「…………という事なの」


あれから土御門殿に戻ってきたと天真。
本来ならば、ここで『また、明日』になるはずなのだが…

今日は違った。
藤姫にお願いし、八葉全員を集めてもらったのだ。

ここで話をしたのは、とあかねの正体。
今、皆の目の前に居る肉体はあかね本人のもの。
けれど、皆の目の前で話している人格はのものという事。
けれど、あかねの人格もまた共にあかねの肉体の中にあるという事も、は説明した。

そして、同時に今までの記憶も多少はあるが全ては薄らいでいるものであるということも。
けれどそれ以上の事は話さなかった。

まだ起きていない未来の記憶がある事、がいつの時代のものなのか、なぜあかねの身体の中にいるのか。
の目的全てはうやむやにしたまま、現状を話す事となった。











transmigration 第四話











「つまり、二重人格みたいって事?」


「そう!それそれ!ちょっと違うけど、そんな感じ」


詩紋の言葉には大きく頷き、声を上げた。


「まあ…今まで一緒に歩きまわって話してみたりして…確かに、神子殿とは少し違う印象を受けますね」


「はい まるで…別人のように…つまり、それが二重人格、ということなのでしょうか?」


鷹通の言葉に永泉が頷いた。
二人が感じていた印象は、八葉全員が感じていたものだった。
似た感性は持っていても、根本となる性格が違うのだから当然だろう。


「うん、そう!とりあえず、そうだと思ってて!」


「思っててってなぁ ずっとあかねは俺と詩紋にお前が中に居る事を黙ってたって事だよな?」


その言葉には何も言えなくなった。
言えない事を隠し、話す内容ではそう思ってもらうしかなかった。



違う…違うよ…本当は違う…
あかねは悪くない…

悪いのは……言えない、私…



「お、おい!大丈夫かよっ!?」


「へ?イ、イノリくん?」


いきなり上げられたイノリの声に、は素っ頓狂な声を上げた。
「大丈夫か」と声を掛けられる意味が全く分からなかったから。
何故、そんな事を問い掛けるのかと不思議そうな瞳がイノリを真っ直ぐ見つめた。


「へ?じゃねぇよ お前、泣いてんじゃん」


「う、嘘…」


「嘘じゃねぇよ」


指摘されて漸く気が付いた事実。
ポロポロとは緑色の瞳から、溢れんばかりの涙を滴り落としていた。



何で涙が出るの…?
悪いのは私なのに…皆に隠し事してるのは私なのに…
悲しい思いをするのは…私じゃなくて、あかねや皆なのに…



ゴシゴシとは慌てて涙を拭った。
そして気丈に笑った。


「へへへ、驚いた?嘘泣きだよ、嘘泣き♪」


「んなっ!?」


「私、結構上手でしょ?嘘泣き」


の言葉にイノリは声を上げた。
そして笑って続ける言葉に、イノリの表情は徐々に頬を膨らませるように変わった。


「とりあえず、今はそれだけ」


「つまりは、殿がなぜ神子殿の中に生まれたのか 殿が何をなさろうとしているのか
 その事については、話して頂けないのだね?」



す、鋭い 友雅さん…



友雅の言葉に、率直にそう思った
その思いが表情に出ていたのか知れないが、友雅の顔に面白い時に浮かべる笑みが貼りついていた。


「あは、あはははははは」


ただ、そんな乾いた笑いしか浮かべられなかった。
話せない事がここまでもどかしいとは、は思いもしなかったのだから。


「と、とりあえず…明日からまた、頑張ろう!」


「ああ、そうだな じゃ、俺はそろそろ戻るな」


の明るい言葉に、苦笑しながらも天真は同意した。
それは他の者にとっても同じなようで、頷いていた。

そうして話が終了すれば、皆はバラバラに自室へと歩みを向けた。


「……本当に頑張らなくちゃ 天真くんの言うとおり、後悔しない為に やらなくちゃいけない事を成し遂げる為に」


そう呟けば、自分に喝が入る。
やらなくちゃどうにもならないのだから、頑張るしかないのだ。


様…」


「藤姫ちゃんどうしたの?占いが終わったの…って、顔色悪いよっ!?」


「ええ…少し…」


の問いかけに少し戸惑ってしまう藤姫。
そんな様子に心配になり、藤姫を覗き込みながら。


「何か…あったの?」


そう問いかけた。
けれど、は何かを感じるものがあった。
もやもやするような、知っているような。



ううん…知ってるんだ、私
藤姫に何が起こったのか…違う…藤姫のお父さんに…



「実は、お父様がご病気のようなのです薬師にも見てもらったのですが…」


「治す方法が…ないの?」


藤姫の話を聞けば何となく思い出す記憶、何となく流れ込む未来。
全ては分らないが、それでも大雑把に何となく覚えていた。


「…はい」


「そんなに…藤姫ちゃんのお父さんの体調、悪いの?」


それは同じ流れかを確かめるための問いだった。
答えは分っていたから。


「寝込むほどではないと、ご自身は仰るのですが…
 微熱と頭痛、それに時折吐き気があるようです」


「…鬼の呪詛の仕業だよね」


「ええ、そうだと思いますわ ご病気なのはお父様だけでなく、京の主だった貴族の方もだとか
 お父様はハッキリとは仰りませんでしたが、帝も…お倒れになられたとか…」


その話を聞き、はハッとした。
それってかなり一大事なんじゃないか…と。


「藤姫ちゃん…」


「あ、申し訳ありません」


「ううん、気にしないで きっと…辛いよね でも、頑張ろう
 まずは鬼の穢れを取り除こう!そうすれば、きっと徐々に上手くいくよ!」


気休めの言葉だったかもしれない。
それでも、言わずにはいられなかった。


「お気遣い頂きありがとうございます、様」


そんな藤姫の言葉に、は静かに首を左右に振った。
そうして、思い出したかのようには口を開いた。


「そういえば、占いの結果は?」


「ああ、そうでしたわね 天真殿とまず音羽の滝に言って下さいませ」


「音羽の滝に?そこに行けば、何か手掛かりが掴めるの?」


「はい 私に分かったのは、それだけですが…」


藤姫の言葉には首を左右に振った。
それだけ、と言っているがそんな事はないのだ。


「ううん、それだけでも十分だよ ありがとう、藤姫
 少し…休んだら?疲れてるみたいだし…」


顔色が悪いのは一目瞭然。
それに加え、疲れが一層よく分かる。


「大丈夫ですわ、様 今日はもう遅いですし、様もお休みください」


「あ、うん そうだね…そうする おやすみ、藤姫ちゃん」


藤姫の指摘に慌てて頷き、同意した。
にっこり微笑み、夜の挨拶を返すと藤姫からも「おやすみなさいませ」との言葉が返ってきた。

そうして、立ち上がり立ち去る藤姫の姿は徐々に見えなくなっていった。



藤姫…お父さんの事心配だよね…やっぱり
なのに役目を全うしようと頑張って…立派で偉いよねぇ…
私も…頑張らなくちゃ



藤姫の姿勢を見ていたら、どんどん頑張る気になった
皆には秘密だらけだけれど、それを成し遂げる事は結果的にきっとみんなにもいい事なわけで。

一人頷き、再度頑張ると意気込むだった。










To be continued.............................





第六章の地の青龍編…始まったばかりです↓
なのにすでに第四話という…(笑)

ちなみにですね、泰明の恋愛イベントは普通に起こします。
他のキャラクターの恋愛イベントはスルーしますので、期待してた方にはごめんなさいです…↓↓






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