忙しいあなたのために、私に出来ること
私にしか……出来ない事












邁進する目的は













「弁慶さん」


「すみません、さん またあとにして頂けますか?」


「…………分かりました」


それがいつものやりとり。
清盛との戦いが終わり、夫婦となったと弁慶。

しかし、薬師としての仕事が忙しく一緒にいられるのはごくわずか。



弁慶さん…私と居ると、いつも辛そうな顔ばっかり……
今日くらいは笑わせたかったのになぁ…



溜め息ばかりが口をついて出てしまう。
時刻は刻一刻と進んでいく。


「少し……出かけてきますね、弁慶さん」


そう言い残すと、は家を飛び出した。
行く宛てなんてどこにもなかった。

ただ、自分の無力さに悲しみばかりが込み上げてきた。


「あれ、?こんな所で一人でどうしたんだよ?」


声を掛けてきたのはヒノエだった。
楽しそうな声、楽しそうな表情、楽しそうな仕草。

ヒョッコリという効果音が似合いそうな勢いで、ヒノエはの前に姿を現した。


「ヒノエくん……」


「姫君、元気ないみたいだね」


へこみ気味のの様子に、ヒノエは苦笑を浮かべた。
ここまでがへこむのは、弁慶が原因だとヒノエは分かっていた。

恋敵。
けれど、決して勝つことのできないさだめ。


「うん…弁慶さんが、ここのところずっと忙しくて……」


「ここのところずっと、じゃないだろ?」


「う……ヒノエくんには隠せないなぁ」


の嘘を即座に指摘するヒノエ。
は肩をすくめ、参ったと言わんばかりの口調で呟いた。


「何年の付き合いだと思ってるんだよ それに、姫君よりあいつの事は知ってるつもりだぜ?」


叔父と甥の仲、というのもあるけれど。
きっと八葉としての仲間の絆が強いから。


「私さ……弁慶さんにふさわしくないんじゃないかなって思うんだ」


その言葉にヒノエは驚きの表情を浮かべた。
強い強い白龍の神子様らしからぬ発言に、目を丸くするも。



ああ……そうだった
これが本当のだったんだよな…



苦笑して、再度確認。

守りたいと願うからこそ、強く在れた
どんなに強く見えていても、普通の女の子。
大好きな人の態度をいちいち気にしてしまう程、恋に恋する女の子だったのだ。


「弁慶さん、私といると……いつも辛そうな悲しそうな顔をするの
 なんだか……私、本当は帰った方が良かったんじゃないかって─────」


思っちゃって、と言葉にしようとした
けれど、ヒノエの抱擁により言葉は闇へと消えていった。


「ヒッ、ヒヒヒヒヒヒ、ヒノエくんっ!?」


驚きから声がドモってしまう。
目を白黒させながら、は自分を抱き締めるヒノエの名前を口にした。


「そんな事あるはずないだろ?
 そんな事言ってると……オレがを攫うからな?」


耳元で聞こえるヒノエの声に、の胸がドキドキと高鳴った。

ビクリ

耳元の低音に、肩が跳ね上がる。


「ヒノエ、何をしているんですか?」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」


聞こえた声に、の肩が先ほどよりも大きく揺れた。
パッと視線を向ければ、怒りの形相の弁慶の姿がそこにはあった。


「べっ、弁慶さん……」


「何って、抱き締めあってるって見て分からない?」


怒る弁慶に、いけしゃあしゃあと言い放つヒノエ。
その言葉に、かすかに弁慶の眉が跳ね上がった。

滅多に見られない、弁慶の怒りの様子には何も言えずに居た。


さん あなたはヒノエの方がいいというのですか?」


「─────っ」


弁慶の言葉に、の口が開く。
けれど、声は出ず言葉にはならなかった。


「何も言わないという事は、そういう事だととらえますが?」


じわり

涙が込み上げてくる。
肩を揺らし涙をこらえる様子は、抱き締めるヒノエに直に伝わる。


「姫君?」


「だ……って……」


震える声で、は言葉を口にした。
