私の……思うがままに……

それが───────答え?










transmigration 第二十六話










「ここがの部屋だ」


「…結構離れてるんだ」


泰明に案内されるがままについていくと、到着したのは清明邸の一角。
泰明の庵だった。

清明邸に行く道とはまた違った道を向かった先に、あった。


「それがどうかしたか」


「…仲良く、ないの?」


「仲良くする必要などない 清明様以外の者は……私を忌んでいる
 だから離れているだけだ が気にする事ではない」


部屋の前に佇み、見つめて来る泰明のオッドアイを見つめ返した。



そういうものなのかな……?



そう思うも、口にはしなかった。
それは泰明の出生の秘密を、泰明の思いを知ったからだ。


「泰明さん 私は、泰明さんの事……嫌がったりしないからね?」


にっこりと微笑み返しながら言ったは、即顔を真っ赤にさせた。
まるで今のは、泰明の告白へのイエスの返事のようだったから。


「……ありがとう、


そんなに釣られるかのように、泰明もにっこりと微笑んだ。


「では、私はもう行く」


「……また」



ごめんね、泰明さん
まだ……まだ、もう少しだけ返事は待ってて……



立ち去る泰明の背中を見つめ、は内心そう思った。
すぐには出せない答え。

でも、己の気持ちに正直になれば今にでも出せる答え。
使命がある故に、躊躇する答えだった。


「………どうしよう」


シャン…

シャン…

泰明への返事の答えを考えるの耳に、鈴の音が聞こえた。
それはが待ち望んでいたもの。


「─────龍神?」


─────…我が神子よ


それは少し違う。
そう言いたくても、今は言える状態ではない。

言いたい言葉は、それ以外にあったから。













「…………う、ん」


ズキンと感じた頭の痛み。
次の瞬間、の意識は闇の中へと落ちていて、目覚めれば今度は真っ暗闇。


「……龍神?いるんでしょう?」


「… 我に聞きたい事があるのだろう?」


の声に応えるように姿を現した龍神。
まるでの心を分かっているかのようなもの言い。


「……分かってるなら、話は早いわ」


ゴクン

小さく、けれどの耳にはハッキリと聞こえる程の大きさで唾を呑んだ。


「私、泰明さんが好き でも、龍神は私に『汝の知る記憶で、その通りの未来へと進めろ』って言ったよね?」


「その通りだ それがのすべき事であり、我がを呼び寄せた理由だ」


「なら………私は、この気持ちを捨てなくちゃいけない?」


シンッ…

龍神の答えに、は躊躇する事なく問い掛けを続けた。
その言葉に、龍神はすぐには答えてくれなかった。

否。

答えられなかったのだ。


「…答えて、龍神」


ドクン

ドクン

心臓の音がやけに煩く、の耳に届いた。



………怖い
答えを聞くのが……怖い



それが、今のの本心だった。
それでも答えを望んでいた。


の思うがままに」


「…………は?」


思いもよらぬ答えに、素っ頓狂の声が上がる。


「どうした、


「いや…だって 最初に言っていた事と違うから……」


「それは、が地の玄武に好意を寄せるとは思っていなかったからだ
 知ってる未来の通りに進めなければならないのは変わらない事実 しかし……」


疑問だらけの頭の中に、龍神の言葉が響いた。


は神子の生まれ変わり 子孫ではない
 神子が永劫怨霊と共にならなければ……構わないという事だ」


あまりにも分かりやすい答えに、の瞳が幾度も瞬いた。
つまりは、あかねが誰とくっ付こうが『あかねが無事』という未来に進められればいいという事。

今までの葛藤の無意味さに、笑う気力すらなくなった。


「…なんだ 私……泰明さんの事、諦めなくても良かったんだ」


ホッとした所為か、身体から力が抜けた。

ヘナヘナ…

静かにその場に座り込んでしまった。
安堵感が、の全てを包み込む。


「そっか……良かった」


よ 聞きたい事はそれだけか?」


「うん ありがとう……龍神」


龍神の問いかけには、ふぬけたままコクリと頷いた。
すると、同時に真っ暗闇は光に溶け込んでいった。











「………… ……………っ」



声が………聞こえ、る……?



意識が戻りつつあるの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
その声は、どこか必死だった。


「………っ!………!」


「─────っ!泰明さん!?」


聞こえた声はハッキリと脳を揺さぶった。
ハッとしてはその瞳を見開いた。


「夕食(ゆうげ)の支度が済んだから呼びに来たのだが……具合でも悪いのか?」


「…………え?」


意味が分からないと言わんばかりに、目を瞬かせた。


「…倒れていたのだ、お前が」


「あ 大丈夫っ、大丈夫だよ、泰明さんっ」


心配そうな表情。
心配そうな声。

パッと笑顔を浮かべると、は安心させるように言葉を紡いだ。


「本当か?」


疑うような泰明の眼差しに、はクスリと笑う。
口元を緩め、トンッと胸を叩くと。


「本当 私は嘘はつかないよ」


「………なら、いい 食事を持ってくる」


の言葉に安堵した泰明は、くるりと踵を返した。
背中を向け、一歩を踏み出した。


「…待っていろ」


「─────うん」


一言口にし、立ち去った泰明の立っていた場所に視線を落とした。
なんだか慣れないのは、きっと泰明と二人きりだから。

同じ屋根の下。
清明邸までは、遠いから。



は───…駄目だ、ドキドキするよ……



意識すればするほどに、心臓の高鳴りは止まらなかった。
ドキドキと高く激しく鼓動が弾む。





「ひひゃぁっ!?」


掛けられた声に気付かなかったのは、考えに、そして己の心臓の音に気を取られていたから。
聞きたいと思っていた声が突如聞こえ、素っ頓狂な声を上げていた。


「…何をそんなに驚いている」


「あ、や…泰明さん な………なんでもないっ」


ブルブルと首を左右に振った。
緊張しているなんて悟られたくなかったのだ。


「私もここで夕食(ゆうげ)を取る」


「…一緒に?」


食事の乗った台を、泰明はゆっくりと各々の前に置いた。


「不満か?」


泰明はと向かい合わせになるように座り、首を傾げた。
丁度床に座る時に、が勢いよく首を左右に振った。


「そっ、そんな事はっ 一人より……楽しいし」


ふわりと、嬉しそうな笑みが零れた。
今まで仲良くしてきた仲間と離れ、ここでも個々で食事を取ると考えると。



一人だと……寂しくて死んじゃうよ



それは少し大げさだったかもしれない。
それでも、そう思うほど寂しいものだとは思った。


「それじゃ…頂きます」


「ああ」


そう言いあい、二人はそれぞれのペースで食事を始めた。











To be continued...............






ヒロインの泰明への気持ちへの決着がそろそろつくはずです。
それにしても……諦めなくてよかったねぇ、ヒロイン。(諦めさせることになったら、私は鬼よ(ぁ)






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