ランが天真くんの声に反応を示したら、その時は連れ戻してもいい

確かにあの時、そう約束した

それは…天真くんの声に、ランが反応してくれると思っていたから…

違うかもしれないと…心のどこかで…思っていながらも────────…













transmigration 第十二話













到着した場所から、何かを感じた。
それは多分────


「ここに青龍がいるの?」


「ああ、そう聞いているが…」


の言葉に天真は頷き返した。
聞いた話では、ここに居るはず…と。

しかし、その言葉も訪問者によって妨げられた。


「……来た、ね」


の言葉に、天真はただ頷くだけだった。


「来たか、 そして、地の青龍 四神の一つ、青龍を手にしたければ我が部下の操りの糸を切らねばならぬぞ」


「…………」


「…蘭!」


アクラムの言葉に、と天真の視線はランへと注がれた。
黒髪が目立つ、両脇で髪を結った少女。
無言のまま佇む姿は、人形のようだった。

叫ぶ天真と、何の反応も示さないランを見ているとは思ってしまう。



もっと、ちゃんと前世の事を覚えておけばよかったのに…
そうすれば、ランをもっと早い段階で助け出せていたかも…しれない、のに…



終わりのない後悔ばかりが、の胸を掠めた。


「…、気にするな お前は何も悪くない」


「────っ」


天真の言葉は、今のの気持ちを察しているかのようだった。
唇を噛み、息を呑み、視線は天真に釘付けだった。


「蘭、俺の声が聞こえてるんだろ!?なぁ!」


「………」


「諦めない…絶対に 蘭!天真だ!助けに来たぞ!」


「………」


それでも、ランは天真の言葉に返事もしなかった。
すると思っていた、のに何の反応も示さない。


「戻って来い、蘭!!!」


「ククククク 吠えるな、小僧 この娘は、私のものだ」


笑みを零しながら、アクラムは卑劣な言葉を向けた。
その言葉に怒りをあらわにしないほど、天真も大人ではなかった。


「ふざけるなっ!!そんな事、俺が認めない!!」


「犬ではないのだ 噛みつくのは止めておけ、天真 すぐに決着はつくのだから」


負け犬の遠吠えの如く、叫び続ける天真に泰明が淡々と言葉を向けた。
燃え上がる怒りを宥めようと。



私も…
私にも…何か、出来ないのかな…
今までみたいに、見てるだけなんて─────…そんなのは…嫌だっ



「天真くんの声を聞いて、ラン!アクラムなんかの言いなりになんて、なっちゃ駄目だよ!!
 お願い…目を、目を覚まして!!!」


シャン…

シャン…

の必死の叫びに反応するかの如く、鈴の音が鳴り響いた。
それはやはり、にしか聞こえない音色のようで誰一人として反応を示してはいなかった。



…また、鈴…



けれど、のほかに一人だけ漸く反応を示すものが居た。
同じ、神子でありながらに違いすぎる境遇の片割れ。


「………………?」


ランがかすかに、動いたような気がした。


「天真、妹御は青龍を操る まずは青龍を得て、それから妹御を得よう」


「…泰明」


それは、から聞いても励ましの言葉に聞こえた。
あの冷静沈着な泰明から、そのような言葉が出てくることに微笑が漏れた。


「ラン、青龍を呼べ」


「「「!」」」


アクラムの言葉に、全員の視線がランへと注がれた。
今のランではきっと、アクラムの言葉に従ってしまう。
つまりは…戦闘になる。


「八葉を始末し、龍神の神子────…いや、今はか」


フッ、と笑みを浮かべアクラムの視線はを捕らえた。


を捕えろ、ラン」


「はい、お館様」


「クククク、無駄だぞ ランは私のしもべ
 お前たちの声など聞こえはしない」


アクラムの言葉に、躊躇う事無く頷く姿に天真は愕然とした。
何があれば、こんなにも変わってしまうというのだろうか。


「蘭!!やめるんだ、蘭!!!」


「いでよ、青龍!」


天真の必死の制止の声も届かず、ランは青龍を召喚した。
目の前に現れた青龍は我を忘れ、敵の手の内で操られていた。


「─────は、私の後ろに下がっていろ」


「泰明さん」


「…大丈夫だ、 俺達は絶対に負けない」


「天真くん……」


強敵だと言うのに、どこか自信に満ち溢れた二人。
そんな天真と泰明の背中を見つめ、一つ息をゴクリと呑むと。


「…私は守られてばかりは嫌」


「「!?」」


発されたの言葉に、天真は「は!?」と驚きを示した。
泰明に関しては目を見開き、静かに驚いていた。


「私にだって力はある それに…私がこの世界に来たのは…神子を、あかねを守るためだよ
 その私が、八葉の二人に守られているのは筋違いだよ」


その言葉は確かなものだった。


