なぜ……戦い合わなくてはならないの?










transmigration 第三十二話










「私は『必要ない』ってお館様が……
 ううん、でも……黒い龍を呼ぶには私が……もう、分からない……」


徐々に、ランの悲しみが増していく。
どうする事も出来ず、ただただランの話を聞いている事しか出来ないのだろうか。


「私には……分からない 何も思い出せない」


振るえる両手が、自らの頭を抱える。
そのまま、ランは首を左右にブンブンと激しく振った。


「大丈夫だよ、ラン 絶対に大丈夫……大丈夫だから、ね 安心して」


「そうだよ きっと、いい方向に行く 私が……未来を知る私が保障するよ!」


ランを安心させるように、あかねもも言葉を紡いだ。
勇気づけてくれるあかねに、そして未来を知るというの言葉に、ランは少なからず心を安堵させていたはず。


「駄目だ、神子、 いくら天真の妹でも……今は鬼 敵は敵だ」


冷たい言葉が、容赦なく突き刺さった。


「敵だろうと何だろうと、こんなに苦しんでるんですよ?放ってはおけませんよっ」


「うん、私も同意だよ どうして……仲間の妹なのに、戦いたくないのに戦い合わなくちゃいけないの?」


あかねの言葉にも大きく頷いた。
その瞳が、ジッと泰明を見つめた。

戦いたくないと願う心があるなら、戦いを避けるべきなんじゃないかと。


「戦うだけが……道じゃないよ、泰明さん
 相手に戦う意思がないなら……他の道を探す事だって、解決策だよ」


「…………」


厳しいけれど、納得させる口調だった。
その言葉に、ランは小さく「ありがとう」と言葉を漏らしていた。

シュンッ


「ラン、ここにいたのか……」


突如姿を現した男に、四人の視線が交わり合った。
同じ一点を見つめ、そこに佇むのは鬼────……イクティダールだった。


「あ……イクティダール……」


「戻ろう、ラン お前には辛いことかもしれないが……」


スッとイクティダールはランに手を差し伸べた。
その手を見つめ、ランは少しだけ躊躇いを見せた。

あそこに戻れば、嫌だと思う戦いが待ち受けていると悟っているのだろう。


「待って!!待って、イクティダール!!」


が声を上げた。
その声に続けて、あかねが言葉を発した。


「好き好んで辛い目に会う事ないよ!お願い、連れていかないで!」


悲痛な叫びに、ランとイクティダールの視線が止まる。
ゆっくりとイクティダールの唇が動いた。


「神子……お前は優しい それが仲間を支え、我々に立ち向かう力になる
 そして我らは、その力を欲する その力こそが我らが求める白龍の力なのだから」


その言葉に、あかねは少しだけビクッと肩を揺らした。
しかし、その言葉が偽りであることをは知っていた。


「嘘を言わないで!!アクラムの本当の目的は……違うくせに!!」


悲痛な避難の声がイクティダールに向けられた。
求めるなんて、欲するなんて綺麗事。


「その力が手に入らないから、アクラムはあかねを─────……
 ううん……力が手に入ったって……」


ギリッ

奥歯を噛みしめる音が聞こえた。



どうせ……怨霊と一体化させるつもりだ……
私が……五行の力を持って生まれ変わったから……



悔しさが込み上げてきた。
アクラムとは違う時代に生まれてきた
けれど、五行の力を持っているというだけであかねが標的にされた。


「神子、そしてよ、これは我々の運命だ 京に戦いを挑んだ鬼の一族としての運命なのだ」


「そんなっ」


イクティダールの言葉には悲鳴の様に声を上げた。


「戦うなんてやめようよ!誰かを傷つけるのは…嫌だよ
 セフルみたいに……悲しいのは、もう……嫌だよ……」


「神子……すまない……」


悲しげな雰囲気を漂わせ、震える声で呟くあかねにイクティダールはそう告げるしか出来なかった。
アクラムの命令を一番に聞かなくてはいけないイクティダール。
その葛藤は計り知れない。


「だが、それがお館様の望みなら私は従う それはランも……同じなのだ」


「だとしてもっ……そんな悲しい事……」


避けて通れればどんなにいい事か。
奥歯を強く、は噛み締めた。


「術、とやらだな この娘の自我を抑えつけ、従わせているのか」


間近で見ていたは、くっと息を呑んだ。
そして、それを自らが経験した。


「前にも言ったとおり、私はお館様に忠誠を誓っている
 その誓いを破る事は私には出来ない」


それも、は知っていた。
何も出来ないと、に言っていた事も覚えていた。
だからこそ、はイクティダールから視線をそらした。


「忠誠だなんて、そんな言葉で誤魔化さないでっ!」


けれど、そんな葛藤を知らないからこそ言えるあかね。


「貴方は、そのお館様が間違ってるって思わないの!?ねぇ!」


「……神子、それ以上は…言わないでくれ」


申し訳なさそうにあかねの言葉にイクティダールは返事を返した。
そんなあかねの肩に泰明は手を置いた。
チラリとに視線を向けてから、ゆっくりとその唇を動かした。


「神子、もうやめてやれ 行け……鬼よ
 お前は自分の中に大きな矛盾を抱えている 行け 今回は見逃す」


何とかしたい願いと、そう思いながらもアクラムに逆らえない心。
その矛盾が、泰明はすぐに分かった。


「……感謝する 行こう、ラン」


「次はないと思え」


「承知した」


そんな簡単なやり取りを繰り返し、イクティダールはランを連れて姿を消した。
銀の炎に姿を包んで。









to be continued...........................




仲間の妹との戦いは、きっと辛いだろうなぁ〜とゲームを思い出しました。
最終決戦……ランのあの悲痛な叫びが思い出されます。(-_-;)






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