私の正体─────…それは…











transmigration 第十一話










「ごめ…んなさい…
 本当にごめんなさい…ずっと、ずっと黙ってて…ごめっ…なさっ…い…」


震える声で、謝罪の言葉を呟き続ける
あの後、藤姫の館に戻ってきた一行はの寝起きする部屋へ赴き今に至る。


様、お謝りになられるだけでは…分かりませんわ」


優しい声色で、心を鎮めてくれる藤姫。
こんな藤姫にさえ、は全てを話せずに居た。

申し訳なくて、申し訳なくて、頭が上がらない。


「私…私、あかねの中の人格じゃ────…ないの」


その言葉に、全員が無言だった。
それはきっと、予想していたからかもしれない。
もしかしたらそうかもしれないと、思っていたからこそできた反応かもしれない。


「あかねは私の前世 私は…あかねの生まれ変わり…」


殿が…神子殿の?」


の話は突拍子もなかった。
頼久の疑問そうな声が頭に響くが、は頷くしか出来なかった。


「詳しいお話を…聞かせてはもらえますね?」


真剣な鷹通の言葉に、がゴクリと息を飲んだ。
そう言われることは予想していたはずなのに、いざ言われてみると胸が痛む。

けれど、何の反応もせずに居る訳にもいかず。
また、首を左右に振るなど、もっと出来ない現状。

は静かに首を縦に振った。











「…なんだよ、それ」


長い長い説明の終わり。
第一声を上げたのは、イノリだった。
むくれっ面でジッとを見つめていた。


「…ごめん」


短い一言。
申し訳なさでいっぱいの謝罪の言葉。



ごめんなさい…
本当に……ごめん────…



それしか言いようがなかった。
何かを口にしたら、それは言い訳にしかならないような気がしたから。

だから、本当に申し訳ないと思っている気持ちをひたすら言葉にするしかなかった。


「謝んじゃねぇよ!!!なんなんだよ、
 んなの、さっさと話しても良かったじゃねぇか!」


黙っていた事が分からないと言わんばかりに声を張り上げたイノリ。
その言葉に、はキョトンとした表情を浮かべた。


「イノリの言うとおりだな」


「天真…くん?」


「僕もそう思うよ たとえ、最初は分らなくて話せなかったとしても…
 どうして、すべてが分かった時に僕達に話してくれなかったの?」


その言葉は責めているように感じないものだった。
優しく、今にも壊れそうな心を包み込んでくれる。
そんな温かな、優しい言葉だった。


「詩紋くん…うん…そう、だよね
 でも─────」


「ずっと黙っていたから話し辛かったのではないかい?」


「友雅さん!どうして…」


「良く考えればわかる事だよ、殿」


詩紋の言葉に同意していたの耳に、驚きの言葉。
どうして分かったのかと、目を丸くしていれば返された言葉に苦笑しか浮かべられなかった。


の正体が分かったのだから、いいのではないか?」


「ええ 私もそう思います
 そうでなくても、殿は今傷ついておいでですし…」


泰明と永泉のを気遣う言葉に、無性にもうるっと来てしまった。
一番、キツイ言葉を向けられると思っていた泰明の言葉が、特にの心を揺るがせていた。



記憶の泰明さんと…違う…
所々そうなんだけど…何かが違う…



疑問は疑問のまま。
答えはどこにもなかった。


「ありがとう─────…泰明さん 永泉、さん」


「いえ…私は何も…」


「思った事を口にしたまでだ」


のお礼に、永泉は真っ赤になるんではないかと思う程に照れた。
泰明は淡々と、お礼を言われる理由が分からないと言わんばかりに答えた。

実際、泰明は気遣うというよりも思ったことを口にしたりするだけなのだから。


「それでも…私は嬉しい」


ふわりと、微笑みを浮かべ泰明を見つめた。
一瞬にして周りの色が色濃く見えた様な、そんな気がした。

そして、の微笑みに泰明も薄っすらと微かに瞳を細めていた。



あかねはいいな…
こんな優しい人達に囲まれて…

皆…美形だし…本当に、羨ましいよ…



微笑む泰明の表情に少しだけ照れながらも、そんな事を思っていた。
顔のジャンル(?)は多少ながら違っていても、確かに全員美形揃い。

羨ましがらずにいられはしない。


?」


「あ、ううん なんでもない」


泰明をじっと見つめたまま動かないに、泰明は首を傾げた。
そこでハッとして慌てて首を左右に振った。

何を見惚れていたのだ、と。

けれど、は知らずに居た。
と同じく美形八葉に囲まれるの宿る、身体の持ち主のあかねの気持ちを。


「それより…雨、降らないね…」


様…」


フルフルと首を左右に振り、意識を別へと移動した。
その言葉に藤姫が短く声を上げた。

隠し続けて辛い思いをし、こうして打ち明けて、またも辛い思いをした。
