今までの無理が、身体に影響を及ぼしていたのかもしれませんわ…

そう言っていた藤姫の顔が、忘れられない……











transmigration 第三十話











「ゲホゲホ…ご、ごめんなさい……泰明さん、あかね」


布団を口元まで被りながら、ボウッとする瞳を二人に向ける
申し訳なくて、声まで小さくなっていた。


「仕方ない は風邪を治す事だけを今は考えていればよい」


「泰明さんの言うとおりだよ、


気にしないで、と言ってくれる泰明とあかねの言葉にはますます申し訳なさでいっぱいになった。
こんな時に風邪などひいて寝込んでいる場合じゃないのに、と心が締め付けられる。


「だって…この間言ったばかりじゃない 私が最前線に出て戦うって……なのに、今の私は何も出来ない」


「その心遣いだけで私は十分嬉しいよ?」


の言葉に、あかねは苦笑を浮かべた。
軽く首を横に傾げるように倒しながら、そんな風に言葉を紡いだ。
が思っている程、あかねは気になどしていなかった。


が元気になったら、期待するから だから、今は泰明さんの言うとおり治療に専念して?」


「そうだ 他の事を気にしていたら、治るものも治らなくなる」


「そう……ですよね」


あかねの言葉と泰明の説得に、はしぶしぶ頷いた。
それから柔らかく笑みを浮かべると。


「それじゃぁ……私が元気になるまでは、宜しくね」


が元気になってからも、私だって頑張るよ」


くすくす

そう笑い呟きながら、あかねは立ち上がった。
それは、北山へ行くという合図だった。


「では、行ってくる」


「行ってらっしゃい」


同じく立ち上がる泰明の後姿を、は布団の中から見送った。
本当は手を振りたかった、本当は部屋の出口まで見送りたかった。

けれど、今のにはそれは無理だったから。



本当に……気をつけて……



そう心の中で呟きながら、はゆっくりと重い瞼を閉じた。











真っ暗な闇に、一筋の光。
はそれに気付き、暗闇の中を歩き始めた。


「……何?あの光は……」


どんなに近づいても、光との距離は縮まる事がなかった。
そればかりか、どんどん離れてしまう。


「駄目っ そっちへ行っちゃ駄目だよ、あかねっ!」


何故、その光があかねだと思ったのだろうか。
には、それが分からなかった。
ただ、光があかねで、その光が向かう方向はよくないものがあると感じたのだ。


「ククク 龍神の神子の力か?我の力を見破るとはな……」


「アクラムッ!あかねを返して!あかねは──────」


アクラムの声が、光の向かう方向から聞こえた。
はハッとしたように口をあけ、大きな声を上げた。


「───あかねは黒麒麟とは融合させたりしない!」


そんなの言葉に、アクラムは「ほぉ…」と感心するように声を漏らした。


「よく我が黒麒麟を使うと分かったな 流石は、龍神の神子の生まれ変わり……と言ったところか」


ククク、と楽しげな声が漏れる。
暗闇に木霊する。

アクラムの、嫌らしく笑う表情が何だか見えてしまいそうなくらい鮮明な笑い声。


「私は、貴方には屈しない!絶対に、本来あるべき未来に向かわせてみせる!」


ブワッ……!!

のその叫び声と同時に、暗闇は光に包まれ消え失せた。
温かな優しい気が、を包み込むかのようだった。









「…………?……っ?」



声が……聞こえ、る……?



微かに耳に届く声は、聞き慣れた大好きな声。
の瞼が微かに揺れると、ゆっくりとその瞳が開かれた。

視界に映るのは心配気に見降ろしてくる泰明の顔だった。


「無事か?大事ないか、


「泰明……さん 大丈夫だよ」


心配そうな声に、はニッコリと微笑んだ。
確かに、眠りにつく前よりも身体も楽になっていた。


「……ならば良い あれから四日ほど眠り続けていたから、心配していたのだ」


「…………え?」


泰明の言葉に、は驚きの声を上げた。
にはほんの数時間しか経っていない様に感じていたから、泰明の言葉に外を見つめた。
しかし、時計などで時刻を図るものがないこの時代、外を見てもどこを見ても、今が何時で何日なのか分からなかった。


「私……四日も……眠っていたの?」


そう問いかけながら、はゆっくりと身体を起こした。


「そうだ 私も、神子も藤姫も……八葉も、みな心配していた」


その言葉に申し訳なさでいっぱいになった。
みんなを助けなくてはいけないが、風邪で寝込み皆を心配させてしまったのだから。


「ごめんなさい……
 あの、呪詛……は?」


謝罪の言葉を口にした。
そう言葉にしないと、なんだか心がもやもやしてしまいそうだったから。
そして、はすぐに本題へと話を映した。

やはり、眠っていた間に何があったのか気になってしまうのだ。


「呪詛は無事解けた」


「本当!?よ、良かったぁ〜」


泰明の言葉に、はホッと胸を撫で下ろした。
安堵感一杯な口調で呟くに、泰明はフッと優しげな笑みを浮かべた。


「や、泰明さん?」


「何でもない 元気そうで……少し安堵しただけだ」


その言葉に見る見るうちにの頬が染まる。
好きな人に心配してもらえるのは嬉しいのだ。
それが、乙女心。


「心配かけちゃ──────」


シャンッ

心配掛けちゃったね、と口にしようとしたを止めたのは龍神の鈴の音だった。
ピタリとが動かなくなった。


?」


「…………」


シャンッ

泰明の声に、は返事が出来なかった。
鈴の音が、呪縛の如くを縛る。


……神子が………………


シャンッ


神子の元へ─────…駆けつけよ


シャンッ!!!!!

強く鈴の音が響いた。
次の瞬間、全身の力が抜けたかのようにその場に倒れた。

まるで操り人形の糸を切った時の様に。


!?」


「だ、大丈夫……そ、それより…早くあかねの所にっ」


の言葉に泰明は怪訝な顔一つせず、頷いた。
の言葉はきちんと信じるように、疑う事なく。










to be continued......................




中日イベ……にもうすぐ入るぅ〜〜♪
泰明は、どうやらヒロインに首っ丈のようですね。(笑)






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