今宵はあなたの為に……









一夜限りの重なり









「その仕事、やめるつもりはないのかい?」


掛けられた声に、は視線をゆっくりと向けた。
その姿はとても妖艶で、ゴクリと生唾を飲み込んでしまうほど。


「私にこの仕事を取って、何が残るというんだい?」


くすっ

小さく笑みを零し、艶やかな髪を靡かせた。
真っ赤な口紅を塗った唇を、艶やかに歪ませる。


「確かに、私の仕事は綺麗なものじゃあないよ
 だけどねぇ、生きていくには必要なんだよ」


長い着物の裾を床に引きずり、はゆっくりと友雅に近づいた。


「色を売る事をやめて、他に職を探せばいいではないか」


「ふふふ……身体を売ってきた女を雇う所など、あるはずがないだろう」


つつつ……

伸びた爪の先で友雅の顔のラインをなぞりながら、は笑った。
他に職を、という友雅の言葉がどうしても笑えた。


「ねぇ……今日はあんたの生まれた日なんだろう?」


「ああ……そうだね」


友雅の言葉を聞くと、は有無を言わさずに唇を重ねた。


「……あんたにあげる進物がなくてね 今夜だけ、私の時間をあげるよ」


重なり合わせた唇を離し、妖艶に笑った。
ペロリと赤い唇を舐め、艶めかしく友雅を見つめる。


「それは光栄だね 君は人気者だからね……」


フッと笑みを友雅は浮かべた。
客足の絶える事のないの時間を貰えるという事は、なかなかない。
ずっと、あとの方まで客が決まっているから。


「ふふふ……好きにするといいよ、友雅」


そう告げ、は友雅に身を委ねた。













「本当に、やめるつもりはないのか?」


「くどい男だねぇ 私はやめられないんだよ……この仕事をね」


やめてしまえばのたれ死ぬだけ。
身売りをしているからこそ、お金に困らなければ食う事や家にも困らないのだ。


「なら、私にくれないか?」


「────は?何を言っているんだい?今日の時間は上げただろう?」


友雅の言葉に、はキョトンとした。
妖艶な雰囲気は、その瞬間の奥の方へと隠れていった。

布団を被ったまま、モゾリと動き友雅の方へ身体を向けた。


「そうじゃない」


「何が言いたいんだい?」


「君の人生を、私にくれないか?」


それはまるでプロポーズのような。


「それを私への進物としてはくれないか?」


まるで断らないと分かって言っているかのような、ハッキリとした言い方。
友雅の瞳を見つめ、は笑った。



こんな男……珍しい
飽きもせず通い詰めた理由は……これだね



苦笑を浮かべ、は友雅に抱き付いた。
長い腕を友雅の首に絡め、素肌のまま広い胸板に身体を押し当てる。


「いいよ あんたのそういう所……私は好きだよ」


そう告げ、唇を重ね合わせた。
一夜限りの重なりは、一生の重なりへと移ろった。













..............end




ちょっとだけエロティックに仕上げたくなったのに、そこまでエロティックじゃないという。(笑)
六月十一日は橘友雅の誕生日だったという事で、フリー夢完成!

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