そんなに心配してくれると……私、心が押しつぶされてしまいそう










transmigration 第三十五話










「泰明さん、気持ち良さそうに寝てたから……起こせなくて……つい」


あはは、と軽く笑い頭を掻いた。
その笑いで、何とかこの場を誤魔化そうとしたのだ。


「起こせば良かった 私は別に怒りはしない」



……だと思う
私も……泰明さんは起こしても怒らないと思った



泰明の言葉に、は小さく項垂れた。
心の中で同意の言葉を漏らした。


「ごめんなさい……心配、掛けて……」


「分かればいい 私にとって、一番大切なのはお前だ」


それは八葉としてどうなの?と問いたくなる様な言葉。
けれど、そんな言葉を口にする程互いを理解し合ってないわけじゃなかった。

ぎゅ……

泰明はの存在を強く強く確かめる為に、強く抱き締めた。


「や……泰明さん?い……痛い……」


「泰明さん泰明さん!が痛がってますよっ!!」


泰明の腕の中でうめき声を漏らすに気付いたあかね。
慌てて立ち上がり、を抱き締める泰明の肩を突いた。

それは、のうめき声すら聞こえていないように感じたから。


「あ、す……すまぬ」


あかねの指摘でハッと我に返った。
慌てて背に回していた手を緩め、を解放した。


「だ……大丈夫 あはは……泰明さんの気持ち、凄く……伝わったから」


照れ笑い。
ポリポリと頬を掻きながら、謝らないでと遠まわしに呟く。



……今から藤姫ちゃんと二人で────なんて、泰明さんが勘ぐるよね



そう決意すると、は二人に告げる事にした。


「あかね、藤姫ちゃんも呼んでもらえる?」


二人だけに話すのでは、やはり泰明は勘ぐるだろう。
だから藤姫を呼び、そして他の八葉の耳にも入れてもらうように計らう。


「あ、うん 分かった、ちょっと待っててもらえる?」


そう告げると、あかねは藤姫を呼びに縁側に足を踏み出した。
そこから見える庭を楽しみながらも、あかねは藤姫の元へ急いだ。


「……そういえば、いよいよなんだよね」


「ああ、そうだ 無理はするな、八葉が必ず神子もお前も守る」


最後の四神が手に入る。
そのドキドキを感じ取ったのか、泰明はを安心させようと手を握った。
そして安心させるように、言葉を紡ぐ。


「……うん、ありがとう」


嬉しそうに微笑み、は握ってくれた泰明の手を握り返した。
温かい、人の温もりのある優しい手。


様、およびでしょうか?」


ー連れて来たよー?」


現れた藤姫とあかねに二人は視線を戻す。
パッと離れる二人の手を、あかねは見逃さなかった。


「改めて……話があるんだけど……藤姫ちゃんは何か知ってる?
 神子が……龍神を呼ぶことについて」


その言葉に、藤姫の身体が微かに震えた。
それは知っている証拠。


「はい 母上が書き残した書物に……書かれておりました
 神子は龍神と意思を交わす事が出来、龍神の力を使う事が出来ると」


「うん だから……私は五行の力が使えるんだよね、も」


藤姫の言葉に、あかねは相槌を打った。
その相槌に藤姫もコクンと頷いた。


「詳しい事は記されてはおりませんでしたが……その書物の記述によると────……」


そこで藤姫は一つ息をした。
まるで呼吸を整えるように。


「龍神を召喚するという事は、龍神の力を全て扱うという事
 龍神を呼ぶ神子には……壮大な力の影響が出る……と」


「何が起こるか分からない……って事?」


あかねは首をかしげつつも、真剣な眼差しを向けた。
その問いかけに藤姫は頷いた。



ああ……やっぱりこの程度しか星の一族には伝わってないのかな……



実際のところはにだって分からない。
藤姫はそれ以外を知りつつも隠している可能性だって捨てきれない。
だから。


「……そんな危ない力なら、使わない方がいいんじゃない?」


「え?でも、そうすると……」


「あ、全部を使うなってわけじゃないよ?
 ほら……龍神を呼ぶ力だけは……使わない方がいいんじゃないかなって」


の言葉にあかねは困惑した。
しかし、慌てて訂正をするの言葉に納得を示す表情を浮かべた。


「そうだな 何が起こるのか分からないのであれば……むやみに使う力ではないかもしれぬ」


の言葉に泰明も同意してくれた。
その事に、ホッと胸を撫で下ろした。


「そうですわね」


「藤姫ちゃん、その龍神の召喚の話……他の八葉の皆にも伝えてもらった方がいいんじゃないかな?
 あかねがそれが出来ない以上、八葉の皆の力が今以上にも必要になってくるだろうから……」


「そうですわね 分かりました、私の方から八葉の方々にはご連絡を入れておきますわ」


「ありがとう、藤姫」


の取り計らいにより、その話が伝わる事となった。
その連絡を請け負ってくれた藤姫に、あかねは笑顔でお礼を口にした。










「では、そろそろ失礼する」


「あ、そうだね 長居してごめんね」


「いいのいいの 今度はもう、泰明さんに心配かけちゃ駄目だよ?」


「あはははは、はーい」


そんな風に言葉を交わし、と泰明は藤姫の館を後にした。
すでに太陽が沈み始め、京の都はオレンジ色の光に包まれていた。









to be continued.........................




一気にここまで書いてしまった。(笑)
実は……うん、直前までは藤姫だけに話すつもりの内容だったんだ。
それが、ひょんなことから藤姫だけじゃなくあかね本人+八葉全員に話す事に……あはははは。






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