この時私は…あかねの気持ちを全く理解していなかった…

そう…

だって私はあかねの身体を借りてるだけ…私の気持ちなんて───────…









transmigration 第十五話










「さてと…今日は何をしよ……う…かな?」


詩紋が今日は都合が悪かった。
だからこそ、前に進む事は出来ず暇を持て余していた。

グラリ…

揺れる視界は一体何なのか。


「失礼する」


聞こえた声はハッキリと聞こえる。
なのに、の感じる視界の先はぐるぐると回っていた。

まるで、この世のものじゃないように。


「あ…泰明、さん おはようござい…ます どうし……た……… …んで…す、か?」


ぐるぐるとまわる視界。
けれど、ようやく訪問してくれた泰明を前に倒れまいと必死だった。



聞きたい事があるから…倒れられない…



それが今のの心情だった。
けれど、そんな気持ちとは裏腹にまわる視界は止まらない。

まるで、引き戻すように、引き込むように。


?だ、大丈夫かっ!?」


回る視界は視覚を麻痺させる。
気持ちが悪くなってきたは、そのまま耐える術などもう持ち合わせていなかった。

ガシッ…

力強い腕で抱き締められる中、の意識は闇へ落ちていった。
それでも、前とは違う感覚に眉をひそめた。


!!!?!?」


「う……ん…」


「大丈夫か!?」


慌てる泰明の視線が目に留まる。
ゆっくりと瞳を開き、その姿を凝視した。


「あ、はい 大丈夫ですよ?泰明さん どうか…したんですか?」


「……神子か?」


返された返事に、泰明は眉をひそめ首をかしげ問い掛けた。
ずっとの後ろに沈み眠っていた魂。
それが今、を押しのけ出てきたのだ。

それは当然。
ではなく、あかねこそが身体の主人なのだから。


「え?そうですよ?
 あ、そっか ずっと私じゃなかったんですもんね、出ていたのは」


話は聞いていたから、泰明の態度にも納得が出来たあかね。
うんうんと頷きながらそう言うと、再度泰明を見上げ。


「それで…何か御用だったんですか?」


そう、と同じ問いを返した。


「ああ 今しがた、朱雀門で詩紋がセフルと言い合いをしていた」


「ええっ!?」


泰明の言葉に、盛大に驚いたあかね。
目を丸くして泰明を見上げると、慌てて立ち上がった。


「私、見に行きます!一緒に来て下さい!」


「無駄だとは思うが、神子が決めたならば行こう」


そう言うと、泰明は一歩を踏み出し先を歩くあかねを追いかけた。
その姿は、まるで八葉の一人として動く今までの泰明。
が現れていた時の泰明とは、少しだけ感覚が雰囲気が違っていた。










「…居ないみたい」


「無駄だと言っただろう 詩紋は鬼を説得しようとしていたが、上手くいかないようだった」


訪れた朱雀門にはすでに居ると思っていた二つの姿はなかった。
セフルは当然、詩紋だって目立つ出で立ち。
見逃すわけがなかったのだ。


「そう…やっぱりセフルを説得してたんだ」


朱雀門を見つめながら、そうポツリと声を漏らした。
知らない間に、色々と変わっていったんだと。
まるで知らないうちに周りの人ばかりが成長してしまっているような気がして。


「詩紋くん、頑張ってるんだ…」


「頑張る?鬼を相手に何を頑張る必要がある」


あかねの呟いた一言に、疑問そうに首を傾げた。


「それはそうかもしれませんけど…」


「お前たちは不可思議だ 鬼を救う必要も、その余裕もないはずなのに」


眉を潜め言葉を紡ぐ様子は、本当に疑問に思っているようだった。
眉間のしわの濃さがそれを物語っていた。



不可思議といわれても…



そんな風に心の中で思った。


「だって、戦わずに済むなら…その方がいいですし…」


「馬鹿な事を…」


「馬鹿なことって…」


不可思議と思われても、それがあかねの気持ちだったから。
それを正直に話せば馬鹿などと言われ、フルフルと首を左右に振った。


「そんな事無い 泰明さんも同じですよ」


「同じ?」


「そうですよ だって、泰明さんだって、そう思わなかったから朱雀門でセフルと戦わなかったんでしょう?」


首を傾げる泰明に、苦笑を浮かべながらも諭す様に言葉を紡いだ。
そう、同じなのだ。
どう思っていようと、少しでもそう思っていたからこそ手を出さなかった。


「……分からない」


「泰明さん…あなた、本当は優しい人なんだよ」


「優しくなんかない!」


あかねの言葉の意味が良く分からなかった泰明。
けれどその様子を見て、あかねは分った事があった。

泰明が、優しい、という事。

けれど、泰明自身はそれを大きく強く否定していた。



優しいよ…泰明さんは……
だって…私は知ってる…心配してくれる泰明さんを…



そう呟いたのは、泰明でもあかねでもなかった。
あかねの中に引き込まれた、の言葉。
誰にも聞こえない、誰にも伝わらない、そんな言葉だったけれど、確かには二人の様子を見ていたのだ。



そんな泰明さんを…あかねは分かってくれてる…
あかねは…もしかして────…



二人を見ていると、そう思ってしまうが居た。


「何で怒られなくちゃならないの!?」


そんな事をが思っていた最中、声を上げたのはあかねだった。
ムッとした表情を浮かべ、声を荒げて。


「お前が知ったような口をきくからだ
 私はそんなものではないのに…」


淡々とした口調で、ハッキリと言い切る泰明。
その言葉に、少しだけあかねは悲しげな表情を浮かべた。
その感情がジンッと、中に居るにも伝わっていった。

まるで、筒で管で繋がっているかのように。


「お前は本当に不可思議な存在だ いや…もだな…」


独り言のように呟く泰明の表情は少しだけ苦笑を浮かべていた。


「あの、その……私…」


「帰ろう 屋敷まで送る」


「は、はい…」


歩き出す泰明を、後ろから追い掛けるあかね。
その気持ちがどこか弾むような、けれどどこか悲しげな。
そんな不思議な感情。



ああ…やっぱりあかねは………



は帰る二人を内側から見つめて思った。










「お前はきっと、私に足りないものを持っているのだろう
 それがいい事なのか、悪い事なのか…それは私には分らないが…」


屋敷につき、あかねを部屋へと送った泰明はそう口にした。
瞳を細め、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。


「泰明さん…なんだか少し、変わったみたい…」


踵を返し、部屋を出る背中を見つめ呟いたあかね。
変わったのは、今回の事もあるかもしれない。
それでも…



きっと…の力なのかな…
だとしても………私は…



もう見えない背中をいつまでも見送りながら思った。
その気持ちさえも、へと伝わってしまう。

の気持ちはあかねには伝わらないというのに。
まるで、あかねの身体に入ってしまった宿命とでも言うように、現実を叩きつけられた。









あかね…私は…………私は、やっぱり駄目なのかな…
貴方の気持ちが未来通り…なら、私は─────…この気持ちを…

















































封印しなくちゃ…いけないのかな…









To be continued.......................





なんだか辛い現状になってきていまね。(汗)
ヒロインなんて、あかねの言動を見ていられるという辛い状態ですね…;

あかねは、ゲームではプレイヤーキャラでもありますから…多少ながらも恋愛感情はもたせとこうと思っていました。
なので、こういう感じになりましたが…ずっとヒロインが出てたのでゲームではあかねに向かう感情がヒロインに向くように仕向けましたw(おい)






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