で友達だからな……」


「………わりぃ、天真」


「イノリが来たなら、俺は行くからな」


イノリの謝罪に天真は首を左右に振った。
そして、天真の言葉には静かに首を縦に振った。


「じゃぁな」


そう言い、天真はその場を立ち去った。
徐々に遠ざかる背中を見つめ、イノリは漸く重い口を開いた。


「オレはさ……ただ、凄いスケボーの技をお前に見せてやりたくて
 それでひたすら練習してたんだ まさか、今日がにとって大切な日だとは知らなくてさ……ごめん」


「ううん もう…いいよ」


イノリの言葉に、涙声のまま許すという
ごしごしと涙を拭いながら、必死に笑う表情は少しだけ引きつっていた。


 これ……」


「あ、いつの間に落としちゃったんだろ…」


イノリが差し出す箱を見て、ようやくプレゼントを落としていた事に気付いた。
そして、照れくさそうに自然な笑みを浮かべると。


「それは…イノリくんにあげる為に買ったやつだよ だから…イノリくんが貰って?」


「いいのか?」


「うん イノリくんに貰って欲しい」


首を傾げるイノリに、はハッキリと貰って欲しいと言い切った。
そして、イノリの腕を掴み引き寄せると額と額をくっつけた。


「ハッピーバレンタインデー、イノリくん」








......................end




バレンタインのフリー夢です。
イノリは、一つの事に夢中になると周りが見れなくなればいい。
そんでもって嫉妬深いと可愛いと思う!

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