「あの……」
何故、このような事になっているのか布都彦も──そしても分からなかった。
二人に与えられたのは、たった一枚の布団。
「……っ」
向き合う形でその場に座り、布都彦は俯いていた。
顔を真っ赤にさせて。
時刻は〇時を回ったところだろうか。
真夜中の愛を知らない
「、ちょっといいですか?」
掛かった声に振りかえる。
そこに佇んでいたのは、楽しげな笑みを浮かべた風早の姿だった。
「ん?何?風早」
立ち止まり、掛かった声の方へと身体を反転させた。
明るい髪の色がの瞳に止まり、そしてまたの柔らかな髪に反射する光に風早は瞳を細める。
「布都彦が、あなたに話があるそうですよ?」
「こんな遅くに?」
「ええ なんでも緊急のようでして……」
もう辺りは暗くなってしまった時刻。
寝るには早く、けれど何かをするには過ぎ過ぎた時刻。
一体何の用かな?
首をかしげ考えても答えなんて出てこなかった。
答えを持っているのはでも風早でもなく──布都彦だ。
「分かった 行ってくるね」
「気をつけて」
「天鳥船の中なのに変なの」
苦笑を浮かべながら背を向けて、後ろに居るであろう風早には手を振った。
コンコンコン。
「は、はい!」
「失礼しまーす」
ノックに対して帰ってきた返事に、その部屋の主が居ると分かった。
は軽い口調で告げるとドアを開き、部屋の中へと入っていった。
「布都彦、どうかしたの?風早から緊急の話があるって聞いたんだけど……」
首を傾げるの姿に、布都彦の顔は一気に真っ赤に染まりあがった。
それが何なのか分からず、熱でもあるんじゃないかとはあっと口を開いた。
「ちょ、顔真っ赤だよ!?熱でもあるんじゃないの!?」
「なっ、何でもありません!本当に……熱はありませんから!」
近寄り布都彦の額に手を当てるに、布都彦はドギマギしながら答えた。
の手を握り強く呟き──その行動にまた顔が赤くなる。
「ふ、布都彦?ほんとに大丈夫?」
「は、はい ご心配おかけしました」
ドキドキと早鐘を打つ心臓はいまだ布都彦を解放していなかった。
何度も深呼吸を繰り返しながら、に何かを言おうと口を開いては閉じるを繰り返していた。
一体どうしたっていうの?
まったく状況が掴めないは首を傾げたまま布都彦の言葉を待った。
真っ赤になる布都彦。
どもる言葉。
必要以上に言葉を選び、時間がかかる。
その要因に、期待をせずにはいられなかった。
「布都彦……」
「殿!その……お慕いしております!」
「えっ」
ガシッと布都彦はの両手を握りしめ、強く言いきった。
言葉を理解し、の顔も真っ赤に染まりあがっていく。
「皆が殿の事をよいと言っていたので……」
取られたくなかった、と布都彦は告げた。
誰よりも早くに思いを告げ、出来ることなら側に居たいと居てほしいと。
「あの……私も、布都彦の事好きだよ?」
真っ赤な顔をしながら握りしめる布津彦の手を頬に近づけた。
スリスリ……
柔らかく頬づりしながら、その武人独特の手の感覚を味わう。
「殿!?やめて下さい、汚いですっ」
「汚くなんかないよ」
汚くなんてない。
決して、穢れてなんていないとは思った。
どんなに血で両手を、身体を汚していようと──それは、この時代だから仕方のない事。
「それに、それを言うなら……私だって穢れてる」
布都彦がそうだというのなら、それは同じく武器を持つにだって当てはまる。
守られているばかりじゃ嫌だというは、自ら武器を取り敵と相まみえた。
傷をつけられることもあったし、傷をつけることもあった。
殺されかけることだって、殺す事だって、勿論あった。
「殿……」
「言ってくれて、嬉しかったよ……布都彦」
慕っているなんて言葉、布都彦の口から聞けないとばかり思っていたのだ。
あの布都彦の事だから、きっといろいろと考えばかりが先走って躊躇ってしまいそうだとばかり。
「うっしゃあ!」