神子を助けろ 汝にしか出来ぬ事…


初めて聞いた龍神の声が、頭の中で反復された。
知っている過去の記憶通り、これから起こりうる未来を確かな道へと示していく事。
それがの使命だった。


「大丈夫 この身体を傷つけはしないから」


ふわりと、微笑みを浮かべ言い切った。


「来るぞ」


泰明のその一言が戦闘の開始だった。
襲い来る青龍は荒ぶれ、あちらこちらに攻撃の痕跡を残した。


「神鳴縛!」


言の葉を紡ぎ術を発動した瞬間、雷の攻撃で青龍を束縛した。
ギシギシと動く事は出来ず、必死にもがく。


「太上鎮宅霊符!」


続いて泰明の攻撃。
投げられた呪符による強力な符術は、青龍に大きなダメージを負わせていた。

甲高いような、獣の鳴き声が上がる。
キン、と耳に障る激しい悲鳴。


「天真くん、左ななめ前!」


「っ!?」


のその言葉に、慌ててそちらへと視線を向ければ漸く束縛の解けた青龍が今まさに攻撃を仕掛けようとしている所だった。
ハッとして、慌てて右斜め後ろへと飛びの居た瞬間。

ドガッ…!!!!!

先ほどまで天真が立っていた地面が大きく抉れていた。


「泰明さん、前上空!」


「ハァッ!」


の声に従い、取りだしていた呪符を投げた。

バチバチバチ…

力を発揮した呪符が青龍へとダメージを与えた。
その瞬間に青龍に生まれた隙を見逃さず、は両手を組み五行の力の気を放った。


、今だ」


「うん!」


痛みに耐えるように荒れ狂う青龍を睨みつけたまま、泰明はタイミングをに知らせた。
倒すのはすぐにでも出来ること。
けれど、にはもう一つ出来る事があった。



今────…封印を…



意識をグンッと集中させた。
そこに光を集中させるように、清い力が流れ込む。

カッ…!!!

光ったかと思った瞬間、荒れ狂う青龍の姿はどこにもなかった。


「勝った…の?」


「そうだ、 それがお前の力だ」


手にあるのは青龍の描かれた札だった。
それをジッと見つめ、泰明の言葉をジンと身に感じた。


「これが、青龍の力 私達、青龍を解放出来た…って事?」


「どうやら、そうらしいぜ!
 しかも、俺達の為に力を使ってくれるってさ」


今まさに戦っていた相手が、手元にある。
その事実に驚きを隠せない
しかし、天真の言葉でより驚いてしまった。


「ククククク ラン、情が湧いたのか?」


「………………?」


アクラムの笑い声が響き、疑問そうなランに問い掛ける。
アクラムの問いにもやはり疑問そうな視線を向けていた。


「何ぬかしてやがる ごたくはどうでもいいんだ」


不機嫌極まりない口調で天真はランを見るアクラムに言葉を掛けた。
それは兄としての姿。
それは、敵と対峙する八葉の姿。


「俺の妹を返して貰うぜ 蘭、こっちに来るんだ」


「フッ、なかなかやるな だがな、その程度では─────…ランをやるわけにはいかぬな」


手を差し出し、蘭を催促する天真。
早く、早くこちらに来るんだと必死な瞳。

けれど、アクラムはそれを分かっていながらも天真を地に落とす。
その反応を楽しんでいるかのように。


「ラン」


「はい、お館様…」


アクラムの短い呼び声に、二つ返事で近寄るラン。


「あやつを呼べ」


「はい」


アクラムの言葉に返事をし、少し離れるラン。
その様子に、天真もも泰明さえも首を傾げた。

あやつ、とは誰の事なのか。


「──────…」


次の瞬間、姿を現したのは一人の少女。
あかねの姿に瓜二つの、けれど髪の長さの違う────…の身体だった。


「青龍はうまくいかなかったが…そなた等を始末出来ればそれでよい
 ラン、下れ あとはの身体にやらせる」


「……はい、お館様」


含む笑みは怪しく響く。
クツクツと笑うたびに金の髪は揺れ、鋭い瞳がを八葉を見据える。


「安心しろ、地の青龍、地の玄武 神子の身体は丁重にもてなそう」



その先に何が待っていようとな…



全ては語らず、アクラムはそう告げた。
そして、その言葉が合図のようにジャリ…との身体が地面を踏みしめた。









To be continued....................





第六章がもうすぐ終わりますー(ホッ)
本当の原作は、ここでランを連れてアクラムは再度姿を消すのですが…少しだけ延ばします、延びました。

あかねの身体をアクラムがどうしようとしているのか…も、実はがこの世界へやってきた理由の一つなのです。
アクラムと龍神のみが知る裏話なんですけどね…そのうちこれも公開できればと…思います。






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