「トリックオアトリート!」


「……それは?」


ひょっこりと姿を現したは、白い歯を口元から見せ笑みを浮かべていた。
のいた世界で着るであろう黒いマントの代わりに黒い薄衣を羽織り、両手を弁慶へと差し出す。
いったい何なのだろうかと、弁慶は首を傾げていた。


「私の世界にあるイベントですよ、弁慶さん」


「いべ……?ああ、祭りのことを言うさんの世界の言葉でしたね」


一瞬何のことだか分からなかった弁慶だったが、すぐにが以前話していた話を思い出した。
の世界には、弁慶も知らない言葉がたくさんあるという。


「はい!ということで、トリックオアトリート!」


「──……さん?」


「はい?」


呟くに申し訳なさそうな視線を向ける弁慶。
その理由が分からずに、は首をかしげ弁慶の瞳をジッと見つめた。
わくわくと、期待を込めた瞳で。


「期待してくれるのは嬉しいんですが、『とりっくおあとりーと』というのはどういう意味なんですか?」


「……あ」


その問い掛けで、ようやく弁慶が申し訳なさそうな視線をしていたことには気付いた。
説明しなければ英語なんて弁慶たちが知るはずもないのだから仕方がないのだが。
は少しばかり申し訳なさそうに微笑を浮かべるしかなかった。











いつの間にかに立場が逆転











「『トリックオアトリート』というのは、お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞって意味なんです!」


ニッコリと笑顔では弁慶にその意味を説明した。
だから何か下さいな、とは両手を弁慶に差し出した。
何かもらえないかとドキドキとする。
このとき、は何かもらえなかった時はどうするかという事をまったく考えていなかった。


「……悪戯、ですか?」


「はい!悪戯です!」


問いかける弁慶に力強く頷き返す
弁慶の浮かべる笑みの下、何を考えているのかはわかっていなかった。


「お菓子をあげないと、さんはどんな悪戯をするんですか?」


「──……え?」


そんな答えを予想していなかった。
だからこそ、間抜けな声が口をついて出てきた。



えええええ!?
ど、どうしよう!?そんなの全然考えてなかったんだけど!?



もしもお菓子をもらえなかったら──その時の事を慌てて考え始める
けれど、慌てている所為か考えはまとまる気配をみせない。


さん?」


「ええと……その……」


首を傾げる弁慶に、口ごもる


「考えていなかったんですね?」


「うぅ……はい、そうなんです」


図星をさす弁慶の言葉に、は悔しそうに声を漏らしつつも頷き認めた。
確かに考えていなかったのは事実なのだから。


「で、でも!今までは……というか、元の世界ではほぼ貰えてたんで考えるという事をしていなかったから……」


考えていなかった理由はそれだった。
考える、という事がなかったのだから今だって考えるという事をするはずがない。
そういう考えが頭にないのだから、当然の行動だ。


「責めているわけじゃないですよ」


笑顔で弁慶は言った。
その言葉には嬉しそうに微笑むものの、お見通しだったことにちょっと苦笑を浮かべていた。


「それで、申し訳ないんですが……何も用意できないんですが?」


「え……あ……」


言われて少し、間を空けた。
すぐには返事を返せなかったのだ。
何も用意できないという言葉イコール、悪戯をするということだから。


さんは、僕にいったいどんな悪戯をしてくれるんですか?」


「──っ」


どんな悪戯にしようかと、悩む。
まとまらなかった考えは、余計にこんがらがっていく。


さん」


「はい?」


掛けられた声に、は眉をひそめながら顔を上げた。
いつの間にか悩みながら俯き始めていたらしかった。


「──っ!!」


そして、顔を上げた瞬間唇に感じた感触に息を呑み、両手で口元を覆った。


「べべべべ弁慶さん!?」


上ずった声。
どもってしまう言葉。
そして、顔を真っ赤に染め上げて弁慶を指差す


「何もあげられないんで、悪戯です」


「それは私がするはずだったんです〜〜!!」


恥ずかしさでいっぱいいっぱいな
泣きはしないものの、瞳には薄っすらと涙を溜めていた。











.................end




悪戯しようと必死な主人公に不意打ちをぶちかませ!みたいな、ハロウィン夢w
……っぽくないような気がする、書き終えた直後でした。(ぉぃ)

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