どうして…分かり合えないのかな?
京の人達と──────…鬼の一族は…
transmigration 第十七話
「羅城門っていうと……この辺り、だと思ったんだけど…」
「あかねちゃん 居たよ!彼だよね」
歩きながら辺りを見渡すあかねに、詩紋が声を上げた。
ピッと指差す先に映る金色に二人の視線は止まった。
「あっ…こっちに気づいたみたい」
短い声にあかねが詩紋に視線を向けた。
けれど、その後に続けられた言葉に再度セフルの方へ視線を向け直した。
「お前達…どうしてここに?」
「君がここに居るって聞いて、会いに来たんだ」
「馬鹿な!」
セフルに会いに来たと言った詩紋に、信じられないといった表情を浮かべた。
鬼だと分かっていながらも、会いに来るなんて信じられなかった。
「話がしたかったんだ 鬼の一族が辛い思いをしたっていうの、分かると思うから」
「………」
分かる?
そう言いたげな表情をセフルは浮かべていた。
けれど、詩紋ならばきっとわかる。
現代で、詩紋もその外見で辛い思いをしてきたから。
「でも、だからって人を憎んでも意味がないと思う 戦っても仕方ないと思う
だから……他の道を…探したくて…」
「…お前、馬鹿か?」
詩紋の純粋な気持ち。
けれど、セフルには本当に分からない感情だった。
だって、今までセフルは酷い仕打ちしかされてきた事がなかったから。
仲間にだって…こんな風には────…
「戦わずして勝利はない 今ここで、葬り去っても構わないぞ」
キッと睨むセフルの姿は、敵として見えた。
その言葉に、その表情に、詩紋は少し眉を下げた。
「待って!だから戦うとか葬るとか…そういうの、やめようよ」
ブンブンと首を左右に強く振った。
「ボク、君と戦いたくない 鬼の一族と戦いたくない
ボク、この世界に来て鬼と間違えられたりして、辛かった…だから鬼の一族の気持ちは分かるつもりなんだ
でも、ボクは京の人達と少しずつ仲良くなれたよ」
そう。
それは詩紋の努力の結晶、努力の証。
「だから……」
だから、セフル達も………
そう思った詩紋。
けれど、セフルがそう簡単に敵である詩紋の言葉に耳を傾けるはずもなかった。
「うるさいっ!煩いうるさい煩い!」
金色の髪を揺らし乱しながらセフルは甲高い声を上げた。
やめろと叫ぶように。
「それは、お前が本当は僕たちの一族じゃないからだろ!?
勝手な事を言うな!」
「そ、そんな…そういう…そういうつもりじゃ…」
セフルの言葉に、言葉を詰まらせる詩紋。
違う…そう言いたかったんじゃないんだ…
上手く伝わってくれない気持ち。
それが何だかもどかしかった。
「ただ────…暴力じゃなくて、言葉にも力があると思って…」
「ああ、言葉にも力はあるさ」
詩紋の言葉にセフルは笑った。
ニヤリ、と嫌な笑みだったけれど、確かに笑っていた。
「差別する時の蔑みの言葉や呪いの言葉なんかもな だが、それだけだ
お前みたいな甘ちゃん、吐き気がする」
強い睨みに臆する詩紋。
ゴクリと息を呑む音が漏れてしまいそう。
そこまで…言わなくても………
あかねはそんな二人を見て、そう思った。
だからグッと怒りをこらえて、静かに言葉を紡いだ。
「詩紋くんは、貴方を心配しているのよ」
ハッキリと、けれど強くは言わない言葉。
「あかねちゃん…ありがとう、かばってくれて」
にっこりと、微笑む詩紋は嬉しさに満ちていた。
仲間だから。
同郷だから。
でも、関係ない。
大切な、友達だから─────…
あかねの気持ちはそれが強かった。
「騙されないぞ アクラム様は、それがお前達の手だと仰った」
「セフル…」
まるで言いくるめられているような、そんなイメージがわくセフルの言葉にあかねは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
仲間は、一族は大切かもしれない。
