「季史さん……最後の、お願いがあるんです」


もう、後は封印されるのを待つだけの季史にはポツリと呟いた。
焼け落ちた舞台の上で、最期の舞を見終えた直後のことだった。


?」


季史はの名を呼び、首を傾げた。
お願いの内容を聞こうと、耳を傾けていた。


「私と一緒に──舞を舞ってください」


舞は知らない。
けれど、最期なのだから一緒に舞いたいとは思ったのだ。
最期の思い出に。
季史を忘れないように。









相舞









友雅の笙、永泉の笛。
その音色に合わせ、と季史は舞を舞っていた。
季史の動きを見よう見まねをして、素人なを季史はサポートしながら。


「季史さん……私、こうやって一緒に舞ったこと、絶対に忘れない」


近くに感じる季史に、は笑顔を向けた。
視線を向ければ、すぐソコにある姿。


「私もだ もっと早くに……こうして舞いたかった」


「──どうして、もっと早くに出会わなかったんだろう」


季史の言葉を聞いて、はギュッと胸を締め付けられる思いをした。
もっと早くに出会っていれば、もっと早く思いを重ね合わせられたかもしれない。
もしかしたら、他の方法を見つけられたかもしれない。
もしかしたら、季史を死なす原因となった呪詛をとめられたかもしれない。


「どうして私は……もっと早く、京にこれなかったんだろう」


どうしてと考え出せばきりがない。
ああしていれば、こうしていればという願望は尽きることなく湧き出てくるものだ。



どうして……『好き』だという気持ちに、もっと遅く気付かなかったの?
こんな気持ち……気付いてしまえば、辛いだけなのに



怨霊である季史と結ばれることなどあるはずもない。
だからこそ、余計に愛しさが積もり、自分の首を絞めることとなる。


「私は……これでよかったと思う」


「──え?」


季史の言葉に、は目を丸くした。
好きだと思っているのは、だけなのかと。


「もし、死んでいなかったら……もし、怨霊と化していなかったら……私はそなたと会うことはなかったかもしれない
 会っていても……思いを重ね合わせなかったかもしれない」


季史は呪詛され、殺され、怨霊となった。
だからこそ、と出会い、時を重ね、思いを重ね、好きという思いを増してきた。


「だけどっ」


「私は、幸せだった…… 死してからの私の方が……きっと幸せだった」


その表情は、満ち足りたものだった。
満足げな笑みを浮かべ、を見つめていた。
つい、舞っていた身体を止めてしまう。


「季史、さん」


「そなたと出会えてよかった そなたを好きと思えてよかった
 そして……私を封印するのが、でよかった」


』と呼ぶ季史の声には胸を締め付けられた。
きゅん、と愛しい気持ちがあふれ出す。
こんなに離したくない思うのに、どうしてもそれが出来ない。


「そなたを好いたまま、消えることが出来るのは……きっと幸福なことだ
 ……だから、悲しまないで欲しい 私は……幸せだった」


その声が、その言葉が、涙をこぼれさせた。
涙で視界が歪み、季史の顔が見えなくなる。
最期の最期なのだから、季史の顔をしっかり脳裏に焼けつけたい。
なのに、それが出来ないくらいに涙が溢れてくる。


「そなたを好きになれてよかった」


ふわり……

優しい空気がを包んだ。
優しい香りがを包み込んだ。
その出来事が、余計にを泣かせてしまう。


「ありがとう、


パッと、顔を上げ季史を見つめた。
歪んだ視界の先に見える顔。
その顔を見つめ、精一杯の笑顔を見せた。



最期は……笑顔で見送りたい……



大丈夫だと安心させたかった。
最期の思い出が悲しいものだけにしたくなかった。


「私こそ、ありがとう……季史さん」


そう呟くと、はゆっくりと季史に手をかざした。
深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。


「めぐれ天の声 ひびけ地の声 かのものを──」


ふいに、季史と視線が交わった。
ニコリと微笑み、季史がの頬に触れた。



胸が……苦しいよ……



季史に、も笑い掛けた。


「──封ぜよ」


パシュッ!!

光が散り、季史の身体が包まれた。
キラキラと輝く光の粒に紛れ、季史の身体が輝き、弾けるように光に溶け込む。



愛していた……
そなたを──永久に……



微かに、そんな季史の声がに届いた。
輝く光が天に舞い昇る様子を、ただ静かに見つめていた。







...............end




二十五万ヒット感謝のリクエストの一つ、季史と一緒に舞いを舞うです。
舞ってる時間は短かったですが。(笑)
映画舞一夜の最後のシーンのイメージで書いてみましたので、最後は封印となります。(、、)
リクエストしてくださった方、ありがとうございました!

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