お願いっ

私を──────…私を…………











置いていかないで











「っ!!!」


それは、いつもの夢。
何度も何度も繰り返し見る、覚えのない出来事。

目を開き、飛び起き、辺りを見渡した。
そこにあるのは、いつもと変わり映えのない弁慶の部屋だった。


「どうかされましたか?さん」


その声に、ハッと視線を向けた。
そして同時に胸を湧き立たせる安堵感と、涙。


さん?」


腕を伸ばし、弁慶に必死にしがみ付く。
そこに居ることを確認するように、どこへも消えていかない様に。


「弁慶…さん 本物ですよね?本当に……ここに居ますよね?」


「何を言ってるんですか 僕はずっとここに居ますよ?」


の震える声に、弁慶は静かに抱きしめ返した。
そのぬくもりはをとても安心させた。


「…すみません 遊びに来たのに寝ちゃって…しかも、こんな変なこと……」


「構いませんよ その分、さんの寝顔を見れましたし、こんな風に抱きしめ合えましたから」


役得ですよ、と楽しそうに笑う。
その顔を見ていると、夢の内容が鮮明に頭をよぎる。


皆っ!帰ってきたんですね!



扉の向こうから戻ってきた九郎達を駆け寄って出迎える私…



……弁慶さん、は?



九郎達の中に、弁慶の姿がないことに気づく私



彼はもう……いない 戻らない



悲痛な声で、必死に言いたい事を伝えてくれた……白龍



そんな冗談……信じられるわけ……っ
 私っ、私、探しに行きますっ



駄目だ、神子
 もう、あの扉は時空の狭間にも、この現世にも……どこにも存在はしない




その言葉を聞いて、息が詰まる感じを覚えた私
膝が揺れて、目の前が真っ白になって……涙が………
涙が─────……

止まらない……

それからの出来事を私はよく覚えていなくて……だけど、いつもいつも…思っている事があった
一人、自室のベッドの中に入って、閉じこもって…………私は……



弁慶さんっ 弁慶…さんっ
 私を────…私、を…置いていかないでっ!!!



さん?」


思い返していれば、聞こえた弁慶の声にはパッと視線を上げた。
今にも泣きそうな顔のを見て、弁慶は強く抱き締めた。


「ごめんなさい…なんでもないんです ただの…夢
 何でも……ありませんから」


そう言うのに、声は震えていた。
何でもないのに、震える声はが嘘をついていると知らせるもの。


さん 僕にも言えない事なんですか?」


「違う…そうじゃなくて 本当に……本当に、嫌な夢を見てしまっただけで…」


「それが原因で、最近眠れなかったんじゃないですか?」


弁慶の言葉に、ヒクッとは身体を震わせた。
その言葉は図星で、夢を見ては飛び起きて、その闇に脅える毎日。

バレンタインが近づくにつれ、バレンタインに渡せるのかと、夢が現実になるんではないかと怯える日々。


「弁慶さん……お願いです、これを受け取ってください
 そうすれば…そうすれば、安心出来るんですっ」


スッと弁慶から身体を離した
弁慶に差し出したのは金に近い茶色の包装紙に包まれた箱だった。


「それで…本当にさんは安心できるんですか?」


弁慶は、箱を受け取りながらもそう問いかけた。
渡せるのかという不安は取り除かれることは確か。

けれど、それで根本的な深く根付いた不安は取り除かれるのか。


「─────…ハッピーバレンタインデー 弁慶さん
 私は……大丈夫ですから だから、これを受け取ってください」


ニコリと微笑み、大丈夫だと言い張る
その姿が痛々しくて、言えないのは口にするのが怖いと思っている証拠で。

弁慶はそれ以上、言う事を強制できなかった。


「ありがとうございます…さん
 また来年も……僕にくれますか?」


だから、そう問いかけて来年もあるんだと安心させることしか出来なかった。


「…勿論です、弁慶さん」


そうやって微笑むに、弁慶は微笑みを返すだけ。



さん……あなたという人は………









....................end




バレンタインフリー夢です。
不安的話は解消されていないという…次回に続く!てきな感じを覚えさせる終わり方にしてみました。
パラレルワールド的な…他の世界でのバッドエンディングを夢で見る話を絡ませたかったのです。(うわ)
そして、そんな不安な中バレンタインを渡して…来年もと約束をさせたかったのです。

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