大切な人を守るのは、きっととてつもなく────……大変な、事なんだろう








transmigration 第三十三話








「すっかり……遅くなっちゃっいましたね」


空を見上げれば、そこはすでにオレンジ色に色付いていた。
地面に伸びる影も、昼とは形を変えていた。


「……泰明さん、どうしてあんな事…言ったんですか?」


「あかね……」


ジッと泰明を見つめ、あかねは問い掛けた。
あかねにとって、八葉であり仲間である天真は同郷の同級生。
その妹を易々とまた敵の手のうちに返してしまったのだから、当然の態度だろう。


「あの男の気持ちが、分からなくはないからだ」


「え?」


迷うことなく、泰明は言い切った。
分からない、ではなく、分からなくはない、と。


「大切なものは…捨てる事は出来ない 私は忠誠すべきものと大切に思うものが仲間同士で……
 また、は……きっと自らが敵の手に落ちても、私までそこに行く事を望まないだろう」


「…………」


泰明の言葉に、あかねとは目を合わせた。

忠誠すべき者イコール、あかね。
大切に思う者イコール、

そうだと分かり、確認するようなものだった。
そして、まるでの考えが分かるかのように泰明は言ってのけ、それに『どうして分かるのだろう』とは目を丸くしていた。


「だから…私は恵まれていると思う ……本当に」


噛み締める様にそう告げ、泰明は瞳を細めた。
この現状に感謝するように。


「帰ろう、神子、 私は彼の道を妨げない
 自分の選んだ道を行くために」


「……そうですね」


泰明の言葉にコクリと頷き、館のある方へと歩き始めたあかねと泰明。
そんな背中を見つめ、はふとイクティダールの消えた方向を見つめた。


「────……私達の道が…いつかまたイクティダールの道と交わるかもしれないね」


望む事が同じならば、きっと。











「漸く着いたね」


「ほんと やっぱり山だっただけあるね」


くすっ

あかねとは微笑み合った。


「行くぞ」


「うん」


「はい」


屋敷へと足を踏み入れる泰明に続けてあかねが敷居を跨いだ。
続いてが入ろうとした瞬間。

シャンッ……


「────……っ」


何かの映像が流れた。
それは、終わりが刻一刻と近づいてきている証拠の映像だった。



あかねは────……龍神によって……



ゴクリ

一つ息を呑むと、ニコリと微笑み泰明とあかねを見つめた。
その様子に、二人は首を傾げるだけだった。


「どうかしたか、


「ん もうちょっと夕方の空気を吸いたくてね……中に入るのは二人でもいい?」


「うん、構わないよ 行きましょう、泰明さん」


の申し出に一瞬考えたあかね。
けれどすぐににこやかに微笑み頷き返した。


「外で待ってるから 終わったら声掛けてね、泰明さん」


「ああ」


の言葉に一つ返事をすると、泰明はあかねと共に屋敷の中へと姿を消した。



……龍神
……龍神、居るんでしょう?



は心の中で、龍神に声を掛けた。
自分の中に意識を高め、龍神を感じ取ろうとした。

シャンッ……

シャンッ……

鈴の音が、幾度も繰り返し響いた。


「────……ッ!?」


次の瞬間、グワンと意識を引っ張られるような感覚で暗闇の中へと意識を落とした。
遠のく意識の中、は近づく地面を最後に見た。










「────呼んだか、


「呼んだ 聞きたい事があるの」


真剣な面持ちで、真剣な声色でそう切り出した。
少しだけ間が空いたが、すぐに龍神から「聞こう」と言葉が掛かった。


「……貴方は、あかねの中に居る 龍神を呼び、あかねを捧げさせようとしてる 違う?」


「鬼の一族を倒す為に必要であれば の言うとおりだ」


倒すために、異次元から呼び寄せられたあかねに犠牲を強いるのかと、は奥歯を噛んだ。


「必要でなければ……あかねは龍神を呼ぶ必要はないんだよね?」


「その通りだ」


の問い掛けに、龍神は肯定を現した。
少しだけは考えた。



あかねが生きている未来……
それがあるから……私が、居る……



そう一つ心の中で呟くと、決意の色を瞳に携えた。
ゴクリと息を呑むと、重い唇を開いた。


「貴方を呼ぶ必要が出てきたら……私を捧げる
 五行の力だって使えるし、こうやってあなたの声を聞けて意思を交わらせる事だって出来てる 可能……でしょ?」


そんな理屈、通らない可能性だってあった。
それでも、龍神の神子は龍神の声を聞き意思を交わらせる事が出来ると聞いていた。
あかねがそうだったから、もしかしたら自分も……と、そんなちっぽけな可能性に賭けてみたのだ。


「可能ではあるが……そうすると、そなたはもう戻れぬかもしれないぞ」


「…そうだとしたら、それまでだよ
 それでも……あかねは無事、生きている 元の世界に戻って、元の生活に戻れる」


私はあかねを助けるために呼ばれたんでしょう?と首を傾げた。


「分かった 心で願えば……我はそなたの所へ姿を現そう
 我を……呼べ 汝を……捧げよ」


その言葉を聞きながら、はまた意識を飛ばした。
今度は、大好きな人の声のする現実世界へと。


「────っ!!」


目を開くと、夕暮れの空を背景に見降ろしてくる泰明の姿があった。


「……泰明さん」


「どうしたのだ!?」


心配する泰明の顔を見て、は少し申し訳ない気持ちになった。



もし……私が龍神を呼んだら……もう、会えなくなるんだね……



そう思いながら、はゆっくりと泰明に手を伸ばした。
首に絡み付き、ギュッとすり寄るように抱き付いた。


?」


「大好き……」


まるで、最後の囁きだと言わんばかりに強く噛みしめながら呟いた。



一人にしてしまう……私を許して
私は……京を滅ぼしたくはない
だけど……あかねにも、身を龍神に捧げて欲しくない…居なくならないで、欲しいの



それは、身勝手な感情だとは分かっていた。
それでも願ってしまうのだから仕方のないこと。
それを叶えるためには、自らが犠牲になるという事しか思いつかなかった。



願わくば──────……泰明さんに、至福が訪れますように……










to be continued......................




あかねが天真にランと会ったことを話してる間に、ヒロインは龍神と!!!
身を捧げたらどうなるのか……よく分かってない事がヒシヒシと伝わりますね。(笑)
でも、3で望美が龍神に身を捧げたら戻ってこなかったわけですし……気まぐれで1ではあかねは戻ってこれたって事ですよね。
それを考えると……必ず元の世界に戻す的な話には持っていけず……こんな感じにしました。

理解力が欲しい!!!(切実に)






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