私はいつでも傍にいるよ

雨の日も、風の日も、晴れの日も、雪の日も…

たとえ、命が尽きようとも…








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「一体何の用事なのですか…」


「いいからいいから、こっちに来て下さい!」


ハァっと大きく溜め息を吐きながらも、背中をぐいぐいと押される鷹通。
その大きな背中を押すのは、腰辺りまで伸びた髪を揺らすという少女だった。

神子と呼ばれていたピンク色に近い髪をしていた少女が帰ってしまってから、どれだけ鷹通が悲しげな表情を浮かべていたか。
それを知っていたは、何とかして笑わせたいと考えていた。
そして本日、絶好のチャンス到来。


「いいからと言われましても…」


「いいからはいいからなんですよ! さぁ、黙ってついてらっしゃい!」



黙ってついてらっしゃいと言われましても…
着いていっているというか…連れて行かれていると言いますか…



の言葉に、鷹通は苦笑を浮かべた。
言動が合っていない事を突っ込むべきか、否かと。

けれど、結局突っ込まない方向に。


「鷹通さん…最近、いつも寂しそうでしたから…」


「──────!」


の言葉に、鷹通はハッとした表情を見せた。


「気付いて…おられましたか」


「そりゃ…私は鷹通さんの、許婚…ですから」


背中を押しているため、互いにその表情は見えなかった。
けれど、鷹通は驚きの表情を少しだけ照れたように緩め。
また、は真っ赤に顔を染め上げて事実を口にしていた。


「ですから、私は…鷹通さんが寂しそうな表情をされるのは心苦しいのです
 私が居るのに…そんな表情をさせてしまうのは…私の力不足、ですから」


「そんな事はありません!!!」



そんな事を…女性に言わせるなど…
私もまだまだですね…



の言葉を耳にして、鷹通は大きく反論した。
立ち止まり、背中を押すの方へと視線を向けた。

言い終わってから身体を回転させたため、他の事を考えてしまった鷹通。
己が振り返った所為での身体のバランスが崩れてしまったという事に気づくのが、一歩遅れた。


「っ!?!?」


殿!!!」


わたわたと両手を振りまわし、必死にバランスを取ろうとした。
けれど、一度バランスを崩してしまった身体は言う事を聞いてはくれなかった。

徐々に傾くの身体。
鷹通は慌てて声を上げ、手を伸ばした。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ
 ─────────────……?」


来る!
そう思った振動が、を襲いはしなかった。
代わりに、温かく柔らかい感触に包まれた。


「…鷹通、さん」


を抱き締める形で地面に倒れていた。
間近に鷹通の顔があり、名を呼びながら顔を上げた瞬間。

ぼんっ!!!

そう爆発音がするんじゃないかと思う程に、の顔は耳まで真っ赤に染まりあがった。


「な、何で私なんかを助けるんですかっ」


「当然です!貴方は女性ですよ!」


真っ赤になりながらも、鷹通に叫び声を上げた。
抱き締める腕は緩まれる事なく身体に絡められたまま、顔は近いまま。

徐々に、顔が熱くなる。


「だからって…鷹通さんが下敷きになる必要なんて…」


「許婚の特権ですよ」


「──────っ」


どうして、こうも顔を赤くさせるような事を平然と言ってのけるのだろうか。
の頭は徐々に働かなくなりつつあった。


「それで…いったい、何の用だったんですか?」


「…今日、鷹通さんの誕生日 だから…お祝いして、笑ってもらえたらって…」


の『誕生日』という言葉で、漸く気付いたの気持ち。
この時代に誕生日を祝うという習慣はないのだけれど、誕生日とは生まれ落ちた…誕生した日だと言う事は分る。

だから、珍しい事をやって驚かせようと。


「…そんなに、心配させてしまっていましたか…」


鷹通の微かに漏れた声は、の耳を掠める。

ドクンッ

脈打つ鼓動が、今にも鷹通に伝わってしまいそうでは起き上がろうともがき始めた。


「少し、静かにしていてください」


「え?」


鷹通の言葉にまたもドキンと胸が高鳴った。
抱きとめられたまま、地面に倒れ伏したまま。

近い顔にドキドキと、心臓の音ばかりが大きく聞こえる。


「確かに、神子殿が帰られてしまって…寂しかったですよ」


「────っ」



ああ、やっぱりそうなのね…



鷹通の言葉に、眉間にシワが寄った。
ズキンと痛む心が、激しく痛む。


「ですが、それは役目あっての事 今までずっとしてきたことが終わり…
 仲良くして下さった方々が去り…もう二度と会えない…それは、なんだか寂しかったのです」


その言葉を聞いて、ハッとは視線を向けた。
そういう意味の『寂しい』だと、初めて知った

自分のしていたつまらぬ嫉妬に、少しだけ恥ずかしさを覚えた。


殿や頼久は…会おうと思えばいつでも会えます けれど、神子や詩紋殿や天真殿は…もう二度と会えないのです
 やはり……馴染みが湧けば、それだけ寂しくて…許婚の貴方には…寂しい思いをさせてしまいましたね」


「ううん…ううん、違う 私…私、ずっと勘違いしてた…」


謝る鷹通は筋違い。
謝るのは、もしかしたらの方だったかもしれない。
ずっと誤解し勘違いし、一人傷ついた気になっていたのだから。

鷹通の心の闇にも気付かずに。


「鷹通さんは…ずっと、神子って人が好きなんだって…思ってました」


「何を馬鹿なことを言っているのですか、貴方は」


唐突のの言葉に、鷹通は苦笑を浮かべ呆れ顔。
それは、あり得ないと言う時の顔。


「私のこの胸に住みついているのは、いつでも貴方ですよ…殿」


「─────…ありがとう、ございます」


照れる言葉。
けれど、本当に思っているから、本当に伝えたいからこそ、恥ずかしがらずに言える言葉だった。
少しだけまだ照れてしまうけれど、それでも素直にはお礼を口にした。

満面の笑みを、顔に張り付けて。


「…鷹通さん、お誕生日…おめでとうございます」


「ええ ありがとうございます」


漸く告げられた言葉。
それだけでも満足。



だから…会場に行くのは…もう少し待ってもらっても…いいよね?









.......................end



鷹通の誕生日フリー夢小説です。
十二月二十二日は鷹通の誕生日だったんでね…いそいそと書かせて頂きましたv

鷹通さんは、きっと許婚は大切にすると思うんです。
最初は愛がなくても…きっと許婚だと意識したら、好きになってくれるんじゃないかなぁ〜って。
何に対しても…ほら、真面目ですからw

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