残るは一つ────…

それさえ上手くいけば────────














transmigration 第二十八話














「…なんか気になるな……」


「どうしたの?」


聞こえた声に、は首を傾げた。
あかねが寝起きしている藤姫の館の一室で、少しだけ考えている表情のあかね。

は一歩踏み出し、あかねの部屋へと入っていった。
そのあとを続く様に、ともにやってきた泰明もあかねの部屋へと足を踏み入れた。


「おはようございます、泰明さん おはよう、
 あ、何でもないよ」


「神子様、おはようございます あ、泰明殿、様もおはようございます」


「おはよう藤姫ちゃん」


首を左右に振るあかねの言葉の直後、藤姫が姿を現した。
ペコリと礼儀正しくお辞儀をし、その部屋の主であるあかねと、丁度居合わせたに挨拶をした。


「気になるとか、なさらないとか……どうなさったんですか?神子様」


やはり藤姫にもその話は聞こえたらしい。
首を傾げる姿は十歳という年相応だった。


「藤姫、おはよう さっきもに同じ事を言われたよ
 なんでもないよ、気にしないで」


同じ指摘にあかねは苦笑を浮かべた。
けれど紡ぐ言葉は、に向けてと同じ言葉だった。


「そうですか?それならば…よいのですが
 では、私は最後の占いに参りますわ 玄武の呪詛を探すために」


「あ、うん よろしくね、藤姫」


あかねの言葉を耳に受け、にこりと微笑みを浮かべた。


「はい、頑張ります それでは失礼致します」


藤姫はゆっくりとした足取りであかねの部屋を後にした。


「じゃあ、今日は一日動けない日なんだっけ……」


「そうだ」


思い出したかのように呟くあかねの言葉に、泰明はコクリと頷きながら言葉を肯定。
その様子に、は苦笑した。



こう言うときは業務じみた口調になるんだから……



それは普段の泰明を知っているからだろう。
だから、そう思ってしまうのだろう。


「お前は何度か一人で出かけて、鬼と会っている
 そこで今日は、どうあっても一人で出掛けられないよう、私が先に来ることにしたのだ」


「すみません〜」


「構わない」


なんだか手数掛けてしまったような気がして、あかねは肩をすくめた。
しかし、泰明は気にするそぶりなど見せはしなかった。


「けど、良かったね泰明さん あかねがまだ部屋に居て」


「ああ」


くすくすと笑みを零しながら、泰明にそう指摘。
やはり帰ってくるのは業務じみた返事。


「でも、早く玄武を解放したいな そしたら……」


フー、と息を吐きながらあかねはそう口にした。
天井を見上げ、それから視線を横にずらすとを見つめた。


「そしたら雨が降るものね」


「よく覚えていたな」


あかねの言葉に感心する泰明。
いくらなんでも、そういう事は忘れないんじゃないかと内心思うも口にはしない


「なんだか…泰明さんに褒められるなんて、嬉しいな」


頬を染め、嬉しそうに呟くあかね。
その姿を見ると、相思相愛になった事が申し訳なく思ってしまう。



本当なら……この二人がくっつくはずだったのにな……



がこの世界へ来てしまったことで、二人の運命を狂わせてしまった。
けれど、人が人を思う気持ちを止めることは出来ないのも、またしかり。


「私は褒めたつもりはないが、確かにそうかもしれないな」


「ふふふふふ、これからも頑張ります」


「私も頑張るッ!」


褒めた、という事で落ち付きそうな二人の会話。
あかねが嬉しそうに微笑み、頑張ると主張する中、もそれに乗じて強く言った。

二人の運命は、の知る運命通りではないけれど、それ以外の────あかねの、そして京の運命だけはその通りにしようと。
そう強く誓った。


「……そうしてくれ」


少しだけ泰明の表情が柔らかくなった。
あかねはその表情に、また頬を染めるが、それが誰に向けての笑みなのか理解していた。

だから、少しだけ悔しかった。


「四神も最後の玄武のみ おそらくは鬼も本気であろう」


その言葉にあかねとは顔を見合わせ。

ゴクリ…

息を呑んだ。


「神子はこれまで以上に注意深く呪詛を探し、己の力を磨く事だ
 も、己の力を磨く事だ それから、鬼の動向にも注意する事だ」


「「はい 頑張ります」」


泰明の言葉に、また顔を見合わせ大きく頷いた。

少しでも鬼の行動が、の知る未来と違うのならば、注意しなくてはならない。
それに気付くためには、の記憶が必要だから。


「残った鬼は二人 天真の妹と、大男だ
 男の方はイノリの姉の想い人であると聞いた どちらも倒せば、心を痛める者が居る」



そういう風に泰明さんが考えられるようになったのは……のおかげなのかな…



ちょっとしたジェラシーを感じてしまうあかね。
それでも、それを表に出してしまう程子供でもなかった。


「うん、そうだね 戦わなくちゃいけないのかな……辛いね
 でも、やらないわけにはいかないから」


イノリと天真には申し訳ない気持ちで一杯なのは、あかねだけではなかった。
その気持ちが強く分かる
そして、大切な人を思う気持ちを知った泰明だって同じだった。


「あかね…私が最前線に立つよ あかねは裏でサポートしてくれれば構わない
 玄武を封印する時はあかねに頼むしかないけど……それ以外は」


「でもっ」


辛そうなあかねに、はそう言葉を向けた。
その言葉にあかねは驚きの声を上げた。

ちらりと泰明に視線を向けると、そこには驚きのあまり何も発せずに居る泰明の姿があった。


「私は未来を知っている そんな私が前線に立って戦った方がいいと思わない?
 それに、いざ封印する時に力を発揮できなかったらもとも子もないし」


言っている事はもっともだった。
けれど、頷きたくないと思う心もあかねの中には存在した。

全てを任せて、安全なところに居ていいのかと。


「それにね……あかねは天真くんと長年の付き合いなんでしょ?これからだって…
 こんな所で喧嘩して欲しくないな、私は」


「────


「だから、安心して私に任せて あかねはいざって時に助けてくれればいいから」


そこまで言われては頷くしかなかった。


「分かった お願いする……ね」


「神子!?!」


お願いするというあかねの言葉を聞き、ようやく泰明は声を上げられた。
きっと、心のどこかであかねは『駄目だ』というと思っていたから、声を上げられなかったのかもしれない。


「泰明さん、私はもう決めたの 神子であるあかねを、第一に考えて守らないと」


「しかし……」


それは泰明だって分かっていた事だった。
神子が一番大切だという事が。

京を救うには、ではなく神子であるあかねが必要だという事が。


「泰明さん」


「……分かった」


しぶる泰明に、厳しい口調のの一声。
一つ息を吐き、承諾の言葉を口にした。


「だが、は私が守る お前の心も」


そして、泰明はオッドアイでの瞳をじっと見つめた。
その言葉にはやわらかく瞳を細め、嬉しそうに泰明を見上げた。


「────私はもう行く まだ今日は日が高いが、神子は屋敷から出るな
 お前は思慮深くない 過ちを起こす前に私を呼べ」


その言葉にあかねももキョトンとした。
なんとも遠まわしな言葉。


「行くぞ、


「あ、うん それじゃ……またね」


そう言うと、と泰明は踵を返しあかねの部屋を出て行った。
その背中にあかねは、ユルユルと手を振って見送っていた。











To be continued..........................




あかねに言うはずだった『お前は私が守る お前の心も』って台詞を、ヒロインに言わせたかっただけの話。(笑)
やっぱり泰明は大切に思う人に一途であって欲しいと願う、今日この頃。






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