いつだったか、友達のあかねが行方不明になった。
いくら探したって見つからなくて。
そうしたら、知った事実……

あかねと一緒に、天真くんも姿を消していたということ。
確か、中学生でよくあかねや天真くんと遊んでいた詩紋くんも行方不明になったって噂で聞いたっけ。

けど、それから随分経ったある日……あかねが戻ってきた。
一人の男性を連れて、あたしの前に帰ってきた。
彼の名前は"季史"と言って……あたしは一目で彼に惹かれた。













白き祝福













「まだかな、季史さん」


待ち合わせ場所の前に立つ大きな時計を見上げた。
時刻はもうすぐ六時を迎える──冬という時期ではもう暗い時間だった。



あれから、いろいろあったなぁ……
あかねには悪かったけど……こうして季史さんと両思いになれたわけだし



可愛らしい格好でおしゃれをして、待ち人を待つ。
今日はクリスマス。
恋人達が互いのぬくもりを感じながら、温かく夜を過ごす日。


「あかねは今頃、天真くんと詩紋くんとパーティかな?」


くす、と微笑みを零した。
天真も詩紋もあかねが好きなのは分かっていた。
だからこそ、三人でのパーティは嬉しくもあり悔しくもあるんじゃないかと、想像を膨らませてしまう。



もしも、あたしが季史さんを好きにならなかったら……
天真くんも詩紋くんも、今日は悲しいクリスマスを過ごしていたのかな?
って、それはあたしもかな



有り得る想像に、肩を竦め苦笑してしまう。



早く渡したいな……
もうすぐ六時なのに……まだ姿、見えないなぁ



どれだけ混んでいても、季史の姿を一発で見分けられる自信があった。
だからこそ見つけられないその姿に、肩を落としてしまう。
まだかまだか、と待ち続けていると時間が長く感じてしまう。


「……寒い」


小さく呟いた言葉が、空しいほどにいとも簡単に空気中に溶け込んでしまう。
冷たい風が肌を撫で、服の隙間隙間から体温を下げていく。
両手で身体を抱きしめるように縮め、体温を逃がさないようにと工夫をした。



季史さん……まだ、かな



来ない姿に、溜め息が零れた。
見当たらない姿が、どんどん不安を掻き立てていく。
『来る』と思っているのに『来ない』んじゃないかと疑ってしまう。


「……あ」



雪だ……



小さな声を漏らし、空を見上げた。
両手を軽く何かを受け取るように、手のひらを上に向け降り始めた雪の冷たさを感じた。


「ホワイトクリスマス……」


あれだけ、季史と過ごしたいと思っていたクリスマス。
そして、昔からの願いだった『クリスマスに雪が降る』こと。



ここに季史さんがいれば……きっと凄く嬉しかったのに



片方だけが叶っても、悲しいだけ。
どれだけ願っても、揃わなければ意味がない。
季史の居ないホワイトクリスマスだって、季史と過ごすただのクリスマスだって……胸を時めかせる要因にはなりえない。



そりゃ……季史さんが居ればクリスマスは特別なものになるけど……
それでも、やっぱり……



ホワイトクリスマスと、ただのクリスマスでは比較にもならない。


「いったい……いつになったら来るの?」


持っていた鞄を地面に置き、そのまま膝を抱えるように座り込んだ。
身体から逃げようとしていた熱は、そのまま逃げず回り続ける。
寒いけれど、寒さをしのぐにはもってこいの体勢だった。



やっぱり……あたしなんかじゃ駄目なのかなぁ
季史さんには……あかねなのかなぁ



嫌な想像ばかりが巡っていく。
思考の連鎖は断ち切られず、延々と過ぎては戻り、過ぎては戻る。


「え?」



今……『』って……



微かに聞こえた声に、反応を示した。
パッと顔を上げ立ち上がり、あたりを見渡した。



確かに、今……あたしの名前を呼ぶ声がっ



聞き間違えなどではなかった。
季史の声を聞き間違えるほど、浅い付き合いじゃない。


「……


「季史さん!」


聞こえた声と同時に、人ごみから姿を現した季史。
暗くなっていた表情は一気に明るいものへと変わり、鞄を持つと勢いよく季史に抱きついた。
首に手を回し、飛びつくように身体を密着させる。



温かい……



温かい身体の季史。
けれど、そんなを支えるべく肌に触れた季史の手はキンキンに冷えていた。


「季史さん……その手……冷たい、よ?」


ずっと、待ってばかりだと思っていたからこそ、その冷たさに驚いた。
目を丸くして、抱きついたを抱きとめる季史を見つめた。


「ずっと……探していたのだ」


ぽつりと、あの独特の喋り方をする季史。
ずっと聞きたかった声が、今耳元で聞こえてくることには胸を高鳴らせた。


「探して??」


「ああ……そなたに、渡したいものがある」


抱きしめ、じっと動かずに見つめあう二人は傘さえも差していない。
空から降り続ける雪は、徐々に二人の肩に、頭に、積もっていった。


「季史さん、私も……実は、あなたに渡したいものがあるの」


同じように、季史の言葉を真似するように告げた。
寒いなか待ち続けてまで渡したかったもの。


「メリークリスマス」


同時にそう告げると、は『季史さん』と、季史は『』と名を呼んだ。
互いが互いの瞳を見つめ、その瞳に己の姿が映っていることを確認する。

ふわり

柔らかく微笑み、互いの包みを差し出しあった。


「クリスマスに降った雪の奇跡のように……私がそなたと出会えたのも奇跡だ」


季史の言葉に、頬が熱くなることがわかった。
冷たく冷え込む空気の中で、ポッと火が灯るように心も温かくなる。


「来年のクリスマスもまた……そなたとともに迎えたい」



そんなの……



「私だって……同じだよ」


季史の言葉に、きょとんとするも。
すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
来年も、そのまた次も……ずっとずっと。



ホワイトクリスマス
それはめったに見られない奇跡のクリスマス
奇跡のように出会ったあなたと、私はまた──……こうして年を重ねていきたい
また、めぐり合う奇跡のクリスマスを、あなたと共に













...............................end







クリスマス企画の小説ということで、テーマはホワイトクリスマスで、お相手は季史さんでした^^
ホワイトクリスマスってなかなか見られないなーという思いから、最後はこういう風に〆てみました。
あかねちゃん可哀相だけど、許して(>w<;)
ちなみに、mixiのコミュの企画で書いたものなんですが……クリスマス時期が過ぎたので、こちらにもUPしてみました。






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