「先輩?先輩……いないんですか?」


いつものように、の家へとお邪魔した譲。
の両親に挨拶を済ませると、いつものようにの部屋へと向かった。

ノックをしても、全く反応のないの部屋。
譲は首をかしげ、訝しげに部屋のドアを見つめた。













たとえ特別でも













「先輩、開けますよ?」


もう一度そう告げると、譲はゆっくりとドアノブに手を伸ばした。

ガチャ……


「…………」


開いた部屋の先には、ベッドに横たわるの姿があった。
すやすやと眠るの瞳は閉じられ、規則正しい寝息が繰り返されていた。


「返事がないと思ったら、昼寝ですか」


愛しさのこみ上げる視線を、へと向けた。
くすっ、と微笑を浮かべると近寄りベッドに腰掛ける。

今日は譲の誕生日。
けれど、は特別な日でもいつもと変わりない。
変わらないことで、ずっとそばに居ると確認できて安心できる。


「まぁ、俺としては……誕生日くらい、多少変わってくれても嬉しいんですけどね」


そう思うのも、やはり長年思い続けてきたからかもしれない。
優しく柔らかく、の長い髪を梳くように触る。


「……ん、ん」


その感触が伝わったかのように、の口から洩れる声。
けれど、一行に目覚める気配はない。


「先輩、いつまで寝ているんですか?」


ぷにぷに

の頬を人差し指で突きながら、譲は笑った。
その刺激と声で、眠りの底にいたは現実へと引き戻されていく。


「……ん、譲くん?」


寝ぼけ眼で譲を見つめ、その瞳を幾度か瞬かせた。
ゆっくりと身体を起こし、手の甲で瞼をこする。


「いつも、この時間は起きているのに珍しいですね」


「うん……ちょっと、夕べ徹夜しちゃって……」


譲の指摘にはバツが悪そうに苦笑した。
本当は起きて譲がやってくるのを待っていたかった、そんな感じだった。


「徹夜?何をしてたんですか、先輩は……」


徹夜なんて身体に悪いことこの上ない。
まして、こうやって眠ってしまうほどなのだから呆れるのもうなずける。


「うん……ちょっと譲くんに渡したいものがあって」



渡したいもの?
先輩が?俺に?



特別な日。
いつもと違う出来事に、少しばかり譲の胸がときめいた。
いつもと変わりないと思っていたの、ちょっとした変化。

やはり、それは譲との関係が特別だから。


「ちょっと待ってて、譲くん!今、取ってくるから!」


そう言うと、はスクッと立ち上がった。
白いスラッとした足が向かうのは、先ほど譲が入ってきたドア。


「え、ちょ……先輩!?」


バタン

譲の声を待たず、閉じられた扉。
譲はのベッドに腰かけたまま、呆気にとられたまま扉を見つめた。












ガチャ

暫くすると開かれた扉。
そこには綺麗な包装紙に包まれたプレゼントを持ったが立っていた。


「先輩?」


「あのね……ハッピーバースデイ、譲くん」


そう言うと、は持っていた包装を譲へと差し出した。
両手でしっかりと持ち、それを真っ直ぐに突き出すように。


「……もしかして、それの為に徹夜をしたんですか?」


「……うん」


「────ッ ありがとうございます、先輩
 俺……凄く嬉しいですよ」


嬉しさを噛みしめながら、譲は手渡されたプレゼントを受け取った。
ちらりと視線を向け『開けてもいいですか?』と視線で問うと、はコクンと頷いた。

この目で会話も、長年思い続け成就しつき合い続けてこれたから。

がさがさがさ……


「こ、これは……」


包装紙の中に包まれていたのは、お手製のシャツだった。
鮮やかな色に地味でもなく派手でもない柄の布を使われた、ゆったりめの。


「先輩が……俺の為に作って、くれた?」


「……うん 実は、ね……それ、お揃いなんだ」


歓喜の声を上げる譲には照れながら告げた。


「だからね……この夏は、お揃いのシャツを着て……たくさんデートしようね、譲くん」


そんな嬉しい誘いを、受けられるとは譲は当初思ってもいなかった。
凄く嬉しくて、この思いが成就した事が今更ながら嬉しくて。


「先輩ッ いや……、大好きです」


恋人が呼ぶ呼び方。
愛しい声で愛しい名を呼ぶ。

ギュッと、その華奢な身体を抱きしめながら。













..............end




七月十七日は譲の誕生日って事で、フリー夢完成!(>ヮ<)
イメージ的には遙か3シリーズのどのEDでもいいので、その後って感じ。
たとえ特別な日でも、変わった事をしても望美自身はいつまでも変わらない……そんなイメージの話でした。(*∪w∪*)

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