パシンッ!!!

渇いた音が響いた。
伸ばすアクラムの手を、が叩いていたのだ。


「あかねはアクラムには渡さないっ!!!」


叫ぶように呟いた。













transmigration 第四十話













「あかねはアクラムには渡さないっ!!!」


叫ぶように呟いた。



上手くアクラムにあかねが力を貸したら……人々は大変なことになる
要済みになれば……きっと龍神の言う未来の様にあかねは────……
だけど、きっとあかねは……アクラムには手を貸さないだろうな……ううん、貸すはずがないっ!
だとしたら……アクラムはすぐにでもあかねを────……



どちらにせよ、阻止しなくてはならないのだ。
融合させられては、困るのだから。


「資質なんてどうでもいい!!」


の想いもよそに、あかねはアクラムを拒否する言葉を発してくれた。


「私はみんなを守りたいだけ 資質だとか、支配だとか……そんなのに、私は興味ない!」


「きれいな理想な事だ、神子
 だが、愚かな幻想だ 力は力でしかない 守ると言えば響きはいいが、実際にはその力で戦っているだけだ
 我々とお前の間には違いはない」


あかねの想いを、アクラムは笑って否定した。
同じだと、あかねの想いを同等に見ようとした。


「違うわ……違う!」


「何も変わらぬ きれい事を言っておきながら、己だけを特別視するのか?」


首を激しく左右に振るあかねに、追い打ちをかけるようにアクラムは言葉を続けた。
ただただ、あかねは違うと呟き首を左右に振るだけだった。


「理想の国家を作る為には、既存の権力を排除せねばならんのだ
 神子よ……なぜお前にはそれが分からぬのだ?しょせん、お前も愚か者の一人という事か……
 ランは白龍を呼べず、お前は私の理想を理解出来ぬ」


「だって……だって、そんな理想は嫌だよ その為に誰かを犠牲にするなんて……」


アクラムの言葉に、あかねはか細い声で呟いた。
断固拒否、断固否定、その言葉が似合うかのように。


「お前は、他人を犠牲にする事で自分が傷つくのを恐れているだけだ
 本来、支配者とは民を導く者だ」


「自分が傷つくのを恐れる事の何がいけないの!?」


アクラムの言葉に、が声を上げた。
その声にアクラムの言葉は一時中断し、意識がへと向けられた。


「なんだと……?」


「傷つく事を恐れる事を知らない人が、人の上に立つことなんて許されるはずがない!!
 人の痛みを恐怖を理解出来、時に厳しく時に優しく導ける者こそが上に立つ器量のある者なんじゃないの!?」


キッと、揺るぎのない瞳ではアクラムを睨みつけた。
は、自分の言葉に間違いはないと信じていた。



アクラムみたいな者は……きっと、味方の裏切りにいずれ会う
いずれ……誰もついて来なくなる



の真っ直ぐ射止めるような眼差しに、アクラムは奥歯を噛みしめた。
その視線が、なんとも耐えがたく嫌なものだったのだ。


「理想的で完璧な国家を築くためには、たとえ険しい道だとしても進まなくてはならないのだよ
 正しい者は世界を正しく築く義務がある
 民は愚かで、放っておけばすぐに破滅へと進みたがるものなのだ」


「それは、アクラムが知ってる範囲での事でしょう!?
 私は知ってる、ここは違う!京の都は……確かに飢饉だとか病だとか……盗賊だとか、いろいろ大変ではある
 それでも、都の仲間達で力を合わせて暮らしてる!アクラムは、そんな人達をちゃんと見てない!!」


アクラムの言ってる事は、確かに一理あった。
中には、放っておけば破滅へと進んでしまう民だっている。
けれど、全員が全員そういうわけじゃないという事をは分かっていた。


「愚かな人間どもは同じだ!我々のような姿の違う者を忌み嫌い追放し……蔑み……
 そのような者達は愚かものだ!力を合わせて暮らしてるだと?
 それは思い違いだと思い知れ、神子!民は、のけ者にされることを恐れ仲間意識を高めているだけだ!」


の言葉を否定するように、アクラムが叫んだ。
今までに見た事のない、取りみだしたアクラムの姿。
それは、京と鬼の一族が築き上げてきた溝を明確に知らしめて居るようでもあった。