それにも関わらず、素早く成すべき事へ意識を向ける姿勢に胸が締め付けられたのだ。



私は…藤は何が出来るのでしょうか…
様の為に────…何が…



外を見つめるの横顔を見つめ、そう思った。
ギュッと締め付けられる胸だけど、今はの様に現状へと意識を向けなければならない。


「青龍を…早く手に入れないといけないみたいだね…」


様、何事も最初が肝心ですわ
 私には応援するほか何も出来ませんが、頑張ってくださいませ」


藤姫の言葉に視線を向け、コクリと頷いた。
強く強く、力強く『分かった』と言わんばかりに。


「…あー なんだか緊張するよぉ…」


大きく深呼吸を繰り返すだが、やはり緊張はぬぐえない。
震えているかのように息を吐き出しながら呟いた。


「大丈夫ですわ、様 私は様の力を信じております」


「ありがとう…藤姫ちゃん」


今の藤姫の言葉は、とても心強かった。
八葉と共に行くとしても、やはり不安は拭えない。
不安は不安しか生まず、拭えなかった不安はより膨張していたのだ。


「………」


「天真くん?」


無言のまま床を見つめる天真に気付いた
首を傾げ、少しだけ天真に近寄りながら声を掛けた。


「俺さ…行きたくねぇんだ」



ああ…そっか
きっと…対面するもんね…



天真の言葉から、何かを感じ取った
それが天真の妹である蘭の事だと、すぐに分かった。


「ランの…妹さんの事、でしょ?」


「ああ…」


の静かな気遣いながらの問いかけに、天真は短く頷き返した。


「蘭が…妹がさ、呼んでも返事もしやしなかった 冷たい目をして俺を見てたんだ…
 そんなあいつと…俺が戦う?俺達が戦う?」


掠れる声が静かに部屋に響いた。
痛む心を分かりながらも、何を言っていいか分からない。
けれど、天真が言いたい事はよく分かっていた。


「…できるわけ…ねぇんだよ」



……やっぱり



天真の言葉に納得する
瞳を細め、必死に言葉を探した。

安易に何かを口にしていい瞬間ではなかったから。


「ねぇ、天真くん」


「…」


その呼びかけに、予想通り天真は無言だった。


「戦えるはずがないって思うから、落ち込んでるの?
 もしかしたらランが来るかもしれないから…対決するのは嫌だから?
 それって…逃げだよ、天真くん 逃げて逃げて、見て見ぬふり 助けられるかもしれないのに、知らないふり」


「───…っ」


「天真くんはそれでいいの?」


今の天真にはキツイ一言だったかもしれない。
けれど、こうでも言わないと天真は立ち上がってくれない気がした。

天真のプライドに火をつけないと、きっとこのまま座り込んで見ようともしないんじゃないかと。


様、時間がありませんわ」


「えっ もうそんなにっ!?」


「天真殿と共に青龍と戦う方をお選び下さい」


藤姫の言葉で、のんびり説教垂れている時間がないことに気づいた。
ハッとして藤姫に視線を向けると、催促の言葉。

コクリ…

分かった、と意味する頷きを返し八葉へと視線を向けた。


「泰明さん、お願してもいい?」


その言葉に泰明はコクリと頷き返した。
スクッと立ち上がる泰明を見上げると。


「… 天真は置いていく」


「はっ!?」


「青龍を手に入れるのは、私と別の者でやった方がいいだろう」


「でも、それで大丈夫なの?」


泰明のいきなりの申し立てには目を丸くした。
ギョッとした表情を浮かべ、顔の位置の高い泰明を見上げたまま問い掛けた。


「行きたくない者に無理をさせても上手くはいかない」


見越したような泰明の言葉に、ムッとしたのは天真だった。


「お前、仲間だろ!他に言い方はないのかよ?」


「慰めの言葉はお前の様な者には無意味だ」


喰いかかる天真にジト目を向ける泰明。
淡々とした言葉が、より強調されて聞こえた。


「行くのなら、迷いを置いていけ その心持のままでは、上手くいかぬかもしれないが…
 私の出来る限りで手助けはしよう それがに選ばれた私の役割だ」


「…っ」


泰明の言葉は、本当に泰明らしいものだった。
よく考えれば、他に言い方はないのかと問い掛けてもこう返ってくるのは目に見えていた。


「あんたらしいよ 悩んでるのが馬鹿みたいだぜ」


肩を竦め、苦笑を浮かべると天真は立ち上がり、座ったままのに手を差し伸べた。


「…行こう 心配かけて…悪かったな」


そんな言葉が、今度は天真らしかった。










To be continued....................




地の理の第六章…そろそろ終盤です。
徐々にヒロインと泰明の間柄が変わっていけたらいいなと思います。

そしてあかねは……?w






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