「う……うぅ……」


毎晩のように、はうなされていた。
覚えのない悪夢。
けれど、まるで実体験のように身を裂くような、心を裂くような痛みがあった、悲しみがあった。











あなたの居ない世界なんて











「こうして中つ国を復興できたのも────」



おかしい……
忍人さんの姿がどこにもない……



ようやく取り戻した中つ国。
王座に立ち演説をする最中、は忍人の姿を探していた。
高い位置にある王座だからこそ見渡せる。
けれど、どこにも忍人の姿が見えなくて不安は募る一方だった。


「────……ここまで私に着いてきてくれたみんな、力を貸してくれたみんな 本当に感謝の気持ちでいっぱいです
 まだまだ中つ国は復興途中です みんなで力を合わせて、この国を豊かで優しいいい国にしていきましょう」


演説は、うまく終わった。
何事もなく、滞りなく、すんなりと。

けれど、はこの後に待ち構えている悲しみを知らなかった。


、こっちに来ちゃだめだ」


道を遮るように立ちはだかるのは那岐。
その先に行かせないように、その先を見せないように、を押しとどめた。


「え?なんで?」


「なんでも、絶対に駄目だ」


疑問は尽きない。
なぜ駄目なのか、その理由が気になった。

けれど、ここで那岐の言うとおりにしていればよかったのかもしれない。
あんな現状を見ないほうが、きっと傷は浅かった。


「そう隠されると気になるでしょ、那岐」


ひょいっと、那岐を押しのけた。
言うことを聞き引いてくれると思っていた那岐にとっては不意打ちで。
だから、を通してしまった。


「…………え?」


歩みは途中で止まり、の瞳は地面に吸い寄せられていた。


「忍人……さん?」


何をふざけているの、と言いたかった。
けれど、以前にも倒れたことがあった忍人。


「やだっ……またそんな風に倒れて……」


まだ、大丈夫なのだと思った。
きっと、前のように破魂刀を使って倒れてしまったのだと、安堵している部分があった。
生きていればいいと、そう思っていた。


「────っ」


触れた瞬間、肩は跳ねるように揺れて慌てては手を引いた。



……今、凄く……冷たかった……



それが意味するものは何なのか、知らないじゃなかった。
だからこそ信じられなくて、信じたくなくて、もう一度手を伸ばす。


「……忍人さん?ねえ……起きてください、忍人さん」


呟きながらも、瞳に涙が溜まっていく。
信じたくないけれど、頭でちゃんと理解してしまっているのだ。
忍人の"死"を。


「嫌……嫌だ……い、や……忍人さんっどうしっ……どうしてっ」


眠る忍人に抱きつくように、腕を回した。
冷たいぬくもりが肌を刺す。
悲しみが、暗く重く心に圧し掛かる。


……離れてください」


「風早っ離してっ……嫌だ、忍人さんっ!!離れたくない!!
 桜……花見をしに行こうって……やくそ……約束、したじゃない!!ねえ、忍人さん!!」


抱きつくを懸命に引き剥がそうとする風早。
けれど、はそれを拒みながら叫んだ。

それでも男の力に適うはずもなく、の身体は忍人から離れていく。


「起きて……起きてよ、忍人さん!!約束が……違うじゃない!!
 こんなの……こんなの、私の望んだ未来じゃない!!」


後は、ただ涙が溢れ泣き叫んでいた記憶しかにはなかった。

喉が枯れてしまうほどに。
悲しみに心が囚われてしまうほどに。

最愛の人を亡くすことが、こんなにも胸を刺すものだった事をは始めて知った。









「いやっ!!!」


不意に大きな声を漏らし、は瞳を開いた。
全身にかいた汗。
瞳に浮かんだ涙。
小刻みに震える身体。


「二の姫────…………」


一度呼んだ名。
けれどすぐに、の名前を紡ぎなおす。


「忍人さん……本当に、忍人さん……だよね?」


「何を言っている?俺に決まっているだろう?」


訝しげな表情を浮かべながらも、恐怖の色を見せるを忍人は抱きしめた。
優しいぬくもり。
暖かなぬくもり。
それは生きている証拠。


「よかっ……ひっ、うっ……」


安堵した瞬間、溢れてきていた涙は滝のように流れ出た。
ぽろぽろと止まることを知らない涙は、の頬を濡らしていく。


……落ち着け 何があった?」


「分からない……けど、凄く……嫌な夢を────……見たの」


忍人の胸に顔をうずめ、呟く。
思い出せば恐怖が心を埋め尽くす。


「凄くリアルで……関係ないはずなのに……まるで本当に私が体験したみたいで……」


夢とは思えないほどに、胸を裂く夢だった。


「忍人さんが……破魂刀を使いすぎて……死んでしまう、夢……を……」


呟きながら、恐怖は蘇る。
けれど、忍人自身全く理解できない話でもなかった。

力を欲する代わりに、何を差し出すかと問われたことがあった。
死は美しき乙女の姿で舞い降りると言われた事があった忍人。
だからこそ、の話を聞いて"なるほど"と納得してしまう部分があった。


「大丈夫だ、 俺は倒れはしない 君の築く国を見つめ、守っていく」


「うん……絶対、だよ……忍人さん お願いだから……破魂刀を使いすぎないで?居なくならないで?
 忍人さんの居ない世界なんて……私、きっと耐えられない……」


ぎゅっ

抱きしめる忍人の背中に、は腕を回した。
大切だからこそ、そばに居て欲しい。
大切だからこそ、生きていて欲しい。












私の世界は……忍人さんが居るからこそ、成り立つもの
だから……決して消えたりしないで……私の前から、居なくならないで……
あんな……夢のような身を裂くような、心を裂くような思いは……したくないから……

そんな想いをするくらいなら、あなたの居ない世界なんて────……







.......................end




最後のの台詞は読者様の想像にお任せします。(うわ)
大団円EDで忍人との約束を微妙に覚えていた二人だからこそ、こういうこともありえるかなって。






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