「どうして……」


「あかね?」


そんなとアクラムの言い合いの中に、第三者の声が聞こえた。
ボソリと小さく、けれどハッキリと聞こえるようなしっかりとした声。


「どうして『愚か』だって決めつけるの?どうしてそれを決めるのが貴方なの?
 犠牲になる方の気持ちは?あなたに捨てられた人の気持ちはどこに行くの?」


アクラムの思想を信じ、敬い、使えてきたもの。
その人達さえも捨て、自分の思想を貫こうとしてきた。


「犠牲無くして、偉大なるものは築けん 気持など問題ではない」


それは、切り捨てたセフルはシリン、イクティダールさえも思っていない言葉だった。
切り捨てたものは、もうどうでもいい。
切り捨てたものに、意識さえ傾けてはくれない。
本当に、アクラムは民を"支配"しようとしているようだった。


「お前とて『自身』というお前の持ち物を犠牲にしてきただろう
 『八葉』というお前の持ち物を使ってきただろう」


「「────っ!」」


アクラムの言葉に、とあかねは息を呑んだ。
自らの事すらも道具と考えるのか、と。


「私も変わらぬ 私の持ち物を使ってきただけだ」


「…………けないで」


アクラムの淡々とした言葉に、の掠れた声が響いた。
全ては紡がれていなかった、中途半端な意味深な言葉。


「……ふざけないで 人は、命は……道具じゃない!!
 人は助けあえる"仲間"だよ!?考えて、自分の思いだって気持ちだって持ってる……共に闘う仲間じゃない!!」


涙が、溢れ出して来た。
アクラムの考え方が、とても悲しかった。

何故、部下を"仲間"ではなく"道具"と考えるようになってしまったのだろうか。
何故、大切にせず犠牲を選ぶようになってしまったのだろうか。


「そなたの言葉は戯れ言だ 上に立った事のない、上に立つ器量もない者の……言葉だ」


の言葉を冷たく切り捨て、アクラムはまたあかねに視線を向けた。


「今からでも遅くはないぞ 私の元へ来い」


差しだすアクラムの手を、あかねは掴もうとはしなかった。
腕さえも出す気配を見せず、ただただジッとアクラムを見つめていた。


「行かない あなたを倒して、元の世界へ帰る」


あかねの言葉に、全員が一斉に頷いた。
目的はいつも一つ、だたそれに向かって走って行くだけ。


「では、その力を用いて帰るがいい 私を倒してな
 お前に出来たら……の話だがな くくくくく」


肩を揺らし、アクラムは楽しげに笑う。
それは、あかねにはには、八葉には倒せないと信じ切っての言動だった。


「お前等は愚かな娘だ それほどの力を持ちながらも、それを有効に使おうとせん
 くだらぬ……くだらなさ過ぎる 私の元に来れば、その力を最大限に活かせるというのに」


「「ああ!」」


現れた黒き姿に、あかねとは同時に声を上げた。
目の前に現れたのは、天真がずっと探していた妹のランだった。


「蘭!ちくしょう、蘭に何をする!」


今にも殴りかかりそうな天真に、が慌ててしがみ付いた。


「やめろ、離せ!」


「ダメっ!絶対に離さない!今は触れないよ、無理なんだよ!アクラムがランを捕まえてる……っ!
 絶対に……絶対に取り戻す!だから……だから、もうちょっと頑張って!」


は必死にしがみ付きながら叫んだ。
必死に、天真を助けようと。



このままアクラムに一人で攻撃を仕掛けたら……
天真くんは……どうなっちゃうかしれないよ……



そんなのは嫌だと、下唇を噛んだ。


「では始めようか、神子 最後の戦いをな……」


そう告げると、ザッとランが一歩前に歩み出た。


「お前達が五行の力を操るように、この娘もまた五行の力を操る
 お前達と違うのは、この娘の力が破壊を導くものだという事だ
 神子、お前を倒し私の目的を成させてもらう これ以上の邪魔はさせぬ」


その言葉と同時に、ランが戦闘の開始を合図するかのように腕を上げた。









to be continued..............




黒麒麟戦だああああああああ!
またも危うくアクラムの企みを忘れるところだった……(おい)






transmigrationに戻る