「お久しぶりです、鷹通さん」


「…、殿?」


掛けられた声に振りかえる鷹通。
その瞳に映るのは、灰色の長髪を緩く後ろで一つにまとめた女性、の姿。
その姿に、鷹通は驚きを隠せずに居た。


「何をそんなに驚いているのですか?」


「あ、いえ…その…」


の問い掛けに鷹通は言葉に詰まった。
驚くのは当然だと言いたいが、言葉は喉に引っ掛かり出てきてはくれない。


「お変わりないお姿で、少し驚きました」










あの時のままの










「変わりないって…当り前じゃないですか、鷹通さん」


「え?」


「むしろ、鷹通さんが変わり過ぎてますよ」


いけしゃあしゃあと言うの言葉に、鷹通の戸惑いは膨れる一方。
変わりないのが当たり前で、むしろ鷹通の方が変わったという
うつろう季節、移ろう月日を考えればの発言は不可解だった。


「最後に会ってから、どれくらい経ちましたっけ…」


「六年は経ちますね」


「そんなに経ってませんよ、鷹通さん」


鷹通の答えた年数に、瞳を見開く
けれど、実質それくらい経っていたのだから戸惑いは疑問に変わった。


殿…何を仰ってるんですか」


「それは鷹通さんですよ まだ二年ほどだったと思いますよ?」


疑問は確信に。
はどこか可笑しい、と確信した。


「…殿 貴方は何を…」


大丈夫か、と肩に手を乗せようとした瞬間。

スゥ…

すり抜けてしまった鷹通の手。
その事に、当人の鷹通は当然驚き、自身も驚きを隠せずに居た。


「どうして…すり抜ける、の?」


両手を見つめ、ポツリと紡ぐ言葉。
意識は両手に集中し、もんもんと疑問が渦巻いた。



私の身体…どうしちゃってるの?
どうして…すり抜けるの?
どうして…

どうして、私と鷹通さんの言う年数が重なりあわないの?



疑問は疑問を生む。
まさにその通りだった。
鷹通の様な真面目な人間が、年数を誤って記憶しているだろうかと。


「……殿 やはり貴方は…あの時に…」


「え?」


聞こえた言葉には視線を上げた。
目に留まる鷹通は悲しみに染まった表情を見せていた。



あの、時??



思い出せない記憶にの眉間にシワが寄った。
一体何を言っているのかと、必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
それでも何も思い出せない事に苛立ちさえ覚えていた。


殿 貴方はここに居てはいけない人です」


「…どういう意味?」


鷹通の言葉に、キッと視線を返す
けれど鷹通は臆することなく、閉じようとしていた口を再度開いた。


「貴方はあの時…そう、盗賊に家々を襲われた時に…亡くなったのです」


「盗賊…に?」


ぐるぐると蘇る映像に、吐き気が襲う。
盗賊に襲われ、散り散りに逃げた村人。
そのまま行方が分からない者も、遺体として発見される者も大勢居た。

も、その中の一人…行方不明の者の一人だったのだ。


「私は……私は…この世のものじゃ…な、い?」


ワナワナと震える手。
けれど、すぐにギュッと両手を握りしめた。


「鷹通さん…私、私……」


「まさか、再会がこの様な形とは…残念でなりません」


触る事も出来ない身体。
見つめ、言葉を交わす事しか出来ない存在。


「けれど、最後に伝える事が出来るのは…天に感謝しなくてはなりませんね」


苦笑を浮かべ紡がれた言葉に、は驚きの瞳を向けた。
一体何を言っているのだと。


殿」


「鷹通、さん?」


のその声を聞き、鷹通はふわりと笑みを浮かべた。


「私はずっと好きでしたよ?殿の事が…本当に
 触れられない事は、本当に残念ですが…もっと早くに伝えられなかった事も残念ですが…
 それでも、気持ちをずっと伝えられずに居るよりは…良かったと思えます」


鷹通の告白に、の胸はドキンと高鳴る。
もう消える身。
気持ちを伝え、自覚するほど悲しい事はないだろうに。

けれど、告げず胸に秘め続けるよりは、きっと先に進めるのかもしれない。


「ありがとう…鷹通さん 私も…私もずっと好きでした
 本当は…あの日、気持ちを伝えようと向かおうとしていたんです、鷹通さんのお屋敷に」


「…そう、だったんですか」


知った事実は悲しみを増した。
もしも、もっと早く鷹通が気持ちを打ち明けていれば。
もしも、あの日鷹通がの元を訪れていれば。

もしも、もしも。

考えれば考えるほど、尽きる事のない例え話。


「最期の最期に…鷹通さんの気持ちを聞けて…幸せでした
 もう…思い残すものはありません」


「…殿 またいつか…生まれ変わっても、出会いましょう」


「…はい」


鷹通の言葉に、は瞳に涙を溜めて大きく頷いた。
時を経ても、時代が変わっても。

きっと見つけ出す。







......................end





鷹通の口調が何か違う気がしてなりません;
そしてヒロインさん、死んじゃっててごめんなさい↓↓(汗)






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