「景時さん」


ちゃん、どうしたんだい?」


そんないつものやり取り。
だけど、今日だけはの心境は違っていた。








あなたが生まれた日








いつも気を張っている
それは、この世界に来て間もない私にも分かっていた
景時さんが、何かを隠し大変な思いをしているのも……気付いていた

だけど、景時さんは決してそういう事を話したがらないよね



洗濯物を干す景時の後姿。
は景時の屋敷の縁側に座り、その姿を見つめていた。


ちゃん?」


「何でもないですよ、景時さん 洗濯物…続けてていいですよ」


にっこりと微笑んで、振り返る景時にそう告げる。
景時にとって、洗濯物を干す瞬間は好きらしい。
いつも鼻歌交じりに、楽しげだから。


「………そんなに見ていて楽しいかい?」


「………え、ええ ま…まぁ」


景時の問い掛けには少しだけ戸惑った。
楽しい、という訳じゃない。
だけど、この時間が苦痛というわけでもなかったから。



いつからだったかな…こんなに景時さんが気になったのは……



初めは、仲間思いの楽しげな人。
そんな印象だったのに、いつの間にか気になる人になっていた。
いつの間にか、目で追うようになっていた。


「景時さん」


ちゃん、どうしたんだい?」


「景時さんは……何を背負っているんですか?」


「─────っ」


の言葉に景時は息を呑んだ。
何も言えなくなってしまった。

誰にも気付かれていないと思っていたから。


「全てを、一人で背負おうとしているんですか?」


の問い掛けは決して厳しい口調ではなかった。
尋問とか、そういう口調ではなく、本当に柔らかな。
けれど、景時はそんな口調の問い掛けにさえ答えられなかった。


「景時さんには仲間が居るじゃないですか!大切な家族が…居るじゃないですかっ」


それなのに、なぜ頼ろうとしないの?

叫ぶの言葉は、暗にそう言っていた。
いつの間にか、は縁側に立ち上がり景時を真っすぐ見つめていた。


「一人で背負って、誰にも頼らないで……私達は何のための仲間なんですかっ!?」


「ははは…本当に、その通りだよね」


の言葉に苦笑で返す景時。
どうしてそんなにも、簡単に返してしまうのだろうか。
何が、景時をそうさせているのだろうか。


「景時さんは…何も語ってくれない」


「うん そうだね……変に、心配をかけさせたくな────」


「そうじゃないっ!!」


の言葉に苦笑する景時。
しかし、紡がれた景時の言葉を否定するようには声を上げた。


「え?」


「景時さんは…自分の事だって何も教えてくれない
 辛いことも、楽しい事も……ただ、景時さんが戦いに使う銃が手作りだってだけで……何もっ」


それが辛かった。
本当に必要とされているのか、疑ってしまう程。
何か機会があれば教えてくれる、というだけで何もなければ決して話してくれない。


「私は……私は、朔に聞くまで知らなかったんですよ?
 景時さんの……生まれた日」


ピクリ

その言葉に景時は驚いた表情を浮かべた。
この世界、生まれた日なんてあまり重視されていなかったような感じだ。
みな、年明けに一つ歳を取るのだから誕生日なんてあるはずもない。


「なんで……オレの生まれた日を知りたかったんだい?」


それは、景時の純粋な問い掛けだった。
もっと他に、知りたい事だってあるだろうに、一番に口にしたのは景時の誕生日。


「…私は、みんなとは違う 景時さんの生まれた日に、おめでとうって言いたかったんです」


それは、の我がままかもしれない、自己満足に過ぎないかもしれない。
それでも、言いたかったのだ。
「今日はオレが生まれた日なんだよ〜」と軽口を叩きながら、教えて欲しかった。


ちゃん………」


「だから、間に合ってよかったです」


申し訳なさそうな表情を浮かべる景時に、は満面の笑みを浮かべた。
そして、縁側から降り草履を履くと。


「お誕生日、おめでとうございます ハッピーバースデイですよ、景時さん」


サクサクと地面を踏みしめ景時に近寄り、ギュッと抱きしめた。
温もりを感じながら、呟くの言葉は景時の胸にジンワリと染み込んでいった。










お誕生日、おめでとうございます ハッピーバースデイですよ、景時さん



優しい声が、聞こえた───────……










.......................end




景時の誕生日フリー夢です。
仕事の事とかはしょうがないと思うけど、それ以外のプライベートなことは教えて欲しいなって。
あまり…景時さんは話してくれなさそう…(むぅ)

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