「神子様、おはようございます」


「藤姫ちゃん、おはよう」


聞こえた声に視線を向ければ、幼い可愛い少女の姿。
にっこりとは微笑むと、藤姫の名前を呼んだ。


「改めまして、四方のお札を手に入れられましたこと、お喜び申し上げます」


ペコリと頭を下げながら紡がれた言葉に、はなんだか照れてしまう。
頬を少し赤く染め上げながらも、嬉しそうにほほ笑んだ。


「そんな風に改まらないでよ それに…私、あまり覚えてないし」


ポリポリと頬を掻きながら呟くの言葉に、藤姫は首を傾げた。
つい先日の事なのに、覚えていないなど不思議な事なのは当然だろう。


「神子様?何を仰っているのですか?」


「本当なんだよ、藤姫ちゃん 私、この間まで一緒に四方の札を探していたあかねじゃないの」


「…昨日仰っておられた、様…でございますか?」


の言葉に藤姫が昨日名乗った名前を口にした。
その言葉には躊躇う事無く頷き返した。


「うん、私は だけど、全然記憶がないわけじゃないの…薄っすらとだけど…覚えてる」


覚えているのは過去の事だけじゃなくて、未来の事だけど。
これが龍神の言う記憶なのだから、どうする事も出来ない。


「神子様…それはいったい…どういう事なのでしょうか?」













transmigration 第二話













「神子様…それはいったい…どういう事なのでしょうか?」


という魂が、あかねの身体の中に入ってるんだって」


そう説明するも、昔の人には分らない説明だったらしく首を傾げるに終わった。


「えと、つまり…あかねという身体の中に、あかねという魂とという魂が入ってるって事
 それで、多分…あかねが出てた時の記憶が薄っすらと私にあるんだと思う…」


説明するとなんだか自身も分からなくなってくるように、うーんうーんと唸りながらの説明となっていた。
けれど、何とか理解してくれたのか藤姫は「分かりました」と呟いた。


「つまり、神子様のお身体ですが中身はあかね様ではなく、様…というわけですね?」


「うん」


「では、私達はこれから様とお呼びすればよろしいでしょうか?」


その言葉にはニッコリと微笑み、大きく頷くと。


「そうしてくれると嬉しい!」


そう呟いた。


「ところで様、先ほど泰明殿がお見えになりましたの
 大事なお話をして下さいますから、お通ししてもよろしいですか?」


「あ、うん 分かった」


藤姫の言葉にはコクリと頷くと、立ち上がる藤姫に「藤姫ちゃん?」と声をかけた。


「申し訳ありませんが、私は占いに入りますのでご一緒できません
 天真殿と詩紋殿にもお声をお掛けしておきます では、お待ちくださいませ」


その言葉に納得すると、は静かに泰明がやってくるのを待っていた。
その最中、は思う事があった。



あとで…他のみんなにも説明しないとなぁ…
絶対私の事、あかねだって思ってるだろうし…
あかねの姿なんだから、あかねって思われても仕方ないもんね…
でも、ちゃんと分かってもらわないと



その判断が、辛い思いへの第一歩になるとは知る由もなかった。


「失礼する」


「おはよう、泰明さん」


「もう早くはない 早速だが用件に入る」


挨拶にツッコミの様に言葉を返され、は苦笑を浮かべた。
けれど、続けられた泰明の言葉に「あ、はい」と短く返すと話へと耳を傾けた。


「四神を取り戻すのに、札だけでは足りない 地の理を用いて雨を請う」


「地の理?雨?請う?」


なんだか覚えのあるようなやり取りに、は首を傾げた。
記憶があると言っても、確かな記憶ではなく薄っすらとしたもので不安はいつも拭えなかった。


「鬼は四神を奪い、その力を利用しただけではなく、京を穢すことで四神を呪詛した」


「穢す???呪詛???」


話しについていけていないは、疑問の言葉を羅列した。
その様子に泰明は一瞬視線を向け、溜息を吐いた。



うわ…なんか傷つくなぁ…



その様子に、内心溜め息を吐いただった。


「では、最初から説明する 青龍・朱雀・白虎・玄武は四神と呼ばれ龍神に仕える、京の四方を守る聖獣」


その言葉には密かに反応を示した。
ピクン、と肩を揺らす程度の反応は泰明の言葉の最後の方にあった"龍神"という言葉だった。

何しろ、は一度龍神と合い見えたのだから。


「鬼はこれら四神を捕らえ、その力を利用しているのだ また、怨霊を地に呼び寄せて京を穢している」


「だからあかねは、土地の力を上げたり怨霊を祓ったりしてたんだ」


その言葉に泰明は怪訝な顔をした。
あかねはお前だろう、と言わんばかりの視線にはただ苦笑を浮かべるしかなかった。



ああ、やっぱり説明しなくちゃやり難いなぁ…



「そして四神を取り戻す為に神子は四枚の札を手に入れる必要があった
 この札は封印の力を神子にもたらすものであったようだが…本来なら、対応する四神にすぐに効果を発揮するはずだ
 にもかかわらず、効果は表れない
 先日、鬼が祭事を穢したように、鬼たちは京の各地を穢したようだ」


