「オレの……ワギモ……」


「……遠夜 どうしたの?」


眠っていたの耳に届いた声。
ゆっくりと瞳を開き、ベッド脇に座る遠夜に視線を向けて問いかけた。

人となった遠夜の声は、すべての者に届く。
そして、への執着は周りを赤面させるほどだった。










待つことのもどかしさ










「オレは……ワギモのために何も出来ない……」


「そんな事ないよ、遠夜 そばに居てくれるだけで心強いもの」


瞳を柔らかく細め、心配そうな眼差しを向ける遠夜を見つめた。
人となりとともに居ることを選んだ遠夜は、以前の土蜘蛛のときにあった力を持ち合わせない。
前ならば簡単に出来たことが今は出来ず、それが遠夜はもどかしかった。


「ワギモ……だけど、ワギモは……今、辛い」


「うん、そうだね だけど……これは人ならば経験することだよ だから……大丈夫」


辛いけど、大丈夫だと気丈に笑った。
元の世界のように、薬を飲んで安静に……なんて行かない世界。
薬があっても、元の世界に比べてかなり劣る。

それでも、は治ると知っている。
元の世界でもよくかかり、薬なくして治ってきた病。


「ただの風邪だから ね、遠夜……そんな心配するほどの事じゃないよ?」


布団の中に閉じ込めていた手をゆっくりと出し、遠夜の頬に添えた。
布団の中で暖められた手。
けれど、体内にたまった熱で余計に手は暖かくなっていた。


「神子の手……熱い」


「うん これは、治る為に身体が熱を放出してるからだよ」


「……大丈夫 ワギモは……治る、元気に……なる」


呟く遠夜に、はニッコリと微笑んだ。
知ってる病。
知ってる治る方法。
だからこそ、気丈に居られる。


「遠夜」


「……どうした?」


暖かい手を遠夜は握り、の顔を覗き込む。


「眠るまで……そばに、居てね?」


「……ワギモが……望むなら……」


遠夜の答えを聞きながら、は意識が遠のくのが分かった。
うっすらと、視界がぼやけ薄らぎ、遠夜の顔が声が遠のいていく。

後は、闇が意識を侵食していくだけだった。











「────ぅ……ん」


閉じていた瞳に力を込め、それからゆっくりと開いた。
ぼやけた視界に飛び込んできたのは、天井。
それから視線を横にずらすと、の手を握り締めたままベッドに上半身を預け眠る遠夜の姿があった。



……ずっと、そばに居てくれたんだ



瞳を細め、嬉しそうに愛おしそうに見つめた。
眠るまでと言ったのに、遠夜は離れずにそばに居てくれた。
きっと、起きるまで、治るまでそばに居るつもりなのだろう。



……遠夜ならやりかねないね



くすっと笑みがこぼれた。


「ありがとう 私の大事なお医者さん……私の大事な……運命の人」


ごろりと寝返りを打ち、は遠夜の方を向いた。
顔が近づき、その寝顔がよく見える。
綺麗な顔に、うっとりと見蕩れ────……また静かに眠りの中へと落ちていった。












...................end




前なら簡単に治せた怪我や病気が治せない遠夜は、きっと葛藤することが多くなる気がする。
その度にもどかしさを覚えながらも、きっと懸命に元気になるのを祈るんだ。(ぉ)






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