分からない…

分からないけど────…そんな気がした…そこだと…思った…










transmigration 第十九話









「黒染から北西…ここも範囲内、だよね」



ここだと…思ったんだけどな……



蚕ノ社に足を運び、辺りを見渡した。
感じたアレは違ったのかと、あかねは首を傾げる。


「…ここ、別に変った所はないみたいだけど…」


「探してみるか」


詩紋さえも首をかしげ辺りを見渡した。
朱雀の解放なのだから、詩紋なら何か感じると思ったのだけれど的外れ。

泰明の言葉に「うーん」と少し考え込んでしまったあかね。


「駄目でもともとだよ、あかねちゃん」


「そうだね…探してみよう!」


詩紋の言葉にふん切りが付いたのか、大きく頷いた。


「分かった 探してみよう」


そう言うと、詩紋も泰明も二手に分かれた。
手がかりを探す様に、歩みを進める。


「さてと 私もぼーっとしていられないや 頑張って探さなくちゃ」


拳を作り、意気込むあかね。
そんなあかねの瞳に、人の姿が目に留まる。


「あれ?戻ってきたのかな?」


そう首をかしげ目を凝らした瞬間、いきなり身体を襲った衝撃。
よろけて転びそうになる身体でバランスを取った。


「な、何!?」


「よう、あんた…イノリの親分のダチなんだろ?
 親分どこにいるんだ?」


掛けられた声に「いたたたた…」と声を漏らしながら、身体をさする。


「もう、急に突き飛ばすんだもん」


「わりぃわりぃ ところで親分は…」


謝りながらもイノリを探す子供に、あかねは口を開こうとした。


「あかねちゃん、どうかした?今、こっちに誰か来たよね?」


「うん この子が…」


一緒に来ていない事を伝えようとしたら、そんなあかねの言葉を遮ったのは詩紋だった。


「なんだ、あんたか …っと、いけねぇいけねぇ
 イノリの親分から、あんたの事を鬼って言うのはやめろって言われてたんだっけ」


「えっ、イノリくんに!?」


危ない危ないと慌てて口を噤む子供に、驚く詩紋。
その表情は嬉しそうで、胸の前で指をいじりながら微笑んだ。


「そっか…なんだか嬉しいな」


「あんたの事をダチだと思えって親分が言うから、そう思ってやるぜ!」


「本当!?ありがとう!」


その言葉すらも、今の詩紋を嬉しさでいっぱいにした。
この世界に来て、辛い思いを沢山してきていたから。


「ダチだから教えるけどよ、ビックリするなよな?」


「どうかしたの?」


子供の言葉にあかねが首を傾げた。
その様子に、フフンと鼻を鳴らし偉そうに胸を張ると。


「オレ、鬼の隠れ家を見つけたんだぜ!」


「ええっ!?隠れ家!?」


驚くのも当然の話で、あかねも詩紋も目を見開いた。


「こないだ、双ヶ丘の近くでさ…鬼のおやじを見たんだ
 一の丘に登っていったから、ぜったいあそこに隠れ家があるんだよ!
 一人でつけてみたんだけど、見失っちまってさ…」