その言葉に弁慶は耳を傾け、ヒノエもゆっくりとを解放した。


「弁慶さん……私と居ると、いつも辛そうで悲しそうで……
 私っ、私なんかいなければっ……」


「………そんな事ですか」


「そんな事って……!!!」


の言葉に、盛大に溜め息をつく弁慶。
その言葉にショックを受けたは、声を大きく上げた。

簡単に切り捨てられてしまったようで、心が悲鳴を上げる。


「僕にとってはそんな事ですよ」


ぎゅっ

けれど、そんな心を温かく包み込むように弁慶の香りが近くでした。
気付けば、はいつの間にか弁慶の両腕にすっぽりと包みこまれていた。


「弁慶、さん……?」


「ただ、僕は……幸せすぎる今に…不安になっているだけです
 幸せだった京を壊してしまったように、さんを壊してしまうんじゃないかと…怖いんです
 僕の想いだけで、さんをこの世界に引きとめてしまい……僕の想いだけで夫婦の契りを交わして……」


抱き締める弁慶の腕に力が籠った。


「いつか、さんが離れてしまうんじゃないかって…
 だから必死に仕事をこなして、さんを満足させられるような男になろうと………」


「弁慶さん……」


その答えに、はふわりと微笑んだ。
それこそ、にとっては『そんな事』だったのだ。


「私は後悔していませんよ?
 弁慶さんがどんな罪を背負っていようと、どんな罰を受けようと……私はずっと傍に居ます」


抱き締めてくれる弁慶の身体を、今度はが抱きしめ返した。


「全く、も弁慶も手が焼けるよな」


「ヒノエ…」


「ヒノエくん……」


そんな二人を見つめ、肩をすくめて苦笑するヒノエ。



まったく、オレも損な役回りだよな…



そんな風に思いながらも、今の現状に満足してしまっているのも確か。
それは、きっとこんなと弁慶を見ているのが好きだから。


「あんたも、今日くらいは仕事はなしにしての話くらい聞いてやんな」


そう言い捨てると「じゃあな」と一言告げ、ヒノエは背を向けた。
立ち去るヒノエの背中が徐々に小さくなっていく様子を、は弁慶と一緒に見つめていた。


「……話?」


すみません、さん またあとにして頂けますか?


弁慶は、自分がにそう言った事を思い出した。
それはつまり、が何かを言おうとして声を掛けてきたという証拠。


「すみません、さん いつも……あなたを後回しにしてしまって」


「いいんです、弁慶さん こうやって、いつか話を聞いてくれるって私は信じてましたから」


謝る弁慶に、はニッコリと微笑んで首を左右に振った。

好きだから信じられる。
信じられるくらい、好き。


「言いたかったのは、たった一言だったんです」


「一言?」


「はい」


そう頷くと、は弁慶に両腕を伸ばした。
その腕で弁慶の首に絡み付くと、ゆっくりと顔を近づける。

チュッ

の唇が、弁慶の頬に軽く触れた。
それだけでは頬を赤く染め、弁慶も嬉しさに頬を染めた。


「弁慶さん───────」



こうして、あなたが笑ってくれることが………



「───お誕生日おめでとうございます」



私の──────…幸せです












........................end




弁慶さんの誕生日、という事でフリー夢小説を書きました!

忙しい弁慶さんと、その奥さん神子です。
弁慶さんは想いが空回りする事もあればいいなーと思います。
それが神子の事であれば、なおグッ♪です。

弁慶は自分の罪やら罰やら、神子を戦の世界に引きとめてしまった事など…いろいろ気にしてくれれば嬉しいな。
そんな弁慶さんを神子は優しく包み込めばいいんだ。
でも、時々ホームシックになったり、そんな思いをするのは自分が傍に居るからだとか思ったり、凹んでくれたら嬉しいな。
そんな時は神子を弁慶さんが優しく包み込むんだからv

そんな弁神子が大好きですv

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