違う…その言葉の意味を────…すぐには知る事は出来なかった…

まるで、見計らっているかのような……











transmigration 第十四話












あの直後、疲れた私達は藤姫ちゃんの屋敷に戻った…
また、泰明さんが私の部屋を訪れた時にでも…『違う』と言っていた事の意味を聞こうと思って……

けど、結局…朱雀の解放に向けての行動が忙しくて…聞く暇なんて実際にはなかった…



ちゃん、おはよう!入っても大丈夫?」


聞こえた声は詩紋のものだった。
藤姫と顔を見合わせたは、コクリと頷いてから。


「いいよ どうしたの?詩紋くん」


そう答えた。
首をかしげながら、入ってくる詩紋へと問い掛けの言葉を。


「今日から朱雀を取り戻す日じゃないのかなって思って 違ったかな?」


「申し訳ありません 今日はまだ、呪詛に関する場所を特定できていませんの…」


「うん、だから一日待とうって今話してたところだったんだよ」


詩紋の問いかけに、藤姫は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
唯一占える藤姫が特定できておらず、つまりは先には進めないという事。

唯一出来る事故に、藤姫は気にしてしまっているのだ。


「そうだったんだ うん、分かったよ」


「それでは、私は占いに入らせて頂きます 失礼致しますわね」


詩紋の納得してくれた言葉に藤姫はホッと胸を撫で下ろした。
八葉として努める詩紋が、温厚で良かったとも思えた。


「さてと…私も────」


ちゃん」


「───ん?」


やる事がないから、出かけようかと思い立ちかけた瞬間だった。
詩紋の、少し悩んでいるような含みのある口調の声が掛かった。


「ボク、ね…気になってる事が実はあるんだ」


「え?何?」


いきなりの告げ事に、は首を傾げた。
そういう風に打ち明けてくれるのは、心を許してくれている証拠。

これほど嬉しい事はないのだけれど、喜んでいる状況ではないのは確かだった。


「イクティダールさんが言ってた事が全部間違いだとは思わないんだ、ボク
 怨霊を呼んだのが鬼だったとしてもさ…それには何か理由があったわけでしょ?」


俯き気味に、詩紋は言葉を紡ぎ続けた。
思う事を、必死にに伝えようとする。


「ボクだって…この外見でいろいろ言われたのに 自分だけ違うなんて…言えないよね」


「詩紋くん…」


「本当はボク、助けたいんだ 彼を助ける方法を…知りたいんだよ」


きっとそれは、純粋な気持ちなんだろう。
同じ境遇に現代であっていたからこそ、分かる痛みもある。
人よりも、強く強く共感してしまう部分があるのだろう。


「お札を手に入れた時、ランは…あの女の子は悲しそうだった気がするんだ
 天真先輩の妹さんだって聞いて…なんだかとっても苦しくなっちゃったんだよ」


眉をハの字にして、悲しげに声を震わせながら詩紋は話した。
思ったこと、感じたこと、したい事。
詩紋の、心の内を。


「だからこそ、彼らと…鬼の一族と戦うのがボクは嫌なんだ
 イノリくんには…言えないけど でも、このままじゃ藤姫のお父さんの病気も治らない
 それに何よりね…ボク達が元の世界に帰る事が出来ない」