「その穢れのせいで札の効果がなくて、四神を取り戻せないって事…だよね?」


「そうだ」


泰明の説明を耳にし、自分の中で記憶と照らし合わせ言葉を紡いだ。
そして返ってきた泰明の言葉にはホッと胸を撫で下ろしていた。


「この責任は私にある 怨霊の気配に惑わされ、穢れの源となる呪詛を感知するのが遅れた」


「ちょっと!泰明さんのせいじゃないよ!!目の前に怨霊が居れば、そっちを気にするのは当然だもん!」


「だが、私がしっかりしていれば穢されることなどなかったのだ」


「違う 泰明さんはしっかりしてるよ 私とは違う、ちゃんと目的を持って成果を出してる」


「神子…」


泰明の言葉には大きく反論した。
いくらなんでも、今の泰明の言葉は聞き捨てならなかったから。

自分を責める人を放っておくなんて、どうしても出来なくて口を挟んでしまった。


「泰明さん 私は神子じゃなくてだよ」


…」


言い直す様子に、はニッコリほほ笑み頷いた。


「それで…地の理って?」


「ああ、話の途中だったな 呪詛を感知するのが遅れたからこそ、地の四神が地の理をもって四神を解放する
 さもなくば、鬼に操られた四神は京から雨を遠ざけ、遠からず日照りになる
 地の理は地の四神が持つ、唯一無二の真実 天の四神・天の理と対をなす
 鬼に対抗する力を持つのは、唯一神子と我々八葉だ 定められた日に定められた順で四神を清める」


