「うっわー!!の世界にはこんな場所があったのか!」


初めてのイノリの誕生日。
それは、あの京で迎えたのではなく────の世界で向かえた誕生日。
あの長くも短くもあった戦いの後の幸せなひと時のワンシーン。


「やっぱり、イノリ君を連れてきてよかった」


ははしゃぐイノリを見つめ、満足そうに呟いた。








一陽来復後の些細な幸せ








「イノリ君、明日って暇?」


突然のの問い掛け。
イノリは不思議そうな色を瞳に宿したが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
好きな人と出掛けられるのだから、嬉しくないはずがない。


「ああ、暇だぜ!」


満面の笑みに、オッケーを意味する言葉。
その言葉には満足そうに微笑むと、一枚の紙を差し出した。


「なんだ?」


「うん こっちの世界にあるテーマパークの一つなんだけど……
 京の世界を思い出せるかなって思って……まあ、行ってみれば分かると思うよ!」


なんと説明すればイノリにちゃんと伝わるのか、はそれを考えた。
けれど、百聞は一見にしかずとも言う。












テーマパークの中へと足を踏み込んだとイノリ。
イノリはすべてが感動の連続だったようで、何度も何度も歓喜の声を上げていた。


「すっげぇな!!」


喜ぶ姿を見ると、本当にきてよかったと心から思えた。

時代劇のオープンセット。
それに伴い、時代劇の撮影が行われ役者が立ち回っていた。
あちらこちらに視線を向ければ、着物や武士の格好をした人達がたくさん居た。


「なんか、本当に京に戻ったみたいだよな」


懐かしむような笑顔。
姉、友達、仲間、師匠。
大切な家族が居た京を離れ、イノリは今の世界に居る。
それこそ、家族も友達も仲間も師匠も捨てたも同然に。
だから、の世界にはほとんど知り合いは居ない。
それでも、イノリは平然とこの世界に溶け込んでいた。


「やっぱりイノリ君は、あの世界に帰りたい?」


「は?んな馬鹿なことあるかよ オレが居る場所はお前の居る場所だろ?」


の問い掛けに、イノリはデコピンを一発お見舞いした。
そして、ニシシと笑みを浮かべたのだ。


「なあ、それより!」


「ん?」


「ああいう服ってオレ達は着れないのか!?」


あちらこちらを歩く人を指差してイノリは問いかけた。
やっぱり馴染みのある服装ならば、着たくなるのは当然だろう。
洋服よりも着物などの方がイノリは着慣れているのだろうから。


「そう言うと思った」


あはは、と笑いながらはイノリの手を引いた。


「こっちだよ」










のやつ、まだかよ〜」


京に居たときとは違う着物。
けれど、やっぱり洋服よりかは馴染む生地。
腕を組み、壁に寄りかかったままイノリはが出てくるのを待っていた。


「イ、イノリ君……おまたせ」


照れた声が店の中から聞こえた。
視線を向ければ、イノリの顔もほんのりと赤く染まる。


「へ、変かな?」


もじもじと、俯きながら問いかけるの様子が可愛らしくてイノリは頬が熱くなるのを感じた。

艶やかな化粧。
華やかな着物に、お姫様のような厚着。
髪飾りも華やかで、あたりを歩く人達の視線を集中させてしまう。


「い、いや!に……似合ってるぜ」


ポリポリと頬を掻きながら、照れつつも本音を告げる。
京で着物を着慣れたにとって、今来ている着物は苦痛ではなく。
周りで同じような着物を着てる人に比べると、着こなしていて歩み方も様になっていた。


「よかった イノリ君もかっこいいよ」


「ああ、ありがとな!」


照れた顔のまま満面の笑み。
その表情は、にとっては不意打ちで反則なものだった。


「けどさ、 どうしてまた、こんな場所にオレを連れてきてくれたんだ?」


「ん?あー……初心に戻るのもいいし たまには京のことを思い出すのもいいかと思って
 やっぱり、過去だけど……それでも、確かにあったことだし忘れたくない出来事だから
 それにさ……イノリ君だって、たまには京の世界に居たときみたいな服装を堂々としたくない?」


いろいろな理由を口にする
どれも本当で、偽りのない事実の理由。

けれど、一番強いのは一番最後のものかもしれない。
着物なんて、普段なかなか着ることが出来ない。
人目を気にしなければ着れるけれど、やはりこの時代は着物よりも洋服が主流だから。


「……オレのこと考えてくれてたのか」


「うん」


唖然としつつも、嬉しさが表情に移っているイノリ。
人目も気にせず、イノリはに抱きついた。


「ちょっ、イノリくん!?」


「ありがとな…… オレ、すっげー嬉しいよ!」


「私こそ……そんなに喜んでくれてありがとう
 誕生日プレゼントにって、ここに連れてきて本当に良かった」


「え?」


の言葉にイノリは素っ頓狂な声を上げ、を見つめる。
ニコリ、と優しい笑みを浮かべイノリの頬に唇を当てた。


「お誕生日おめでとう、イノリ君
 あなたが生まれてきてくれた日に……凄く感謝してる 生まれてきてくれて……本当にありがとう」


この世界に来て幾分か経った。
だから、の言ってる言葉が理解できなくないイノリ。
照れ気味の微笑みを浮かべ、キスされた頬に手を当てる。

そして、至極嬉しそうな笑みを浮かべる。


「ありがとう……祝ってくれて」










...................end




たまにはイノリの故郷?を懐かしむのもいいんじゃないかなと。
ということで、八月十八日はイノリの誕生日だったのでフリー夢をお送りしました!!

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