五月十四日…それが、次の運命の日…

第一の手がかりは黒染…

…ねぇ、私は本当の未来へと歩いているのかな…?












transmigration 第十六話













そう…この身体は私のものじゃない…
私の身体はアクラムの元に…だから、私は─────…私の気持ちは…あかねには勝てない…









「なんだか、今日は屋敷の中が騒がしいなぁ
 どうしたんだろう?」


様、失礼します」


「あ、藤姫 今はあかねだよ〜」


「あら、そうでしたか 申し訳ございません」


現れた藤姫に、ではなくあかねだと言う事を指摘した。
いつもならばすぐに交代していたのに、一向に現れない

藤姫がいつもの対応で来てしまうのもうなずける。


「それより、どうしたの?何の騒ぎ?」


少し外に視線を向けて問い掛けた。


「今日は北の方のご長子の端午の節会(せちえ)のお祝いなんです
 当家のお世継ですので盛大で…」


外を見つめるあかねの横顔を見つめながら、説明する藤姫。
いつもいるの反応はなく、どこか違和感を感じてしまう。
けれど、それが普通なのだ。

これが、本来あるべきあかねの姿、あかねの魂なのだから。


「……って事は、藤姫の兄弟って事だよね」


「はい 私も宴の席に呼ばれておりまして、今日だけは出席せねばなりません
 こちらにはご迷惑をおかけしない様に致しますわ
 申し訳ありませんが、ご勘弁くださいませ それから、今日は頼久をはじめほとんどの方がこちらに来られないとか…」