語る子供はどこか悔しそうだった。
あと少しだったのに、といい出しそうな程に唇を噛みしめる。


「軽はずみな真似は慎むべきだ」


キツイ物言いだったけれど、それは子供を思っての事。
あかねも、そして中で出来事を見つめているさえも泰明の言葉には同意だった。


「でもよ、あの辺に住んでる奴ら…何度も鬼を見かけたって言ってるんだぜ
 イノリの親分にも絶対教えたいって思ってさ…」


「双ヶ丘か…隠れ家かどうかはともかく、ちょっと気になるかな…」



うん…たぶん隠れ家じゃないと思う…
けど、きっと何かある…



子供の言葉に少し考えるあかねの言葉に、は中に居ながらも同意した。
何かを感じた。
待ってる何かを。


「じゃ、オレ、もう行くから!
 あんたを信用してやるんだ、鬼のヤツら…何とかしろよな!」


「あっ」


言いながらも駆けだす子供に声を上げた詩紋。
もう行ってしまうのかと口にしようとしたが、すでに遅し。


「…行っちゃった」


「双ヶ丘か 確かに範囲内ではある」


詩紋のその声に少しだけ間を空けてから、泰明がボソリと言葉を発した。
腕を組み、眉間にシワを寄せていた。


「神子、行くか」


「うん、双ヶ丘に行ってみよう!」










訪れたのは、子供から話を聞いた双ヶ丘。
泰明と詩紋を連れて、辺りを見渡した。


「天ここで本当に鬼が何かをしているなら、つきとめなくちゃね」


そう意気込み呟くあかね。
けれど、どこが一の丘なのかよく分からなかった。


「ええと…一の丘って─────…ううん?」


「えーっとね、聞いたことあるよ 確か、双ヶ丘には三つの丘があるんだって
 それでね、鬼の人が向かった一の丘は、今いる二の丘の北側にあるんだよ」

首を傾げるあかねに答える詩紋。
ふんふん、と頷きながらあかねは詩紋の言葉に耳を傾けた。


「って事は、一の丘に向かってあるけばいいって事だよね」


そう言いながら辺りを見渡す。
北、はどっちだろうと。


「…北の一の丘まで獣道が続いている 神子、足元に気をつけろ」


どうしようと考えていると掛けられた泰明の言葉に、あかねの視線は獣道へと向けられた。
確かに、足元に気をつけなければいけなさそうな道だった。


「うーん…でも、獣道は当てにしないで真っ直ぐ北を目指した方がいいかもしれない…」


「えっ、どうして?道があるのに…」


獣道を無視するというあかねの言葉に、詩紋は驚きの声を上げた。
道を指差し、その道が進む先に指を動かした。

ほらね、と言わんばかりに。


「確かに、獣道が一の丘に続いているとは限らない 先を行く、ついてこい」


その言葉に、少しだけあかねは胸が高鳴った。
優しくしてくれるのは八葉だから。
そうだと思うのに、優しくしてくれるのはあかねだからだと思ってしまう。

そんなあかねの気持ちがよく伝わるは、少しだけ胸がギュッとなった。


「じゃぁ、行きましょう!」









「…真っ直ぐ歩いてるつもりだったけど…同じ場所に着いちゃった?」


ポリポリと頬を掻くあかね。
けれど、そんなあかねの言葉に詩紋が首を左右に振った。


「ううん、大丈夫だよ ここが一の丘だと思う」


そんな風に詩紋があかねを安心させていると、すでに辺りを見渡し始めていた泰明。
そんな泰明がピタリと足を止め、あかねの方に視線を向けていた。


「泰明さん?」


「神子、呪詛だ」


首を傾げ問い掛けた瞬間、聞こえた言葉に慌てて詩紋と顔を見合わせた。
ダッと地面を踏みしめ、呪詛のあるそこへと駆け寄った。


「そうみたい ここにあったのか…
 嫌な感じだな」


眉間に少しだけシワを寄せ、嫌そうな表情。
そんなあかねの言葉に詩紋も同意するように頷いた。


「早く朱雀を助けてあげようよ」


その言葉に、あかねはどうするべきか分からず戸惑った。
以前呪詛を解除したのはあかねではなく、だったから。



どうしよう…私、呪詛の解除の仕方なんて分からない……



「ああ そうか…前に解除したのはだったな」


納得したように泰明がそう口にすると、その細い指先で呪詛を指差した。


「え?」


「お前の手で、呪詛を取り出せ」


泰明の言葉に驚くあかね。
けれど、大丈夫だったことを知っている詩紋は泰明の言葉に頷いていた。


「だ、大丈夫なの?」


「うん、大丈夫だよ、あかねちゃん 青龍の呪詛の時もそうやって、平気だったんだもん」


「そうだ」


心配そうなあかねを安心させようと必死の詩紋。
その詩紋の言葉に泰明は頷き。


「神子でなければ出来ぬ事だ 呪詛の種は、地中に根付き龍脈に食い込み、四神を狂わせている
 埋められている場所から、お前が取り出せば効力を失うのだ」


「…分かった やってみるね」


ごくりと息を呑む音がよく聞こえた。
本当は誰にも聞こえないはずの音なのに、泰明にも詩紋にも聞こえてしまいそうで。

パァァァァンッ…


「穢れは祓われた もう大丈夫だ」


「え?こんなに簡単でいいの?」


「ああ その呪詛の種の穢れはすでに祓われた お前が触れた事で、五行の力がこの地を浄化したのだ
 今後は、この地へ流れたお前の浄化の力が呪詛をはねのける だから大丈夫なのだ」


泰明の言葉にあかねは『へぇ』と思うしか出来なかった。
浄化なんて分からない。
だから泰明に「分からなかったのか?」と問われても頷くしか出来なかった。


「よかったね、あかねちゃん」


「うん、本当に良かったよ!四神の呪詛が解けて安心した」


詩紋の嬉しそうな表情に、あかねも嬉しそうに微笑んだ。
まだまだ大変なことが待っているのに、それでもこれだけでも嬉しくなってしまう。


「後は朱雀と戦って解放しなきゃならないんだよね」


「そうだ 後は朱雀と戦うだけだ」


詩紋の言葉に泰明はコクリと頷いた。
その様子を見て、あかねはグッと拳を握り一つ息を吐く。


「五月十四日の朱雀解放に向けて一歩前進だね
 この調子で、これからも頑張ろう!」


「うん!」


「ああ」


あかねのやる気の強さに、詩紋も泰明も頷き返した。
これだけ頑張っているのだから、きっといい方向に向かう。
あかねはそう確信していた。



私も……祈ってるよ…朱雀解放が上手くいく事……



も中で、両手を組みお祈りのポーズを取りながら囁いた。
この祈りが誰にも届かなくても、は祈り続ける。










To be continued.....................





もうすぐで朱雀編終了です!
最終日には、ヒロインがたぶん再登場すると思います!
え?どっちのヒロインかって?

それはお楽しみに♪






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