その言葉を聞き、は何かを思い出した。



そういえば、そんな事言ってたなぁ…



ただ、それだけだったのだけれど。


「確か、子の年の今年は、八葉の力が最も強まるのは子の日だったっけ?」


「そうだ 今までもその日に札を手に入れてきた これからもそうするだけだ
 神子、よく分かったな」


泰明の褒める言葉に、なんだか照れる
嬉しそうに微笑みながら、ふと思い出したかのように口を開いた。


「それで、泰明さん 具体的に…どうすればいいの?」


「青龍、朱雀、白虎、玄武の順にそれぞれに対する呪詛を探し、取り除く
 呪詛は京の四方に埋められているはずだ」


「じゃぁ、それを探せばいいんだね?
 あと、それから?」


そう問いかけた瞬間、聞こえてきたのは足音が二つ。


「なんだよ、急ぎの用って 藤姫はなんの説明もなしに、こっちに来いって言うしよ」


「天真先輩早いよ 一人で行っちゃうんだもの…あれ?泰明さん、どうしたんですか?」


対照的な足音の正体が詩紋と天真だと分かったは視線を上げ、苦笑を浮かべた。


「あのね、実は…」


そう呟くと、は今しがた泰明から聞いた話を天真と詩紋に伝えた。
すると詩紋はハッとした表情を浮かべた。


「た、大変じゃない!どうしよう、あかねちゃん、天真先輩!」


「ちょっ!詩紋くん 私、あかねじゃなくてだってば」


そう伝えるも、やっぱり怪訝そうな視線が戻ってくる。
そしてやっぱり、は同じことを思うのだ。



ああ、やっぱり説明しないとやり辛いな…



と。


「別に困らないだろ やる事は決まってるんだしな」


「その通りだ では、順を説明する
 青龍、朱雀、白虎、玄武の順で四神と当たる」


「最初は俺か まぁ、任せておけ」


泰明の言葉に、胸を張る天真。
本当に任せても平気なくらい、天真が大きく見えた。
その様子に一瞬笑みを浮かべると、すぐには泰明に視線を戻した。


「その為には鬼の呪詛を何とかしなくちゃいけないんだよね
 その呪詛って、どこにあるか分かるかな…」


「藤姫が占っている 占いは私も永泉も行うが、これには藤姫が適任だ」


の言葉に帰ってきた泰明の言葉。
つまりは、占いの結果が出るまでお預けという事だった。


「じゃ、今はまだ分からないんだ…」


「泰明さん、あの…いくつか分からない事があるんです」


詩紋は少し控え目に、言い辛そうに言葉を紡いだ。
上目使い気味に泰明を見つめ問い掛けると「なんだ」と泰明の短い言葉。
それは、疑問を上げる事を促すものだった。


「えと、まず…子の日っていつなんですか?」


「五月二日 十二日後だ
 四神解放にあたっては、今までより強い力が必要になる 神子、力を溜めておけ」


泰明の言葉にホッ、と一安心し問い掛けた詩紋に事務的な答えを返す泰明。
日にちを頭の中に叩き込むように覚え、詩紋はまた口を開いた。


「その日までに、まず青龍に対する呪詛を見つければいいんですよね?
 そしたら、四神は取り戻せるんですか?お札もあるんだし…」


「四神とは戦う事となる さもなくば、鬼の穢れた気を祓う事は出来ない」


出来る事なら穏便に済ませたかった詩紋とにとって、泰明の言葉には驚かざるを得なかった。
ハッキリと言い放たれた言葉に「え!?」と声を上げたのは、他でもなくだった。



ああ、でも…そういえば、そんな事を言っていたような…



驚くも、どこか分かっていたような感覚に苦笑してしまう。
けれど、驚いてしまったのだからそれを訂正する事も出来ず。


「四神と戦うの?私達が?」


「そうだ 鬼の呪詛を解くのは四神を取り戻しやすくするだけ 子の日に、各四神に属する八葉を連れて戦いに行け」


の言葉に泰明は、またもや事務的に受け答えをした。
コクリと頷きながら、簡単に戦いに行けと言い切る様子には眉を下げた。



戦うって簡単に泰明さんは言うけど…でも…
やっぱり四神って京を守るものなんだし…強いんじゃ…



うーん、うーんと考える
けれど、ずっと考えている訳にも行かずはグッと拳を握り締めた。


「やるしかないよね やらなきゃどうにもならないんだし…皆で頑張れば何とかなるよね!」


「へえ、やけにやる気だな その調子で行こうぜ!」


の言葉に天真は苦笑を浮かべた。
けれど、それはすぐに勝気な笑みへと移り変わった。


「とにかく呪詛を解け それから、子の日に四神を解放する それだけだ」


「ごちゃごちゃ言っても始まらねぇからな」


泰明は、他の事を余計な事を考え過ぎるなと言わんばかりに言った。
けれど、よくよく考えてみれば、やる事は分っておりそれをするだけなのだ。

危険な事は今までも十分やってきたのだから、今更臆す事などないはず。


「おい、あかね」


「まった、天真くん!」


「あ…、って言わなきゃいけねぇんだっけ めんどくせぇ…」


天真の言葉にの待った。
その言葉に天真は面倒そうな表情を浮かべ、後頭部を掻いた。



面倒なのは私の方だよ…
いちいち言わなきゃいけないし…言えば怪訝そうな顔されたり、変な視線向けられたり…
天真くんみたいに、面倒そうな顔されるし…

ハァ、ほんと…面倒な姿だよ、これ
ちゃんと後で皆を呼んで説明しないとなぁ…ああ、これまた面倒だよ…



溜め息ばかりが口をついて出てきそうになる。
けれど、こんな場面で吐けるはずもなかった。


「それより、友雅にも知らせに行かないか?一人だけ知らないのもなんだろ?」


「あの…ボク、もう少し泰明さんに聞きたい事があるんだけど…」


天真の言葉に、は「あ」と声を漏らした。
コクリと頷き、友雅の所へ行こうと立ち上がるも聞こえた詩紋の声に中腰のまま止まってしまう。


「じゃあ行こうぜ あいつも一応、宮仕えだから朱雀門に行きゃ会えるだろ」


「うん、そうだね 行こっか、天真くん それじゃ、行ってきまーす」


そう言うと、は中腰の身体を立ちあがらせた。
詩紋に視線を向け、にっこりとほほ笑むと一瞬視線は泰明の方へ。

それから、すでに歩き出していた天真を追うようには駈け出していた。



なんだろ…?
なんか、変な感じ…胸がもやもやするなぁ…



何かを感じるも、それが何かは分らず。
ただ、朱雀門を目指すだけだった。











To be continued.......................






遙か夢小説も第二話に突入!
現在、八葉抄の第六章 地の章の部分ですね。
分かりますかね?というか、覚えておられるでしょうか。(笑)
私はハッキリとは覚えていません。では、なぜ書けるのかと…
ゲームを同時進行でプレイしてるわけではなく…実は資料が手元にあるんです。(笑)

ま、そんなわけで第三話もお楽しみに♪
懐かしい話が出てくるかもしれませんよ〜♪
もしくは『あ、私 そっちの章ではプレイしてない!』『その選択肢した事無い!』という方には、必見やも…?
各キャラクターの恋愛イベントも…出せたらなーと。
ゲーム内に含まれるイベも含め、オリジナルも出せたらいいんだけどなぁ〜とか欲を出してみる始末。(HAHAHA)






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