「ご命令を……ごめ、いれい……を……」


機械のように呟き続ける痛々しい姿。
瞳は生気を見せず人形のようで、その瞳には光を映しては居なかった。


「銀……しろ、がね……どうし、て……」


折角救えたのだと思った。
なのに目の前には、心を失った悲しい姿が一つ。



私は……救えなかった……
銀を……救え、なかっ……



悲しみが胸を締め付ける。
涙が溢れんばかりにこみ上げてくる。
止まることを知らない滝のように。


「ご命令、を──……」


その銀の機械のような声が、の堪えてきた糸を切った。


「しろが……っう、あ……」


?」


小さく呟いたの声に反応したのは、対である朔だった。


「──っうあああああああああ!!」


両手で顔を覆い、涙を零しながら地面へと突っ伏した。
喉が潰れるんじゃないかと思うほど、悲痛な、大きな泣き声。
その泣き声に、八葉全員が気付き──そして何もすることも出来ず、ただ泣いているを見つめることしか出来なかった。











おかえりなさい











はどこにいる?」


誰に問いかけるわけでもなく、その場に居る全員に問いかけたのは九郎だった。
銀が心を失ってから数日、の姿がどこにもなかった。


「たぶん……銀殿とあの場所じゃないかしら」


頬に手を当て、考えながら朔は答えた。
それが一番、予想しやすい答え。


「……やはり……あそこか」


敦盛も、予想的中だったらしくポツリと呟いた。

銀が心を失ってすぐ、弁慶の指示通りに銀を屋敷へと連れて帰った。
真冬の寒さでは、あのまま放置しておくことも出来ず。
だからと言って、何か出来るわけでもなく食事も取れなければ衰弱していくのを待つしか出来ない。
いつ命のともし火が消え、土に埋められるかもしれなくても。

それから、は幾度も幾度も銀を連れて最後に心を失った場所へと足を赴けていた。


「……さんも、きっと辛いでしょうね」


「だが、いつか乗り越えなければならない壁だ」


弁慶の言葉に、リズヴァーンは少し考えたのち少しだけ厳しい言葉を紡いだ。
誰もが思っていたけれど口に出来なかった言葉。


「春日先輩は……ちゃんと乗り越えられるんだろうか……」


譲はそんなことを思い、晴れた空を見上げた。











「銀 今日もまだ……帰ってこないの?」


震えて掠れた声が銀に向けられた。
は小さく呟き、ゆっくりと指先で銀の頬に触れた。
柔らかい感触、暖かい温もり。
けれど、寒さに当てられてきた銀の頬は少しだけ冷たくなっていた。


「やっぱり……逆鱗を使って、時空を越えなきゃ駄目なのかな……」


首にかけていた逆鱗をギュッと掴んだ。
いつもこれで時空を越えて、仲間を救ってきた
何も知らない、まだ何も築き上げてきていなかった仲間との再会はには辛いことの連続だった。
どんなに好きあってきても、どんなに心が通じ合い始めてきていても、すべてはゼロに戻される。


「六波羅で会った事も忘れちゃってるのに……今までのことも全部忘れられるなんて、そんなのっ」



悲しすぎるっ



築き上げてきたものは、とても大切な思いばかり。
そう易々と捨てることの出来ないものばかりだった。
このまま奇跡を待ち続けるか、それとも時空を越えて新たに絆を築き上げながら銀を救うことを模索するか。
それしか方法は残されていない。


「……銀 起きて?銀」


銀の前にしゃがみ込み、だらりと力なく地面に置かれた銀の手を掴んだ
けれど、触れようとも、声を掛けようとも、銀は言葉を返してくれない。



……当たり前、だよね



分かりきっていた事。
力なく、苦笑が零れ落ちた。
堪えてきた涙が、ぽろりと下瞼から零れ落ちた。


「〜〜〜っ そろそろ、帰らなくちゃ、ね
 先生……いつごろ、迎えに来るのかな」


パッと立ち上がり、銀に背を向けた。
は空を見上げ、いつも銀を運ぶのを手伝ってくれたリズヴァーンのことを考えていた。
まだ暗くなるには早い時間。
けれど、冷たくなり始めた銀をこのまま長時間外に出しておくわけにも行かない。



早く……



銀の身体のことを気遣うのと、早くみんなと合流して辛い気持ちを紛らわせたいと願う二つの心。
いつにもまして、リズヴァーンが来るのを急いていた。


「……神、子……様」


聞こえた声に、の背筋がピンと伸びた。
まさか聞こえるとは思っていなかった声が、今まさに後ろから聞こえたのだ。


「しろ……がね?」


掠れた声で名前を呼び、ゆっくりとは振り返った。
長い髪が揺れ、その髪の間から見慣れた姿が目に止まる。
いつも俯き、どこも見つめていなかった瞳が──今はを真っ直ぐに見つめていた。


「銀っ目が覚めてっ」


「神子様……帰るのが遅くなり……申し訳ありません」


苦笑のような、困ったような、そんな笑みを浮かべていた。
銀に伸ばしたの指先を優しく触れるように掴み、あの優しい眼差しをに向ける。


「ずっと、あなた様の声は聞こえておりました 聞こえていながら……帰ることが出来ずに居ました」


申し訳なさそうな表情が、銀のすべてが、もう何年も見ていなかったような錯覚を生む。
ようやく出会えたような、そんな錯覚を。


「ようやく帰れた ようやく会えた……会えて、神子様とこうして言葉を交わせる」


「──銀っ!!」


ぶわっと、感情が高まった。
悲しみで溢れていた涙に混ざり、今度は嬉しさの涙が溢れる。


「おかえりなさい……銀」


嬉しさの笑みを浮かべ、頬を染め、愛しそうに指先に触れる銀を見つめた。









............end




リズ先生なら、きっと銀を持ち運び出来るだろうと。(笑)
矛盾点はいろいろありそうですが、そこはスルーして下さると嬉しいです♪
これは、銀誕生日絵を元ネタに書き起こした夢だったりします。
頑張って書き起こしてみちゃいましたw満足w






遙かなる時空の中で夢小説に戻る