聞いてしまった

知ってしまった

             あなたの正体を


朽ちていく、その事実を────……

             私は知ってしまった






    人間ではないから



作られたものだから



              陰陽の調和が取れていないから



      陽の気が足りない私は────……











それを芽生えさせるのは私











陽の気を練るのが感情だと、泰明さんは言っていた
なら、私は感情を泰明さんに芽生えさせたいと思った

ううん
きっと、泰明さんは気付いていないだけで本当はすでに芽生え始めているんじゃないかって思う



人前で寝顔を見せない泰明。
そんな泰明が、今はの前で静かに居眠りをしていた。

大きな大木の下。
今日はとても心地よい気候の日だったから。


「……すぅすぅ」


「……起こしちゃ……まずいよね」


人差し指を唇の近くに当て、眠る泰明の顔をジッとは見つめた。
気持ちよさそうに眠る姿は、どうしても妨げることが出来なくて。
もっと見ていたい、という気持ちにさせる。


「……神、子」


「え?」


そんな泰明からこぼれた寝言に、頬を赤らめ目を丸くした。
慌てて近づいた身体を離し、少しだけ遠巻きに泰明を見下ろす。

ドクンドクン……

名前を呼ばれたときの鼓動が、いまだ収まらない。



な、何で泰明さんが寝言で私を?



立ち去ることも出来ない。
なのに起こすことも出来ない。


「……


「────ッ」


泰明の唇から毀れたのは、誰もがを呼ぶときに使う『神子』ではなくの名前だった。
不意打ち過ぎる言葉は、の呼吸を乱し気を乱した。


「……?」


その乱れた気に気づいたのか、泰明はゆっくりと瞳を空けた。
ぼやけた視線に、誰か人の影。
泰明はただそんな事しか見定めることが出来なかった。


「……神子か?」


けれど、そこに居るのがなぜかだと思えた。
ぬくもりも感じなければ声もしないのに。

思いがあるから。
そして、気配を探れるから。

もう心の声は聞けないけれど、直感がそう告げる。


「泰明……さん、起きないと風邪引きますよ?」


少しだけ戸惑いながらも、目覚めた泰明には近づいた。
ひざを付き、視線を泰明に合わせてニッコリと微笑む。


「……ああ だが、問題ない」


これくらいで風邪を引くほど柔じゃないと泰明は言いたかった。
けれど、呟いた瞬間が寂しそうな表情を見せた。
瞬間、泰明の胸がギュッと締め付けられるものを感じた。


「……神子の言うとおりかもしれない」


顔を軽く振れば黄緑色の長い髪は揺れ動く。


「行くぞ」


「あ、はい!」


言いながらに手を差し伸べた泰明。
はそんな進歩に自然と笑みをこぼしていた。


「……どうした?何がおかしい?」


笑われる理由が見えない泰明は、首をかしげ眉を潜めた。


「いえ、そうじゃなくて 泰明さんが手を差し伸べてくれるなんて変わったなと思って」


それが嬉しくて笑っていたんです、とは優しく微笑んだ。



神子は、先ほどの寂しげな表情より笑ったほうがいい



の笑みを見て、泰明はそう思った。


「私は変わってなどいない 感情もなければ、陰陽の調和も取れていない」


「じゃあ、何で今さっき嬉しそうに笑ったんですか?」


の問い掛けに泰明はキョトンとした。
笑ったほうがいいと思った瞬間、泰明は無意識のうちに笑みを零していた。
嬉しそうに、優しい笑みを。


「私は笑ってなどいない」


「笑ってましたよ 泰明さん、感情がないなんて変です、ありえないよ」


そう呟き、泰明の手を握った。
そして、その握った手を額に当ては瞳を閉じた。


「神子?」


「心配してくれたり、嬉しくなったり、相手のことを思いやれるのは────……感情がある証拠です
 ただ、それを表に出すのが下手なだけ 泰明さんは感情がないわけじゃない」


ハッキリと言い切り、ふと視線を上げた。
オッドアイの泰明の瞳との瞳がぶつかり合った。


「今さっき、泰明さんは何を思った?何を考えた?」


「……神子は、寂しそうにしているより嬉しそうに笑っていたほうがいいと……それがどうかしたか?」


「そう思うことが、泰明さんに感情があるっていう何よりの証拠です」


暖かいぬくもりが、泰明の手から離れた。
瞬間、寂しいと思った。


「泰明さん、感情がないと言うことは嬉しくも悲しくも寂しくも辛くもないって事です そういうことが分からないんですよ?
 美味しいものを食べても何も感じない 悲しいことを目の当たりにしても何も感じない
 それじゃ、機械と同じ でも、泰明さんはそうじゃない」


ぎゅっ

が泰明の身体を抱きしめた。
手に広がるぬくもりよりも大きな、暖かなぬくもりが泰明を包み込む。

ホッとするような嬉しいような、不思議な感情が胸を占める。


「泰明さんが、感情がないと言うのなら私が感情を芽生えさせます
 もし芽生えているなら、その感情を理解できるよう助力します」


「神子……なぜそこまでする?私は八葉で、神子の道具だ」


「違います!泰明さんは道具じゃない!泰明さんは私の仲間で──」


ふわり……

優しい笑みが泰明を見つめる。


「──泰明さんは、私の大切な人です」











to be continued................




泰明さんって、絶対に感情がないって意味を履き違えてた気がする。(笑)
そんな子供っぽい一面を持つ泰明さんが大好きです☆

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