お別れ、会えない、もう……聞こえない
辛いことだと思うし、私も……辛い
だから………ね、許して?
少しだけ距離を置く私を────……
transmigration 第三十四話
「神子」
「はい?どうしたんですか、泰明さん こんな朝早くから」
突然の訪問者に、あかねはキョトンとした表情を見せた。
その場に居た藤姫も、思いもしない訪問者に「まぁ!」と驚きの顔をしていた。
「を見かけはしなかったか?」
問い掛けの意味は分かった。
けれど、なぜそんな事を問いに来たのかが分からなかった。
「ですか?見てないですけど……どうかしたんですか?」
え?と眉を顰め、疑問そうな表情を浮かべた。
は泰明と同じ屋敷で暮らしているのは、誰もが知っている事だった。
なら、なぜ泰明がの居場所を知らないのだろうかと、疑問ばかりが胸を占めた。
「朝起きたら、すでに居なかった
神子の元に来ているのかと思ったのだが……違ったか」
「……泰明さんに何も言わずに、ですか?」
「そうだ」
落胆する泰明にあかねは首を傾げた。
あのの事だから、無断で姿を眩ますことはないと思った。
「……少し、散歩に出てるんじゃないですか?
きっと戻ってきますよ」
にっこりと微笑み、泰明を安心させようとあかねは言葉を投げた。
が何も言わず行方をくらますはずがないよ
理由が、ないもん
だからこそ言いきれた言葉だった。
戻ってくると。
「そうだな しばし……待つ事にする 失礼した」
完結にそう言うと、泰明はクルリと踵を返した。
あとはあかねを顧みる事もせず、スタスタと藤姫の館を出て行った。
「…………」
その頃は、一人京の町中へと足を運んでいた。
賑やかなお店、人通りは多い大通り。
そこを、はただ無言で歩き、時折立ち止まっては空を見上げていた。
「やっぱり……一言言ってから出てきた方がよかったかな」
後悔してもすでに遅し。
肩を竦めて溜め息を一つ吐き出した。
「でも……大丈夫だよね ちゃんと屋敷には帰るんだし」
そんな風に自分に言い聞かせ、はまた道を進んだ。
店を物色しては大通りに戻り、また物色しては大通りに戻る。
そんな事を繰り返していた。
許してくれるよね……泰明さん
私、さよならするって分かってて……ずっと傍に居続けられるほど……強くは、ない
ピタ……
歩く足取りが止まった。
両手を見つめ、瞳を細めた。
微かに、その指先が震えているように見えた。
「……言い切ったというのに、今更恐怖……か」
自嘲気味には笑って見せた。
あんな風に啖呵をきって言えたけれど、実際に恐怖がまったくないわけじゃなかった。
折角思いが通じ合ったのだ。
さよならしなければならない事への恐怖は計り知れない。
「もう後戻りは出来ない 後は皆にバレないように……しなくちゃ、ね」
よし、とガッツポーツ。
少しだけ、道を進む村人たちがを訝しげに見つめていた。
「あかねー、藤姫ちゃんって────」
呟きはあかねの部屋へ足を踏み込んだ。
そして、その格好のまま立ち止まってしまった。
「あ、 泰明さんが探してたんだよ」
「…………あ、の……」
あかねの言葉には動けずに声を漏らした。
予想もしない出来事に、の思考はストップしてしまった。
「……何故何も告げずに出かけた?」
「あ、ご……ごめん」
泰明の言葉に、は何も言い返せない。
こうなったのも、すべてはの独断の行動の所為なのだから。
藤姫ちゃんに……それとなくあかねに龍神は呼ぶなって……言ってもらおうと思ったのに……
部屋の前に佇み、座る泰明とあかねを見つめていた。
to be continued......................
勇気を振り絞って決めても、人間恐怖心から逃げ切る事は出来ないのかもしれないですね。
ヒロインには、そんな部分を垣間見せて欲しかったであります。
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