ねぇ、気づいてる?

私が毎年毎年……ここに来ている事を………









さよならの合図








「……今日も行くのか?」


「…うん」


天真の言葉に、は静かに頷いた。
年明け初め、は絶対に行きたいと言っていた場所があった。


「…あれから、もうどれくらい経ってるんだろうな」


天真のそんな言葉に、は苦笑を浮かべるだけだった。


「……季史さんを封印してから……もう、結構経ってるよね」


「ああ けど、本当に元の世界に帰らなくて良かったのか?」


「うん だって……私、季史さんが生きていたこの世界で……生きていきたいから」


天真の言葉に、は微笑を浮かべた。
痛々しいという言葉が似合いそうな、そんな表情。


「だけど、あいつは戻ってこないんだぜ?」


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


天真の言葉に下唇を噛んだ。
そんな事、分かり過ぎるほどに分かってる事実。

パッと俯いてしまった。


「分かってる……よ、それくらい」


「わ、わりぃ…」


失言だったと、天真は気付いた。
ガシガシと後頭部を掻きながら、そう言うがは首を左右に振った。


「それじゃ……言ってくるね」











「来たよ、季史さん」


が立つのは、すでに誰もお参りに来なくなった季史の墓。
何も供えるものもない今、手ぶらでは来ていた。


「……ねぇ、見てる?私…あれから毎年来てるんだよ?ここに」


そう言っても、答える者は誰も居ない。
辛い辛い、恋の道。
そう分かっていても、進まずには居られなかった。

出会った時に、季史が死した者だと分かっていればと何度思ったことか。
知らずに出会い、心惹かれ、自らの手で封印して。

動けなくなった、心。


「誕生日……私、季史さんの誕生日……知らないんだよぉ…」


墓の前で蹲ってしまう。
知らないからこそ、年明けに来てしまう。

この世界では、年明けに皆が一気に歳を取ると聞いた事があったから。
違う。
この世界ではなく、昔は……が正しいのかもしれない。


……………


「え?」


聞こえた声。

確かに今、……と。


「…………」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」


ゾクリ

何かを感じた瞬間だった。
両手で口元を覆い、恐る恐る横へと視線を向けた。


「─────季史、さん…」


……久方ぶりだ……」


そこに居たのは半透明な季史の姿。
嬉しさに涙を浮かべながらも、声を聞かせてくれる季史に駆け寄った。

抱き付き、たかった。


「…私は、幽霊だ 私に触れることは出来ぬ」


「………そ、うですよね」


逢いたかった人。
触れたかった人。

嬉しさで涙があふれ、視界が霞む。


「季史さん……ずっと、ずっと言いたかった事があるんです」


ゴシゴシと衣で涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。
震える唇を開き、声を絞り出す。


「────…お誕生日、おめでとうございます」


震えてしまう声。
だけどちゃんと季史に伝えられた言葉。


 ありがとう……」


その言葉で、また涙が溢れてきた。
ずっと、ずっとこうしていられればと願ってしまう。


「……来年も、また─────」


「──────── もう、来年からは来ないでほしい」


紡ごうとした言葉を遮る季史。
紡がれた言葉は、驚きのものだった。


「どうしてっ!?」


「…私は死んでいる者 だが、は生きている 私の所為で……止まっていては駄目だ」


ブワッ

涙が零れ落ちる。
止まる事なく、溢れ落ちる。


「最後だから……私はの前に姿を現した もう…無理なのだ」


「でもっ」


「見ているのが……辛い ……そなたには…幸せになって欲しい」



私の幸せは季史さんと一緒に居ることなのに………



涙が止まらず、半透明の季史の姿さえもきちんと見る事が出来なかった。
最後だというのに、その姿を目に脳に刻んでおくことが出来ない。



忘れたくないっ



肩を揺らし、必死に泣きやもうと息を吸い込む。


 私の最後の願い……聞届けて欲しいのだ」


「────季史、さ……ん……」


震える声、震える唇、震える身体。
どうして?と反復する自分が後ろに居た。

けれど、辛そうな表情を浮かべて見える季史を見続けるのもには辛かった。


「分かり……ました……」


それが、今に出来る唯一の事だったから。

ズズズ…

鼻を啜り、それでも季史の願いを届け入れようとした。
ニッコリと微笑みを浮かべ、大きく震える喉で息を吸い込んだ。


「……一生分のおめでとうを……季史さんに お誕生日……おめでとうございます
 逢えなくても…これなくても……ずっとずっと、祝ってます」


それが合図だったかのように、季史は笑みを浮かべ消えた。
あの日、が封印した時のように。

封印し、五行の流れに返ったはずなのになぜ会えたのかは分らない。
それでも、神様がくれた最後のチャンスなのだと思った。








おめでとう、ございます…………季史、さん

そして……

さようなら……季史、さん









........................end





多季史さんのお誕生日フリー夢小説です!
季史の誕生日は不明だったので、昔は年明けに全員歳を取っていたらしいので…こうやって一月一日に誕生日としてUPしました。

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