「あ、将臣!」


見かけた姿に、は駆け寄って行った。
それは頼みたい事があったから。

もちろん、これが"彼"にバレてしまえばいち大事なのだけれど。


「ん?ああ、か どうしたんだ?」


「ちょっと将臣に頼みたい事があって!!いい?」


の問い掛けに将臣は静かに頷き返し──ニッと笑った。
見慣れた笑み。
もう、が平家に来て結構な時間が経っていた。











悋気ののちに待つものは











「いいのか?俺なんかとこんなことしてて」


「だって、知盛には頼めそうにないし
 というか、怠けてる人に頼めることじゃないじゃん」


将臣の問い掛けに、はため息交じりにそう告げた。
知盛の怠け癖は今に始まった事ではない。
気分が乗らなければ、絶対に知盛は動こうとしないのだ。

今回だってそう。








「ねー、知盛」


「……」


「頼みたい事があるんだけど」


「俺の眠りを妨げるほどのもの、か?」


そう言ったきり、知盛はの方を向かない。
眠い時ほど不機嫌な知盛はない。

これ以上しつこくしても無意味なのは目に見えていて。



仕方ないか



一つ大きく溜め息を吐くと、はその場を後にした。








そんなやり取りののち、が辿りついたのは還内府という立場にある将臣の元だった。
そして現在、剣を手に向かい合って立っている。

平家に居れば命は狙われやすくなる。
戦場に立つのは嫌だけれど、それでも自分の身くらい守れるようになりたいと思うの行動だった。
それを分かっているからか否か、それは分からないけれど知盛はの話を聞こうとはしなかった。

だから、今、ここにいる。


「知盛に見つかったら、面倒な事になるんだろうなぁ」


「だったら俺に頼むなよ」


の言葉に苦笑する将臣。
そんな言葉に「ごめんね」と軽く答え、剣の柄を強く握る。
軽く打ち合い、そして限界に挑むように腕の動きは速くなる。

脇をしめ、相手の動きを見切り、柄を離さず──切り込む。

攻防の繰り返しだった。


「……何を、している?」


ふいに背後に立った気配。
将臣は剣を打つ手を止め、の背後を見つめていた。
その視線に、そしてその問いに気付いたはハッと振り返った。


「知、盛……」


しまった、と言わんばかりの表情。
知盛の溺愛ぶりはが自らの身を以てして知っている。


「えーっと……ごめん!!」


それだけ言うと、即座にその場から逃げだした。
将臣はまたかと思うように苦笑を浮かべ、軽く手を振りながら邸の中へと戻っていく。
はそのまま庭を駆けながら、後ろから追ってくるであろう知盛を気にしていた。

が、なかなか追いついてこない。


「……逃がしてくれた、かな?」


なんとなくそんな気がしてホッとして立ち止った。
そんな瞬間、背後から大きな影が伸び──後ろから抱きすくめられるように抱かれた。


「俺が……逃がすと思った、か?」


「ひあっ ととととと、知盛!?」


耳元で聞こえた知盛の声に、ビクンと甲高い声を上げる
そんなの反応に知盛はククク、と喉で低く笑った。

その笑みは、とても満足そう。


は、耳が弱い、か?」


「そ、じゃなくて……っ!!!」


耳元で喋られながら、ツツツーっとわき腹を指の腹でさする。
ゾワッとする感覚に息を飲んでしまったは、キッと知盛を睨みつけた。


「いきなり、何すんの!?」


「お前が有川と……遊んでいたから、だろう?」


「……は?」


その言葉で、の脳裏に"嫉妬"という文字が思い浮かんだ。
まさか、と思う反面もしかして、と思ってしまう。


「遊んでたわけじゃなくて、相手してもらってただけだって」


「気に食わん、な」


「気に食わないなら、あたしの話ちゃんと聞いてくれればよかったでしょ!?
 それに、耳元で喋ったりわき腹触らないでよ!!ひやっ」


言ってすぐに悲鳴が上がる。
その反応に面白いと言わんばかりの笑みを浮かべ、知盛はの脇腹をさする。


「ちょっ……やめっ」


「クッ その気に……なってきた、か?」


「ばっ」


知盛の言葉に、真っ赤な顔をして慌てて両手足をばたつかせた。


「おまえは、別に剣を持たなくていい 俺が……いるだろ?」


「……知盛」


その言葉に、はトキンと胸を高鳴らせた。
が。


「……いい事言ってくれてるのにさ、この手は何?」


じとーっとした瞳で知盛を見つめる。


「さて、な」


「ひあっ んっ」


呟いて、胸の上に置いていた手を知盛はゆっくりと握る様に動かした。
その衝撃にビクンと身体が動き、同時に唇を塞がれた。

人の温もりが唇に伝わり、息を吸おうと唇を開いた瞬間ぬるっとしたものが中へ入り込む。
口内で暴れまわる様に、の舌を追うそれは別の生き物のようだった。


「ククッ やはり……俺が欲しくなった、か……」


「やっ 言わな……で……」


透明の糸が互いの口から伸び、名残惜しそうにしながら切れる。
赤く頬を紅潮させたを姫抱きにし、知盛はそのまま自室へと歩みを向けた。
途中、が離してと暴れたがそれさえも知盛の気持ちを上げる要因にしかならなかった。








そして、その夜。
知盛の部屋からは、絶え間なくの悲鳴が響いたそうな。
将臣の計らいで、知盛の部屋の前を通るものは誰も居なかったのだけれど……







...................end






えー……私のイメージするって事で。
知盛相手だから、絶対エロイ方に向かうかなと思うし、絶対はぐらかすと思ったので!(笑)
ちなみに、完全抵抗せずに部屋に連れて行かれたのは二人がカップルだから(^_-)-☆
オミに嫉妬するチモ……なんかイイ(*^皿^*)

てことで、璃緒へのプレゼントに書いたものです。






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