すらすらと進む藤姫の話を外に視線を馳せたまま聞き入るあかね。
話が終わりそうな頃に視線を戻し、にっこりと頬笑みを浮かべた。


「ああ、そうなんだ やっぱり行事があると忙しいのかな
 まぁ、私の事は気にしないで?今日はのんびり過ごすよ」


気遣うように、優しい声色でそう呟いた。
そういう気遣いはとちっとも変らない。

さすがあかねの生まれ変わりというだけあり、似た部分も受け継がれていたのかもしれない。


「申し訳ありません では、準備がありますので…私はこれで失礼します」


ペコリと頭を下げると、ゆっくりとあかねの居る部屋から立ち去って行った。
去り際に、もう一度頭を軽く下げて。


「端午の節会って、要は子供の日って事よね そっかー…もう、そんな時期か………」


ちゃん、おはよう」


「あ、今じゃなくて、あかねだよ」


ボーっと外を見つつ、考えていた事を口にしていたら聞こえた声。
詩紋の顔を見つめ、苦笑しながらまた違うという事の指摘。

やはり予想通り、藤姫と同じように少しだけ驚いた表情を浮かべていた。
といっても、藤姫に関してはそんなに顔に現れないのだけれど。


「あ、そうだったの?ごめんね、あかねちゃん」


「いいよ 仕方ないよ、今までが今までだったんだもん」


肩を竦め謝る必要がないと詩紋に伝えるあかね。
そう、今までが今までなのだから仕方がない。

藤姫がそうなのだから、他の人もそうだと思うべきだと思った。


「今日はなんだか騒がしいね 天真先輩は煩いからって町へ出かけちゃったよ」


クスクス

その時の天真の様子を思い出し、笑いを零しながら詩紋は伝えた。
つまりは天真も今日は来ないという事。


「でも、それは口実だと思う」


「え?」


詩紋のいきなりの言葉に、あかねは首をかしげた。
知らない話、という雰囲気だったから。


「天真先輩ね、最近はよく桂川の方に行ってるみたいなんだ」


「…桂川に?なんでまた?」


天真が桂川に行くという事実に、あかねが疑問を覚えた。
何も知らないから、どうしても聞いてしまう。
詩紋は苦笑を浮かべ、閉じていた口をまた開いた。


「あ、そっか あかねちゃんは知らないんだよね
 実はね─────…」















「────…という事があったんだ」


「そっか…」


何も知らないあかねにあった出来事を告げた。
鬼の元に天真の妹が居るという事を知り、衝撃を受けたあかね。


「この間、結局妹さんが見つからなかったから時間があれば探しに行くみたい」


「…何もかも、上手くいくといいんだけどね」


「うん、そうだね ところであかねちゃん 今日は何かあるの?」


しんみりした話を詩紋は頷くと同時に区切り、首をかしげて問い掛けた。
視線を外に向けると、閉じた口を再度開く。


「藤姫から…何か聞いてる?」


「端午の節句なんだって 子供の日だよ、子供の日!
 やっぱり、かしわ餅なのかなぁ…」


問う詩紋に、先ほど藤姫から聞いたばかりの話を伝えた。
楽しげに呟く口調は、食欲に満ちていた。


「うーん、どうだろう?でも、お客さんがたくさん来てるみたいだよ
 知らない人に会ったら困るし、一人だとつまらないから遊びに来ちゃった」


肩をすくめ、クスクスと笑いながら詩紋は告げる。
本当はだと思ってきたのだけれど、思いもよらずなかなか会えずに居たあかねに会えたのだから嬉しくなるのだろう。

やはり、同郷なだけあって通じるものもある。


「私もちょうど、藤姫が忙しくてどうしようかと思ってたところなんだ」


「良かったら、ボクと少しお話しない?久しぶりだし…さ」


詩紋同様にあかねも肩を上下に動かしながらクスクスと笑みをこぼした。
そうしてからコクリと頷いた。


「うん、いいよ 何か話したい事がある…って事だよね?」


「うん」


あかねの優しい言葉に、詩紋は満面の笑みを浮かべた。
とずっと話していて、あかねとの感覚を忘れかけていたからこそ、どこか懐かしさを覚えた。


「…こうしてると、とても平和みたいに感じるから…鬼の一族なんて本当は居なくて、誰も迫害なんてされてなくて…
 みんな幸せみたいな気がする でも、本当は雨が降らなくて…きっと、みんな現実から目を逸らしたいんだ」


話し始めると、徐々に俯いてしまう詩紋の顔。


「そんなの、駄目だと思う 何の解決にもならないよ…」


「詩紋くん…ずいぶん悩んでるんだね
 今までの事…ほとんど知らないけど…それで良かったら、話ちゃんと聞くよ」


全てを見て行動に移してきたのはだった。
あかねは何も知らずに身体の奥底で眠っていただけ。
何も知らずに、平然と。

だけど、話を聞く事は今だって出来る。


「ありがとう、あかねちゃん そう言ってもらえるだけで、凄く勇気が出るよ」


ニッコリと微笑みを浮かべ、軽く首が横に傾いた。
サラリと綺麗な金が動きに合わせて流れた。


「ボクにはどうしても戦う事だけが答えだって思えないんだ…
 だけど、戦わずに逃げる事も出来ない だって────…」


「…………」


そこまで呟くと詩紋は言葉を打ち切った。
なかなか続けられない言葉に、あかねは心配そうに視線を向けた。

詩紋が争いごとを好まないのはよく知っていたからこそ、その考えは納得が出来た。


「───…『京の支配』っていうのも違うと思うもの」


それは、以前アクラムが言っていた言葉だった。
京を支配する事が目的だと…そんな事を、来た当初に聞いたような記憶があった。


「ボク、戦うのってどうしても好きになれない 誰だって自分から傷つきたいわけじゃないと思うんだ
 助けられるなら……助けたい、のにな…」


それが詩紋の望みだった。
詩紋の性格を分かっているなら、それは納得のできる事。

あかねも、内に居るも頷いていた。


「あ、誰か来たみたい」


足音が聞こえてくる。
廊下を踏みしめ、あかねと詩紋の居る部屋へ訪れる足音が。


は居るか?」


「あ、ごめんなさい、泰明さん 今じゃなくて、私…あかねなんです」


訪れた泰明に謝罪をしながら、そう指摘した。
そんなあかねの心中は穏やかではなかった。


「それより、今日はここには来られないって藤姫が…」


そう思っていたからこそ、唐突な訪問に驚いた。


「報告がある」


そんな言葉に耳も貸さず、事務的な口調で泰明はあかねに告げた。


「羅城門の辺りで鬼の子を見た 何かを企んでいる様子でもなかったので見逃したが…どうする?」


「鬼の子……あ、セフルの事ですか?」


泰明の言葉に眉を潜め首を傾げて考え、出てきた名前を口にした。
そんなあかねの問いに泰明は「そのような名前だったか」と淡々と答えた。


「あかねちゃん…ボク、彼と話したい」


向けられた視線は真剣そのものだった。
ゴクリと息を飲んでしまいそうなくらい、詩紋の心が伝わってくる。


「ボクの事をあかねちゃんや天真先輩が支えてくれたように、彼の支えになれたら…」


嬉しい。
そこまでは口にしなかったけれど、それに似た思いだろう。
だからあかねはフワリと微笑みを浮かべた。


「うん、いいよ、行こう 彼と話をしよう」


そう言うと、あかねは詩紋から泰明へと視線を向けた。
それは詩紋に向けた優しげな笑みを浮かべたままの表情。


「泰明さん、教えてくれてありがとうございました」


「供の必要はないのか?」


お礼をいうあかねに首を傾げる泰明。
鬼の元へ行くのだから、泰明にとっては当然の言葉だった。

けれど、その一言一言にあかねは心が動いていた。
それを感じるも同様に。


「二人で行っちゃ駄目かな?あかねちゃん その方が彼も警戒しないと思うし…」


「うーん…そうだね」


詩紋の言葉に少しだけ考える素振り。
首をかしげ、どうするかと考えるも、今は詩紋の意見を優先させた方がいいかもしれないと判断した。


「泰明さん、大丈夫です 二人で行ってきます」


「分かった 鬼の気配は低下していたから問題はない」


大丈夫だと言うのだから、行く必要はない。
そんな考えの泰明はすぐにそう返し、踵を返し部屋を後にした。











To be continued....................






あかね揺れるよー泰明の一言一言に。
てか、ヒロインとあかねへの態度が違いすぎる…(笑)

そしてあかねの心が直に伝わるヒロインは、内心気が気でないはず。(苦笑)
頑張れヒロイン!(><)






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