その言葉に、はドキンとした。
帰れないという事は、もこのままという事。
何も、変わらず、アクラムに身体はとらわれたまま。


「本当に……戦うしか…ない、のかな?
 戦わないと四神も取り戻せなくて…それで、元の世界にも帰れないのかな?
 他に…他にはもう、方法はないのかな?」


その疑問は当然のものだった。
誰でも戦いたくなどないのだ。
まして、戦う相手の中に知っている人がいるともなれば。
そして、憎めていないとなれば当然。


「他に…何か方法があればいいんだけどね…」


「うん そう、なんだよね ボクも…そう思うんだ 何かいい方法はないかな…」


眉をひそめ、考える。
けれど、何か方法があればきっとそれはすぐに実行していたはず。
していないという事は、思い当たる事がないのだ。


「でもね、詩紋くん」


「うん?」


「私はね…昨日の天真くんが忘れられないよ」


そう呟くの瞳は、少しだけ過去を見つめていた。
宙をジッと見つめながら、ゆっくりと唇を動かした。


「ランを…天真くんの妹さんを助ける為にも きっと、鬼と戦うのは避けられないような気がする…」


「…………うん、そうだね」


の言葉は、的確に的を射ていた。
だからこそ、詩紋は間を空けつつも頷くしかなかった。


「ボクよりも天真先輩の方が…きっと、もっと苦しいよね
 助けになってあげたいな ボク、いつも天真先輩のお世話になってるし…」


「ふふっ そうだね…頑張ろうね、詩紋くん
 とは言うものの…今日はどうしよっか 藤姫ちゃんの占い待ちだし…」



話を聞きたい泰明さんも全然来てくれないし…



一瞬だけ思考が逸れた
会いに行ってもいいのだけれど、それではまるで強制的に聞くみたいでどこか嫌だった。
だから会いにも行けず、けれど来てくれないから話は進展してはくれない。


「じゃぁさ、ボクと一緒に出かけない?」


詩紋のその一言で、の逸れていた意識は戻ってきた。
ハッとして慌てて詩紋の瞳を真っすぐ見つめると。


「うん、いいよ!どこ行くの?」


「桂川…かな 涼めるし」


「じゃ、今日はゆっくりしよっか 本番が待ち構えているわけだし」


どこかハイテンションには言葉を紡いだ。
会えないのなら、会いに行かないのなら、こうやって暇を潰すのもいいのかもしれない。

そう思ったからの行動だった。














「ここが桂川かぁ…」


「あ!」


辺りをキョロキョロしていると上がった詩紋の声。
パッと慌てるように視線を向けると、詩紋自身には何ともなくホッとしながら「どうしたの?」と問い掛けた。


「酷い…水が、枯れ始めてるよ これじゃぁ水不足に…なっちゃう…」


「本当だ…」


詩紋の指摘で漸く目に留まった現状。
一気に心が落ちていく、そんな感覚を覚えた。


「ここまで酷いなんて思わなかった…
 ボク、泰明さんが『雨が降らない』って言ってたのに…現代の出来事を想像して…ここまで深刻だなんて思わなかった」


昔と今とでは、きっと雨が降らないという言葉にも差が出てくるのだろう。
現代は、連日雨が降らなくてもそこまで何かが大変なことになるわけではなかった。
降らないと言っても、全然降らないわけでもなかったから。

だから、京でも同じような想像をしてしまっていたのだ。


「これも鬼の一族がやったことの影響…なんだよね
 戦いたくないのに…こんなの気付いちゃったら─────…戦うしかないみたいじゃない
 それ以外…方法がないように思えちゃうよ…」


それほどに、現状は深刻なもの。
つい先ほどまで考えていたものが一変してしまいそうなくらいに。



このままじゃ…ここの人達が苦しむ事になっちゃうよ…



ギュッと胸が押しつぶされそうな感覚。
どうしようもなくて、下唇を噛み締める。


「…頑張ろう、詩紋くん!」


ただ、それしか言えないけれど落ち込む事は後だって出来る。
今は出来ることを頑張る他ない。


「うん いっぱいいろいろ考えて、それでも答えが出ないなら…やれる事からやるしかないもんね
 ボク、どこまでできるか───なんて分からないけど、朱雀を解放したい
 それから、鬼の人達も助けてあげたいんだ どっちも…なんて我がままなのかもしれないけど…」


正直な詩紋の気持ち。
確かに敵対し合うものである鬼までも、なんて我がままの一つなのかもしれない。
けれど、そういう気持ちなくして京を救えるものじゃないのかもしれない。