「「!?」」
そんな中、突如上がった第三の声に布都彦とは顔を見合わせた。
その声は聞き覚えのあるものだった。
「サザキ!?」
「よーやくくっ付いたな、お二人さん」
にやりと楽しげな笑みを浮かべ、サザキは布都彦の部屋の中へと入ってきた。
いきなりの登場に驚き、そしていい雰囲気を壊されたことに少しだけ表情が膨らむ。
「いったい何?」
「いんや ちょっと置いてくもんがあっただけさ」
「はい?」
首を傾げるにサザキは笑いながらズカズカと部屋の奥へと入っていく。
そっちは確か……
一体何がしたいのか分からず、布都彦とは顔を見合わせ首をかしげた。
向かった先は布都彦の寝屋だ。
けれど、寝屋に何を置いていくのかが分からない。
「……サザキ?」
と、寝屋から戻ってきたサザキの姿にが声を漏らした。
「んじゃお二人さんはあっちにな」
「なっ!?」
「きゃっ」
サザキの言葉と同時に二人の背中は寝屋の方へと押された。
倒れた時の衝撃を想定したのだが、痛みは来ない。
「……布団?」
「……のようですね」
の言葉に布都彦は頷き──固まった。
「布都彦?」
「いいいいいい、いえ!な、なななななななんでも!」
真っ赤な顔をして背を向ける布都彦に首をかしげただが、すぐに理由が分かった。
分かればも顔を真っ赤にせざるをえない。
だって……これ……
寝屋には布団は一枚。
けれど枕は二つ。
それはつまり……つまり。
「「……」」
何も行動する事も出来ず、固まる二人。
刻一刻と時間は流れ。
いつの間にか時刻は〇時を越していた。
「あの……私、やっぱり帰った方が……」
もう、サザキ達は部屋の前から居なくなっていることだろう。
寝屋に押し込められた直後、慌てて部屋のドアに向かったのだが開かなかったのだが。
あれからすでに時間はある程度立っていたから。
「あ、あの!」
立ち上がろうとするの腕を引き、布都彦はの身体をギュッと抱きしめた。
「私、は……殿がよければ……」
「布都彦……」
言って、顔を真っ赤にする布都彦には苦笑した。
そして頬へと口づけを落とす。
「私も……布都彦さえよければ、いいよ?」
ゆっくりと腕を伸ばし、布都彦に密着した。
女性独特の柔らかい身体が布都彦に押し付けられ、ふくよかな胸の柔らかさに布都彦の心臓は高鳴りをあげた。
思いを通じ合わせてすぐこのような行動に出るのは、少し躊躇いがあった。
けれど好きだった時間は長く、何度も触れたいと思っては躊躇った。
だから、反動が大きかったんだ……
内心納得しながら、近づく布都彦の顔に気づきは瞳を閉じた。
口づけは承諾の合図。
「……ん、ふぅ……」
口づけはゆっくりと深くなり、角度を変えて口内を犯す。
粘着質な音を奏で、その身体はゆっくりと横たわる。
「んっ」
身体を這う手は、に快感を与え熱を上げていった。
口づけの合間に零れる声は、徐々に甘さを見せはじめ──
「殿っ」
布都彦はと一緒に、溺れた。
「……殿」
隣で眠る愛しい人の髪を布都彦は撫でた。
柔らかく透き通る髪を指先で梳きながら、微笑む。
「こんないきなりで申し訳ない ですが、本当に愛しております」
言って、の額に口づけた。
目が覚めたら言うよ、布都彦
『お誕生日おめでとう』って
一番愛しい人……私の大好きな人
あなたの誕生日に、一つになれたこと──私は嬉しく思うよ
.............end
四月八日は布都彦の誕生日ということで、こんな話を書きあげてみました!(///)
いやはや、ちょっと色ものになりましたが……恥ずかしや(苦笑)
敬語とそうじゃないのとどっちがいいかなって思ったんだけど、敬語にしてしまった(笑)
駄目だ、一度後で布都彦ルートやり直さないと(汗)
D.C.様でお題をお借りしました。
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