けれど、このやり方は一族を滅ぼしかねなかった。
「同情するフリをして、近づいたところを捕らえ…そして殺すんだ!」
「そんな事…!」
まるで、脳裏に埋め込まれたようなアクラムの言葉。
セフルは本当に、アクラムを信用し陶酔していたのだ。
「お館様が世界を支配すれば、素晴らしい世界になるんだ!それ以外は、何の意味もない!」
「そんなの駄目だよ、セフル!心は自由だから、力には屈服しない!」
必死に、詩紋は言葉をセフルに投げかけた。
アクラムの言葉以上に響くものを伝えたかった。
セフルは、まるでアクラムに利用されているようだったから。
「心も従わせようとしているのは、京の人間達の方だ
僕達はずっと迫害されてきた…今こそ、今こそ愚かな民による支配を打ち砕き、僕らの為の世界を築く」
そう言い切ると、キッとセフルの鋭い青眼は詩紋を捕らえた。
睨みつけ、まるで動けなくするように。
呪縛するように。
「お館様の聖なる復讐を、お前達に邪魔されるわけには──────」
ピッと右手を斜め右下に切り捨てるように横切らせた。
「────いかないんだ!」
強い言葉は時に何も言わせなくさせる。
けれど、詩紋にはそれは意味をなさなかった。
「でも…でもボクは、君達と……」
言葉が止まる。
セフルを真っ直ぐ、憎しみの全くない瞳で見つめた。
「君と────…戦いたくなんかないんだ!」
「うるさい!」
バシッ!!!
返す言葉もなかったセフルは、その言葉を止めさせる為に詩紋に平手打ちをかました。
痛い振動が詩紋の頬を襲う。
「─────っ」
「詩紋くん!」
痛みに一瞬目が閉じられた。
そんな詩紋に声を上げ駆け寄るあかね。
「お前達には分らない、分かったフリをするな!不幸にされてきたのは僕らだ」
怒りにまかせた言葉は、もはや止まりはしなかった。
「お前達さえいなければ、アクラム様が京を支配できる
これまでの苦しい日々は終わる お館様は僕を救ってくれた…お館様の望みが────」
強い思いは、誰の言葉も受け入れない。
「────僕の────」
信じた道を進む者は、道をなかなか変えはしない。
「───望みだ!」
それが、崇拝する陶酔する相手なら尚更。
だから言い切れるセフル。
「復讐なんて間違ってる!そんなことしても、誰も救われないよ」
「そんな話は聞きたくない 例え誰であろうと、邪魔する奴は許さない」
聞く耳なんて持ってくれなかった。
「もうやめるんだ、セフル」
「イクティダール!どうしてここに?」
突如現れた姿に、セフルは驚きの声を上げた。
その場に居た、詩紋とあかねでさえも驚きイクティダールを見つめた。
「今はまだ、戦う時ではない 勝手な行動は控えるんだ」
「うるさい!京の人間と通じたお前に指図されるいわれはない!」
火に油。
「では、お館様のご命令だといえば、よいのだな」
「くっ…!分かった」
しかし、アクラムには滅法弱いらしいセフル。
下唇を噛み、眉間にシワが寄る。
「待って!」
「お前を最初に殺してやる 地の朱雀─────」
イクティダールと消え逝くセフルの姿。
「───覚悟をしておけ!」
そう言い残し、消えた二人の立っていた場所をただ無言であかねも詩紋も見つめていた。
「何も出来なかった…」
その事実に、詩紋は残念そうに眉をハの字にさせた。
「彼に理解してもらう事も───…彼を理解する事も
あかねちゃん…帰ろう つき合わせてごめんね…」
そんな落ち込んだ詩紋を見つめ、あかねは何も言えなかった。
ただ、風に吸い込まれるようにポツリと名前を呼ぶことしか出来なかった。
To be continued...................
中日シナリオはまだ少しだけ続きます。
が、綺麗だったのでここでとりあえず切り。
ヒロインが登場しな────い。(涙)
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