「ううん、そんな事無いよ 詩紋くんがそう思うなら、やってみようよ」


「ありがとう…ちゃん」


の言葉に、嬉しそうに微笑みながらお礼を言った。
ここにイノリが居たら、もしかしたら反対されたかもしれない。
それでも、きっと詩紋はこの気持ちを打ち明けたのだろう。


「あれ?」


「どうしたの?」


「あそこに誰か居る…」


詩紋の指摘には目を凝らした。
ジッとみていると、見覚えのあるシルエットが視界に留まった。


「────ランだ」


「そうなの!?」


対面している正体に、は即座に気が付いた。
だからこそ名を口にし、詩紋の驚きの声に静かに頷いた。

シャン…

シャン…



なんなんだろ…この鈴の音
前から耳につくなぁ…



シャン…

シャン…


「声、掛けてみようよ」


「えっ?ごめん 今ちょっとボーっとしてて…」


語尾だけ聞こえたが、何を言っていたのか分からなかった。
鈴の音の方に意識が集中していた所為か、慌てて詩紋へと視線を向けていた。


「声を掛けてみようって言ったんだよ」


「ランに?」


詩紋の言葉に眉をひそめた。
鬼の仲間だという事は確か。
そして、を襲った者でもある。

八葉は一度、対面していたが詩紋が声を掛けようなんて言うとは思ってもいなかった。



確かにこっちには気付いていないみたいだけど…



どうしようかと、悩んでしまう。


「待って、駄目だよ!どこにアクラムが居るかも分からないし…」


のその答えに、詩紋は首を左右に振った。
静かに、その金が揺れる。


「頑張ろうって言ったじゃない それは戦うって事だけじゃないと思うんだ
 だから………」


「────そう、だね 詩紋くんの言う事、もっともだと思う
 ランに話し掛けてみよう」


詩紋の言葉で一歩を踏み出せた。
は詩紋と共にランの元へと近づいていった。


「………… …… ………………」


無言のまま、どこかを見つめるラン。
そんな中、いきなり聞こえた音がある。

シャン…

シャン…


「…… ………… ……」


ふわりと、ランはいきなり微笑みを浮かべた。
その事に、は少しだけ驚いていた。


「あの…よかったら、ボク達とお話しませんか?」


おずおずと、けれど確実に詩紋はランへと声を掛けていた。
しかし、予想通りランの反応は皆無。



なんだか…ずいぶん印象が…違うような…



それは、きっとだけではなく詩紋も感じていた事。


「ねぇ、あの…天真先輩の所に─────…戻りませんか?」


「……… ……」


「あ、待って!」


問い掛けに答えず、ランはどこかへ行ってしまった。
待ってという詩紋の制止も無意味に。


「行っちゃったね…」


「ボク余計なこと言っちゃったのかな…?」


余計なことだったのか、それとも誰かに呼ばれたのか。
分からなくて首をかしげ、「分からないなぁ…」と呟くしかなかった。


「それに、前に会った時と全然印象違うし…」


「うん、確かにそうだよね
 ランがどういう気持ちなのか、どういう立場なのか────…」


「「全然分からない…」」


詩紋の言葉はも感じていた事だった。
だから、少しの間をおいて二人は同時に同じ言葉を口にした。


「天真先輩の所に…戻って来てくれればいいんだけどなぁ…」


そんな独り言に、胸が閉まる。
もっと早くに何とか出来れば良かったのにと。


「…帰ろうか このままここに居ても、ランは戻ってこないと思うし」


「……………うん」











藤姫の館に戻り、達はちょうど出くわした天真にランと会ったことを告げた。
桂川、そう答えると天真は慌てるように駈け出した。

もう、そこには居ないかもしれないというのに。

それほどまでに妹を思う天真を見ていると、連れ戻す事も出来ない自分が悔しくて。
天真を追いかける詩紋の背中を見送るしか出来なかった。











To be continued...........................




地編の第七章…突入でございます!!!
ヒロインと泰明が恋愛モードになる前に…違う話がっ(汗)
そして…この後とんでもない事がっ…!!!(ぉおう)






transmigrationに戻る