目を覚まして……













悲しきまぼろし













「……あれ?ここ、は?」


あかねは突如変わった景色に首を傾げていた。
あかねは、天界の主催者である『北斗星君』により天界に連れてこられていた。
しかし、八葉を取り戻すために四方に歩き回っていた際に見つけた『夢の小箱』を開いたあかね。
瞬間、意識は一瞬遠のき目の前に広がる景色はいっぺんしていた。


「……ついて来たのか?」


掛けられた声に、あかねは視線を背後に回した。
そこに立っていたのはヒノエだった。


「ヒノエくん ここ……どこ?」


「ここは、オレが居た世界だよ」


あかねの問い掛けにヒノエは苦笑を浮かべた。
すると、ヒノエの後ろから駆け寄ってくる人の姿にあかねは気がついた。


「あれ?」


「うん?どうしたんだい?」


「あ……ヒノエくん、後ろから────」


「ヒノエくん!!!」


あかねが言い終わるよりも先に、背後からヒノエに抱きつく人影があった。


!?」


「やっと目覚めたんだね!」


抱きつきながら身体を離し、愛おしそうな表情でヒノエを見つめる
その様子に、あかねは多少ながら赤面した。


「目覚め、た?」


「そうだよ ずっとヒノエくんは眠っていたんだよ」


は、まるであかねが見えていないように話を進めていた。
ちゅっとリップ音を立てて、ヒノエの頬にキスを落とす。


「どういうことだい?ここはまだ天界のはずじゃ……」


「天界?いったい何の話?」


「……元の世界だとしたら、ここにあかねが居るはずがないだろう?」


「あかね?誰のこと?」


まったく話がかみ合わない。
呟くはわけが分からないと首をかしげ、本当にあかねが見えていないようだった。


「ずっと目覚めるのを、私は待ってたんだよ
 早く、唇を重ねたかった 早く、熱を重ねたかった」


甘く、熱っぽい声色で話す
唇と唇が合わさりそうになったとき、ヒノエはの身体を引き離した。


「ヒノエくん?」


「お前は────誰だ?」


「私はだよ 何を寝ぼけたことを言っているの?」


ヒノエの問い掛けに、はキョトンとした。
その表情も、その仕草も、愛したに変わりはなかった。


「お前は……じゃない」


「…………」


ヒノエの言葉に、は無言になった。
無表情になり、そしてすぐに微笑を浮かべた。


「私はだよ だけど、私はヒノエくんの記憶の中のにすぎない」


「……北斗星君の作り出した幻って事?」


の言葉に、ようやくあかねが問いかけた。
すると、さっきまで見えてなかったような態度は一変しは苦笑した。


「そういうことになるね だけど、記憶から作り出された私は確かにヒノエくんの知ってる本人でもあるんだよ」


肩をすくめ、苦笑を浮かべた。
呼び起こされた記憶。
それは、ヒノエにとっては心地よい幻になる。


「私は確かにヒノエくんを愛してるよ ずっと触れたかった
 それは、ヒノエくんの願望でもあって、私の願望でもある」


「……


幻だけど、幻じゃない。
だけど、じゃない。

その事実に、ヒノエは少しばかり悲しげな表情を見せた。


「ヒノエくん……しっかりして」


「ああ 分かってる 大丈夫さ、あかね」


心が崩れそうなヒノエに元気付ける言葉を掛けるあかね。
そんなあかねに苦笑を浮かべ、ヒノエは頷いた。


「オレは……神子姫様を取り返して、必ずお前の元に戻る」


「うん」


「だから……それまで、何が何でも……」


「待ってる」


「────っ」


微笑むに、ヒノエは息を呑んだ。
どうして、自分の記憶のはこうも欲しい言葉をくれるのだろうかと。
それは、ヒノエがそう記憶しているから。
けれど、それは確かにがそう返事を返してくれると分かっているから記憶できていること。

本当だけど、本当じゃない。
本当じゃないけど、本当。


「ヒノエくんの世界に居る私は、このことを知らない だけど、きっと"待ってる"と言うと思う」


「ああ はそういう奴だ」


はっきりと言い切るに、ヒノエも頷いた。
は強い。
何があっても、大切な人を信じ続ける。


「負けないで」


「当たり前だろ?お前に会うまでは、お前の元に帰るまでは────……絶対にくじけたりしない」


はっきり言い切るヒノエ。
瞬間、空間は揺らいだ。
視界がぼやける中、最後に見たは────















確かに、微笑んでいた。














...................end



遙かなる時空の中で 夢浮橋を購入したので夢っす!!
ヒロインを望美にするのもいいかなと思ったんだけど……やっぱりオリジナルヒロインにしてみた。
こういう幻も意外にいいんじゃないかな……(苦笑)






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